【007】 モンスター大行進 前編
ゴールデン・バーボン傭兵中隊の隊長としてヘンリーが帰ってきます。
体長182センチ90キロ筋肉質細面で髪はスポーツ刈りに似た短髪。
知性がにじみ出る顔付のイケメン。文武両道の良識者。
三国志ゲームで言えば「陸遜施せ顔良いぜ!!」
草地に幅三メートル位の道が延びている。道から十メートル位離れて下草・茂み・森の木々と生えており此所から外は森だよと教えてくれている。
馬車がガラガラ走って来る。馬二頭が馬車を引っ張っていて、御者席にはマヤが座って手綱を取っている。助手席にはそらちゃんが寝そべって前を見ている。
二人とも何となく前を見てるだけの様な感じで淡泊に会話もない。
馬車の荷台では、トワイライト、トシゾウ、ポルトスが地図を広げてうち合わせをしている。
馬車の後ろには空馬が三頭数珠つなぎに繋がれて付いてきている。
セイロンの街を出て少し行った所までトシゾウ、マヤ、ポルトスは馬に乗っていた。トワイライトが馬車の手綱を取っていた。
現地・想定接敵地に着くまでの2時間半が勿体ないので、全員馬車に乗り荷台でうち合わせをする事にした。乗ってた馬は馬車に繋いで引いている。
騎馬から荷台に移りこれから向き合う敵、モンスターの『大行進』についてトワイライトが説明しだした。
『彼を知り己を知れば百戦殆からず』の孫子の名言にもあるように司令官であるトシゾウに『大行進』について知って貰ってから作戦を考えて貰おうと思ったからである。
と、喋りだした時にポルトスが待ったを掛けた。
「どうした?ポルトス」とトワイライトが普通に質問。
「いやな。今日冒険者レベル3に上がって『デン導』ってスキルがアンロックされたんだ。」
「デン導?」とトワイライトとトシゾウが興味を持って復唱する。
「ああ、スキルの内容は右手で触れた人の知識や感覚・視野を自分と左手に触れた人にダウンロードする。・・コピーする訳だ。俺としては攻撃系のスキルでなかったのが残念だが。」
「まあ、便利でよく使いそうなスキルじゃないか」とトシゾウは評価が高い。
「で、使えそうな場面なので早速試してみようかなーと思って。」とポルトスもトシゾウに使えるスキルと言って貰って少し嬉しそうだ。
「やろう。やろう。まず、使い方読んでみて」とトシゾウもトワイライトも興味津々で楽しそう。
ポルトスは目の前の空を指で押したりなぞったりとステータス画面からスキルの説明を見て読み上げる。
「まず、情報の送る側が右手に触れている事。そして、情報の受け取り側が左手にふれている」
と言ってポルトスは右手でトワイライトの手を握る。そして左手でトシゾウの右手を握る。
ソコに御者席にいたマヤが荷台に来てトシゾウの右手を握っているポルトスの左手を握ぎってニコリとする。小型犬のそらちゃんも助手席から荷台に降りてきて、『お手』をする感じでポルトスの左手に前足を合わす。
ポルトスは”え?そらちゃんまで?”と思ったが、そらちゃんがニコッと嬉しそうで超可愛いので、顔が緩んで”可愛いなぁ”で終わってしまった。
トワイライトは今馬車は誰も運転して無く引く馬任せになっているが、”まあいいか。”って気にしないようだ。
ポルトスは更に「送り側の人が情報の名目を言ってから呪文を唱える。その後受け取り側が受け取り側の呪文を唱える。」
「呪文って?」
「送り側は『こうこうかくかくしかじか』で受け取り側は『こうこうかくかくしかじかかー』です。」
『ずでーん』トワイライトはズッコケて”某新喜劇やな(笑)”と笑いだす。
トワイライトは宣言する。「大行進に関する情報」の後に呪文を詠唱する。「こうこうかくかくしかじか」顔がニヤけている。
続いてトシゾウ、ポルトス、マヤ、そらちゃんまで「こうこうかくかくしかじかかー」ポルトスの左手に触れながら呪文を詠唱する。
傍から見ればその構図は質の悪いオカルト集団が変ちくりんな儀式をやっている様にしか見えない、恥ずかしい構図。
一瞬だけパッとポルトスが光った。
「おおお解った。」とトワイライト以外が感嘆を漏らした。
「ほんまかー?胡散臭い」とトワイライトは胡散臭がっている。
トシゾウが右手の人差し指を立てながら言う「ホントだって、証拠にあんたが『ダン・レイアード』ってレイアード領の領主の義理の弟って事知った。」
「おおお、当たっている。」と関心した顔のトワイライト。
ポルトスが「あと、好きになった女には皆振られ続けている事も。」とニヤニヤしながら言う。
ポルトスの台詞がトワイライトの古傷に刺さる。
ちなみにトワイライトのルックスは普通のやや良い方寄りなので、女運が悪いのかも。
「グサ!!」とトワイライトは”こりゃ、かなわん”って顔で言い返す余裕が無い。
