【006】初めてのクエスト達成報告
ヴァネッサ・ミレイ:「こんにちは。私たち今回デビューする・・」
ヴァネッサ:「ヴァネッサです」
ミレイ:「ミレイです」
ヴァネッサ・ミレイ:「私達二人で『エルブン・マント』ですよろしくお願いしまーす。」
日が暮れて『宵の内』(二十時過ぎ)にもなれば既に夜の闇は深く星は輝きを取り戻す。今宵は月が登るのは遅く宵の内は闇夜である。
其れほど高くない外壁に囲まれた関所街セイロン。夜の闇の中に上方向の光だけが外壁に遮られずに漏れて上空の雲を微かに照らしている。
街の門限(二十一時)手前で何とか馬車はセイロンに辿り着いた。
街の中心部にある屋敷に向かう途中、冒険者ギルドの前を通る。ギルドは閉まっていた。
御者のトワイライトは”やっぱり、もう閉まってるなぁ。報告は明日だな。”と諦めてはいたが、一応確認した。
シェイクスオードの屋敷の敷地内に入って馬車は止まり、トワイライトが「グッモーニン エブリバデエィ、着いたぜ」とわざと大きめなダミ声を出し、馬車の荷台で爆睡している皆を起こした。目覚めは悪い。
素直な感想がこぼれている「最悪や・・。」
トシゾウ、ポルトス、マヤの三人は馬車のゴトゴトと単調な振動と音で寝入ってしまってたのボーッとした顔で欠伸をしながらボツボツと馬車から降りて屋敷の正面玄関から中に入った。
入り口から入ってロビー正面の階段を上がりシェイクスオードの執務室を覗いた。
「ただいまー。」と控えめな声でトワイライトが少しだけ戸を開けて中の様子を覗きながらただいまと言った。
|偶≪たま≫に激論を交わしていたり、仕事量の多さに切羽詰まって雰囲気悪かったり、日によっては|和気藹々≪わきあいあい≫と雑談してたりで中の状況が予想着きにくいので”今日はどんなかなー?”と思いながらトワイライトは覗いた。
今日は仕事が終わりほっとしているが疲れてもいる顔の事務員達とお喋りをしていた。
約十二人ほどの近衛隊の事務員たちは「お帰りなさーい。」とか「お疲れ様−。」と口々に返事を返えして来た。
入り口のドアがしっかり開き、トシゾウ、ポルトス、マヤが顔を見せて声をそろえて「ただいまー」と返事する。
奥の席からシェイクスオードが「どうだった?初めてのクエストは。」
トシゾウは「クエストは達成したんだがなぁ・・」と『しょっぱい』顔する。
「問題でもあったのか?」とシェイクスオードは聞く姿勢。
「まあな。問題はあった。・・・それより腹減った。メシにしたい。メシ食ったか?」とトワイライトは空腹になっているので、先に腹ごしらえをしたい。
「此方も未だ食ってない。さっき仕事が終わったところだ。それで、これからメシにしようかと考えていたところだ。」と少しニコリとしながらシェイクスオードはお腹を右手でポンポンと軽く叩いた。
トシゾウとトワイライトは顔を見合わせてトワイライトが
「オークの肉が入った。厨房に持って行って頼んでくる。」と得意げな顔。
「ほー。御馳走だな!それも滅多に食えない魅惑のオーク肉か。」と驚いた顔のシェイクスオード。
「そうだ、腕の良い猟師が居るんでねぇ。クエスト攻略の都合で仕留めてもらった。」とトワイライトは嬉しそうにライフルを撃つ仕草をした。
「あれは朝飯前と言いたいところだが、オークが巨体に似合わずすばしっこいのには参った。」とトシゾウは振り返る。
「取りあえず、厨房に頼んでくる。近衛の人は何人居てる?」とトワイライトは一旦間を置き、「肉持っている俺が厨房行かないと始まらんからな、頼んでくるよ」と腹が減っていて早く頼みに行きたい感じだ。
「今居るのは十二人プラス俺で十三かな?・・晩ご飯を頼みに行ってくれるの?優しいなあ」とシェイクスオードもニコニコする。
「合計十七人前だな、十二食は此所で良いよね。事務の方々自分の机の上空けてね。シェイク、俺達横の部屋で良いか?」とトワイライトは右手を握って親指を立てて背後の横の部屋を指して、”上司が一緒だと息が詰まるだろう。上司は居無い方が気は楽だ”と思う。
「あ、ああ。」
「じゃあ、行ってくる。」とトワイライトは言い残してドアから出ていった。
近衛の事務員達は同僚とお喋りしながらそれぞれ自分の机の上をかたづけだした。
耳に届く会話は「オーク肉って美味しい?俺、初めてだよ」とか「え、私たちにも当たるの?まさか。」半信半疑だったり。
シェイクスオードはトシゾウ達三人を連れて横の部屋に移ろうと隣の部屋に通じるドアを開けた。
ドアの先は真っ暗。一歩中に入り右手はドアノブ、左手は入り口の横の壁に手をやる。壁にはタバコの箱位の物が取り付けてあり、シェイクスオードは左手でその箱に触れて魔力を流した。
暗い部屋の中シェイクスオードが左手で触った箱から薄い光が天井に向かって走り照明器具の所まで走り照明が付いた。
光が通った道筋には紐の様な物が貼り付けられており、どうやら魔力を流すとその紐が伝導し光の魔石を使った照明器具に魔力を供給する様に仕掛けてあるみたいだ。
昨日の夜にゴールデン・バーボンの副長達と打ち合わせをした部屋とは別の部屋で。応接間ではなく会議室仕様になっている。
それぞれ適当に席に着く。マヤの横にはそらちゃんが机の上に上げられて座っている。
五分ほど経つと、トワイライトが部屋に帰ってきた。
トワイライトは席に着かず、給湯室に直行紅茶を煎れだした。
給湯室からトワイライトの声がする。
「今日は、義足・義手調達してから冒険者ギルドに行き採取クエを二件請けて、防具揃えて、出発したんだ・・・」
「うん。」普通に頷くシェイクスオード。
続いて薬草採取からオークを狩猟するまでを話すトワイライト。
「こうこう、かくかく、しかじか・・」
「こうこう、かくかく、しかじか・・かー。そら大変やったなぁ。」とシェイクスオードも事の推移を理解した。某新喜劇の様な受け答えだが。
「で、今の経験値は1?」とシェイクスオードが聞く。
トシゾウは目の前の空を指先で何か操作している。ステータス画面を見ながらだろう
「いや、6点増えて経験値は7になっている。」
ポルトスも「同じく。」、マヤもポルトスの発現に合わせて頷いた。
シェイクスオードは頭を掻きながら渋い顔で「なるほどな、オーク三匹で6点一匹2点か。しょっぱいな(美味しくないの意)。強敵なのに・・。」
トワイライトは平常の表情で「オークのぶちかまし食らったらまず即死するだろうから、そんな危険を犯して2点はないな。」
「攻撃力、幾つだっけ?」シェイクスオードは未だに渋い顔。
トシゾウは「2855」
ポルトスは「3218」
マヤは「302」と可愛く聞こえる。
「はるほど、レベル35から40前後相当だな。理解した。トワイライトの言う通りだな」と納得の表情を見せたシェイクスオード。
その時、戸にノックの音がした『コンコン』で続いてメイドの声がした「ディナーをお持ち致しました」
戸が開き、「失礼します」とメイド長のお姉さんが中に入り戸を開けたままに持っている。
料理を運ぶワゴン四台が次々に入ってくる。料理が載せられたそれぞれのワゴンを押すメイドが一名着いて、順次料理をお出しする。
トシゾウは腹減ったのかほっとした時の顔。
ポルトスとシェイクスオードは「おお、来た来た、待ってました。」
大きいテーブルに適当に座っている所に次々と皿が置かれ、三分ほどで全員の分が揃った。
メイド長らしきお姉さんがトワイライトの耳元に小声で「トワイライト様、良いのですか?私たちまで良いお肉を・・・」
「良いんだよ、何時も世話になっているんだ。有る時ぐらい良い物を食いなって。」
トワイライトの横に座っているシェイクスオードもニコとしながらメイド長に向かって頷いてみせた。
メイド長も主人から許可が出たので少し表情が緩んで「ではお言葉に甘えさせて頂きます。」と礼を言って、先に退出したワゴンを押しているメイド達に続いた。
入り口でメイド長が最後に室内に向かって深々と一礼をし「失礼しました。」と言ってから戸を閉めた。
三拍ほどして戸の向こうから「きゃー。やった。あ・・。シー」と歓声が聞こえて直ぐ静かに成った。
メイドや執事達にもオークの肉が食べられる様になって喜びの声だ。
マヤとトシゾウは早々と手を合わせて「いただきます」と宣言。
ポルトスは十字を切って「天にまします・・・」とキリスト教徒らしく祈りを捧げ始めた。
シェイクスオードは普通にユックリと手を合わせて「いただきます」
トワイライトも「食物はみな人の命の為に天地の神の・・・・有難くいただく心を忘れなよ」と此方も|偶≪たま≫には祈ってから食べている様だ。
