神都 14
アナトはすぐさまミトラの言葉に反応することはなく、もうしばらくの間、考え込んでいた。そして、ミトラでは読みきれないあの表情から元の表情へと戻る。
「そう、だね。あの二人の事はよく知っているよ。とくにトーゼツとはね。彼は……強かったか?」
「ええ、強かったですよ。剣聖である私に一歩も遅れを取らないほどには。なぜ、トーゼツが無職なのか。本当にトーゼツには才能が無いと神々が判断を下したのか。そう思ってしまうぐらいには」
「そうか……」
またもや彼女の表情は変化が生じるが、それは分かりやすいものだった。
喜びの感情。
そこからアナトとトーゼツの二人には何かしらの繋がりが見えてくるが、一体どのような関係なのだろうか。
「トーゼツとアナトさんにはどのような関係が?」
と質問するが
「まぁ、知り合いって感じだよ」
の一言で終わらされてしまう。
アナトのその言葉が本当であるとはミトラは思わなかった。しかし、言いたくないからこそ一言で終わらせたのかもしれない。だとしたらこれ以上、追求するのは止めておいた方が良いのかもしれない。
「さて、君の緊張がほぐれてきたみたいだし、仕事の話をしようか」
そのように言われ、ミトラは意識を切り替え「分かりました」と答える。
「仕事の話……と言ってもそんなに長い話でもないし、複雑な内容じゃない。厄災討伐は一筋縄ではいかないのはもう分かっていると思うけど、だからこそ、それなりの準備がいるし情報も必要だ。だから私は今日にはこの神都から出て準備を始めるつもりなんだけど、それは全部私に任せてほしい。私の方が厄災討伐には手慣れているしね。それで準備には一週間以上時間がかかると思う。だからその間、君はもう一つの任務を終わらせておく。それで異論はない?」
「えーっと…要約すると今日から一週間…で良いのかな?その間、アナトさんは準備や情報収集。その間に私はもう一つの任務遂行。そのあと、合流して厄災討伐……という流れににしようってこと?」
「そういうことだね」
ミトラは再度、アナトの話してくれた内容をまとめて思考する。アナトの提案には問題はないか。日程が狂いそうなことはないか……。
「そう…ですね。問題はなさそうだし、それで良いと思います」
ミトラからの同意を得たところでアナトは椅子から立ち上がる。
「賛成してくれて良かったよ。じゃあ準備のためにもう私は行くから。次に会うときは支配の厄災討伐直前になるね。それじゃあ、また」
と立ち去ろうとしたが、すぐに足を止め、再びミトラに声をかける。
「そうえいば私に『さん』とかつけたり、丁寧な口調だけど、そういう気遣い要らないから!それじゃあ、今度こそ、また!」
それを言い残すと、今度こそギルドを出てそこから立ち去るアナトであった。
「はぁ~!なんかめっちゃ緊張したし、疲れたぁ~!」
今日一日はずっと寝ていても問題はない日だぁ、とか思っていたし、アナトとの顔合わせも三日後とか思ってたのにまさか今日になるとは。
仕事の話も簡単に終わり十分も関わらずに終わったが、ミトラにはもっと長い時間が経ったように感じていた。
「あぁ……部屋に戻って二度寝するか」
そうして、ミトラは自分の部屋に戻っていく。