期待していた毒舌が返ってこないのでポルトスは”こりゃ申し訳ない処を突いたかも?”と気不味くなった。
馬車の荷台ではコントをやっているが、『大行進』に付いて関連事項まで情報は共有できたようだ。
そもそも『大行進』に関して、寄せ集めのモンスター・野獣でそんな連携が取れるのか?と疑問が過去に出た。先代の勇者パーティやレイアード領の組織でトワイライトが調査した事が有り、そして色々解った。
まず、『大行進』には首領がいる。そして首領が擁する『御旗』がある。当に首領が掲げている旗なのだが、トワイライト、シェイクスオードが見た限り『戊辰戦争にでて来る錦の御旗』に形がよく似ている。実はコレがダンジョンコアの劣化複製に近い物で、是がモンスターを管理・統括している様なのだ。
半径百メートルから百五十メートル前後の影響範囲があり、その中に入った魔物や野獣は管理下に組み込まれて完全に統率され駒になる。
その証が、本来弱肉強食の関係であるオークや灰色大狼等『喰う物』と大鹿やホーンラビット、ジャイアントラット等の『喰われる物』が『大行進』の中では仲良く行進しているだけではなく、効果的な連携を訓練も無しに実現している事である。
そして、一度『大行進』に組み入れられると影響範囲から外に出ない。つまり大行進の『御旗』を持つ首領の移動速度に合わせ影響範囲からモンスターが出ない様に進んでいくのである。
今回の首領はミノタウロスであるが、首領の移動速度に関わらず落伍する魔物が出ない進行速度、平均時速3マイルで進む事が多い。3マイルで進み里があれば里を蹂躙し街があれば街を蹂躙する。
終着点に達すると首領の持つ『御旗』が地に刺されて、ゆっくり沈み其所に新たなダンジョンが発生する。引き連れたモンスターはダンジョンが出来て日が経つにつれて中に収まっていく。
まるでミツバチの|分蜂≪ぶんぽう≫によく似た行動といえる。
その『大行進』を単なるモンスターの寄せ集めと軽く見て|侮≪あなど≫り、『大行進』のモンスターの数を大幅に上回る兵力を用意出来た事で勝った積もりで対峙する地方領主の軍勢は少なくない。
策も無く進路上に陣を布いて立ちふさがり、呆気なく突破蹂躙され殲滅される結果が待っている。
首領・御旗の魔物への支配が完全なるが故に魔物同士の相性など気にせずに特性を活かした編成や連携が可能でその内の一つが野獣のワイルドボアとグッドカルビバッファローの混成部隊。本来この2種類は性格も違い住む環境も違う。
この二種の野獣の共通点は重量を活かした突撃力が長所。ワイルドボアは平均体重380キロ最高時速30キロ強。グッドカルビバッファロー平均体重800キロ〜1トン。最高時速30キロ弱。
この二種類の魔物が隊列を組んで突撃すると大盾では対処出来ない。
例え大盾を持ったと|雖≪いえど≫も相手は400キロや1トンの突進。
平成・令和の日本に生きた記憶のあるトワイライトに言わせれば、走っているトラックに大盾構えて立ち塞がる様なバカな真似、自殺行為なのだ。「跳ねられて|轢≪ひ≫かれて玉砕する方に30ペソ賭けるよ」と言ったぐらい自信がある。
トワイライトは他領の貴族の軍隊が『大行進』に対処しようと対峙するのを何度も傍観・観察・のぞき見している。
モンスター側が重量級突撃を先鋒に配置するやり方は『大行進』でよく遣っているのを見た。
開始直後にモンスター側の先鋒のワイルドボアとグッドカルビバッファローの突撃を目にして、貴族の軍隊は狼狽えながらも対モンスター用の手順通り、大盾を前面に配置しアタッカーが攻撃をして弓や魔法の間接攻撃で援護する方策を取る。
結果、ワイルドボアとグッドカルビバッファローの重量級突撃を|真面≪まとも≫に受けて大盾では受けきれる訳もなく轢かれ蹂躙され戦列をズタズタにされた処にモンスターの主力が到達し襲いかかり殲滅される。
日本の戦い、源平合戦で木曾義仲が北陸で平家の追討軍に使った『火牛の計』が有名だがほぼそのままである。
『重量級突撃』が第一点目。まず初っぱなの是をどうにかしないと負け確定なのである。
次にオークと中小型の獣の連携が厄介だという話し。
敵の主力のオークは大盾で攻撃を防げるのだが、オークの重くて早い攻撃は大概の大盾に取って防ぐので精一杯で、スタミナを多く消耗する。
そしてオークの股の間や体の側を通って中小型のモンスターが襲いかかる。絶え間ない攻撃で大盾のスタミナは切れて大盾で防げなく成り戦列が崩壊する。是も実に厄介である。
『オーク&中小型の連携』が第二点目。是も何も対策をしていないと苦しい戦いになる。
以上の知識が一瞬にしてトシゾウ、ポルトス、マヤ、そらちゃんに伝わった。
