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支配の厄災 6

 トーゼツは自分と同様、棚にあったバインダーの一つを開き、資料を読んでいるミトラの方をチラリ、と見る。彼女の表情は真剣で、そしてかなりの速度でページを捲り読んでいた。


 ページの捲る速度は尋常ではない。五秒に一ページ読んでいる速度だ。しかし、その表情からして適当に読んでいるわけではなさそうだ。いわゆる速読術というものか。


 速読術なんてなく、また読む気も失せたトーゼツはパタリ、とバインダーを閉じると棚の元にあった位置へと戻す。


 まだ二階からアナトとアナーヒターの二人が降りてくる気配はなく、しかしこの家の中にあるもので自分の興味を惹くものが見当たらない。


さて、どうしようかと思っていたところ、ガチャリ、とドアが開く音が聞こえる。そしてこのドアを開けて入って来た者であろう女が廊下へと現れる。弓矢を背負っていることから彼女もまた冒険者であることが伺える。


 その女冒険者はここまで案内してくれた魔術師の男へと近寄り、「また一人、狂気の影響で—」と何かしらの報告を入れる。男は「またか。今度は誰だ?」と真面目な顔で、しかし少し困った表情で彼女の報告の続きを述べさせようとする。


 そちらの方が面白そうだと思ったトーゼツは「何かあったんですか?」と二人の間に入り込む。


 またどんどん資料を読んでいたミトラの手も少し遅くなる。どうやら彼女もこちらの話に少しばかり興味があるようだ。


 「君たちが心配することではないのですが……まぁ、話した所でどうしようもないことですし、隠したって状況が良くなることもないので話しますが、我々の仲間の一人が狂気に耐えきれず、発狂してしまったようでしてね」


 そういう話だったのか。


 確かにこちらには関係の無い話で、聞かされたとてトーゼツ達がどうすることもない事だ。


 現代の魔術でも、科学を駆使した医術であっても狂気におかされた精神を元の状態に戻す方法は不明だ。そして冒されてしまった者は時間が経つにつれてさらに狂気を増していき、最後には食事、睡眠を取ることも出来ず、それは餓死してしまうという。


 狂気によって人が廃人になってしまうというのは知っていたことだ。だが、実際にそうなってしまった者は見た事がなかった。一体、どういう状態なのか、見てみたくなってくる。


 本当に、現代の知識と技術では治療が不可能なほどのものなのか。


 狂気に冒された者達はどういう状態なのか、と。


 「その者は一体、何処に居るので—」


 それは尋ねている最中であった。


 「ハハハハハハァぁ、ああぁぁア亜嗚呼アぁァぁ阿空ア!!!」


 それは確かに笑い後だ。だが、それはもう人の声ではない。


 それは家の外。ハッキリ聞こえるわけではないので、遠くからと思われるその笑い声。不気味、恐怖、異形……言葉に変容させるのが難しいほどのもの。


 すぐさまトーゼツは家を飛び出し、笑い声の方へと向かう。


 ミトラもまたバインダーを元の位置へと戻し、トーゼツの後を追っていく。

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