再会
スールヴァニアの北にある大山脈エルドノーン。
世界最大の標高の山であり、それは九千メートルもあるとされている。常に山は雪で覆われており、その上、環境に適応した獣や魔物、またドラゴンなども住んでいることが確認されている。そこからエルドノーンの登頂は困難とされている。
しかし、この山のおかげで他国からのいざこざに巻き込まれることは少なく、また侵攻されることもなかった。しかし、同時に他国との交流が少なくなってしまったという短所もあるのだが。
そんなエルドノーンにはスールヴァニアを支えてきた大河、ゼールジス川が流れている。このゼールジスの名前には由来があり、この国の神話に出てくる女神、ゼンルジシスとされている。
このゼンルジシスは豊作と水の女神であり、最高神テイワズのように継承者が居るとされている。が、基本人々の前に現れることはなく、寿命が近くなると継承者を探すために人里へと降りてくるとされている。
そんなエルドノーンの麓、ゼールジス川の上流を歩いていた。
「上流ってのもあって綺麗な水だな」
腕や足に包帯がぐるぐる巻かれていたトーゼツは川の方を見ながらつぶやく。
川の中は透き通っており、魚が気持ちよさそうに泳いでいるのがハッキリ見えている。
「少し疲れたし、もう時間帯をお昼よ。この水なら飲めるだろうし、ここら辺で休憩しない?」
アナーヒターがそのように提案する。
「そうだな、魚を釣ってそれを昼飯にしても良い。お前もそれで良いか、エルド?」
トーゼツは後ろを振り向き、ついてきていた魔術師の少年エルドへと視線を向ける。
エルドは「ぜぇ、ぜぇ!」と荒く呼吸させながら「分かり、ましたァ……!」と言って勢いよく背負っていた荷物を地面へ落とす。
「トーゼツはだいぶ回復してきているみたいだけど、まだエルドの傷は癒え切ってないみたいね。少し動かないでね」
そういって杖を持ってアナーヒターはエルドへと近づき、魔法陣を展開。そのまま集中して回復系の下級魔術をかけるのであった。
「しかし……結局うやむやになってるんですけど…旅についてきても良かったのでしょうか?」
エルドはアナーヒターに診られている間、トーゼツへと尋ねる。
「今更だな、良いに決まってるじゃないか。それにお前は強くなるために旅に出たけど、別に目的地もないし、今後、何処に行くかの予定もなかったんだろ?」
「まぁ…そうですけど……」
実際、エルドは一緒に行かないか?と誘われたときはとても嬉しかった。
これまではパーティを組んで魔物と戦ってきたエルドは一人での旅は不安でしょうがなかった。だからこそ今では安心してこの旅を続けられている。
しかし、自分みたいな足手まといが一緒にいても良いのか?とも考えていた。
片方は自分を助けてくれた憧れの存在。もう片方は魔術師の上位職である世界に数人しかいない術聖であるアナーヒターである。
そんな二人に自分はついていけるのか?迷惑をかけてしまわないのか?と不安でしょうがないのである。