部屋の中は肉とニンニクの焼けた食欲をそそる臭いが広がっている。
まずはポルトスがオークのヒレ肉のステーキにナイフを入れ大きめの一口サイズをフォークで口に運ぶ。
口に入るまでは自然と目を閉じ臭いと一口目の味に集中している。
口に入れて噛む事二回、急に目が一杯に見開かれ、無言のまま噛むスピードが上がり、食べる速度も上がる。
ポルトスの前方からマヤの「んーーー。」と目を一杯に見開き、口の中で御馳走をかみ締めながら、フォークとナイフを持った両手を小刻みに上下に振り、美味しさを体で表現している。
トシゾウはナイフで切り分けてからフォークに持ち替えこれから口に運ぶところだ。
一口、口に入れるとトシゾウの脳内では周囲は花畑になり、上空には子供に羽の映えた天使が小さいラッパを吹いて飛んでいる。そして無言・無意識に椅子の背もたれにもたれた。
「至高の食事により経験値+250点を得ました。」と脳内アナウンスがあった。
トシゾウは空腹もあって思考停止になりながら無の境地で旨さを楽しんだ。
その後、トシゾウ、マヤ、ポルトスは無言。シェイクスオードはトワイライトからコボルドの洞窟の話しを聞きながら食べた。そらちゃんは小皿に、トワイライトとシェイクスオード、マヤからステーキを一切れずつもらいユックリと美味そうに食べている。(ちなみに、普通の犬に人間の食べるステーキをあげてはいけません。ニンニクやスパイスなどは犬にとって有害で、内臓にダメージが大きい為)
至福の時間が過ぎ食べ終わって食後のゆっくりした時間が暫し過ぎた頃合いを見計らって、さっきのメイド達が、ワゴンと共に入ってきて食器を片付け、テーブルを拭いて、「失礼しました」と下がっていった。
トワイライトとシェイクスオードは食事中もずっと野生のコボルドの話しをしていた。
内容は鉱石・金属のインゴットと食料等の物物交換交易を今日行った事。ニャンニャンと言う冒険者証を持ったコボルドが居て筆談が出来る事。総じて此所のコボルドも食いしん坊。
地政学的リスクとして、オークのテリトリーと接している事により食料になる獣の多くはオークに狩られて現状は食糧不足に直面している事。
一週間後に交易の話し合いに代表団が訪れるので話し合いに応じるよう頼んだ。以上である。
結果として、即席のコボルド懐柔策が上手く行ったのである。
シェイクスオードにとって凄く嬉しい話しである。オガミ領の歴史は百年弱で鉱山が無い。、オガミ領になる前は古から魔族領だった土地を百年ほど前に魔族より奪い『グレイ州』と名付け、シェイクスオードの御先祖様・初代藩主様が辺境伯爵として封じられた。
それ以来開拓も始まって百年足らずだが農業はかなり成功した方だが、鉱山に関しては元々魔族領だった事もあり領内の鉱山は0で、大失敗状態。
坑夫や鉱山の管理者の募集を募ったが辺境地で魔族領に隣接し対魔族の最前線の危険な地域。
更に鉱山等の実績のない場所故に何度も募集したが、人が集まらず募集は失敗に終わる。
結果として割高な輸入品に頼り、国内の他の地域で戦争や普請が有れば煽りで価格が一気に暴騰し最悪の場合入ってこなくなる。
もし仮に自領で軍備調達を一度に行えば一気に金属の暴騰を招くので、平時から少量ずつコツコツと割高な鉄材・鋼や金属類を買い集め備蓄してから使うのが現状である。
今現在は農地の開拓や整備が順調に進んでいて、農業事業に注力しており既に王国内随一の穀倉地帯に発展している。
オガミ領のあるグレイ州のフィールドレベルは18から22で王国内トップレベルの高さ、元々魔族領で強い魔族・魔物が生息していた事にも由来する。そして、これは今でも強い魔物・魔獣・獣が出没する事を意味する。
反面穀物の収穫量・質も高いのである。フィールドレベルが20ならば大猪や植物系の魔物もレベル20前後が生息しており、其れ等を支える基盤、獲物や森の恵み牧草の質・川の恵みも相応に高くなっている。つまりフィールドレベルとはその土地の恵み豊かさとも言い換えられる。
王都付近にオガミ辺境伯爵は飛び地を持っているのだが、そこのフィールドレベルが4か5で辺境地であるここグレイ州セイロン周辺のフィールドレベルの平均20と比べれば、同じ広さの畑で収穫量で1.7倍、質も1.5倍の良品が収穫出来る。
そのコストの悪い王都付近の飛び地、平地の面積で領内20%、人口の25%が住んでいて比較的少ない収穫量で頑張っている。
オガミ家はフィールドレベルの違う地域に飛び地を持っている領主でそのお陰で、シェイクスオードはフィールドレベルが穀物の収穫に大きく作用している事をトワイライトの協力で確認し、四年前から王都付近のコスパの悪い飛び地からコスパの良い辺境地・グレイ州の新領への移民計画を立てていた。
住民にとっても領主にとっても収穫量の良い方で作るほうが生活も楽になり、税収も上がるので後々の事を考えると絶対良い。だが住み慣れた土地を捨てる事には強い抵抗がある。
なかなか進まない移住計画だが、計画を立てて、シュミレーションを行い計画上の不具合を洗い出し計画を練って準備をしてきた。
シュミレーションとして、エルフとハーフリングの難民を受け入れグレイ州の方の領内に住む場所と、義務を与え入植させた。それぞれ別々の時期に行い、計画の不具合や改善点を洗い出し計画の改良を重ねてきた。王都及びオルトラム教を信仰している貴族の領内では亜人は迫害され、住む所を追われている部族が後を絶たず、オガミ領とレイアード領が受け入れをしている現状である。
王都に近い飛び地の領地からの移住に関して実施時期と大義名分で悩んでいた所に国賊の汚名を着せられて追討軍に追われたのがシェラ野営場での戦いである。
それも悪名が高く略奪大好きなラスパ大隊が登場。コレ幸いと住民大移動を併せた撤退戦をへて今日に至る。ただ、本来分割して行う予定だったのが一斉の大移動で許容量を大幅に超えてしまったのが大誤算。
シェイクスオードと近衛隊の事務方の奮闘と実働の各中隊の努力で何とか捌けているが『あっぷあっぷ』の状態。
話しは大分脱線したが、シェイクスオードの属するオガミ領には食料は豊富にあり、反対に鉱山・鉱石・金属は喉から手が出るほど欲しい物資なのである。
行き当たりばったりでよくお膳立てしてくれたとシェイクスオードは、トワイライトに感謝している。トワイライトも欲しがっている事を充分知っていたから気合いを入れて頑張った。トワイライトもオガミ領へ前から大分肩入れをしている。
「と言う事で、一週間後近衛の近しい部下を派遣してくれ。」
「ああ、サンキューな。嬉しいよ。」
「あ、後ね野生のコボルドの地位を魔物から、獣人族の内の一部族として領内に公布する必要と、法整備が必要。モンスターとして襲うと犯罪者になる事の告知。有事・災害の際の相互援助。レイアード領ではソコまでやっている。」
「お、おおそうだな。それ、また日を置いて聞くわ、今は心の余裕が無い」
「うん。それ迄に関連資料を取り寄せておく。」と頷きながらトワイライトは周りを見た。
トシゾウ、ポルトス、マヤはトワイライトの話しが終わるのを待っていた。
五秒ほど『シーン』と嫌な間が流れた。
「済まない、待たせた。トシさん達の今後の話しだよな」愛想笑しながらトワイライトは話しを切り出した。
トシゾウ、ポルトスは真剣な表情をして姿勢を正した。
「今日のゴブリン・ホブゴブリンとの戦いで思った事だが、タンクが欲しい。」
「タンク?」ポルトスとトシゾウは声を揃えて初めて聞く単語を口にした。
「そうだ。タンクだ。重装備で防御力を高め敵の攻撃を一手に引き受ける役割だ。この世界では何処のパーティでも一人は居る重要職だ。」
トシゾウも、ポルトスも「へーー。そうなのか?」と初めて知った。
トワイライトは続ける「重装備で防御力を高めて大盾を持ち敵の攻撃を一身に受けきる、受けて凌ぐ。挑発等を使って常に敵に狙われ続け他の仲間に対して攻撃させない。この二つが仕事の職業。」
トシゾウとポルトスは目が横棒一文字になって呆れた感じ。
「つまり・・何だ。タコ殴りに殴られるのが仕事って・・。マゾくないか?」とトシゾウは疑問をそのまま口にした。
横でポルトスもウンウンと頷いている。やはり一流の武人達には殴られてナンボの仕事というのは抵抗感が有る様だ。
トワイライトは”やっぱり第一印象は悪いよな。この役職”と思いながらも「第一印象とは違って実はタンク職は戦闘をコントロールする花形でもあるんだよ」と愛想笑いのまま。