そしてトワイライトがレイアード領の兵士達とどう対処したかも伝わった。
トシゾウ、ポルトス、マヤは「I copy」と声を揃えて宣言する。
少し間が開きトシゾウは「なるほどねー。良い手本があるじゃないか。」と漏らす。
「戦歴を見て貰うと解ると思うが、奴等モンスターの長所を際立たせる編成や連携の取れる組み合わで編成したりと、戦術センスが高くないとこんな編成は取れないはずなんだが・・」
とトワイライトは自分の持っている疑問の事を話し出した。
トシゾウとポルトスは歯切れの悪いトワイライトに視線を送りながら「だが・・なんだ?」とポルトスが続きを要求する。
「奴等、実際に接敵すると力押ししかして来ない。二面挟撃が出来る地形でもして来ない。中央の隊を少し下げれば半包囲状態で三面挟撃出来る場面でもしてこない。とくに今回の首領がミノタウロスならほぼ力押し。」
トワイライトは経験上|大凡≪おおよそ≫の予測は付いているが、何か引っ掛かる様子。
”何も、陣形での対応や用兵を遣ってこないのは有難いのだが・・。”
「誰かさんみたいに他人の負け戦観察しに行く物好きでもなければ、大概の部隊・指揮官は敵の手口も知らず、対策の無いまま先鋒の重量級突撃を喰らって大混乱。
そして、立て直そうと頑張っている間に敵の主力に蹂躙されて負け確定。そんな良い手札持っているんだ、GOサイン出せれば、首領は何でも良いって事だろう?」とトシゾウは冷静な判断。
「逆に、指揮が執れるモンスターって滅多に居ないと思うけどな。なあトシ」と楽観的なポルトス。
「おう。最悪の場合は崖上の大きな池の堰を切って土石流を流すプランを保険として用意しておこう。其れで良いだろうトワイライト。」とトシゾウは罠を用意する事を約束した。
「解った。トシさんが対策を用意してくれていれば心配はない。」と納得するトワイライト。
ポルトスも、マヤもウンウンと頷く。
一同は、とりあえず後は現場見てからにしようと言う事に成った。
ポルトスのスキル『デン導』のお陰で作戦会議に二時間掛かる予想が二十分で終わってしまった。
自然と後は雑談となり、作戦会議が終わったのでトワイライトが御者を代わった。
トシゾウ、マヤ、ポルトスは騎馬で移動よりも馬車の荷台でお喋りしながら移動のほうが性に合っている様で楽しんでいる。
トシゾウは昨日コボルドの洞窟で綺麗な光景に感動した時に勇者の称号のレベルが上がり、スキルを手に入れた事を話した。
「『うつす』だって、そのまんまなんだけどな」と言って白紙の紙を取り出して、スキルを発動する。
次の瞬間トシゾウの右手に持ってた紙には、今朝ヴァネッサが打ち合わせの時に用意した地図の縮小版が印刷されていた。
「見ているモノや、風景、書類、記憶にあるモノを瞬時にモノに写せるんだ。」とトシゾウは”便利だと思うよ”と嬉しげに話す。
トワイライトは”トシさんコピー機になったか・・。”と笑いそうになるのを堪えながら運転している。
馬車の荷台ではワイワイ、”これは出来そうだな”とかどう使うと便利とかお喋りしている。
「そう言えば私も、スキル貰ったわ。」とマヤも思い出した。
「私らしい技よ。『イージスアロー』放った矢が自動追尾するの。で命中すると追加ダメージ+30ですって。」とマヤは嬉しそうに話す。
トシゾウはニコやかに「良かったな。マヤは弓矢に長けているから戦力アップじゃねぇか」と褒める。
「うんうん。楽しみ。早く試してみたい。」とワクワクしている。
ポルトスが悪戯っ子の表情をして「マヤ、今魔法使いじゃなかったっけー?」と突っ込む。
「あああ、そうだった・・。」とマヤは思い出したって顔から、気落ちの顔に変わる。
話しを聞いてない様で聞いているトワイライトが良い事を教える。
「魔法使いでも、弓矢を使う事は出来るよ。」
「え?!」マヤはビックリと嬉しいが混ざった顔をした。
「魔法使いになっても、弓術は残っているし弓も使える。魔法使いにはタブーが有って通常の金属鎧、金属武器が使えないんだ。装備して無くても持っているだけで魔力が散霧し魔法が弱体化するんだ。弓は金属使っていない木製の物なら問題ない。」
「へえ。魔法使いが弓使っても良いんですね。知らなかった。」
「大丈夫だ。ただ、弓使っても優遇職じゃないから弓使った時の習熟のは半分しか入らないけどね。」
「へー。使っても良い?」
「大丈夫だと思うよ。呪文でMP使い切ったら弓で攻撃するのも良いかもな。」
表情が明るくなりマヤは「やる気が出てきた。」と嬉しそうに言う。
そしてポルトスは何だった?と視線が集まる。
「なあ、トワイライト『Lock1/4』とあるんだが」と是は何?とポルトスは渋い顔で質問する。
