神都 6
悪神に関する情報は大体分かった。だからと言って彼女の質問が止まることなく、さらに続けて彼女はアフラに尋ねる。
「厄災の討伐……これは出来れば、の話なのよね?絶対に今回で討伐ってわけじゃないんでしょ?」
「ええ、その通りです。もちろん、倒れるのであればそれに越したことはありません。ですが、一番重要なのはあなた達の命です」
それは私たちを大切にしている……というような意味もあるようだが、それが一番の理由ではなさそうだ。
まだまだ戦える、成長の見込みもある、世界で活躍出来る剣聖。そんな利用可能な彼女を無駄に死なせないためと合理的な判断による発言であるというのをひそかに感じ取るミトラ。
「しかし、そのような発言からして任務を受けてくれるということですか?」
先ほどまで、思いっきり任務拒否しようとていた彼女が否定から入らなかったという事からアフラはそのようにミトラの心を読み取る。
「まぁね。だってアナトが一緒なのよね?」
特殊冒険者アナト。
彼女とはミトラは一度も会ったことはない。しかし、その実力を疑うことはなく、また冒険者であれば誰しもが知る名前だろう。
彼女にはいくつかの異名がある。
『神代の再来』、『最後の神』、『戦神』など……。
しかし、最も言われているのは『神代の終末者』。
悪神が残した厄災を二体、討伐して五体満足で帰還したというまさに最強の戦士。
「彼女の人となりは知りませんが、強さに関しては疑いの無い最強。そんな彼女が一緒ならば私も不安が無くなるというものですよ」
「そうですか、それは良かった」
アフラはしっかりミトラの口から任務を引き受けるという言葉を聞いて安心し、笑顔を見せる。
「あなたも一緒に戦ってくれたら嬉しんだけどね」
ミトラは冗談半分でそのようなセリフを投げかける。
「それはいけません。不可能、とは言いませんが実にいけないことですよ。私は正真正銘、最後の神。私がいなくなれば人の時代が訪れます。その頃には人類は完全に神から独り立ちしなければなりません。そのためにも私はあなた達に介入することはないでしょう」
ミトラも冗談半分だったセリフに、正面から真面目な口調で言われてしまし「分かってるよ」と少しばかり悪態をついた態度をとってしまう。
「それじゃ、私は次の任務の準備もあるし、一旦部屋に戻りたいからもう下がらせて貰いますよ」
そうしてミトラはその場から立ち去っていく。
その背中を見ながら、「はい、それでは。無事に遂行出来ることを願っていますよ」と応援の言葉を投げかけ、二人は別れる。
そこに残るはただ一柱の影。
その影は下を見る。
黒い床に中の図形が回っている魔法陣。
彼女は誰もいなくなった部屋でポツリ、とつぶやく。
「この封印も、あともう少しで……」
そうして、彼女はこの空間に残り続ける。