再会 4
トーゼツ達が歩いていると、もう焚火の準備を済ませ、索敵して周りに魔物がいないことを確認したうえで、温かい炎を囲む二人の姿が見えてくる。
また、エルドも気が付いたようだ。顔をこちらへと向けている。
「帰ってきましたね。上手く釣れたんでしょうか?」
その言葉でアナーヒターもトーゼツの事に気づき、エルドと同じ方向を見る。が、その時、トーゼツとは違うもう一つの人影があることに気づく。
「あれは誰でしょう?」
まだ少し遠いため、ハッキリと姿は見えない。だが、長くて澄んだ綺麗な水色の髪に体形からして女であるというのだけは分かる。
またエルドは初めて訪れる地であるため知らないが、アナーヒターはトーゼツと一緒にこの地へ過去に訪れたことがある。そのため、トーゼツ同様にこの辺りには村や集落がないことを知っていた。だからこそエルドよりも何者だ?という疑問が強く頭の中で残り続けた。
そして、トーゼツとシスはそのまま歩き続け、二人との距離を縮めていく。
その時、アナーヒターは気づき、空間に穴を開けると杖を取り出し構える。
「えッ!?」
エルドは急に動き出したアナーヒターに驚く。
しかも、普段は術聖アナーヒターである事を隠すため、メユーという偽名で、弓士として戦っているが何も言わず、迷うことなく杖を持った。
それが何を表すのか、エルドには分からない。しかしそれでも分かることが一つだけある。
彼女が魔術を使わないといけないほどの異常事態が起こっている可能性があるということだ。
しかし、構えているだけで戦闘体勢に入っているわけでもなければ、そこに殺意などはなく、敵意も感じられない。だがとてつもない警戒心を持っていることがエルドには分かった。
またトーゼツも突然のことであったため、その歩みを止める。まだお互いの距離は百メートル以上あるが、そこからトーゼツは聞こえるように大声で話し始める。
「どうしたんだよ、アナー……じゃなくてメユー!いきなり杖をこちらに向けて構えるなんて!!」
シスもいることだし、近くに冒険者の野営基地がある。そのため、念の為に偽名の方に言い直すトーゼツであった。
「トーゼツ……それは何者なの?」
何か得体の知れないナニカに触れようとしてしまっているような……それで警戒し、怯えているような雰囲気をアナーヒターから感じるトーゼツ。
それにトーゼツへの質問なのにアナーヒターの視線はずっとシスの方へ向いている。
「彼女は地元民だよ。どうやら近くで人里離れて自給自足の生活しているらしくてさ」
「……彼女は魔術師は何か?」
引き続き質問をするアナーヒター。しかし、シスの職が何なのかはトーゼツも知らない。そのためトーゼツは何も答えることはできない。
「私は魔術師じゃないよ」
シスが迷いなく、すぐさまアナーヒターへと答える。
「私を何だと思っているのかは知らないけど、私は無害な一般市民よ。だから杖を下ろしてちょうだい」
しかし、アナーヒターは構えたままだ。
「……嘘よ。だったら、お前のそのありえないほどの魔力量は何だ?」
トーゼツはその言葉に反応して咄嗟にシスを見る。
魔力はエネルギーだ。熱エネルギーや運動エネルギーと一緒。そしてそれらのエネルギーは物理的な実態を持たず目には見えない。
そのため魔力も眼を凝らし、意識して見ようとしない限り、見えることはない。
そしてトーゼツは彼女の持つ魔力量を見て驚かされる。
「なッ……」
魔力というのは魂から生まれる者で、魔術師ではなくても生きているモノであれば全てに微力ながらも魔力を保有している。そして大抵、体の外側をまるで血液のように巡っているのが基本だ。
そして魔力の流れをコントロールすることでそれを戦いに用いるのが戦う者、いわゆる戦士だ。
そしてシスの体を巡っている魔力量は、なんとトーゼツだけではなく、アナーヒター、エルドをも覆い、半径五百メートルという辺り一帯を囲んでしまうほどの魔力が巡っていた。