問答 2
先ほどまでかなり機嫌の悪そうなアナーヒターの顔が少しずつ良くなってきている。しかし、それは感情を抑えられるようになったとか、怒りが解消されたとかではない。
とうとう限界まで突破し、逆に笑顔になってきたというところか。そして顔は笑顔なのに、醸し出されている雰囲気は近寄りがたいものであった。
怒りの矛先はアナトだ。しかし、隣にいるエルドもまたその怒りの雰囲気に耐えられずにいた。
「ひぃ、ひぃぃぃ!」
頑張って芋虫のように体を動かし、距離を取る。
「ミ、ミトラさん!俺の拘束は解いても良いでしょう!?俺は悪いことというか、今回の件に関係してないんですし!!」
「いいや、ダメね。それにあなたにも話がある。アナトがアナーヒターに質問している間、こっちの話も進めるとしますか」
そうして、拘束しているエルドの目の前に一枚の紙をミトラは見せる。
そこには「『ラーフィリー・エルドへのギルド本部招集および特殊冒険者認定書』と書かれていた。
「私がギルド連合本部に課せられた命令にアンタを連れて来いと言われてるの」
「俺が……ですか?」
本部に所属する冒険者は全員が化け物揃いで、優秀な者しか招待されない。また地方のあちこちに派遣され、国を持っても対処仕切れない問題を依頼として解決する。
そんな場所に自分が招集されている?しかも特殊冒険者として?
とてもエルドには信じられなかった。
「何かの…間違いじゃ……ないんですか?」
「いいや、ちゃんと本部で発行された書類よ。本部所属の剣聖である私が保証してあげる」
それでもなお、現実感がないというか……この俺が?という感情が強かった。
「それで?この招集は強制じゃない。明確な理由があれば破棄出来るわ」
特殊冒険者という地位は普通じゃあ手に入らないモノ。戦士としての才能に知力、技術を持っていることを調和神アフラに認めてもらわなければ手に入らないモノだ。
どれだけ権力を手に入れても、どんなに莫大な財を持っていても、それじゃあ手元に来ることはない。
しかし、欲しくないという者も居るのは事実。
特殊冒険者はより困難な任務を引き受けなければならない身だ。任務によって世界中のあちこちへ行かなければならない。旅、と言えば聞こえはいいかもしれない。逆に言えば自分の帰れる場所、安住の地なんてものがなくなるという事でもある。
冒険者としてひたすら魔物や犯罪者と戦って、あらゆる国を横断して訪れ、進み続けなければならない。五年、十年、二十年、と。
それでほとんどの者が死んでいく。老いや魔術ではどうしようもない負傷を背負って、それでも戦わされ、任務に殺される……。
さらに特殊冒険者と呼ばれる者全員が英雄になれるわけではない。特殊冒険者の中にも枠組みがあり厄災討伐などの大きな任務は四大聖しか受けられない。そして、そういう者だけが英雄として歴史に刻まれていくのだ。