「今日のマヤに襲いかかっろうとしたゴブリン、ポルトスに一撃を入れた奇襲、タンク職が上手くやればその両方とも防げるんだ。奇襲を掛けようとしていても上手いタンクだと敵のターゲット(攻撃目標)を仲間から自分に奪って自分を攻撃させる。自分が隙を見なければ難なく防げる。例え食らっても防御力が高くかすり傷。奇襲を受けるはずだった仲間は奇襲を受けず無事で攻撃に専念出来る。」
説明を聞いている間ポルトスとマヤはトシゾウに一瞬遅れて全く同じ仕草をとっている。
トシゾウは椅子の肘置きに肘を突いて左側に寄り掛かるかんじで聞いていた。ポルトスもマヤも同じ姿勢になり、聞いていた。
訳有って、マヤとポルトスの足りない所はトシゾウのソレを以て補っている。
トシゾウは無意識に右肘を突く姿勢に変えて、右手の平で口から顎を持つ仕草をしながら
”仲間への奇襲を防ぐなら一考の余地があるな”と率直な感想。
トシゾウが姿勢を変えてから半拍おくれてポルトスもマヤも同じ姿勢に変わった。マヤもポルトスもトシゾウの真似をしている訳ではない。仲が良いのか縁が深いくてリンクしているのか興味深い動きである。
トワイライトは其れに気付き少し面白く思いながら話を続ける。
「一般的に多いのがタンク職が敵を引きつけていれば、魔法使いが敵の攻撃で魔法の邪魔を受ける事無く魔法詠唱に集中出来る。また大剣を振るう者も大技を出す事に集中出来る。」
ちゃんと聞いているのか怪しそうだったポルトスが反応する。「其れは良いな。俺の大剣振る時に邪魔が入らないのは助かる。」
|端≪はな≫っからタンク職から自分を除外しているポルトスをややマヤは白い目でみる。
トワイライトは”正直なヤツだ”と口元を綻ばせている。
トシゾウは微妙に興味がある顔だ。トワイライトは話しを続ける
「それでタンク職のやり方次第なのだが、罠を張った場所や伏兵の居る前まで敵を誘導する事も可能だ。フェイト(敵視)を稼いでタンクが常に敵のターゲットを保持していれば敵は攻撃してくる。タンクが引けば攻撃の為に敵は前に出る。ソレを繰り返して、引きながら敵を誘導する事も可能だ。」
「面白そうじゃねぇか」説明を聞いていて好奇心を刺激されて、特性の好奇心+3が疼き出したトシゾウが興味を示さずには居れなかった。
マヤは、”難しそうだけど、興味はある。”と微妙な表情。
「決まりだな」とポルトスは安堵する。そして何も持ってない手で大剣を振る仕草。
”面倒くさいのはトシに任せて俺はクレイモア振っている方が性に合っている”と思っている所にトワイライトが
「ポルトス、自分は機嫌良く大剣振っていようと思っている処、悪いが・・」
「ギクゥ!!」と見透かされて驚いた表情のポルトス。
”子供じゃないんだから・・”と言い出しそうな苦笑いの顔したトワイライトが水を差す。
「あんたが剣類持ったら一気に攻撃力が三千を越えるでしょうが。だめだめ。」
「ええぇ(涙)。」ポルトスは楽しみを取られた子供の様にシュンと消沈する。
今まで聞いているだけだったシェイクスオードが口を開く。トワイライトは紅茶が欲しくなり、こっそり給湯室にお茶くみに行っている。
「タンクはトシさんで良いだよね?」
「百聞は一見に如かず、百見は一行に如かず。やってみる。」とトシゾウにとっては『タコ殴りに遭うマゾイ職業』のマイナスイメージよりも知らない職業タンクを経験する事にワクワクしている顔である。
トワイライトの代わりに説明を続けるシェイクスオード
「この世界の三人パーティのセオリーだとタンク×1、火力×2だな。」
「やった。火力って大剣でズドンでも良いんだろう。」とポルトスは懲りてない。
「いや、だから攻撃力三千はダメなの。言ったでしょ。」懲りないヤツだとシェイクスオードは半笑い。で続ける。
「つまり、得意でない職業でレベル10位まで頑張る。相応の敵を相手してりゃ経験値も入るし、レベル10迄なら不得意な職業でもそう簡単には死なないので、まずは数値の低いパロメータを今の内に上げておこう。低いパロメーターは?」
ポルトスは残念な顔でステータス画面をみて答える。
「まず、防御力195、MP65、魔力117・・」言っている途中だが、『ブッ』横で吹き出す音がした。
「アチアチアチ」トワイライトが、マグカップに煎れたての紅茶を啜りながら帰ってくる途中に数値を聞いて吹き出し、熱い思いをした。
シェイクスオードは”バカやってるよ”とトワイライトの天然に半笑いになりながらも
「低いなぁ、低いよ、ポルトス。低い防御力よりも更に魔力とMP常人並みに低くてMPと魔力が終わってる。」
「終わってるって・・・。え、そうなの?・・まあまあ、そう褒めないでくれ」ガハハと笑うポルトス。
「褒めて無いわい!!」と半笑いで突っ込むシェイクスオード。
シェイクスオードとポルトスのコントにマヤはクスクス笑っている。
トワイライトは口を開けて舌が痛いって顔なので、シェイクスオードが説明を続ける。
「まず、防御力は常人の3倍弱『転生英雄』(異世界から前世の記憶を持ったままの転生者が持つ称号)のレベル1よりやや高いが、魔力とMPの数値は常人の農夫と変わらんのだ。」
「ああ、残念なのは解ったが、魔術師なんてなる気無いし、俺は剣を振ってナンボの存在で、剣が振れてれば其れで良い。」と潔く割り切れる男。
「いや、その剣を振る技『剣技』は、技を出す時にMPを消費するんだ。MPが低いと直ぐにMP不足に陥り『剣技』を出せなくなる。」
ポルトスの顔色が変わり「其れは大変だ。『剣技』が使えないのは困る。」と事の重大さが解った。「どうすればいい?」
シェイクスオードは顔をやや俯き加減で上目遣いに斜め前のポルトスに視線を送り眼鏡を指先で正し(学者・科学者等インテリの良くやる仕草)で
「戦闘レベルが上がる時にその職業のキーパロメーターは上昇しやすいんだ。レベル10に到達するまでは上げ幅も大きいし、1レベル上げるのも10迄は楽。つまり、MPが伸びきるまでポルトスは魔法使い確定な(笑)」
「うううむ。背に腹は代えられないのだ。」と渋々了承する。
「それに、ポルトスの魔法使いなら、レベル1のモンスター倒しても対等と判定されてちゃんと経験値入るはずだから。まあ、コッチの方(ちゃんと経験値入る事)が重要性高い用件だ。」
シェイクスオードは話しながらも心の中で
”ゲームだとキャラメイクで攻撃力がバケモン数値だったが、他の数値は平均以下でショボイパターンだな。攻撃力がチョボチョボなら即作り直しなのだが、重要な攻撃力がバケモンなので作り直しボタンを押さずにそのまま登録した罠スタート”って感じかな?(笑)。と失礼な感想。
「じゃあ、俺のはいけるのか?」とトシゾウは念のため確認する。
シェイクスオードは表情変えずにトシゾウに向き直り
「トシゾウさんは『大盾』だと問題ない。『大盾』はメイン武器が盾なので攻撃力換算しないんだ。ただ、今は義手だから持てないが反対の手に剣を持つと元の三千弱に攻撃力が成ってしまうからそれはNG」
「ほう、そうゆう事か。」『大盾』職が大丈夫そうなのでホットした表情。
シェイクスオードは表情が多少緩み右手の人差し指を立てて
「一応知識として・・。『剣術』と同様で『盾術』ってのも有るんだが、トシゾウさんは日本人なんで持ってないでしょう。大盾自体にも攻撃力は有るんだが可愛いモノで、大盾の攻撃力と『盾術』のレベル1や2ならレベル判定に影響でない。」
「そうか、『大盾』かワクワクするなぁ(嬉)。」とトシゾウはポジティブ。召喚前はそんな事無かったんだが、今のトシゾウは昔の事は忘れている。
「まあ、一応ポルトスの件もあるから念のため他のパロメータ聞いておこうか?」とシェイクスオードはニコやかに問う。
シェイクスオードも避難民対策の事務手続きに追われて精神的に疲れていたが、こういった相談や仲間とのお喋りで和気藹々にやる事が、気分転換・癒しになって楽しい様だ。
「一応、攻撃力は2855、防御力は220、魔力は3429、MPは4312だな。」とトシゾウはシレッと言う。
「おお」とトワイライトは実際に数値を聞いて関心した。
「えええ?、其れはずげー」とシェイクスオードもたまげた。
トシゾウは”やっぱり高かった?、薄々は感づいてた。”って顔をしている。
「トシゾウさんは、魔法使いは無いなぁ。多分・・だけど、亜里砂より魔力は強い(笑)。レベル30以上の判定確実だな。多分、俺もトワイライトも魔力・MP半分以下だよ(笑)」
「俺も数値的に変だとは薄々思ってたんだ。が魔法使いに成らなければ問題ないよな。」
「まあ、勿体ないがそうだ。『大盾』やる分には何の支障もない。後々レベル20を越えてから魔法使いやっても良いな。」とシェイクスオードとトシゾウは冷静な会話をしている。
