支配の厄災
あれから数日後……。
アナトを率いてトーゼツ達が元来た旅路を引き返し、シスと出会った場所へと戻ってきていた。
トーゼツ達が首都であるエムドノレスへと訪れていたのは国内状況と厄災に関する情報集め。そして冒険者ギルドの手続きなども済ませておこう、という理由があったからだ。
しかし、連合本部から依頼を受けて全ての情報を持っているミトラとアナトとの予定してなかった合流によってエムドノレスで済ませる用事が全て吹き飛んでしまった。
そのため、結果的に何をするためにエムドノレスへ行ったんだっけ?となってしまったがしょうがないことだ。こんな状況、誰も想像出来ない。
そんなこんなで数日前見た場所を歩いているわけなのだが
「しかし、数日前に来た時よりもなんだか荒れているな」
トーゼツの歩いてきた道はボロボロになっていた。
もとより舗装されている道路ではない。馬車程度なら通れるかもしれないが、雨が降って道がぬかるんでしまえばその馬車すら通れなくなりそうな道だ。
それでも旅人や冒険者が通るには何も問題はない道。
しかし、そんな道はデコボコになっており歩くだけで体力を使わされる。また生えていた草木は枯れてしまい、ゼールジス川もなんだか濁ってきている。しかも死んだ魚まで浮かんでおり、嫌な腐敗集が漂ってきている。
きっと厄災が接近してきている影響だ。刃の厄災の時もこのようになっていた。
そんなありえないほど荒れたゼールジス川を見てシスはとても怒りと悲しみが入り乱れた表情をしている。
彼女はこの川を敬い、崇めることで生まれた女神。つまりゼールジス川の化身とも呼べる存在だ。だからこそこの川の状況を許せないのだろう。
「厄災の影響がここまで来ているのか……。ここからが一層、魔物も増えてくるだろうし、厄災の狂気も満ちてくるだろうね。いったん昼休憩としよう」
そのアナトの声に皆が賛同し、焚火をし始める。
今回はエムドノレスで準備しておいた保存食があること。そしてこの辺りの魚を釣ったり獣を狩って食べるのも危険であるということで乾パンにビーフジャーキーなど、少しばかり質素な食事となった。
「数日でこんなに環境が変化していくなんて……」
怒りを抑え切ったシスだった。が、やはり深くショックを受けてしまっている。
「あんなに自然で美しかったのにね。こうすると改めて厄災はこの世に居てはいけない存在で、倒さなきゃいけないって思わされるわね」
アナーヒターもまた、数日前に来た時の風景を頭の中で再生しながら周囲を眺めていた。
「そうだな。シスの代わりに絶対、俺たちが討伐しなきゃな」
トーゼツもまた決意を露わにする。
今回の厄災討伐ではシスは基本、戦うことはない。
彼女は女神で、厄災は人類が対処しなければならない問題。そのため戦いは見ているだけで、支援するとしても回復魔術をかけたり、瀕死の状態になった者が居たら死なない程度には治療することに徹するということであった。
本当は自分で吹っ飛ばしてやりたいのだろうが神々の間で人類への直接介入をしないというのはもう決まっていることだ。
「私の代わりに頼むよ、みんな」
そのシスからこぼれた言葉にほかの四人も心の中で厄災討伐に決意していた。