再会 5
トーゼツは隣にいたシスからすぐさま五メートルほどの距離を取る。が、武器を取り出すことはなかった。
やはり、トーゼツには彼女は怪しい者……いいや、これほどありえない量の魔力を持っているシスは物凄く怪しいのではあるが、こちらを騙そうとしているとか、殺そうとしているような、そんな怪しさはない。
それでも人里離れた場所で生活しているただの地元民だと彼女の主張は信じられない。さすがにこれほどの魔力で無害な地元民だと言い張るのには無理がある。
仮に地元民であったにしても、この魔力量は一体、何なのか?
エルドもまた遅れて杖を構えていつでも魔術を発動出来るように準備する。
「あちゃー、バレちゃったか。まぁ、安心してよ。私には敵意はないし、殺意はない。もしもそ本当に殺すつもりなら、もうとっくに手を出してるよ?」
「だとしても、その魔力量は何なのよ?」
「あなたは魔術師……なのよね。しかもそれなりの実力者。これだから優れた魔術師は嫌なのよね。すぐに相手の魔力を感知しちゃうんだから」
魔術師は色んな場面で魔力量を頼りに物事を図ることが多い。
例えば、冒険者で知らない者とパーティを組むことになる時。また今から戦う相手の実力を調べる時。はたまた大切な仲間の隣に見知らぬ怪しい女が歩いている時、など……。
優秀な魔術師であればあるほど、必ず相手の魔力量を確認する。それが癖になっているのだ……というよりもう職業病の域でいっていると言っていいのかも知れない。
「悪かったね、で?アンタは何者なのよ?」
シスの砕けた口調に変わらず緊張感のない無警戒の顔だ。初対面であれば好印象だろう。実際、トーゼツもあの顔を見てから警戒することなくなったのだから。
それに対し、アナーヒターの態度は変わらない。ずっと警戒している。
「……分かった、分かった。本当の事を話すよ。私の本名はゼンルジシス。神の継承者の一人よ」
それを聞いて、トーゼツとアナーヒターの二人が驚く。
「ゼ、ゼンルジシス?それって何ですか?」
エルドもスールヴァニアでは神がまだ国を握っているというのは知っている。しかし、ゼンルジシスは神々の中でも土着信仰の中で生まれ、地方で力を持っていた神。昔から人前に出ることはないためマイナーな存在だ。国内の中では有名な神だが、ここからは遠く西にある国、セイヘンで生まれ育った彼には聞いたこともなく、知らない神であった。
「昔からこの辺りに住んでいると言われている土着信仰で生まれた女神の名前だよ」
「女神……」
初めて見る神の姿。
いいや、今のところ彼女が本当に神であるという証拠はなく、ゆえに自称である事に留まっている。がこの魔力量が何なのかと言われれば、もう神であるからとしか説明がつかない。
「仮に本当に女神だったとして、ゼンルジシスは基本、人前に現れない神のはずだけど。私たちの前に現れたのには何か理由があるはず」
「そうねぇ、確かに私は人間社会から離れて生活している。だから言ったでしょ?自給自足の生活をしているって。そして今日も自分のご飯を魚釣って得ようとした。それで偶然トーゼツと遭遇した。それでトーゼツも魚を釣ろうとしていたから一緒にやらないか?って誘っただけ」
数秒後、アナーヒターはその構えを解き、もう敵意などを向けることはなかった。
しかし、まだ警戒心は残っていた。
やはりまだ隠していることがあるのではないのか?と確信とまではいかないものの、そういうものを感じるアナーヒターであった。