そして一同の視線はマヤに移る。シェイクスオードが口を開く
「マヤちゃんは話の流れ的には戦士に行きそうだが・・一応数値見てみて」
「弓だけど攻撃力は302で、防御力は651です。」と手堅い数字である。
「剣持ってみて、剣での攻撃力の方が良い。」とシェイクスオードは、市販のロングソードをアイテムボックスから出してマヤに渡した。
「攻撃力は308に変わった。防御力は変わらずよ。」とたいした変化はなかったが、トワイライトとシェイクスオードは渋い顔をした。
「微妙に高いな。308ならレベル4か5位になるな。他の数値は?」とシェイクスオードが聞く。
「ええっと、信仰心が32で、魔力が85、MPが80・・・ヒョッとしてこれ?」
「うん。魔力とMPが低いね。上げといた方が良いからコレかな?」とシェイクスオードも意見が一致した。
結果、魔法使い2名と盾1枚の偏ったパーティ編成に決定した。
今日はもう夜中でギルド閉まっているので明日の朝一番で冒険者ギルドに行く事にした。
その他の事も話し合い手順を段取りした。
最初にギルド登録時にアビリティポイントが30と初期職業ミスマッチ対策で『転職許可書』を1枚貰っているはずである。コレを活用しよう。
?まず冒険者ギルドに行く、そしてマヤが魔法使いに転職する。その時に、アビリティで『魔力上昇+』と『MP上昇+』を最初に取る。
『魔力上昇+』はレベルアップ時に上昇する魔力に+αのボーナスが上乗せ。取得にアビリティポイント6消費。
『MP上昇+』はレベルアップ時に上昇するMPに+αのボーナスが上乗せ。取得にアビリティポイント8消費
?次に三人ともクエスト完了報告を行い、報酬の金と経験値を取得する。
採取クエストで完了経験値が各500Exp入り合計1000Exp入るはずだ。
これで、レベル2には到達するが、レベル3迄あと500Exp足りない。
冒険者ギルドの掲示板で『薬草採取中に現れるモンスター』討伐の依頼が今朝見た中に有った。
今日昼前に討伐したゴブリン十数匹と親玉ホブゴブリンの事ではないかと推測出来る。
昼頃仕留めたヤツと数が合うし、場所も同じなので、討伐の証明としてゴブリンの首飾りとホブゴブリンの死体を持ち込めば、完了報告は可能なはず。
明日の朝、冒険者ギルドの掲示板のクエストを再確認して申告してみよう。
ただ、依頼書に書いてある冒険者ランクは満たしていないけど、あれは冒険者が実力よりも遙かに強いモンスターと戦って無駄に死者を出さない為のものなので、
ヤッチマッタ討伐はもう死者が出る心配が無いので報酬は貰える可能性が高いはず。
それで、上手く行けばレベル3達成出来る算段。
?レベル3を達成出来たら、トシゾウとポルトスは『大盾』に転職して『防御力上昇+』のアビリティを取得。想像は付くと思うが念のため説明すると『防御力上昇+』はレベルアップ時に上昇する防御力に+αのボーナスが上乗せ。取得にアビリティポイント8消費。
?クエスト完了報告で余った薬草はギルドで買い取ってもらう。鉱石・金属類はシェイクスオードの陣営が買い取る。
「・・・以上が明日の朝一番でやる事の内容・手順んだな。」とシェイクスオードが締めくくった。
既に夜も更けてきているの風呂入って、歯磨いて寝る事に成った。
トシゾウは寝る前にもう一度トイレに行って小便を済ませてから寝ようと思い部屋を出た。シャツとズボンの格好で廊下を歩いていると人影を見かけた。
シェイクスオードの近衛中隊・事務方の女性エルフで先程執務室で仕事をしていたメンバーの一人で見覚えがある。ただ、歩いていく方向に違和感がある。
パジャマ姿で髪の毛にバスタオルを巻き、寝る寸前の格好で、入り口・ロビーの方に向かっているのである。
”あれ、コッチ?何だろう・・”トシゾウは好奇心から尾行した。
彼女はロビーに出た。ロビーに入って直ぐの壁沿いに何か大きめの箱の様な物(缶ジュースの自動販売機と同じ形)の前に立ちその箱の一部に手の平を押し当て念を込めている様な様子。
手を押し当てている箱がうっすらと緑色の光を放つ。暗めのロビーの中淡い光で浮かび上がったパジャマ姿の女性は綺麗で可愛く見えた。暫くして淡い光は消えた。
トシゾウはその光景に”綺麗な娘だな”と感心するが、光っていた箱の方に好奇心が刺激され身を乗りだし観察していると
トシゾウの背後にふわっと女の幽霊が浮かび上がる感じに気配がして「トシゾウ様どうされました?」
声が掛かってトシゾウは「ギクッ!!」と超びっくりした。
トシゾウの背後には独りエルフの娘がパジャマ姿で立っていた。髪はショートボブで耳がピンと出ている。
トシゾウの驚き様に”ピーンと来た”みたいな顔で悪戯子猫の様な笑みを浮かべてトシゾウを「こんな処でなにしてるんですかー?」とニヤニヤ横目で見つつ。
「脅かすなよ。」とドキドキ顔のトシゾウ。暗がりで相手の表情が判っていない。
自動販売機によく似た箱に手を当てている髪にバスタオルを巻いた娘もトシゾウの方を向いてニコッとして
「トシゾウ様、今夜のご相伴に与った御馳走ですが、大変美味しゅう御座いましたわ。アレが噂に聞くオークのサーロインですのね、疲れが一気に吹き飛びましたですわ。」と笑顔がとても可愛い。
今この娘の同僚がトシゾウに声を懸けてビックリさせたが、状況的に誤解を生みそうな空気を感じて、誤解や勘違いを生まない様に自分から声を掛けて挨拶し、微妙な状況を流し雰囲気を逸らした。”ミレイめややこしい誤解を生むじゃない。”と鋭い視線を送る。
心配りの出来る優しい娘なのである。
「俺もあんなに旨いモノは初めてだった。ところで、その今手の触れている物はなんだ?」
とトシゾウも自然と笑顔になり言葉を返している。
「トシゾウ様、此の箱に興味がおありでしたか。」と自分の右手で触れている箱形のモノを指さしてトシゾウの方をみた。
「夜更けに、トイレとは違う方向に行くんでね、気になった。」
「なるほど。そうでしたか。えーーっとですね。」と解り易く説明する為に話す順番を考えつつ左の手を握り口の前に当ててやや首を傾げ斜め左上に視線が泳ぐ。
綺麗な娘にこのような仕草をされると可愛さが倍増する。
「えっとですね、この魔道具は魔力を魔石に蓄える為の道具です。MPって寝て熟睡すると全快するんです」と娘が説明を始めると執務室で仕事する時の顔に近くなってきた。
「それで、事務仕事って微妙にMPを消費する事が有るので、仕事が終わって寝る前にMPが残っていたら、残量MPが一桁に成るまでMPを使って魔力を注入するんです。」
「ほおおぉー。」とトシゾウは好奇心が知る楽しさに変わりだしている。
トシゾウの背後にいるショートボブの髪型の娘が話しに加わりたい顔をしている。
「此の箱の中に魔力を蓄えられる魔石が何個も入っていて、可能な人は寝る前に注入しに来るんです。勿論、有志で自由参加です。トシゾウ様の後ろにいる同僚も残った魔力を注ぎに来たのだと思います・・。申し遅れました私は『ヴァネッサ』と言います。そちらは同僚の『ミレイ』と言います。」
と言ってトシゾウの後ろにいるショートボブの髪型の娘に手を振った。
トシゾウは後ろに振り向き「すまんな。気付かずに驚いてしまった。」と苦笑いして続ける。
「で、ミレイさんも魔力を注ぎに此所に来た?」
「はい。私ミレイと言います。・・平時にコツコツ貯めて於いて有事や必要に応じて魔石に貯めた魔力をゴーレムや魔導兵器等大量に魔力を消費する時の足しに使ったりします。」とミレイさんが説明し、切りの良い処でヴァネッサに交代する。
「魔石にも魔力を流すと光る物、熱を出す物、冷やす物、浮く物、色々特性・個性が有って、その内の魔力を貯めたり出したり出来る物を使ってます。」
トシゾウは自分なりに知識を消化して「つまり、寝たら回復するMPを使って役に立つ力を貯めておくんだな。」
「はい、そんな感じです。」
「おお、なら俺もやって寝よう。」と言って髪をバスタオルで巻いているエルフの娘ヴァネッサの元まで歩いて行った。
ヴァネッサは横に避けて箱の正面をトシゾウに譲った。
トシゾウはヴァネッサの真似をして右手の平で箱に触れて「こんな感じで此所に触れたらいいか?」と聞く。
ヴァネッサが「はい。其処です。まず最初は少し魔力を流して、魔道具を起動します。」
トシゾウは言われた通りに魔力を流す。箱がうっすらと発光しだす。
今度はミレイが「起動が確認できたら、息を一杯吸っておへその下辺りに力を込めてゆっくり息を絞り出す様に吐いてMPの消費を加速します。すると視野の左上辺りにMPゲージが出て減っていくのが判るはずです。」
