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出会い

 それは、子供のころだった。


 何歳の話だったか。十歳前後……いいや、前だったな。八か、九か。ただ、子供のころの話であるというのは絶対だ。それは確かな話だ。


 親に連れられて街の神殿へと俺は向かった。


 あの時はまだ子供だった。いいや、現実を知らなかったと言えば良いのか。


 神殿の中に入り、俺はその神官の前にお辞儀をする。


 一体、何があって、どんな儀式があった。詳細なことは覚えていない。でも、五分ほどしか時間は経たなかったな。そのあと、神殿の中の休憩室というか、待機室というか、とにかくそんな部屋に待たされた記憶が俺の中にはある。


 その時は……何人か友達もいたはずだ。


 「俺はもう結果でたぜー、見てみろよ!トーゼツ!!」


 そうして、友達が見せてきた紙には、一、二、三、と番号が書いていた。そして一番目にはこの世界の文字で『商人』。二番目には『政治家』。三番目には『起業家』と書かれていた。


 「くっそ~、俺は冒険者に成りたかったのに一つも戦士職がない!!」


 「まぁ、神様たちから戦う才能が無いって言われたってことだろ?」


 冒険者を夢見ていた友達は悔しがっていたが、その結果に俺はあまり驚かなかった。


 こいつはガキ大将、というと聞こえは悪いかもしれないが、責任もしっかりとるタイプで何かグループをまとめるのに適した奴だと思っていた。


 だからこそ、ちゃんと神々っていうのは俺たちを見ていて、どんな才能があるのか。分かるんだなぁ、と俺は実感を得た。


 だからこそ。


 俺は、神官を通して知った神々の『職』に俺は失望してしまった。


 だが、同時に諦めもつくことはなく、俺はもう、がむしゃらに前へ進むしか他はなかった。



 あれから約十年後。


 それは西にある国、セイヘン。その国境付近であった。


 そこはある程度、人の行き来があり、整地されているということもあり、猪や熊と言った獣から、スライムにゴブリンと言った魔物などもあまり現れない場所でもあった。


 しかし、現れる可能性がゼロではない。


 近くの森や山から、激しい弱肉強食の世界で負けて逃げてきたモノたちが、顔を出し、行き来する人間を襲うといった事件も一年に一、二回起こっている。


 そして、今、ここに運が悪いことにその食物連鎖から抜けてここに迷いこんだ魔物に荷馬車を襲われ、今にも殺されそうな商人がいたのであった。


 「ひ、ひぃ!!」


 戦闘経験のない、魔法も使えない。ただの商人という職を持ったその男は腰を抜かし、身を守ることも、その場から逃げ出すことも出来ず、そこで座り込んでいた。


 その魔物は、狼のような姿で、しかしその巨大さに溢れる魔力から決してただの狼ではないのが分かる。そのような種の魔物なのか、それともただの狼が何かをキッカケに魔物化した変種なのか。


 とにかく、並大抵の冒険者でも単独で倒せるか分からないほどの強さの魔獣が「フシュ―、フシュ―!」と強く威嚇するように息を立て、巨大で恐ろしく尖った歯を見せそこに立っていた。


 きっと、単純に腹が減って襲い掛かったのだろう。そして、まだ荷馬車に食料が残っているのならば喰われることはなかったかもしれない。だが、残念ながら荷馬車の中身は貴族相手を想定した宝石や家具、そして大衆に向けた日用品しかなかった。


 この魔物の食料になるのは、商人の男一人しかいない。


 終わった……、そのように死を覚悟していたその時、


 ヒュン!と何かが空気を切り裂き、魔物に向かってきているのに商人は気づく。そして、それは大きな狼の体へと突き刺さる。


 どうやら、それは矢のようであった。しかも、ただの矢ではない。魔力を身に纏った強靭な肉体にも突き刺さることが出来るほどの頑丈で魔力が込められた矢であった。


 「ッガァァァァ!!!!」


 どくどくと矢が刺さった箇所から真っ赤で沸騰しているかのように熱い液体がこぼれだす。


 そして


 「おりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 一つの叫び声が大きく響きだす。


 それは、剣を持った一人の少年。その剣には魔力が込められており、迷うことなく自分の何倍の大きさもあるであろうその狼へと真っすぐ駆けていく。


 「下級剣術〈シャープ・ブレイド〉!!」


 ザンッ!と大きく振り下ろされたその一撃は、魔物に傷を与えるが、致命傷でもなければ、ひるませるほどの威力もなかった。


 すぐさま魔物の反撃が来る。


 「ゴォォォォォォォォ!!!!!!」


 その周囲に響く、まるで地震のように周囲を震わせる声の衝撃と共に、問答無用で少年に向かって襲い掛かろうとしていた。


 だが、少年の後方から再び二本の矢が解き放たれ、魔物を貫く。


 こちらの攻撃はかなり効いているようで、痛みで怯み、二、三秒ほど動けなくなる。しかし、その最中でも魔物の目線は動いていた。


 目の前にいる少年よりも、この矢を放っている者を先に仕留めなければ!


