再会 14
トーゼツもまた後ろをちらりと見て、ミトラが追いかけてきているのを確認すると、わざとスピードを落とし、ミトラとの距離を縮める。
(こっちへ来たか……。さて、このまま真っすぐ行ってやる!)
そうしてトーゼツの進む先には、道があった。しかし、ただの道ではない。トーゼツ達とミトラは会った所とは違う、別の大通りだ。
ミトラはトーゼツの方へ意識が向いていて、その事に気づいていない。
その通りの幅は三十メートル以上あり、簡単には飛び越えられないだろう。
しかし、トーゼツはシスが脳内に流し込んでくれた情報で事前に知っていた。つまり、ある程度の覚悟と準備が出来るということだ。
足に魔力を纏わせ、速度を上げて助走をつける。そして、一気に高く飛び上がり、なんとその三十メートルの幅を超えることに成功する。
それに対し、気づいていなかったミトラは飛ぶのには助走つける距離が足りていなかった。少し後ろへ下がり、距離を取って助走つけなければならない。
そんなタイムロスしている間にトーゼツを見失ってしまうだろう。
「くッ!」
まんまとやられたミトラは、それでも諦めずに飛び越えようとする。魔力で筋力を上げ、全力で屋根を蹴り上げる。しかし、途中で重力に負け始め、腕を伸ばし、手を広げてもギリギリ向こう側へと到達することはなかった。
そのまま壁にぶつかり、歩道へと落ちる。
急に人が空から落ちてきたので、その通りを歩いていた人々は驚き、彼女へと注目が向かう。
「ちッ、トーゼツ……!」
彼女は逃げられてしまったことに舌打ちをしながらも、なんとか追いつくためにトーゼツの向かった方向へと走っていく。
「良し、上手く撒いたな!」
この街の地図、構造、路地裏まで把握しているトーゼツはどのルートで行けばミトラに見つからずに合流地点へ行けるのか。もう分かっていた。
トーゼツはしばらく屋根の上を走り続ける。そして近くの薄暗い路地裏から降りようとする。
「ふぅ、なんとかなっ―」
と安心していた瞬間、ぶわっ!と何者かの影が目の前に現れる。
それは降り立とうとしていた路地裏から飛び出ていた。
それは一体何者なのか、認識する暇はなく、また相手の動きに反応する余裕もなかった。ソレはトーゼツの足を引っかけ、態勢を崩す。そして首元の襟を掴み、そのまま勢いよく路地裏の地面めがけて振り落とす。
「ッ!!」
背中にドンっ!と強い衝撃が駆け抜け、肺に入っていた酸素が一気に口から抜けていく感覚があった。
「ッ、ァ……ォッ!」
うまく呼吸が出来ない。
立ち上がろうにも頭が上手く働いてくれず、脳から信号を送れない。体に命令することすら不可能。
そんな中、その影は屋根の上から見下しながらもトーゼツに話しかける。
「久しぶり、トーゼツ……」
その聞きなれた声に姿、まさか……!
トーゼツはすぐに理解する。
「なんでこんな所に居るんだよ、クソ姉貴!!」
「おいおい、しばらく会わないうちに不良少年にでもなってしまったのか?私はガッカリだよ」
そういってトーゼツの元へと落ちてくるのは、あの戦神とも呼ばれる最強の冒険者、アナトであった。