説明に従ってトシゾウはその通りするが、トシゾウのオーラがうっすら浮き出て蒼い炎で燃えている様に徐々に可視化しだした。
正面の箱にガラス窓があり、丁度缶ビール程度の大きさの魔石が四つ並んでいる。
魔石は四つとも赤い色なのだが、左端の魔石に水の様なモノが注がれ貯まっていく。水の溜まった部分は色が赤からオレンジになり水位が半分を超えた時点で水の色が黄色に変わる。満タンに近くなった時点で青色に変わった。一杯になったら右横にある次の魔石に注入が切り替わる。
貯まっていく速度が速くあっと言う間に一杯になり次に移る。魔力が一杯になった魔石はガラス窓から下に落ちるのが見える。『ガコン』と音を立てて、缶ビールが自動販売機から出てくる様に足下の取り出し口に青くなった魔石が出てきた。次々に出てくる。
「え?・・MPゲージの色が黄色に成ったら速度を緩めて赤色になったら止めて下さい。」と満タンになった魔石が出てくる速度が異常に早いと感じたヴァネッサが慌てて止めるタイミングを言ったが、
トシゾウは『ガコン』、『ガコン』と魔石が出てくる事に気を良くして調子に乗り更に気合いを入れて「おりゃー」と掛け声まで出る始末。悪のり。
ヴァネッサとミレイは目の前で青い炎がハッキリ『メラメラ、ゴー!!』と吹き上がる。ガラガラ音を立てて魔石が次々と出てくる。
目の前で今起こっている光景が背筋に冷たいモノを感させた。二人は上位の悪魔は青い炎を纏うと昔に聞いた記憶が蘇り”やばくない?”と怖じ気づいた。
事実として高濃度の魔力は青く輝く、トシゾウも上位の悪魔も魔力が高い部分で同じなのだ。
ヴァネッサとミレイは目の前の異常事態に顔が引きつり狼狽え出した頃にトシゾウは「赤になった」と一息吐く。MPゲージが赤色になっていた。青い炎のオーラも消えている。
トシゾウは突然の疲労感でフラーッとした。目を下に遣ると前の箱の膝の辺りにある魔石取り出し口には一杯魔石が詰まっていた。
トシゾウは疲労感から動きがゆっくりながら、青色に成った魔石を右手で取り出した。
目の前の『自動販売機』によく似た箱の横に、出てきた魔石を入れるのに丁度良い穴の空いた『空き缶用ゴミ箱』によく似た箱がある。「この青い魔石のコッチの箱に入れたらいいのかな?」と二人に顔を向けて聞く。
ヴァネッサとミレイは我に返り、「は、はい。」と返事して、青くなった魔石を取り出し口から出して『空き缶用ゴミ箱』によく似た箱に入れるのを手伝った。セッセ、セッセと。
入れ終わると、最後にミレイが箱に魔力を注入して終わると、三人一緒に戻りだした。
ヴァネッサが「私、あまり寝付きが良くない方なんです。」と身の上話をしだした。
「実は私もそうなんです」とレミイも以前は寝付きが悪かったと打ち明ける。
「ふむ。」と何時もの味気ない反応のトシゾウ。
「でも、あの魔道具を使い出してからぐっすり眠れるんです。お風呂上がりで体が暖かいうちに魔力を注入してMPが赤色(残量一桁)になると、疲労感がサウナに入った後のような良い感じになって、頭の心がボーッとするんです。このボーッとしている間に寝床に入るとぐっすり良く眠れます。」と嬉しそうに話すヴァネッサ、寝付きが悪いと翌日辛いらしい。
ミレイも「私もその話聞いてやってみたら、結構気持ちいい疲労感なんで続けているんです。」と寝る前のルーチンに組み込まれているようだ。
トシゾウも風呂上がりでまだ体が温かいので意識してみると、心地よい疲れに成っていた。
「俺も風呂上がりだ。この感覚言われると良いかもしれないと今思った。」
この後、道すがら少々お喋りを楽しみながら三人は歩いて帰る。
最後にトシゾウが「ほな、ええ夢みてや」と笑顔。
「はい。お休みなさい」とヴァネッサとミレイがお休みを言う。
「おやすみー」とトシゾウも手を振ってそれぞれの部屋に戻って寝た。
トワイライト達一行が町役場横のお屋敷に帰宅して一時間後位からやや強めの雨が降り出した。風はない。避難者用のテントの天幕に雨が大きな音を立てて降り注いでいる。その音が遠くから聞こえていた。まるで子供達が遊びで適当に鳴らしている小太鼓の集団の様だ。
備考として『大盾』戦闘レベル3、戦士レベル3達成でアンロックされる『戦士』系の派生職。
メイン武器は大盾を利き腕に装備。反対の手にロッドか片手武器を持つ事が出来る。職ボーナスは防御力+50を加算した上で+12%と防具の装備重量を−20%。敵視を上昇させる技と盾技を駆使してパーティ戦を勝利に導く存在。大盾を持たない場合職ボーナスは残ったままで、『戦士』のスキル体系が適用される。
特別職を除き基本的に利き腕の武器はスキルそのまま、利き腕と反対はスキル三分の二に成る。
夜が明けて朝になった。日の出の二時間前には雨が止んで多少雲が残っている。雲の多い朝焼けの空が綺麗だ。街の中は水たまりが多く残っている。
避難者用テントの並んだ避難民キャンプは人影がない。避難キャンプは町役場前の広場で此所は広場の端に側溝があり水捌けは良い。街の別の場所では所々道が冠水している。
殆ど誰も起きてない様だ。明け方手前まで降り続いた大粒の雨がテントの天幕を質の悪い小太鼓に変えたせいでみんな寝られずに寝不足。
避難民に未だ仕事は無いので心置きなく朝寝坊が出来る。三食昼寝付き良い身分だ。問題は住居。
避難民キャンプの一角と役所庁舎前には炊き出し・食事配給の準備をする役所の担当の職員が忙しそうに炊き出しの用意を急いでいる。
庁舎横の屋敷では今朝もラジオ体操の様な整備体操が行われて丁度終わったところだ。昨日に比べ参加者が半分以下に減っている。昨日参加していた傭兵の『ゴールデン・バーボン』の参加者が抜けた事も参加者減少の要因。昨日の朝にエルフの里『ミコライウ』に向けて出発したからである。
トシゾウ、マヤ、ポルトスは整備体操を終えて食堂に向かった。食堂入り口でシェイクスオードとトワイライトと合流して昨日と同じ内容ではあったが美味しく朝食を頂いた。
朝食後昨日の晩に使っていた部屋に入りそれぞれ適当に席に座った。
トワイライトは毎度の如く給湯室でお茶を入れている。
シェイクスオードはまずトシゾウに「義足の調子どう?」
「至って良好だ。普通に歩く時に多少の違和感があり、其れで義足なんだなぁと思い出す程度だ。『痛感耐性』のお陰で普通に動く分には問題も痛みも無い。」
「それは上等だ。良い買い物をしたな。」とシェイクスオードは気軽なお喋りを交えつつ給湯室に向かって
「ところでトワイライト、昨日寝床で気が付いたんだがなぁ」
紅茶の入ったマグカップを人数分トレイに載せてトワイライトが給湯室から姿を現して
「ん?何だ?」と返事しながら紅茶を配っていく。
「クエスト達成報告の時だが、お前勇者パーティに入ってたら良いんじゃないか?」
トワイライトは自分の紅茶をユックリ啜りながら席に着き斜め上の虚空を見つめて考える。
「クエスト報告時ね・・・。そっか、クエストの成功報酬はレベルに関係なく定額支給だっけ?」
「そうだ、討伐時の経験値と違い、レベル1でもレベル35でも満額の500Exp貰えるはず。それに、ヤッチマッタ報告でホブゴブリン討伐のクエスト達成する時も、お前が依頼受ければ問題ないんじゃないか?お前ランクSだろう。」
トワイライトは上目遣いで左上に視線を泳がせながら二拍ほど思考して
「いけるか・・。」と納得したが、続きがある「俺、か弱いランクBだぜ」。とVサイン。
「お前、まだBから上げてなかったのかよ。」とシェイクスオードは呆れ顔。
「うん。昇級試験受けてないだけだ。誰も迷惑してねぇし・・。」と言い訳するトワイライト。
勇者パーティのメンバーは先代の勇者もS、シェイクスオード勿論S、亜里砂もS、他にも何名かSが居たがAのメンバーも居た。トワイライトも実力は同じSなのだが、Bで意図的に止めている。
冒険者ランクSは戦闘力も高く戦線に投入すれば劣勢でも挽回出来て勝ってしまう優れた駒で、勇者パーティを除けば、王国・帝国に一人居ればいい方で殆どの国は0である。ランクAで漸く国家に二〜五名位である。ただ、ランクBは一杯居て、実力も格段と下がる。
そんな冒険者を抱えている数が多ければ国としては抑止力であり、隣国としては脅威になる。
そしてランクA以上は国の情報局に登録され監視の目もあるが、名誉や地位も与えられる場合がある。国家の依頼や義務もある程度こなさなければならなくなる。