「ん?『Lock1/4』か・・。」とトワイライトは復唱して二拍ほど開いてから
「多分な・・スキルゲットのチャンスを4回使ってそのスキルは手に入る類だと思う。」
「えー、俺だけお預けか?」と不満げなポルトス。
「うん。只な、4カウント費やす分それだけ強力・大技だったりする。大物スキル引いた可能性が高い。」
「えー。そうかー?」と自分が当たりを引いたと解ると表情が明るくなり解り易い性格のポルトスであった。
ワイワイお喋りを楽しんでいる間に、昨日立ち寄ったエルフの里『ディンバ』の近くを通り戦場予定地に到着した。
到着して丁度昼頃だったので弁当を食べる事にした。今日のお昼は弁当があるのだ。
屋敷から出発する時にメイド長他二名がロビーまで来て手作りのサンドイッチのお弁当をトシゾウ達四人に手渡して、ニコッと微笑んで
「行ってらっしゃいませ、御武運を!!」と深々と頭を下げて送り出してくれた。心が洗われる様な気持ちの良い挨拶だった。
たぶん、昨夜の御馳走のお返しのつもりではないか?と察しは付く。
心のこもったサンドイッチで、心のこもった「行ってらっしゃい」だった。コッチの世界でも暖かい心遣いをしてくれる人に会えたことがトシゾウは嬉しい。
ホッコリした心で美味しいサンドイッチを食べると更に美味しい気がする。綺麗な自然の風景で、綺麗な空気の中で食べると美味しいお弁当が余計に美味しく感じている。
トシゾウがゆっくり味わって食べているのに対してトワイライトはとっとと食べてしまい、辺りを彷徨っている。
ココは林道から開けた場所に出た所で、向かって左側が高さ10メートル程の崖。崖から10メートルほど岩場と石造りの凸凹した道、其所から30メートル程土の地面が続き丈の短い草地が20メートル有ってその先は木々の生い茂る森である。
合計60メートル程の広い幅の道が崖に沿って500メートル程延びている。500メートル先で右手に曲がっている。
その広い道の如くに縦に伸びている広場の入り口に入って直ぐの草地に馬車が一台止まっていて馬が草を食んでいる。
馬車から三人が降りてきた。其所に森の方からトワイライトが戻ってくる。
トシゾウとマヤが何か喋っている。
「さっきね言っていたスキル最初から持ってたスキルだった。レベル3達成でアンロックされた方だった。勇者称号から貰った方は『イーグルアイ』だった。」とマヤはコッチだったと言っているが、
トシゾウは「どっちでも良い。早速使わせてくれ。」とマヤ、トシゾウ、ポルトスとトワイライトは崖沿いの岩場に向かった。
歩きながらも何やら言葉の遣り取りをしている。そして崖の根元まで到達するとトワイライトが腰に提げていたロングソードをアイテムボックスに収納し、目視で自分の腰、手足を確認した。
そしてアイテムボックスから五十センチ程の短いスタッフを出して魔術を発動した。
続いてマヤも杖を振り詠唱を始め魔術を発動した。『ストーンウオール』である。
崖の壁面に食い込みながら何個もの太い石柱が地面より突き出した。横2メートル×縦2メートルの石柱が階段状にせり上がっていく。
繰り出された石柱は段差もバラバラで所々段差が大きくよじ登らなければ成らないほど不揃いだが、大旨なだらかな階段が30メートルかけて形成された。
トワイライトとマヤは5回に分けて術を発動し凸凹な坂道を形成した。
次にトシゾウが右手に錬金術の手袋を嵌めて錬金術の『造形』で形を整えていく。やり始めて二十分で崖にスロープを造ってしまった。いくら仕事の早い土木工事業者でもこうは行かない。
スロープが完成し降りていく。スロープの根元にポルトス、マヤがいて合流する。
「おう、待たせたな」とトシゾウが言う。
マヤは応じて「じゃあやるよ。」と言い目を閉じて『イーグルアイ』を発動する。同時にポルトスの右手がマヤの手を掴む。左手はトシゾウを掴む。そして『でん導』と宣言する。
マヤの視点が遙か上空で舞っている|鳶≪とんび≫に移る。かなり上空からの視点でマヤ、トシゾウ等四人の居る縦長の広場を見下ろしている。
上空から見た映像がマヤの中に入ってきた。『イーグルアイ』とは鳥類を一時的に支配し、支配した鳥類の視覚情報を術者に体験させる術である。偵察に便利である。
マヤが『イーグルアイ』で得た情報をポルトスが『デン導』でトシゾウに伝える。
トシゾウは錬金術の『造形』とスキルの『うつす』を連動させながら『造形』が発動してる。
トシゾウの左手は肘のやや手首寄り辺りをポルトスが掴んでいる。右片膝を突き右手は岩場の地面に、左手は上に挙げてポルトスに掴んで貰っている。