 身体が動かないその短い期間にギョロギョロと眼を動かし、ようやく見つける。少年の後方、数百メートルも後ろに弓を構えている一人の女。彼女の身長は二メートル近くあり、緑色の綺麗な髪に整った顔。そして、特徴的なその長い耳。エルフであった。


 魔物は狙いをそのエルフの女に向け、動こうとする。


 しかし、少年は剣を振り上げ、魔物が行動しようとする前に、もう一撃入れようとする。


 「中級魔術!」


 そのように少年が叫ぶと、剣を中心に一つの魔法陣が展開。


 「〈炎纏えんてん〉!」


 この魔法は本来、体に炎を巻き付ける魔法である。効果としては、氷または水系の攻撃魔法を無効化もしくは弱体させるのが主である。また、武器を持たない魔物、具体的にスライムなどは纏った炎に触れるだけで肉体が蒸発してしまうため、魔法展開者に攻撃できなくなってしまう。


 つまりは防御やカウンターなどの効果が強い魔法である。


 のにも関わらず、その少年は肉体に纏わず、剣に炎を巻きつかせている。


 そして、彼は剣を振り落としながら叫ぶ。


 「下級剣術〈シャープ・ブレイド〉!」


 先ほどは全く効かなかった剣術。しかし、灼熱の炎を纏ったことでその一撃は数倍、強くなって魔物を切り裂いていく。熱で皮膚を溶かし、肉が焼かれ、生きたまま焦がされていく。また、流れ出る血がすぐに炎で蒸発していく音が響くと同時に、気持ち悪い匂いが周囲に漂う。


 「グァァァァァ!!!!!!」


 悲痛な叫びを挙げ、その魔物は暴れ出す。もう手が付けられないほどに。


 とにかく、鋭い両手の爪で近づくもの全てを切り裂こうとする。


 少年はすぐさまバックステップで攻撃範囲から下がる。


 「この暴れ具合……剣での近距離戦闘は危険すぎるな。だったら―」


 魔力で空中に魔法陣を描き、新たな魔法を発動させようと唱え始める。


 「上級魔術」


 さらに、二つ、三つと魔法陣が現れると、それらは重なり合い、機械の歯車のように呼応して回転し始める。また、陣内に描かれた図形や数字、文字も回っていく。


 一つ目の魔法陣は、魔力を熱へと変換し、空気を燃焼させる魔法陣。二つ目は威力を拡散させない、一点集中させる魔法。そして、三つ目の魔法陣は一つ目の魔法陣で発生した炎を噴射させる魔法陣である。


 魔物はその危険なナニカを感じ取り、魔力を纏った爪で少年を殺そうとする。しかし、その前に魔法は発動されてしまう。


 「〈ムスペル〉!」


 その一撃はまるで、光線であった。


 炎の色というのは大抵、熱の色で変化する。赤は低く、高くなると黄色、白、青となっていく。そして、放たれたその一撃は、真っ白であり、その破壊力は触れるモノ全てを跡形もなく消滅させる。


 魔物は体の半分以上が灰も残らずカスとなって消え、抵抗も、叫ぶ力も無くなり、倒れる。


 どれほど大きく、重い体なのだろうか。ボォン!と土煙を起こし、地面を揺らす。


 少年は剣を腰の鞘へと戻し、戦闘体勢を解く。


 「ふぅー、なんとか今回も勝ったな。大丈夫か?」


 少年は腰が抜けて動けなくなっていた商人へと近づく。


 商人も、しばらく経って腰を持ち上げることが出来るようになったようで、立ち上がり、少年へと近づいていく。


 「ありがとう、来てくれなかったら死んでいた所だよ!!」


 「良いってことよ、こっちもたまたま魔物狩りの帰りに遭遇しただけだしな」


 そう言って少年は笑って見せる。


 「ったく、こっちとしてはハラハラしたけどね」


 後方で弓矢を使って支援してくれていた女のエルフがその二人に近づいていく。


 「魔物狩りで戦ったあとだったし、お互い体内魔力は限界に近かったんだ。もし、相手が今の状態で勝てない相手だったら確実に死んでいたよ」


 「まぁまぁ、結果的に勝ったんだし、人一人の命を助けたんだ。結果オーライってやつさ」


 少年は彼女にそう言うと、再び意識を商人の方へと向ける。


 「アンタはここからどうするんだ?荷馬車の向きからして国から出ようとしてた所だろ?しかも、中の品物はかなり良い物もありそうだし、放って置けないよな。でも、荷馬車が壊れてるからこれ全部を運ぶのはキツイだろうし……」


 「そうだねぇ……数人、冒険者を呼んで、荷馬車も手配して…」


 「だったら、俺たちが呼んでくるよ。俺たちも冒険者だし、今日、手が空いてる奴らぐらい分かるし、信頼できる腕っぷしのいい奴ら呼んでくるよ」


 「本当かい!?助けてもらった上に、呼んできてくれるなんて…本当、恩に着るよ」


 そうして、二人は立ち去ろうとしていたその時


 「その前に、名前を聞いても良いかな?」


 そう尋ねられ、少年とエルフの女は答える。


 「私の名前はメユー・カリンカ」


 「そして俺が、トーゼツ・サンキライだ!」

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