彼女の手料理②
スーパーを出て自転車を暫く走らせたところで自宅に着いた。
そんなに広くはないが車庫、芝生の庭付き一戸建てだ。
車は両親が熊本に乗って行っているから伽藍堂で、車庫のド真ん中に2人の自転車を止めた。
針生は目をクリクリとさせ、アチコチを見ている。
「片倉君の家は結構大きいんだね…家はアパートだから。
でも隣の家の方が凄く大きい…。」
「そう、隣の大きい家が俺に柔術を教えてくれた爺さんの家。
小さめだけど道場もあるしね。」
「何か大きな声も聞こえるね、お爺さんが亡くなっても道場はやってるの?」
「うん、爺さんの息子さんが伊達流柔術を継いでいるよ。
俺は爺さんの孫娘と幼馴染みだったから無料で教えてもらっていたけど、爺さんが死んでから息子さんの代になって有料にするって言われたんで辞めちゃった(笑)。」
「あの…孫娘さんとは仲はいいの…?」
「仲はいいかな、今も同じ学校で同じクラスだし。」
「そそそそうなんだ、幼馴染み、ね…。
家にもよく来たりするの?」
「イヤ、葉月…あぁ、孫娘の名前ね。
葉月のお母さんが時々料理とかお裾分けをくれるから葉月が届けには来るけど、家の中には入らないかな。
子供の頃は一緒に柔術を習ってたし、よく遊んだけど。
あぁ、ちょっと前までは朝は一緒に学校に行ってたから呼びには来てたな。」
「…お裾分けは葉月さんが作った料理じゃなくて?」
「葉月は料理は壊滅的でね、作るのは全部葉月のお母さんだよ。」
「よし、私頑張るね。」
針生は何故か胸の前で両手に握りこぶしを作り、グッと力を入れていた。
俺達が車庫を出ようとしたところ、家の前の道路をクロスバイクで通り掛かった強面の男性がこちらを見てブレーキを掛け、止まった。
「あっ、遠山さん、こんにちは。
練習終わったんですか?」
「やぁ、片倉君。
そう、終わって今から家に帰るところ。
…ひょっとして、彼女さんかな?
羨ましいね、俺なんてこんな顔してるから、この歳まで彼女は出来なかった。
彼女さん、片倉君はいい男だから、しっかり掴んでおくんだよ。」
「はっ、はひ!」
針生は遠山さんに急に話し掛けられて、オロオロしている。
「残念ながら、彼女じゃありませんよ。
遠山さんは見た目で損してますからね。
遠山さん、その彼女さんは見る目がありますから、絶対に離しちゃ駄目ですよ。
…イヤ、彼女さんの方が遠山さんを離さないか…。」
「俺は離す気は無いんだけどね、彼女はきっとモテるから…。
ところで、もう道場には来ないのかい?」
「えぇ、俺は爺さんからしか習う積りはありませんので。」
「そうか、残念だな…
またラーメンでも食いに行こう。」
「奢りですか?ゴチになります!」
「勿論!じゃ、また。」
遠山さんが去った後に針生を見たら、
「残念…残念…」
とモジモジしながら独り言を言っていた。
「…針生、大丈夫か?」
「あっ、うん、あの人は?」
「あの人はね、隣の道場で柔術を習っている遠山さん。
警察官でね、俺に痴漢の対処法とかを教えてくれた人。
犯人の手にビニール袋を被せるとかね。」
「あー、あのビニール袋の!」
「そうそう、針生も間接的に遠山さんのお世話になった事になるね。
あの痴漢を捕まえた時刑事さんに事情聴取されて、ビニール袋の知識を何処で?って聞かれたんだけど、遠山さんに迷惑が掛かるとマズいと思って、テレビで見たってウソを付いたんだ(笑)。」
「そうだったんだ、遠山さんはあの道場長いの?」
「遠山さんは去年の秋頃からかな、現場の執行力を上げたいって言って…。
やっぱり犯人を捕まえる時は大変らしいよ。
それに彼女という、新たに守るものも増えたみたいだし。
尊敬出来る、いい人だよ。」
「そうだね、いい人そうだった。
…顔以外は。」
「あぁ…言っちゃったよ、この人は…。
本人は凄く気にしてるから、もし次に会うことがあったら顔の事は言わないであげて。」
「はーい…ごめんなさい。」
そして俺達は家の中に入った。
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この遠山という人物は、拙作の『ブサイクな俺が夜空を見上げていたら…』の主人公です。
宜しければ、そちらの方もお読みくださると幸いです。