トシゾウの地に着けた右手がまるで3メートル×20メートルの石材を地面から引っ張り上げている様に地からせり上がっていく。高さ1メートル20センチの辺りで止まった。
横3メートル×縦20メートル×高さ1.2メートルの石材の上部には、今居る縦長の広場の地図・立体縮図が彫り刻まれている。つまり岩石材製のジオラマが出来上がった。
「おおお、いいねぇー。」と最初に声を出したのはポルトス。
「地形モデルを見ながらだと作戦も立てやすい。イメージが湧く」とトワイライトも「こんなのが有った方が良い」と好評価だ。
トシゾウは最初にイメージしていた感じより良く出来ているので満足顔。マヤに至っては『イーグルアイ』で上空から見た映像を転送しただけなので何が出来るかイメージ出来てなかったので驚き。
「こうやって見ると、大行進が来る方向から今居るここまで微妙な下りだな。あと、縦長の広場が向こうで『くの字』に曲がっているな」とトシゾウはじっくり地形に目をやる。
同じようにトワイライトも地形の模型を見ながら思案している。
トシゾウはトワイライトの思案が終わるのを待って「先に、最後の手段だけつくってしまうわ。」と言う。
模型を見て崖の上の池の位置を確認しポルトスに崖下に立って貰った。トシゾウはスロープを上がり池の端が崖に近くまで来ている所で崖下のポルトスを見た。
「ポルトス、もうチョイコッチ、チョイコッチ」と手で左にずれる様指示している。
「あい、OK!ソコで居って」と声を掛けてからトシゾウは片膝を突き右手を地に着けて錬金術の『造形』を発動した。
ゴツゴツしていた岩場の道が少し平坦になって歩きやすくなった。そしてトシゾウの足下に直径10センチ位の正方形で高さ15センチの石の杭が地面から出現した。
この石杭を強い力で叩くと岩石の堤が破砕崩壊しポルトスの居る位置前後15メートルを大量の水と土石流が襲う手筈だ。
トワイライトは木製のコーン(三角で赤色・円錐の駐車禁止の所に置いてあるやつ)を3つアイテムボックスから出し石杭を囲む様に置いた。
トシゾウもトワイライトも思いは同じで”オーク肉がグチャグチャに成るから、この策は出来れば使いたくないなぁ。”と冷たい視線で崖の池の堤に成っている部分を見ている。
トシゾウはスロープの位置まで戻ってスロープで崖から降りポルトスの立っている位置の7メートル手前で立ち止まり、トワイライトとマヤに『ストーンウオール』で防波堤を作ってもらった。
崖から反対の森まで長さ約70メートル高さ3メートル壁の厚さ2メートルの長い防波堤で、トシゾウが錬金術で数カ所出入り口を造った。
最悪の状況に陥った場合、この防波堤でモンスターを止めて凌ぎ、崖上の池の堤を切って横から土石流と鉄砲水をぶち当てモンスター群を粉砕する。その仕掛け・準備が完了した。
石材製ジオラマ縮図の前に移動して、地形を見ながら罠を2カ所トーチカを3カ所設置する事になり、設置し終えたのが午後3時半頃になった。
トシゾウの錬金術の『造形』は攻撃力0の魔法だが戦術の補助としてはチート過ぎる位便利である。使い勝手が良いからトシゾウの好みが反映される。
どうやらトシゾウは待ち伏せの十字砲火が好みらしい。
「ソコ通る事がほぼ間違いないんだろ、弓矢でも鉄砲でも十字砲火は効くんだよ。」とどうしても十字砲火をしたいらしい。
此所での準備は是だけあれば良いだろう。足らずは明日チョイチョイと足せばいい。
トシゾウ達四人は馬車に乗り今夜シェイクスオード達と合流する予定のエルフの里『ミコライウ』に向けて出発した。
三十分もするとエルフの里が見えてきた。『ミコライウ』に到着すると気の早い商人職の人達で賑わいだしていた。
トワイライトは『ミコライウ』の里の駐車場に馬車を止めて馬車から降りた。
トワイライトは辺りを見渡してた。団体で馬車は入っていない。ポツポツ疏らに止まっている。
「シェイク達は未だ来てなさそうだ。」と呟く。
「バザーを覗きに行こう、ポーションとか装備で良いの有るかもしれない。」とトワイライトに誘われて入り口広場に入る。
広場には既に10件ほどのバザーが立ちな並んでいる。開店準備をしている人も5、6人居た。
「明日何かあったら、朝に買い物する時間無いから今日成るべく揃えとこうね。」と言って解散した。
それぞれ「うい」「はい」「解った」と返事を聞いたが姿はもう其所にはなかった。
この近所に薬草の群生地が何カ所もあるのでポーション制作職人はまあまあ多い。
普段の流通ルートだと仲買業者や小売の取り分が有るので定価の35〜45%が制作者の取り分だが、制作者がバザーで売れた場合、定価の8掛け(80%)の値段でも税金の5%を差し引いても70%以上の実入りはある。普段の流通より儲けは大きいのである。
