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手合わせ 8

 意識が完全に回復したトーゼツは、差し伸べてくれているミトラの手を掴み、立ち上がる。


 結局、まだなんで負けたのか、何も分かっていない。しかし、気づいたら地面に倒れていたという、負けてしまった事実があるだけで、彼にとっては充分だった。


 (死ぬときは、あっさり死ぬ。特に戦いに身を置く人間は、な。自分が誰に、どうやって死ぬのか。理解して死ぬ奴はいない。結果だけが残るんだ)


 そういう気持ちを含めて、改めて自分の弱さに、戦いに対しての見方などを思い出し、学ばせてくれた彼女にしっかり目を合わせて、言葉にする。


 「手合わせありがとう、アルファインさん」


 さらに、手を差し出す。今度は体を起こすためなんかじゃなく、彼女の強さを称賛する気持ちを込めて。


 「ミトラでいいよ。君も、かなり強いね。私の動きを完全に捉えてた。どんな訓練をすればそんな動体視力は良くなるのかな?」


 「……まぁ、速い奴の動きには慣れてるんでね」


 なんだが歯切れが悪いような言い方をするトーゼツに、何かあるなと思ったミトラだったが、そこまで深く追求することでもないし、言いたくないからこそ、歯切れが悪くなったのだろう。そんな言いたくないことを深堀するほど彼女も無粋ではない。


 「負けちゃったね、トーゼツ」


 二人に近づいて話しかけるのは、メユーであった。もちろん、隣で一緒に観戦していたエルドもまた、メユーと一緒に歩いてくるのであった。


 「まぁな。勝つ気持ちで挑んだが、現実は無常ってやつだよ。これが才能のあるやつと職さえ無い奴の実力差ってものだ」


 負けたことに納得しているし、しっかり相手の実力を理解しているからこその発言だが、やはり多少の悔しやはあるようだ。顔に若干だが、その感情が伺えられるほどには表れていた。


 「それにしても、トーゼツの相棒……メユーさんだっけ?あなたも、私の動きを完全に捉えきれてたよね?しかも、トーゼツと違って弓士なんでしょ?もしかしたら、弓聖になれる可能性があるわよ」


 そう言うとメユーもまた歯切れの悪いような顔と同時にボソッと「やっぱり剣聖ほどの実力者の目は凄いんだなぁ……」と言うのだが、それがミトラに聞こえることはなかった。


 「それにしても、本当にトーゼツさんに職がないとは思えないほどの動きですね!魔力量も常人にくらべればかなり多い方ですし……」


 エルドは尊敬に近いような感情でトーゼツへと視線を送る。


 それはやはり、自分とパーティメンバー全員を助けてもらったという恩人であり、剣聖と善戦していたという結果から来る感情であった。しかし、いつの間にか職を持たない一人の冒険者としてではなく彼を尊敬する人物として見ていることには、エルド本人にすら気づいていないことであった。


 「いいや、思い返せば防戦一方だったな。やはり動きが圧倒的に速い奴との戦いはどうしても後手に回ってしまうな。当たった攻撃は最初の蹴りだけだったし、その後、攻撃出来たタイミングは最後の〈断斬だんざん〉ぐらいだった。魔術もバリアのみだったな。俺の強みは中級レベルの剣術と魔術を組み合わせた技だ。だが、展開できるタイミングがなければ、技があっても意味がないことを痛感させられたよ。今度からどのように動くべきか、もう少し考えておくか……」


 と負けたことを悔しいと思うだけではなく、また相手が強いから仕方がないと言って終わるだけじゃなく、しっかり自己分析をして自分の糧へと変えていくトーゼツであった。


 今日は朝から街ではお祭りのような賑やかさで、それから魔獣と戦い、ミトラから手合わせをして貰い、すでに太陽が地平線の向こうへと消えていくような時間へとなっていた。


 「さて、今日はもう帰るとしましょう」


 そのメユーの言葉に、全員がその場から離れ、帰っていくのであった。

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