神都 4
エレベーターのドアが開いて広がるのは大きな部屋。
天井と床はまたもや研磨された黒曜石のように漆黒だ。そして床には巨大な魔法陣がぐるぐると機械のように回っている。しかし、壁は黒くなく、逆に明るかった。というか、壁と呼ぶのも相応わしくない言葉だろう。では、これらをなんと言えば良いのか。
……言うなれば空、だろうか。
青く澄んだ空間がそこには無限のように広がっており、しかし上と下は闇のようなもので挟まれている。
そんな部屋の中央であり、魔法陣の中央には椅子があり、そこで座って佇む一つの影。
それは神々の頂点に立つ者であり、この世界に残った最後の一柱……。
調和神アフラである。
「来ましたね、ミトラ・アルファイン」
それは優しく声をかける。
ミトラはエレベーターから出ると、彼女の前へと立つ。
「今回の厄災討伐、見事に勝利を収めてきましたね」
そのように言われ、彼女はその祝いの言葉を捨てるかのように告げる。
「いやいや、あれは私だけの力ではなくて—」
「ええ、分かってますとも」
ミトラの言葉を遮ってアフラは発言する。
それはポットバックのように厄災を倒せるとは思っていなかった……という雰囲気ではななさそうだ。彼女の表情、言葉遣いからして真実を知っているようであった。
それはこの者が神だからなのだろうか?それとも—
「しかし、あなたもまた一役買ったのは事実でしょう?であれば、賞賛するべきです。あなたは剣聖として役割を立派に果たしました」
アフラのその説明を受けてミトラは少し嬉しい気持ちへとなる。
これがお世辞であったり、厄災討伐の真実を知らない者からの言葉であれば響かなかっただろう。自分の力だけじゃない。自分だけじゃ出来なかった、と悔しい気持ちになっていたかもしれない。
しかし、アフラは真実を知っているうえで言ってくれた言葉なのだ。
さらに相手は正真正銘の神。
嬉しくならないわけがない。
「さて、仕事の話を長引かせても悪いですので、次に任務についての話をしましょう」
そう言われて身を正し、話を聞く姿勢へとなるミトラであった。
「あなたには二つ、任務があります。一つは新たな術聖になり得る者を探知しました。その者を冒険者連合へと招待してください。出来なくても、ここへは連れてくること。もう一つは厄災の討伐です」
その瞬間、ミトラの中に緊張が生まれる。
厄災の……討伐…?
刃の厄災を討伐したのは約二週間前の話だ。
世界にある十五の厄災は確認できる限り三千年前から存在している。伝説では神代の初期から存在している。文献によると人類が二体目を討伐したのは二千年前という。そこからようやく今になって七つ目の討伐が成功したというのに、ここに来てさらなる厄災の討伐?
そんなもの無茶とは言わないが、不可能だ。
前までの自分だったら自信満々に「オーケー」の一言だったかもしれない。だが、厄災の恐ろしさを知ってしまった今、単独で立ち向かおうなんて思わない。