トワイライトの仕事や一身上の都合上、身分や素性を隠す必要が有るのでランクAへの昇級試験は受けてない。試験も立場も面倒くさいのが本音だ。
雑談の切れ目、良いタイミングで『コンコン』と戸をノックする音がする。
「はい。どうぞ」とシェイクスオードが返事する。
戸が開きエルフの男性、シェイクスオードの近衛中隊所属の事務方で、若く見えてキリッとした男前で、執務室でシェイクスオードと一緒に何時も事務に追われているメンバーの一人が入ってきた。
「失礼します。シェイクスオード様、今冒険者ギルドからこのような知らせが届きました。」
と二つ折りの紙を両手で献上の姿勢で差し出す。
紙を開け一読するシェイクスオード。表情が一変して曇る。
読み終わるとトワイライトに渡し、ユウツな溜め息を漏らす。
トワイライトも「んんんー。」と表情がさえない。シェイクスオードが説明を始める。
「ダンジョンの入り口が出現し、『大行進』が発生した。出入り口は小さめで小規模なダンジョンと思われる。」シェイクスオードは淡々と喋る。
「いきなりかよ」とトワイライトは一人呟く。
「一寸いいか?、『大行進』ってなんだ。」とトシゾウは右手を挙げて質問した。
「ダンジョン内のモンスターが殖え過ぎて臨界点を越えた時点で大量に外界に放出される。そのモンスターの群が流れになって、村や町、里を飲み込む様に襲う。一種の災害だな。」
とシェイクスオードの説明は一旦切り、数秒の間を空けて補足をする。
「ダンジョンは普通出現して2、3ヶ月放置しないとモンスターが溢れ出す事はないんだ。出口発生と同時に溢れて『大行進』の場合、出口のない状態でダンジョンが発生して外界に接するまでモンスターを充分蓄えていたって事だろうな。」
トワイライトは紙を見ながら情報を言う
「外出したモンスター数約二百。冒険者の報告でダンジョン発生の兆候を察知し、ギルドの調査員が監視してたらしい。今は昨夜の大雨で川が増水して川を渡れずに足止めに成っているらいし。」話しは続く。
「明日の朝には水が引くだろうから、そこから行進だな。雨のお陰で一日対策の余裕を貰ったって感じだな。」
シェイクスオードは連絡の紙を持ってきた男性エルフの事務員に「周辺の地図を持ってきて欲しい」と頼んだ。
「はい。早速!」と急いで退出して行った。
現場周辺の地図が届いた。さっきの男性エルフの代わりに、ヴァネッサが持ってきた。
大きな机の上に地図が広げられて、ダンジョン出現地にチェスの黒い駒ルークが置かれた。
昨日夜にトシゾウと話したヴァネッサが「私、このエリアの地図を以前に作成しましたので説明します。」と説明を始めた。
「昨日夕方、黒のルークがあるポイントでダンジョンの入り口が開口。時間を掛けて約二百余りのモンスターが出現しゆっくりと『大行進』を開始。通り易い太めの道を通り、分岐路では直進に近い方を選んでいます。雨が降り出し進行速度は遅くなったようです。」少し間が空き説明は続く。
「ここからは今さっき届いた続報です。『大行進』のルートがオークの群れの側を通過。現在オークの群れでは数が増えすぎて人口過密状態にありその数、推定千二百匹」
とヴァネッサ『大行進』が通った道筋を細長い棒を使ってなぞって示し、皆が話しに附いて来ているか一同を確認し続きを話し出す。
『大行進』が近くを通ると『大行進』の持つ魔力で魔物や獣達を引き寄せ巻き込んで統制下に組み入れられ進む毎に拾って行き数を増やしていく。
「オークの群れの側を通り約三百のオークが『大行進』加わった模様。オーク以外にワイルドボア、大鹿、グレイウルフ、グッドカルビバッファロー、ホーンラビット等野獣達も加わっております。その後道なりに進み川岸に達しましたが増水に因り足止めに成っている様です。総数七百匹。現状報告は以上です。」
予想では水位の下がった川の浅瀬を通り、同じ様なルートを辿ると想定すると、エルフの里『ミコライウ』、『ディンバ』付近に到達する。一同言葉を失った。
対策を打たなければ『ミコライウ』、『ディンバ』の里は蹂躙され被災者・死傷者は四百人以上。更に一日後には此所『セイロン』の街に達し避難民を抱える『セイロン』が蹂躙されれば、死傷者の数は五千を超えるとヴァネッサは試算する。
トワイライトは「七百とも成ると一個大隊(約千人)必要だな。ただ、オーク一体が兵士三人分の戦力なので実質千三百と見るべきで、一個大隊ではちと足りんか?」と基本路線で言う。
トシゾウも「一個大隊有れば、多少の不利が有っても何とか戦い様はある。」
シェイクスオードが苦笑いで「『大行進』の前方に置ける、空いている一個大隊は無い(苦笑)。準備して移動して、一部の騎馬隊が追い縋るのがやっとだな。現有戦力の殆どは中隊や小隊にばらして運送屋か基礎工事をやっている。それも、殆どがポンテ要塞やマスリ城塞都市近辺だ。」
「ああ、そら間に合わんな。」とトワイライトは”ヤレヤレ”と言いたそうな顔。
「おい、お前の処の対策部隊はダメか?」とシェイクスオードはトワイライトに聞く。
「通常装備で準備して移動して・・・三日後だな。間に合わない。」と右手を振って”無駄無駄”って表情。
「・・・・」シェイクスオードは両手で頭を抱えている。気持ちとしては
”それどころと違うってのに、魔物よこのタイミングで来るかなぁあ・・”とぼやきたい。
「腹括るしかないぞシェイクスオード。兵はどれ位集められそうだ?」とトシゾウがシェイクスオードに聞く。
「今動けるのが近衛中隊。事務方二個小隊を除いて一個中隊の百五十名いる。此所セイロンの守備隊から非番組を非常招集で二個小隊約六十四名招集する。あと、近隣のエルフの里三つに出兵の催促をしよう。三つの里合わせてザッと弓兵が凡そ七十の見込み。二百八十四名。・・半分以下か、足りんなぁ」
とシェイクスオードは野戦でまた敵兵力の半分か・・。とぼやき気味に比べ、トシゾウは
「無い物|強請≪ねだ≫ったって仕方がねぇ。有る物でどう料理するか考えようじゃねぇか」
「おお、前向きやなトシさん。自分もそのポジティブさ見習わないといけないんだけどなぁ・・。」とぼやく。
トシゾウも”気持ちは分かる数的劣勢は誰でも気が重くなる。”と同情気味。
「コッチとら、数的劣勢や負け戦は日常茶飯事だったからな、慣れている。」
「じゃあ、今回も頼むなトシさん現場の指揮は苦手なんだ。勿論今回はしっかり働くよ。」
と表情が明るくなるシェイクスオード。
「その方が良い。頼りにしている。数的に劣勢な分役回りもシビアに適材適所にしないとな。」とトワイライトも同意する。
「なんだそれ?」とトシゾウはピントきていない。
マヤとポルトス、ヴァネッサは傍観モードで成り行きを見守っている。
「トシさん、戦術スキル高い上に神の恩恵あったでしょ。トシさんが指揮を取って戦術の低い敵と同等の戦力で正面から激突した場合。十中八九トシさんの側が勝ってしまうんだ。実際に個々の兵士の技能や能力値などに戦術スキルのプラスα分が乗るんだ。」
「へー。そうなのか。」と感心している。
「トシさん戦術レベルいくつ?」とトワイライトは確認する。
「戦術ね・・」と目の前の空間を指でスワイプしてステータス画面を見ている。
「戦術8+2だ。」とトシゾウは返答する。
シェイクスオードとトワイライトは「ああ。そんなモンだろうなぁ。」と予想は高めにしていた。あの土方歳三だしな。納得!納得!。
ヴァネッサは此方の世界の住人なので土方歳三の知識が全く無くて、超ビックリ顔で「え?10?人の到達出来る最高峰!」と反応が新鮮だ。
珍しくトワイライトがドヤ顔で自慢し出す。本当に珍しい事だ。
「更に付け加えると、私のタレント機能が『軍師』だ。私も戦術6有るが、指揮官でない場合+2に変わるんだ。トシさんがいて指揮官、同じ陣営に指揮官以外で私が所属していたら8+2+2の12に成る。」一呼吸置いてトワイライトは続ける
「戦術スキル使うモンスターなんて極一部で、敵の首領次第だからな。ハンデは相当有るんじゃないかと期待している。んんー、鬼に金棒 虎に翼だな。」
「いつ6(+2)になったんだ?」と記憶と違うぞという顔のシェイクスオード。
「この前のシェラ野営場での戦いの後、目出度く5(+1)から6(+2)に成った。」
とシェイクスオードとトワイライトは楽しそうにお喋りをしていたが、シェイクスオードがヴァネッサと目が合い、口の前に右手の一本指を立てて『しー』の仕草で
「ヴァネッサ、此所で聞いた個人情報は呉々も他言無用で頼むぞ。」と口止めを忘れない。
「はい。」と素直な返事。