今回の様なイベントを狙って在庫を一掃しまあまあな生活水準を維持している生産系の商人職は多い。
そんな生産系商人職の事情を知らないトシゾウ、マヤ、ポルトスは街で売っている商品よりも安いので多めに買い込んでいく。ポーション、毒消し、MP回復薬などなどを買う。良い客である。
買った時に売り手からチケットの提示を求められた。トシゾウは今朝冒険者ギルドの受付嬢から貰ったチケットを出す。
売り手はそのチケットに自分の(支援者用)チケットを重ね売り手から「魔力を少し流して」と言われてチケットに魔力を少し流した。3つ数える程に相手のチケとの支援欄に『?』が付いた。是でこの商人は支援達成で支援者用クエストの報酬が貰える。
トシゾウは”よく出来とる”と感心している。
雑貨は買ったので、鍛冶屋を探したが鍛冶屋はまだ来てない様だ。
鍛冶屋を探していると思いがけずリトルジョンに会った。
「あ、いたやっぱり来てたんすねートシゾウさん。」と元気な声。
「おお。リトルジョンじゃねぇか。強制労働って聞いてたが此所でか?」
「はい、昨日今日と此所の木工所で大工見習いやってます。今日の仕事は終わってバザーが始まっているって聞いて覗きに来たんです。」とリトルジョンは相変わらず感じの良い若者。
「大工見習いって仲間も全員か?」とトシゾウが話していると、マヤもポルトスもリトルジョンを見付けて近寄ってきた。二人とも話してるリトルジョンに小さく手を振った。
「はい、130人掛かりで『プレハブ工法』とやらの部品一杯造ってました。」と話しながらリトルジョンはマヤとポルトスにかるく会釈で挨拶を返した。
「ところで、トシゾウさん今回の『大行進』の紙見ましたけど。指揮官って本当ですか?」
「あ、ああ。そうゆう事に成った様だ。」
リトルジョンはその返事を聞き”おおー。”って少し驚きが入った顔で
「やっぱり本当だったんですね。隊の皆が『本当だったら参加しよう』って言ってたので本当だって知らせてきます。」と嬉しそうな顔で戻っていった。
リトルジョンが戻っていき、4人は引き続きお買い得品を漁りだした。
そして10分後位に鍛冶屋のバザーも開いたのでポルトスとトシゾウは大盾とロッドを購入した。
大盾には気絶の属性が設定されている。この気絶の属性というのは盾受けで相手の攻撃を受けた時及び良いタイミングで防御し攻撃を弾いた時に攻撃者に状態異常値が蓄積される。
その状態異常値が一定量を超えると状態異常が実態化する。つまりこの大盾だと状態異常は気絶で数秒から十数秒間攻撃者は気絶し、その間頭の上にピヨピヨが飛んでいる。
トシゾウは、大盾以外にガントレット、グリーブ、ブレストプレート他金属鎧を購入した。
トワイライトの言う様に現地バザーに来ている職人の出している品は質が良い物ばかりな事にトシゾウは感心し嬉しくなった。
イベント参加者支援用にバザーに出ている品々は手間を惜しまず丁寧に作り込んであり使い勝手の良い様に、又着け心地の良い様に工夫を凝らしていて王都でもなかなかお目にかかれる代物ではない。其れがまた安い。良い武器や防具が手に入ると嬉しい。
支援と言っているが、職人達の意気込みが、本気度が高い。物によっては採算度外視で見た目は二の次性能重視の超良品がチラホラ見受けられる。
其れを目当てにベテランの冒険者がボツボツと集まり出して賑やかさが増している。
バザーや出店を見て歩いていると「スノーさん」と声がした。トワイライトが振り返ると小柄で細身の二十歳代の女性が友達に向ける笑顔でコッチを見ている。
「あ、まくら。来てたのか?」とトワイライトは笑顔になる。仲の良い知り合いの様だ。
「うん。さっき着いた。これから支援バザー開くところ・・・でそちらの方は?」とトシゾウ達にも笑顔で接する感じの良い女性。
まず、トシゾウから「土方歳三です」
「ポルトスです」
「マヤです」とそれぞれ自己紹介する。そこで「ワンワン」とそらちゃんが尻尾振りながら可愛く吠える。
「自分も挨拶するってさ。そらちゃんです。」と小型犬のそらちゃんを紹介するトワイライト。
「わたし、Temperと言います。現役の商人。よろしくね」と小柄な女性は自己紹介する。
トシゾウとマヤ、ポルトスは”この人また別の名前、別の顔を持ってる・・。スパイかよ。やれやれ”と一寸呆れた感はあるが、自分達に実害は無いので余り気にしていない。
その後にトワイライトは「通称:まくら。もう10年来のお仲間。」
「スノーさん明日の収穫祭出るの?」
「うん。大盾で出る予定。」
「なら、私支援だから何か買って。」
「何がある?」
