手合わせ 5
「おっと?」
まさか、ここからこの一撃を対処してくると思っていなかったミトラはそのままを地面まで強く振り下ろし、態勢を崩す。剣はトーゼツの右横を通り過ぎていく。
その瞬間を逃さなかったトーゼツはミトラの腹部へと蹴りを入れる。
ミトラの足が地面から浮き、そのまま数メートル後方へと飛ばされるのであった。
「あの剣聖の一撃を対処するだけじゃなく、一撃入れるなんて……!」
メユーと観戦しているエルドは、思わず声が出てしまう。
「確かに、知らない人からすれば剣聖と善戦出来てることに驚くわよね」
この光景に全く驚かず、当たり前のように眺めているメユー。それは、相棒であるトーゼツの力を信じているからなのか、それとも―
「ふぅ、なかなかやるね」
しかし、腹部に入った蹴りなど、まったく効いていない様子であった。
彼女自身、まさか攻撃を当てられるなんて思っていなかった。
トーゼツを馬鹿にしているわけじゃないが、やはり実力差があるのは事実。無意識ではあったが、多少の加減はしていた。しかし、それでもなお、攻撃を入れられるなんて……。
(それにしても、最初の一撃も受け止められたわ……。私の動きが見えてる?)
ミトラの動きを見切った者はそうそういない。それこそ、同じ四大聖レベルか、それに近しいレベルの相手とは何度か戦ったことはある。それらは簡単に攻撃や動きを捉えてきた。
トーゼツも実はそれほどの力を持っているということなのか。
(少し試すとしますか)
再びミトラは動き出す。だが、先ほどの動きとは異なっていた。
(さっきとは違う……?)
トーゼツは目で追いかけながら考えていた。
(先程の攻撃はこちらに直線で来ていたが、今度は何だ?俺を中心に回るように近づいているな)
それは、こちらの様子を伺うような動きであるということをすぐに悟ったトーゼツは、いつ攻撃が来ても良いように防御の構えを取り始める。
(やっぱり、こっちの動きを目で追いかけているわね……)
トーゼツには才能がない、だからこそ、職無しのはずだ。
(どんな鍛錬を積めば私の動きを見れるようになるのよ)
なんて考えるが、別に動きが見えていることはそれほど問題にはならない。
どれだけ動きを捉えきれたとしても、攻撃に上手く対応できなければ意味はない。受け止めようとすれば、再び強い負荷がのしかかってくる。
それに、目では動きを追いかけているが、それに体が合わせていけるかどうかも別問題。
(良いのは目だけのようね。なら―)
キュ、と止まったかと思えば、最初と同じく真正面に向かって斬りかかっていく。
(やっぱり単純なゴリ押しで来るか!!)
ミトラの思考は決して間違っていない。
トーゼツは何度も自分より強い相手と戦ってきた。というより、職のない彼は、いつでも格上を相手にしてきた。ゆえに、自分よりも力量を持った相手に勝つことを得意としており、積んできた鍛錬も、常に格上と戦うことを想定したものであった。
そのおかげで、ミトラの動きを完全に見切ることが出来ているのだ。
しかし、体が動くかどうかは別の話。
やはり、訓練していた時よりも実戦での動きの方が想定していたものよりも遅くなってしまう。常に相手の動きを見ながら、今度はどう出るのか?と次の一手を予測し、自分がどう動くべきか、思考を重ね続けないといけないからだ。
だが、自分の弱点を理解できていないほどトーゼツも馬鹿ではない。