問答
冒険者ギルドの中。使われていない空き部屋にアナトとミトラはトーゼツ達四人を紐で腕を拘束して逃げられないようにするのであった。さらに強制的に正座である。
「……どうして、こんな事に」
まさか、旅に出てまだ一ヶ月も満たないというのに、まるで犯罪者のような扱いがされる日が来るなんて誰が想像出来るというのか。それに今回の件はトーゼツとアナーヒターの二人が主犯というか…犯罪者ではないので意味は違うのだが、まぁ、重要人物と呼べばいいのか……ともかくエルドは一緒に旅の仲間として居ただけなのに。
「はぁ、最悪ね」
アナーヒターはこの状況を深刻に思っていないようだ。悪態を付き、とても機嫌の悪い表情のままであった。縛られて自由がない。ミトラは暴力を振るうような性格ではないのは分かっているが、もしアナトが拷問じみた事をする人間であればそのような態度はマイナスだ。
隣にいるエルドはもう少しその感情を抑えてくれてと思いながら彼女を見ていた。
「……なぁ、少し拘束がキツくて痛いんだが」
トーゼツは悪態こそついていない。が、やはりこの状況をなんとも思ってないようだ。まるで友達に話しかけるような軽い口調でミトラに懇願する。しかし—
「話が終わったら、ね」
軽い口調に対し、苛立った口調でその願いを否定するミトラ。
「逃げる気なんてないんだからそれぐらいしても良いだろうがよ……」
そりゃあ、苛立つのも仕方ないことなのかもしれない。
一緒に厄災討伐を果たしたというのに、急にいなくなってしまった。そのうえ、討伐の功績に、得た名声や信頼といった全てをミトラへと投げ捨てたのだ。
功績と言えば聞こえはいいかもしれない。しかし、それは周囲からの期待がさらに膨れ上がるというのと同義。そんな身の丈にあっていない期待に剣聖であるのに応えられない自分が情けないと感じていた。
そして、自分たちから捨てたとはいえ正当な評価を受け取らず、勝手に自分の前から去ってしまった二人。それは周囲の期待を全てミトラに押し付けたと言ってもいいかもしれない。
「何も言わずに私の前から消えた奴が逃げないなんて言っても信用出来るかよ」
「……そりゃあ、悪かったな」
そこを突かれて何も言えなくなるトーゼツ。やはり、一言もなかった。やはり自分が悪かったとおもうところがあるいうことか。
「だけどな、俺が驚いていることが一つ、ある」
トーゼツは目線をアナトへと向ける。
「姉貴が髪を緑に染めてることだ!なんでそんなお茶みたいな色にしたんだよ!!」
「良い色でしょ!感性の低い馬鹿弟め!それに私はトーゼツよりもアンタに話があるんだよね。メユーちゃん」
アナトはアナーヒターへと意識を向ける。
「ちゃんづけは止めろ。それに、本名知っているお前が偽名で呼ぶな」
「はいはい、分かったよ。それじゃあ早速、問答といこうか。と言っても大体答えが予想できることだし、まともに答えてくるとは思ってないけどね」
やはり神代の終末者と呼ばれるほどの戦士だからだろうか。術聖の中でさらに飛び抜けて凄まじい実力を持つ魔術師アナーヒター。拘束を解いたあとで殺されそうな目に遭うかもしれないのにこんな馬鹿にするような言葉でさらに怒りを増長させていくのであった。