「軟膏、ポーション、毒消し、Mpポーション・・・」まくらは急いで来たから余り珍しいのは持ってきてない様だ。
「Mpポーションと、軟膏10個貰う」
またチケットを相手のチケットと重ね魔力を少量流す。支援者のチケットにチェックが入った。「まいどありー。是で支援フラグ立ったから安心。明日クエがんばってねー。」と礼を言いつつ。手を振る。愛想が良い。こういったイベントでは支援者も集まり友人と会う機会が増えて、会えると楽しい。それを楽しみにしている者も多くいる。
「ああ。頑張るよ。イベント終わって投資の受付終わるまで居るだろう?」
「うん。この辺りの名品肉料理が買える様になると何かと便利だからね。」
「じゃあ、また明日。」と言ってトワイライトは手を振り別れた。
トワイライトはフッと”こんな緊張感の無い会話しているが、まずは勝たないとな。”と兜の緒を締めた。
気が付けば日も既に落ち、夜の闇が空を覆い星や月が夜空を彩り始めている。
入り口広場は普段は光の魔石を使った街灯は2、3台だけしか使われていないのだが、今夜はイベントの前夜とあって人出が予想されており20程有る街灯が全部が光っている。屋台やバザーにもランタンが有るのでそこそこ光源はあり、日本の神社境内の夜店が有る時の明るさに近い。
トシゾウはその光景を見て”確かにお祭っぽく成ってきたなぁ。”と楽しげ
雰囲気を楽しみつつ4人は出店の屋台でポトフ、サンドイッチ、ビックフランク、肉の串焼き等を買い腹を満たした。
特にポトフが美味しかった。コンソメ風の味付けで人参、タマネギ、ジャガイモ、ウインナーが入っていて、日が落ちてから気温が下がり肌寒い中、暖かい汁物は本当に美味しい。
空腹も満たされて装備、雑貨の買い忘れが無いか確認して、朝に食にべるメシも買って馬車に向かった。
駐車場で一応シェイクスオードの率いる馬車の一団が来てないか見渡したが、塊まって駐車している馬車の集団ががないので、未だ来てない様だ。
馬車に戻ると寝床の準備だ。馬車の荷台に綿と麦わらが入った敷き布団を敷きその上に寝袋その上に毛布で寝床が完成。
そらちゃんは助手席の座布団をマヤの寝床の横に持ってきてもらい、マヤの横で真っ先に寝ている。肉の串焼きを食って満腹、御機嫌なのだろう。
そのそらちゃんにトワイライトは「犬は朝が早いと聞く。夜明け前目が覚めたら俺達も起こしてくれ」と頭を撫でながら語り掛ける。
パピヨンに似た小型犬のそらちゃんは撫でられるのを気持ちよさそうに目を閉じた。
直にポルトス、マヤ、トシゾウの順で眠りに落ち最後に残ったのがトワイライト。
微睡みながら入り口広場の賑やかさを遠くで聞いていた。
朝、日の出前で未だ暗い内にトワイライトの枕元にトトトトと音がする。黒い影がトワイライトを覗き込んでから両前足を前に出し、お尻を突き上げて伸びと大きな欠伸をする。
普通の姿勢に戻り一度大きく息を大きく吸って吐き頭の上に『いざ』と文字が浮かび、小型犬の形をした影は胸の上に乗り横を向いて寝ているトワイライトの頬を両前足で『ホリホリ』しだした。
高速回転ココ掘れワンワン。頭の上に有った『いざ』は『おりゃー』に変わっている。
「痛てでっててー。ああーー。やめてー」トワイライトは何が起こったか解らない。
ただ、ほっぺたが凄く痛い。
小型犬の影は息遣いが荒くなり「ハッハッ」言いながら高速ココ掘れワンワンを止めない
「ゴメン、ゴメン、参ったするからやめてー」トワイライトは体の、胸の上にそらちゃんが乗っているのが判った。そんな事よりほっぺたが大惨事だ。
トワイライトの痛がる声で3人とも起こされた。
疲れてそらちゃんの手が止まった。
トシゾウ、ポルトス、マヤも”何事か?”とトワイライトを見ている。
トワイライトもほっぺたの大惨事が終わって我に返る。最悪な目覚めで朝からどっと疲れた。
「目が覚めた・・」と半分寝ぼけているポルトス。
「何か、変な夢見てたんだけど・・何だったかな?」とトシゾウは夢が思い出せない。
マヤはボーッとしている。
丁度朝日が昇る前の東の空が白んできている状態。
トシゾウが思い出して「そう云や、あんた寝る前そらちゃんに朝起こしてくれって言ってたよな。そらちゃん朝からご苦労さん。」と言ってそらちゃんの頭を優しく撫でた。
そらちゃんは機嫌良さそうな表情で軽く「ワン」と答えた。
右のほっぺたが引っ掻いた跡で真っ赤に成っているトワイライトは頭を掻きながら
「ああ、そらちゃん有り難うな。目覚め最悪だけど。」と起き出してそらちゃんの頭を優しく撫でてから、敷き布団と寝袋を畳んだ。
トシゾウ、ポルトス、マヤも同じように寝床を片付けて、昨夜余分に買って置いたサンドイッチとベーグル2個を食べる。飲み物はフレッシュジュース。