「じゃあ、俺は横の部屋で伝令や援軍要請、装備や物資の集積の手配を事務方に指示してくる。陣を敷く位置や戦法など、トシさんとトワイライトで練っといて」
とシェイクスオードは言い残してドアを開けて横の部屋に移った。
トシゾウがヴァネッサに『大行進』の予想進路を地図を見ながら説明を聞いている。
「明日の早朝には水位が下がっていると思われます。日の出と共に川の浅瀬からモンスター達が渡河。太い道を通るコースを想定。進行速度ですが時速3マイル人の歩行速度程度。」
ヴァネッサが黒いチェスの駒を動かしながら丁寧に説明している。
トシゾウもトワイライトも座ったまま無言でそれぞれ違った仕草で真剣に聞き入っている。
二人が真剣だと空気がピンと張り詰めていて、説明しているヴァネッサも珍しく少し緊張してしまっている。ポルトスとマヤは椅子にユッタリと座りながら静かに聞いている。
「普通に進めば昼の十三時頃に『ミコライウ』、『ディンバ』の手前2マイルの所で崖下の開けた草地に出ます。広さは長さ半マイル幅五十メートル前後の多少|畝≪うね≫っていますが大旨縦長です。進行方向右手に10メートルの高さの崖が続いてます。」
トシゾウが「充分に殴り合える広さを持つ広場は、此所だけか?」と確認する。
「はい。それ以外は道幅2、3メートルの林道です。」とヴァネッサは答える。
「と言う事は最終防衛線はソコか。エルフの里に近い側の終端五十メートル手前の崖の上が大きな池の|縁≪へり≫になっている。その真下が戦場になる様に十五メートル位引いて陣を敷き砦にして迎え撃つ。其処に至までの崖の上から弓矢で多少なりとも数を減らす。」
一呼吸息を継いで話しは続き「前回の撤退戦の殿と同じ感じに・・・と思うが、モンスター相手の合戦は初めてなので勝手が分からない。トワイライト助言を頼む。」とトシゾウはモンスター相手のセオリーを聞きたい様だ。
「『大行進』は九割以上が基本的に戦術・陣形等とっいたモノは使ってこない。主に重量を活かし突進力を活かした蹂躙戦が多く小型の魔物が大型の小回りが利かない部分を補う感じかな。例外は、スケルトンメイジ、リッチ、悪魔系、魔族が首領の場合は戦術戦になる事が有る。」
とトワイライトは敵の『大行進』には詳しい様だ。
「今回の『大行進』の首領はミノタウロス四匹で護衛にナイトスケルトン六騎と思われる。との報告があります」ヴァネッサが必要に応じて報告で得た内容を補足する。
補足を聞いたトワイライトが「ミノちゃん(ミノタウロス)か脳みそ筋肉だしほぼ蹂躙戦の想定で良いと思う・・・あ、相手の航空戦力は?」と航空戦力の有無に気が付いた。
ヴァネッサは頭を捻り「航空戦力?」初めて聞く文言。
「『羽根付き』空を飛べるモンスターが居るか報告書にある?ワイバーンとか大ワシ、大コウモリとか」
ヴァネッサは今一度報告書にサッと目を通し「報告書に記載は有りません。」と答えるが内心”報告書を書いた人も『羽根付き』とか意識して観察してない”と思う。
トワイライトは”崖上に弓兵を配置しても航空戦力に襲われると各個撃破される危険がある。今後の報告次第で盾を護衛に付けるか・・”と思考。
ブツブツ独り言を言っているトワイライトは何か考えているそんな時のトワイライトは頼もしかったと記憶しているトシゾウ。
「えらい詳しいなぁ」とホントか?という顔を作りトシゾウが聞く。
「ああ、『大行進』は二、三十回は潰して回っているから。もう駆除業者ですよ。」と笑いながらトワイライトの下手なジョークが混じる。『駆除業者』と言った部分がジョークの積もりの様だ。
”どう突っ込み入れろ言うねん。難しい”、”中途半端なボケはやめて”といった間の悪い沈黙が流れた。
「はい、存じておりますわ。」とヴァネッサは気を使って間の悪い沈黙を無理に流した。
「仕様もない事言っとらんと(笑)。方針は決まった?」と執務室に通じるドアの|桟≪さん≫に寄りかかりシェイクスオードが覗いていた。
「ああ。大まかなプランは防御陣地を築いて正攻法で迎え撃つ。手前に罠と弓矢の十字砲火の上乗せで良いんじゃねぇかと思う。細かい所は現場見て詰める予定。」
「そうか、前回と同じか。・・・」とシェイクスオードは余裕な表情で。話しを続ける。
「今出兵の催促と伝令を各所に出した。物資の手配も指示した。また忙しくなる。早目に冒険者ギルド行って用事を済ましてきてくれ。」
「なあシェイク、バリスタ何台か出せないか?」
「バリスタか?」
「そうだ、バリスタだ。ロングボウや弩じゃあオークにかすり傷しか与えられない。バリスタでオークの数を減らせれば勝機も見えてくる。送れるだけ送ってくれ。」とトワイライトは使える物は何でも有る方が良いと依頼する。
トシゾウは『バリスタ』を知らないが、現物を見れば効果的に使うはずだ。
「分かった。バリスタを送ろう。」とシェイクスオードは了承した。
「よし、じゃあ行きましょうか。」とトワイライトは席の足を『ガガーッ』と鳴らしながら席を立った。
ポルトス、トシゾウ、マヤも続いて立ち上がった。四人は部屋を出た。冒険者ギルドに向かう様だ。
執務室の横の部屋はヴァネッサが地図とチェスの駒を仕舞い後片付けをして執務室に戻った。
執務室ではシェイクスオードとミレイが喋っていた。「ゴールデン・バーボンは呼ばないのですか?」
「一応ね。『捕虜協定』ってのが有ってね、捕虜は戦場に立つ様に此方から命令は出来ないんだ。自ら志願しない限り戦場に立てない決まりなんだよ」と丁寧に説明するシェイクスオード。
「そんなの有るんですかー。」
「うん。この王国をはじめ周辺諸国も批准している。昔は、自分の兵の損耗を防ぐ為に捕虜を激戦地に送り込む領主が多かったんだよ。『捕虜協定』が有る以上此方からゴールデン・バーボンに参加要請は送れない。」
「そうですか、そんな制約があるんですか・・。あの一個中隊超優秀って評判ですよねー。残念、はぁ(溜息)」
と近衛中隊・事務方第二小隊所属ミレイ隊員は最近特に避難民の仮設住宅設営等の仕事量に応じて必要な人員を送る計算が多かったので、仕事量に応じてどれ位の人員が必要なのか感覚・感で大体の必要人数が分かる様になってきていた。その物差しで測ってもゴールデン・バーボン傭兵中隊は二倍近くの仕事量をこなしてる。ミレイ個人の評価は高い。
「誰も来ないとは言っていない。餌は蒔いた。多分食い付くよ。フェアじゃないけどな。」と、シェイクスオードは後味の悪そうな渋い表情を微かに漏らした。
シェイクスオード個人は法や規律、モラルを成るべく遵守したい人である。だが、勝つ事を選択しなければならない事も解っている。
”抜け道を使って合法的に危険の伴う前線に捕虜を送り込むんだからな。人一倍優秀な彼らを送り込めば二個中隊分の働きをするだろう。”ココで軽く溜め息。
”結果として『大行進』を阻んだ上に、怪我人止まりで死者を出さずに済むかも知れないが、フェアじゃないな。我ながら格好良くない。”との思いがシェイクスオードにある。
ミレイは其れを敏感に感じ取り「そのゴールデン・バーボン中隊は優秀って聞きましたが・・」
と、こんな時は喋らせて、吐き出させて心労を溜め込ませない積もりだ。
一寸センチメンタルな顔が入りかけたシェイクスオードが愛想笑いで誤魔化しつつ
「そうだが、あの土方歳三が『益荒男共よ』と称した連中だ。一個中隊(130人前後)を六百人つまり、四倍以上の戦力で擂り潰すのに一時間近く掛かったうえ同数以上の被害を出すだろうと嫌がった相手だ」と返す。
「じゃあ、巧く死人を出さずに凌げそうですね。」と話しを会わせるミレイ。
”あの土方歳三が”と言われてもピンと来てない。”『益荒男』って何?”って話しに付いて行けていないが大体の意味は察しが付く。大事なのは話を聞く事と心得て調子を会わせる事。
片付けが終わったヴァネッサが「では兵装を一個中隊分、余分に送っておいた方が良いですよね。」
「うん。大盾装備五十、ウォーリアー(重戦士)装備五十、戦士装備五十、あとバリスタも送れるだけ送っといて。まずは畳んで保管しているやつを管理者付けて馬一頭と大八車で送り出してほしい。」直ぐに大雑把に言っているが、大体近い数字が出てくるシェイクスオード。
手に持ったメモに物と数量をメモリながら、ヴァネッサはシェイクスオードに
「シェイクスオード様。明日の分の仕事も終わらせたら、明日の『大行進』の迎撃を見に行っていいですか?」
シェイクスオードは「明日の仕事も終わらせてるなら、別に良いが・・・危ないから充分注意してね。君達は貴重な人材なんだから。」と充分注意する様促す。
