問答 6
その槍の男がシスへ向ける目はトーゼツとアナトとは違うものであった。
見下し、品定めをする目とは違う。それは対等であり、尊重しているものであった。そして、その奥には何処か懐かしい気持ちが静かに渦巻いている。
「こんな所で人間如きに縛られて何を遊んでいる、ゼンルジシス?」
その言葉に全員が驚愕する。
トーゼツ達はどうして彼女が女神であると一発で分かったのか、と。そしてミトラとアナトは縛り上げた彼女がこの国で信仰されている神々の一人だったのか、と。異なる驚きをしていた。
しかし、シスの口から出た言葉でさらに驚かされることになる。
「アンタこそ城の中に閉じこもっているくせにどうして出てきたんだい、テイワズ?」
嘘だろ……まさか…!
この冒険者の格好をしている男がこの国の王であり、最高神テイワズ!!
「ゼンルジシスとトーゼツたちの行動を一緒に?というか……どうして最高神テイワズ様がこんな所に?」
次々と信じられない新情報が頭の中に流れ込んでくる。
今すぐにでも質問し、どうしてこのような状況になったのか。詳細に知りたい所だがテイワズの意識はゼンルジシスにしかなく、周りのモノ全てに興味がないようであった。
「やはり、魔力量と姿を誤魔化していたつもりだが……さすが私に次いで信仰の多い神よ。しかしオマエが人間に縛られる趣味があったとはな」
「そんな変態趣味を持つわけあるかい」
そうしてシスは自力でシュルシュルと縄を解いてみせる。
それは知識や技術で身につける縄抜けではない。まるで縄の方が生きている蛇のように動き始め、勝手にシスの手から離れていったのだ。
「こんな結界どころか、魔術すらもかけられていないただの縄から抜け出すのは簡単なことだ。だが事を穏やかに済ませるために仕方なく捕まってるフリをしてたんだよ。それで?後継者を引き連れてここに来たのは私と会いたかったからかな?」
「そりゃあ、本来自然の中で仙人じみた生活をしているお前がこの街に現れたのだ。しかも奴と一緒にな」
テイワズが「奴」と言った時、その目線の先はトーゼツにあった。
「そこにいるアナトとか言う奴がギルド連合本部の命令で来るのは想定していたんだがな。まさか奴を連れてお前が来たことなど誰が想像するものか」
「私はアンタと違って厄災討伐に乗り出すつもりだからね」
それを聞いたテイワズは眉を顰める。
「……なんだと?」
そこに溢れ出す感情は怒りではないものの……それに近しいナニカ。
「一体何を考えている?厄災討伐は人類が成し遂げなければならない障壁だ。それこそが神代から人の時代へと変遷するために必要なことだからな。そこに神であるお前が介入するなど基本あってはならん!」
その言葉の重さ、口調、声色……それら全てが物語っている。
答えによってはお前をここで殺しかねないぞ、と。