4人は食べ終わると歯を磨いて、駐車場の公衆便所で用を足し動ける状態になって丁度日の出を迎えた。AM6:30頃である。
駐車場を見渡すと昨日の夕方より馬車は大分増えている。しかし満車では無く所々空いている。そんな中を通ってシェイクスオード一行を捜したがそれらしい馬車の集団は見あたらない。
”直接現地に行ったのかな?”とトシゾウは思いつつ、駐車場から入り口広場に4人は向かった。
入り口広場では、熱心な商人が既にバザーを始めている。早朝でも広場はもう賑わっている。
人通りの多い中、広場の真ん中で『緊急事態クエスト・オーク肉収穫祭』の受付が既に設置されている。
トシゾウ等4人は、昨日ギルドの受付嬢から貰ったチケット、バザーで雑貨等を買った時に承認に使ったチケットを出して参加受付登録を済ませた。
トシゾウ等4人は昼の弁当をそれぞれ買って馬車に乗り込んだ。トワイライトが御者席に座り馬車は出発した。会戦予定地にむけて。
30分ほど馬車に揺られて会場が見えてきた。
昨日訪れて罠や防御施設、スロープを造った広場である。
森の中の道を抜けて広場に入ると馬車が数十台前方で止まっている。
トシゾウもトワイライトも”多分シェイクスオードだろう。ようやく居った。”とやれやれ感。
そして多くの兵士が馬車から降りて本営を開設すべくテントの部材を馬車から運び出している。そして防御施設を見て回っているのが数名。
防御施設を見て回っていた数名がトシゾウ達の方に近づいて来る。見知った顔であった。やはりシェイクスオードである。
「昨日の内に結構作り込んだなぁ。」と笑顔で話しかける。その周りには護衛数人と見知らぬ顔が一名いる。
トシゾウはその一名が近衛の者と服装からして違うので”外部の者か?”と思ったが気にせずに続けて話す。
「結局、シェラ野営場に近い作りに成ってしまっている。」
「その様だな。個性が出ているって感じか?」とシェイクスオードは雑談を交えてから、服装の違う士官を指しながら紹介する。
「こちらはゴールデン・バーボンの隊長、ヘンリー隊長だ。」
「ヘンリーです。お会い出来て光栄です。よろしく。」と握手する。
トシゾウのめが横棒になり、記憶を探っている表情の後に「確かー、リトルジョンの居る部隊が?」と問う。
「そうです、覚えていて頂けましたか。」と明るい表情のヘンリー
トシゾウも握手しながら「土方歳三です。あれだけの兵を猛者に鍛え上げるのは大変だったでしょう。」
「其れほどでもないですよ」と謙遜する。次にポルトスに向かい右手を出す。
「ポルトスです。」と普通に握手する。
「マヤです」続いて握手。
「トワイライトです。」普通に握手。
「この声は聞き覚えが有る様な・・」
「多分、他人の空似でしょう。」とトワイライトはニッコリ微笑む。まあこう言う返答をする人は大概怪しいのだが・・。怪しい人の使う提携文句です。
一通り挨拶と握手が終わったところで、シェイクスオードが雇った事を告げる。
「今日から当分の間来て貰う事になった。ヘンリー大尉だ。関わる事が多くなりそうなのでよろしく頼みます。」
トワイライト、トシゾウ、ポルトス、マヤは「よろしく」と口々に挨拶をする。
挨拶の終わった頃にヘンリー大尉の後方から5人の人が近づいてきた。
「隊長、ここに居らしてたんですか・・。あ、是は方々。」と3、4日前にゴールデン・バーボン傭兵中隊の隊員のフランダース他4名で隊長を捜しに出た者達である。
隊長を見付けて一緒に帰ってきたのだ。
「良い防御陣地ですなぁ。かなり作り込んでいて一日二日で造ったとは思えない。いったい何人働かせたんですか?」防御施設の出来映えの良さへの驚きと、お世辞を混ぜながら喋り掛けてきた。
他愛もない言葉の遣り取りを3回ほどしたところに伝令が走り込んできた。
「偵察隊から連絡が入りました。」と伝令が告げる。
「分かった。」と言ってシェイクスオードは近くに馬車から降ろして組んだばかりの机に地図を出して偵察隊からの連絡を受けた。
「今朝、日の出の1時間前から『大行進』は動き出しました。事前に予想されていた浅瀬を通り道に沿って南に進み、その後南東へ道沿いに進路を取りました。」と地図を指さし事の推移を説明しだした。
「で、今『大行進』は此所より一本東の道に渡り南下中です。」
トワイライトとシェイクスオードは顔を見合わせて一拍遅れて「え?えええ−?」と驚いた。
「な、なんでだー?」とトワイライトとシェイクスオードが地図を確認する。少し遅れてトシゾウも横から覗く。
時刻AM8:15頃の事である。
後編に続く
次回のアップロード少し遅れます。2話の改行等を改善します。