手合わせ 7
ミトラの放った〈飛翔一閃〉はあっという間にトーゼツの張った中級魔術のバリアを破壊し、彼のすぐそこまで到達していた。
そこでトーゼツはすかさず剣を下げ
「おっらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
タイミングを見計らって勢いよく剣を振り上げる。
それは、単純な魔力のみの剣。しかし、三つのバリアによって威力が半減してしまっている〈飛翔一閃〉を逸らせるぐらいには充分なものであった。
(なるほど、今回も逸らすことが狙いだったのか。でもね—)
逸らし切った瞬間、トーゼツは後方の気配を察知し、その後起こるであろう悪い結果が頭の中を過ぎる。
「マジか、後ろかよ!?」
「逸らすことに集中していて油断したみたいね!!」
強く振り下ろされた魔力を帯びた剣。本来であればこの攻撃を喰らっていてもおかしくはない。 しかし、油断していたにも関わらず、トーゼツはそこから飛び退き、慌てて避けることに成功する。
(避けれるのね、この一撃を!!)
距離を詰められた、再び追撃が来る。きっと、上級レベルの剣術を使ってくる。先程のように防御系の魔術を展開できるほどの距離と時間はない。
……ならば、追撃される前に、攻撃をするのみだ!
「中級剣術!!」
トーゼツは叫ぶ。
「上級剣術」
それは、同時であった。ミトラもまた、術発動のための詠唱を始めようとしていた。
(彼女も攻撃してくるつもりか……!)
これはピンチのようでもあり、しかしチャンスと考えることもできる。
防御はしてこないということであり、今ならトーゼツの攻撃も完璧に入る!
「〈断斬〉!」
慌てて振り上げたその剣は、遅くあるものの、重く空気を切り裂き、魔力を纏って真っすぐにミトラに向かっていく。
「〈瞬時断絶〉」
ミトラはその剣は素早く、光の如き速さで加速していく。それは、速度と魔力を乗せた脅威の一振り。彼女はトーゼツとは真反対の、振り下げる攻撃に対し、剣を下から上へと斬り上げる一撃となっていた。
(これは、勝った!)
トーゼツは確信を得る。
彼が使っている中級とは弱くもなく、強くもない、良く言うのであれば使いやすい。悪く言うのであれば中途半端なレベルの技だ。しかし、それゆえに発動速度も、使用する魔力量も少ない。
それに対し、ミトラの上級剣術は食う魔力も、発動速度もトーゼツよりも遅くなってしまう。
(発動後の、術が付与された剣の動きは速いが、発動速度が上の時点で攻撃が先に当たるのは俺の方!ならば、このまま迷うことなく振り下ろすのみ!!)
そう、思っていた。しかし―
「ッ!?」
気づけば、剣を持っていた右腕が異様に軽くなっており、また目の前は木片と鉄屑で広がっていた。
「な…にが…起きて……?」
そして、次の瞬間には顔に強い衝撃が駆け抜け、地面へと叩きつけられていた。
トーゼツ自身はいまだになぜ、攻撃が当たらなかったのか。そして、なぜ自分は負けているのか、混乱して理解することが出来なかった。
しかし、観戦していたメユーとエルドの二人は何が起こったのか、はっきり見ていた。
それは、簡単なことだ。
ミトラは最初にトーゼツの剣を狙ったのだ。
本来なら、ぶつかり合い、鍔迫り合いになっていてもおかしくはない。しかし、ミトラのその攻撃の威力、それが異常過ぎたのだ。
なんと、トーゼツの剣を鞘ごと一撃で粉砕。そして、そのまま止まることなく、ミトラの一撃が今度はトーゼツの顔面に入ってしまったのだ。
「悪いね、剣ごと倒しちゃって」
彼女は持っていた剣をベルトに差し戻し、倒れているトーゼツへと手を伸ばす。