問答 3
特殊冒険者に成れば簡単に辞めることは出来ない。しかし、冒険者ならば一度は特殊冒険者を夢見る。それが英雄に成るための一歩でもあるからだ。
それをエルドは知っている。それでもなお、彼は迷わず答える。
「行くに決まってるじゃないですか」
少し前の彼であれば行かないという選択を取っていたかもしれない。
あの街で生活する冒険者として魔物を狩ったり、商人の護衛なんかの任務を受けて小銭を稼ぐ。そして一介の冒険者として人生が終わらせるであろうあの時の自分だったら……。
しかし、彼の中にはもう理想の冒険者がいる。
トーゼツ・サンキライ。
職も無い彼が諦めずに前へ進むの意思に憧れた。
自分も前へ進みたい。行ける、行けないなんかで自分を決めず、がむしゃらに生きたい。
そう思ったからこそ招集を受けるのだ。
「今後、無いかもしれない道が……可能性のある未来が目の前に現れたんだ。そこを選ばない事なんて無いでしょう!」
その真っすぐな目、意思を見てミトラは笑顔になる。
まだ弱いかもしれない。それは本人も自覚しているだろう。でも、その心の奥底から燃え上がっているその感情、意思は……頼れるものがある。
そんな彼が本部の仲間になるというのはとても心強い。
「じゃあ私の任務が終わったら一緒に本部のある神都へ行きましょ?それまで行動は一緒ね?」
「分かりました!」
「良い返事ね。もう逃げる事も、もう無いでしょうし拘束は解いてあげるわ」
そうしてエルドは自由の身となった。
その間にもアナーヒターとアナトの二人の問答も進んでいた。
トーゼツもこの二人の問答は気になっているというか……自分にも関係してくることなのでしっかり聞いていた。
「さて、それでアンタはいきなり本部から飛び出して消息を絶ったのかしら?」
「それはトーゼツと一緒に旅をしたかったからよ!こんなに頑張っているトーゼツを隣で応援し、手伝いたかったからね!」
その言葉に嘘偽りはない。本心から出ているものなのは分かる。
しかし、それが全てではない。
人間の行動原理というのは案外、単純だ。そこに思考や本人にすら自覚していない趣味、嗜好が混じるから分かりにくくなる。しかし、単純と言えどそれは複数で構成されている場合が多々ある。
きっとアナーヒターもそうなのだろう。
トーゼツと一緒に旅がしたかったから消えた……が、もう一つ別の理由がある。それを誤魔化すためにトーゼツと旅をしたいと理由を全面的に出そうとしているのだ。
それをアナトはすぐさま読み取る。だからこそ沈黙し、ただ見ている。
全てを見通しているぞ、と言わんばかりに。
「……アンタは勝手に動き始めたででしょ?」
アナーヒターは吐き出す。
それは何処へも向けようがない怒りと不満の声だった。
「私を置いてアンタは行ってしまったじゃない。彼が死んでお前は……一人になって…!!それに対し本部はそれでも!!」
彼女は徐々に激しくなっていく。
「アフラはその可能性を視ていた!だからこそお前と彼二人に行かせて!!!それからも本部は道具としてお前を使い始めた!!!!それが私は許せなかったし、私は、私は……!」
その叫びもピークまで達するとその激しさは徐々に収まっていく。そして怒りは悲しみへと変わり、アナーヒターの心を弱らせていく。