手合わせ 4
そのトーゼツのありえないようでとんでもない発言を聞いたエルドとメユーの二人に衝撃が走る。
手合わせをお願いしたい?
相手は世界に三人しかいないとされている剣士の最高峰である剣聖。戦士というくくりで見ても、世界屈指と言っても過言ではない。
今までの会話からして剣聖の心の器はかなり広いようではある。だが、場合によっては圧倒的格下から手合わせを頼まれるなど、不敬と思われてもおかしくはないかもしれない。
「ええ、いいわよ」
トーゼツの言葉にまるで遊びにでも誘われたかのような、軽いノリで返事をする。
それにまら二人は彼女には強さに見合った心を持っているのだと感心させられるのであった。
「それでどうする?剣のみの勝負かしら?それとも、単純に戦士としての手合わせかしら?」
「もちろん、剣のみで、だ」
そういって、トーゼツは指にはめている指輪に魔力を送り込む。すると、空間に穴が開き、そこから一本の剣を取り出し、構える。しかし、鞘を抜くことはなかった。
「なるほどね」
ミトラも腰に下げた剣を握る。しかし、鞘ごとベルトから取り外し、構える。
「一応聞いておくけど、刃は使わない…ってことでオーケー?」
「無論。あ、そういえば剣のみ、と言ったけど魔術も使って大丈夫か?俺の戦闘方法は大抵、魔術との併用なんだ。やはり、剣術だけじゃあ勝てないのは明白だしな」
それを聞いて、エルドは自分の耳を疑った。
『剣術だけじゃ勝てない』
それはつまり、勝つ気でいるということだ。
最初から負けることを想定して戦う者はいない。しかし、剣聖が相手となれば別だろう。
「ええ、良いわよ。じゃあ私は、普段は剣術一本で戦っているから、魔術は使わないわね」
そうしてこの戦いの大まかなルールを決めた二人は、次に二人とも魔力を体に纏い、肉体強化を行い、いつでも戦闘を始められるようにする。
「エルド、合図を頼めるか?」
「え、ええ!?ぼ、僕ですか?」
「いけるか?」
「……や、やりますよ」
そうして、二人はにらみ合う。
先ほどまで穏やかな雰囲気に、互いを尊敬していた目とは違う。もう既に敵として認識し、戦い倒す標的として認識している。
「で、では行きますよ!」
エルドは右手を上げ、叫ぶ。
「スタート!」
そうして、右手を下ろし切ったと同時に真っ先に動き出したのはミトラであった。
彼女は目にも止まらぬ速さでトーゼツの距離を縮め、その最中に剣を振り上げる。そして、剣が届く範囲内にまでやってくるとつかさずその剣を降り下げる。
しかし、トーゼツはそれを予測出来ていたのか、合わせて剣を持ち上げ、降り下げた剣に対して防御の構えを取り、その一撃を受け止めることに成功する。
しかし、受け止めきれたからといって、そのあと耐えきれるかどうかは別問題となる。
「ッ!」
まるで、何トンもの巨大で思い岩石でも落ちてきたのかと思うほどの重量がトーゼツへとのしかかる。なんと、そのとてつもない威力はトーゼツの足を地面へとめり込ませ、埋めるのであった。
(正面から受けた俺が馬鹿だった!!)
ほかにもいろいろと出来る手段があっただろう!?と思考するが、もう受けている時点で手遅れだ。
まだまだ彼女は体重も乗せていく。
カチカチ、と鞘同士がぶつかり、震える音は響いていく。
だが、膝は折れない。
「へぇ、これほどの力でも耐えるんだ。すごいな、君は」
余裕の表情でこちらの顔を覗き込み、話しかけてくる。
「ちぃッ!!」
トーゼツはその言葉に反応できるほどの余裕はない。しかし、そこからトーゼツは上手く相手の剣を逸らして避けて見せるのであった。