神都 12
その声を聞いて、ポットバックもこちらへ近づいてきたミトラへと気づく。
「俺の顔を見て第一声が『うわッ!』って失礼じゃないのか?」
そういわれ、確かに失礼ではあったがもう出てしまったのはしょうがない。
「ははッ、本当お前は周囲の者から危険人物扱いだな」
そのようにミトラとポットバックの言葉を聞いて軽く笑う女。
「俺の何処が危険人物なんスか!?市民のために働いて、みんなのために冒険者として戦ってるんですよ!そんな俺が危険人物なわけないじゃないですか!」
ポットバックは半分本気。もう半分は冗談というか、何か惚けるようにそんなセリフを吐く。それに対し、ミトラは何も言わないが、その眼は明らかに「何を言っているんだ、こいつは」と言っている眼であった。
「いいや、お前は充分トラブルメイカーだよ。どれほど術聖エイルに助けられていることか……。それに、今月もお前は勝手に神代の遺物を持ち出してアフラに怒られているじゃないか」
それに対し、ポットバックは「それは…あれだ……。あれなんだよ!」と何か適当に言い訳しようとしているみたいだが、その言い訳さえも思いつかず、とても口ごもっている。
「さて、無駄な雑談もここまでさ。ポットバック、話はあとで。私は彼女に用があるからね」
ミトラが来るまでの暇つぶし相手だったらしい。話相手になってくれたのにも関わらず、軽くあしらわれたポットバックだった。普通であれば話し相手になってあげていたのに、そんな対応されると少しは不満が出てくるだろう。しかし、彼は元気よく「あぁ、良いぜ!」と言ってギルドから出ていく。
「本当にアイツはおかしな奴だよな。対岸の火事を眺める程度だったら楽しいけど巻き込まれるのは御免蒙るけどな。さて、ポットバックがいなくなった所で、改めて尋ねるが君がミトラ・アルファインなんだよな?」
そのように言われながら、ミトラは回り込み、ポットバックが座っていた場所であるテーブルを挟んだ向かい側の椅子に座る。
「ええ、そうですが……あなたは?」
やはり、真正面から見てもその女に見覚えはなかった。
綺麗な緑色の髪に、神秘的に見える黒い瞳。やはり知らないものだ。
だが、その顔立ちは最近、何処かで見たことのあるようなものであった。しかし、それが一体誰で、何処で見たものだったのか。思い出せない。
まぁ、ミトラは世界中を任務で飛び回っているし、いろんな人間を見てきた。そして顔が瓜二つの人間もこの世ではゼロではない。
きっと、何処かで似た顔の人を見ただけなのだろう。
そして、目の前にいる彼女は挨拶と自己紹介を始める。
「初めまして、ミトラ・アルファイン。私の名前はアナト。よろしくね」
そのアナトと名乗った女性の言葉を聞いてミトラの中に緊張が奔り抜ける。
(まさか……今ここにいるのが…あの!戦神ミトラなの!?)