支配の厄災 2
そんな質素でありながらも、皆の心が熱く燃える食事の中
「ッ!」
急にアナトが立ち上がり、来た道へと慌てて振り返る。
「誰か……来る!」
もうこの辺りは冒険者でも立ち入り禁止にされているエリアだ。常人が中てられてしまい、廃人と化してしまうからだ。
そのため入るメリットもなければ、デメリットしか存在しない。
そんな場所で誰かが来るなんて……異常としか考えられない。
アナトの向く方向へと意識を集中させる。最初は何も感じなかった。が、次第に何かの気配が近づいてきている事に気づく、距離があったからすぐに気づけなかったのだと理解する。
じゃり、じゃり、じゃり……と土を踏み、確実に近づいてくる足音。
そしてようやく正体が見えてくる。
近づいてきたそれは立派な槍を持つ男と魔女を彷彿とさせる帽子を被った少女の二人。姿、恰好からして冒険者だと分かるのだが……。
「よぉ、また会ったな」
槍の男がトーゼツ達に話しかけてくる。
皆の驚いた表情を見てその槍の男はにやり、と歯を見せて笑う。その表情はまるで悪戯をしている少年のような顔であった。
またシスもかなり驚きながらも、すぐさまその表情は変化して「ヒヒッ、ハハハ」と堪えながらも口から笑い声が漏れ出す。
「いやいや、ドッキリでもしに来たのか?神の力で気配も変えてきて……。お前の気配だって全く分からなかったよ!」
シスは持っていた乾パンをひょい!と口に放り込むと立ち上がり、槍の男の眼前へと移動する。
「オマエらが心配で来てやったのだよ。このまま厄災が侵攻すればエムドノレスへと到達し、スールヴァニアは崩壊を辿ってしまうだろう?まぁ、お前ら人間が倒してくれれば良い話だが負けて死んじまう可能性も、もちろんあるってことだ。だからこうして来てやったんだよ!」
やはり前に現れた時のように上から目線の、偉そうな態度を彼は取っている。しかし、その口調やら表情からしてこちらを心配している、気にかけているのは本当のようだ。
「厄災は人類が倒すべき存在で、神が介入してはならない問題じゃなかったっけ?最高神テイワズさぁん?」
シスは嘲笑うように、相手を小馬鹿にするように槍の男を見て話す。
「今の俺は何処にでもいる冒険者へイドだ。ここで盗み聞きしているような愚か者は居ないとは思うが……万が一のことがあるからな。それで?何の話だったか……。そうか、神がこの件に介入するなという話だったな。であればお前も同様だ、馬鹿。今すぐ立ち去って何処かへ行ってしまえば良かろうに」
「私の川であり、神域が侵されているの!だから私も見て見ぬふりというか……何もしないわけにはいかないのよ!!」
その通りである。
さすがに人類に解決させるべき案件に手を出さないからとは言えども、ここは女神ゼンルジシスが生まれることになった源流。いわば故郷とも呼べる場所だ。
そこを守りたいという気持ちがあって当然だ。