問答 4
これほど激しいアナーヒターの叫び。すぐ近くにいるミトラとエルド、そしてシスの耳にどのような内容なのか、勝手に頭の中へと入ってくる。
最初はアナーヒターが行方不明になっていた件を追究するものだと思って居た。だが、どうやら複雑な問題を抱えているようだ。しかもそれはアナトと深い関わりを持っているらしい。
だがそれを尋ねるのも、憶測を立てることもしなかった。
これほどアナーヒターが自分の感情を爆発させているのだ。問題の外にいる自分たちが足を踏み入れるのは許されざる行為であり、場合によっては彼女の尊厳を踏み躙る可能性がある。
だからこそ何があったのか、という知りたい気持ちを押しつぶし、問答が終わるのを待って居た。
それに対し、何があったのか知っていたトーゼツは昔の事を思い出し始める。
姉の話であり、自分には無関係だと言っていいかもしれない。しかし、アナトにかつて起きた事が今の姉の姿を形作っている。あれがなければ厄災討伐出来るほどの力を持つこともなかった。
そして事の顛末を最後までアナトの近くで見たトーゼツは改めて知らされたのだ。
力を持つ者にはそれ相応の責任が生まれる。そして力を利用しようとする者、力に縋ろうとする者が現れる。
莫大な力を持ってしまったからこそ、厄災討伐という重い任務を与えられるようになったし、本部の上層部からも面倒な任務をこなす良い駒……いいや、道具という表現が正しいかもしれない。
彼女はその力によって本部に所属する一部の権力者に縛られ続けられている。
「あそこには居られなかった。もう私もアナトの隣に居ることは出来ないと感じちゃったし、私もいずれ同じ道を行くかもしれないと悟った。だから……」
その言葉を聞いて居たアナトは「はぁー」と深くため息をつく。
「確かに私はあの人を失ってしまった。今でも時折泣く日もある。でもね、私は確かに彼からあの意思を受け取った。アフラはそれを見越していたのかもしれない。あの人が死ぬ事を計画に入れていたのかも。でもね、後悔はないし私には怒りはない。それにあれは事前に任務を受けるかどうかと選択権があった。それを遂行できると自分たちの力を過信し受けてしまった。結局は私の判断ミス。だからこの感情は誰かに向けるものじゃなく、自分に向けなきゃいけないの」
アナーヒターのその同情するような感情に呆れてしまったようだ。
自分はとうの昔に振り切ってしまった気持ちを今もズルズルと引きずっていることに。
「……やっぱアナタは心も強いのね」
「そりゃあね、じゃなければアンタみたいにとっくに本部から逃げてるよ」
その進み続けるという意思を持ったアナトの影が一瞬だけトーゼツに見えた。
もちろん、姉弟という家族関係だ。面影はあるだろう。それでも—
(心も似ているなんて、ね)
アナーヒターの中で再度、可能性が見えてくる。
姉のように……神から祝福も与えられずともトーゼツもアナトのように強くなるかもしれないその道が。