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遅刻

 街中の桜が春の暖かい日差しを受けて咲き誇り、はらはらと花びらを散らしてアスファルトを桜色に染める朝方、私立桜ヶ丘高等学校の少し大きめの真新しい制服を着た俺達は私鉄の聖蹟桜ヶ丘駅から学校の正門へと続く、長く緩やかな坂道を急ぎ走っていた。 

 俺はスマホの時刻を確認しながら大声を出す。


「葉月、遅い!もう少しペース上げないと門が閉まるぞ!」


「もう!そもそも楓が家を出るのが遅かったから遅刻しそうになってるんでしょ!」 


「だからゴメンて。急げよ!」



 俺の名前は片倉楓かたくらかえで、15歳。

 容姿はそれなりだと自分では思っているが、普段から身だしなみにはあまり気を遣わず髪はボサボサでメガネをかけており、今日は急いでいたからかシャツの裾が詰め襟の上着の下からチラ見えしていた。

 きっと、周りからはパッとしないヤツに見られているであろう新1年生だ。


 俺の少し後ろから走って付いて来ているセーラー服を着た女子の名前は伊達葉月だてはづき、俺の家の隣に住んでいる幼馴染のクラスメイトだ。

 ボブカットで端正な顔立ちではあるがスレンダーで胸が小さいのがコンプレックスだ。

 過去に胸の話をしたらボコボコにされたため、その件については2度と触れない様にしている。


 8時半を告げる学校のチャイムが鳴る直前に俺達は正門をすり抜けると、門を閉めようとしていた体育会系のジャージを着た男の先生に、


「ギリギリだぞ、今度から気をつけろよ!」


と注意されながら俺達は下駄箱のある昇降口に駆け込み、靴を上履きに履き替える。

 そこで俺のシャツに気付いていたのか、葉月は


「もう…ちゃんとしてればカッコいいのに…」


とブツブツ何か言いながら俺のシャツの裾をズボンに突っ込んで服装を整えてくれた。

 

「ありがとな、葉月。」


 ニカッ!と笑い掛けると葉月は恥ずかしそうに頬を紅く染めた。


「ほら、早くしないと斉藤先生に怒られるよ!」 


「そうだった、早く行こう!」



 校舎の階段を3階まで駆け上がり、1年B組の引き戸を勢い良く開けて中に入ると全員の視線が俺達に集中した。


 教壇に立っている栗色でミディアムヘアの20代後半であろうと思われるレディーススーツに身を固めた美しい女性が斉藤陽毬さいとうひまり先生、1年B組の担任教師だ。

 数日前、クラスメイトの男子が斉藤先生の自己紹介時に年齢を聞いたところ鬼の形相になり、とてもそれ以上聞ける雰囲気では無かった。


「ご両人、随分と派手な登場だな。

 遅刻したならもっと申し訳なさそうに入って来い。」 


「斉藤先生、おはようございます。

 校門を時間内に入ったから遅刻じゃありませんよ、出席表をシレッと遅刻に○しないでください。」


「…チッ、片倉…よく見ているな。

 仕方ない、後で書き換えておく。」


「舌打ち!

 イヤ、今やってくださいよ。

 斉藤先生のことだから、どうせ書き直すの忘れちゃって俺達の事を遅刻扱いにしちゃうんでしょ?」


「………。」


「先生、不貞腐れながら書き直すのヤメてもらえます?

 口がアヒル口になってますよ、可愛いけども。」


「かっ…可愛いとか言うな!

 ボサボサメガネのお前に言われたって、嬉しくも何とも無いわっ、バーカ、バーカっ!」


「子供かっ!」


 笑いを堪えられなかったのか、誰かがプッと吹き出した途端、クラス中で爆笑が起こった。

 斉藤先生は恥ずかしいのか怒ったのか判断はつかないが、顔を真っ赤にしながら教室から出て行った。

 斉藤先生自身はクールでカッコいい美人さんを装っている様だが、ここ数日のうちにボロが出て、実はポンコツカワイイ系だという事が判明している。


 俺はまだ教壇の横に突っ立ったままだが、葉月はとっくに自分の席に座っていた。

 スルースキル、パねえ!

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