「あ、ずるい。私も行く。」とミレイもヴァネッサの言を聞いて行きたくなった様だ
「行くなら、明日の分の仕事終わらせとかないと行けないわよ。」
「私、頑張る」とやる気満々のミレイ。
シェイクスオードは頭を掻きながら”わざわざ危険な所に・・、自分の里の近所で激戦になるので心配なんだろうけど・・。”
「で、俺の話終わってないんだけど・・。」
「あ、失礼しました。」とヴァネッサとミレイは”仕舞った”と下を少しぺろっと出した。
「バリスタだけど、畳んでるヤツを送り出した後、此所の城壁にあるヤツと、関門に設置してあるのも畳んで準備出来次第発送してくれ。馬一頭と大八車一台にバラしたバリスタ一台乗せてな。バリスタの運営チームも発送が終わったら全員現地に送り込んでくれ。」
と命令の続きを言い終えて、シェイクスオードは一息着くと現実に、我に返った。
「忘れてた、俺も今日中に明日の仕事こなておかないと」とまた仕事に追われだした。
一方此方はトワイライト、トシゾウ、ポルトス、マヤの四名。
互いのアイテムボックスの持ち物の交換を屋敷の一室で行った。薬草、ホブゴブリンの死体、鉱石の一部クエスト用と売却分をトワイライトが受け取る。
オーク肉の残りや売却しない鉱石等はトシゾウ、マヤ、ポルトスで受け持った。
理由はアイテムボックス所持者は、転生か召還の英雄と勇者のみなので、アイテムボックスを使っている所を見られると素性がバレル恐れがあり、トワイライトが魔道具の『アイテムバッグ』を使っている様に見せて偽装するのである。
四人は持ち物の受け渡しを終えて、パーティを組んでから屋敷を出た。
避難民キャンプの横を通り抜ける。昨夜の雨で水たまりが多く残っている。今朝は人影が殆ど無い。朝遊ぶ子供の歓声もない。
昨晩降った大雨が仮設テントの天幕にうるさい音を立てていたので小降りなる朝方までうるさくて眠れず、多くの避難民は寝不足で今グウグウ寝ているのである。
炊き出しの準備をしている街役場の職員だけが活発に動き回っている。
そんな静かな避難民キャンプの横を抜けて冒険者ギルドに一行は入った。
「いらっしゃいませ。おはよう御座います。」と受付嬢は気持ちの良い挨拶をする。
流石に朝一番。今日のクエストを確認しに来た冒険者が多く混雑気味。
今、元気で気持ちの良い挨拶をしてくれた受付嬢の窓口が正面左端で其処だけが空いていて他の窓口には冒険者がいて対応している。
左端の空いている受け付け窓口迄四人で行きてトシゾウがメモを見ながら
「まず、マヤが魔法使いに転職。」とマヤに手順その1を言った。
マヤが受付け口に行き、昨日貰った『転職許可書』を出して「魔法使いに転職お願いします」と申請した。
冒険者証も出すように言われ、冒険者証を渡して昨日使った機械の上に右手を置き転職した。そして転職費用として銀貨五枚を支払った。
そしてアビリティの『魔力上昇+』と『MP上昇+』を取得し、それぞれアクティブ欄にチェックを入れて有効にした。
マヤの合図を待ってたトシゾウが次の項目の「採取クエストの完了報告」と読み上げる。
トワイライトが受け付け口でハンドバックに似た鞄から薬草の束を出すように見せながらアイテムボックスから薬草の束を四十束出した。そして依頼書も提出した。
「薬草採取、各二束で四人の八束だが四十束取れた。残りは買い取りで頼む。確認してくれ。」
「はい。確認しますねそのままお待ち下さい。」と言って受付嬢が薬草の束と依頼書を持ってカウンター奥の後ろの机で他の待機していた職員が手を貸し薬草の確認をする。
五分ほどして受付嬢が戻ってきた。
「確認取れました。上質の物が二十束有りました。上質な物は一割り増しで買い取らせて頂きます。達成報酬で銀貨十三枚、追加買い取りの分が銀貨三十二枚と上質分の追加が二枚」
と受付嬢は説明をしながら麻袋に銀貨を入れていく。合計四十七枚入れ終えてトシゾウの前に袋を差し出す。
「達成報酬。銀貨四十七枚と経験値五百。完了します。よろしいですか?」と笑顔で『イエス』か『ノー』か聞いてくる
完了して銀貨の詰まった袋を受け取る。それぞれ経験値が五百入って、トシゾウ、ポルトス、マヤの三人のレベルが2に上がった。
「続いてもう一件、鉱石採取の報告をしたいのだが。」と言いながらトワイライトは依頼書を出してから、70Lのゴミ袋位の大きさの麻袋一杯に詰まった鉱石を出しだした。魔道具の『アイテムバック』から出すように見せかけて出す。二袋出すと窓口が一杯になる。
奥から男性のギルド職員四人が慌てて出てくる。袋に入った鉄鉱石、謂わば鉄の塊。重くて仕方がない。どう考えたところで受付嬢には無理で、腰をいわすのが関の山だ。実際に職員四人がかりで一袋運ぶのがやっとでフラフラと如何にも大変そうに重い物を運んでいく。
二袋目で職員の息は上がり、ハアハアと肩で息をし出したのを受付嬢がチラッと見て、微かに表情が曇った。
トワイライトは追加の麻袋を出しかけて止まった。
トワイライトは「まだ有るんだけど、中に入らせて貰って良いかな?あの、事務所の奥の隅で出すよ。」と奥にあるテーブルの横、今ギルド職員が運んだ二つ有る麻袋を指さした。
受付嬢は少し考えて「そのバック貸して頂いたら私が出してきますが」と言う。
トワイライトはブルブルと大げさに顔を振って「其れはダメ。貸さない。絶対ダメ」と大げさに拒否した。誤魔化し・インチキなので他人が持ってもタダのバックなのがバレルからダメなのだ。
受付嬢は”高価な魔道具を人に貸す訳ないわね”と意図を推し量る。
「仕方御座いませんわ、私が案内します。」と言って横のドアを開けて通してくれた。
受付嬢は「こちらへ」と言って先導する。
トワイライトは少し後ろから付いていく。前を歩く受付嬢の歩く後ろ姿が超スタイルが良い事に気付く。ボン・一寸キュ・ボンの豊かな胸、やや括れたお腹、豊かで良い形の男の目を惹き付けるセクシーなお尻。上下を豊かにすると中はどうしても絞りきれない様だ。・・余計なお世話ですね。
トワイライトは昔を思い出した”何と魅惑的な・・。そう言えば昔・冒険者駆け出しの頃だったな、先輩がこんな美しい受付嬢の色香に負けて抱き着き胸とお尻を触って、受付嬢と周辺にいたギルド職員に袋叩き・タコ殴りに遭って顔をボコボコに腫らしながらも幸せそな顔していた。”
その当時のトワイライトは未だ十四才でその女性の色気に反応しなかった。大人になった今なら多少の煩悩がムラムラと沸き立つのを感じ、昔の先輩の気持ちが分かるようになった。
煩悩オーラを感じてなのか?受付嬢は先導がピタリと止まり前を向いたままで「変な真似はなさいませんことよ」と釘を刺した。
トワイライトは周囲に居るギルドの事務職員に混じってナリを潜めている武装した職員からピリピリした視線を感じている。
空気を読まずに口元に笑みを滲せ、「例えば?」とチョット挑発気味。
周囲の視線に含まれる緊張感は急上昇。その瞬間受付嬢は
「自爆とか・・」とボソッと答える。
瞬時にクルッと振り返り手には光る物を持っている。トワイライトの左手の親指と人差し指と中指の三本でが光る物を摘んで止めた。軌道からして首元に突きつけて動きを封じる積もりだたのだろう。トワイライトの左手には革手袋を嵌めており指先は無く手の甲の部分は丸く抜かれた形だ。革の部分に印があり、うっすらと赤色の淡い光を発している。マジックアイテムの様だ。
遠目で見ていたトシゾウとポルトス。ポルトスがボソッと「ふん。やるじゃん」と話しながら高みの見物。トシゾウは無言で頷く。
武装した職員がトシゾウとポルトスの後ろにこっそりと寄ってきいたが動きが止まった。
トワイライトの左手は受付嬢が握っているダガーを摘んでいた。
振り返ったはずの受付嬢は振り返りきれず半身の体勢で止まっている。”Bクラスの私が止められた?”と冷たい汗を背中に感じる。
本人がヒヤッとしたのと共に体勢が途中で止まったので、豊かな胸が『ゆさっ』と大きく揺れた。
おかげでトワイライトに集められていた武装したギルド職員のピリピリした視線・ターゲットは一瞬にして豊かな揺れる胸に奪われた。
事務員のフリをしてナリを潜めていた武装したギルド職員の顔が皆幸せそうな表情に変わった。素直なヤツだ。ターゲットが外れたせいで一拍、間が遅れた。その瞬間に、
「ははっはー。ええー自爆かよ?イスラム国じゃあるまいし」と笑い乍ら突っ込むトワイライト。緊張感が無くなった。
ナリを潜めていていた武装したギルド職員も立つタイミングを逸して立てない。その内の一人はまだ幸せそうな顔から戻っていない。
トシゾウとポルトスに背後から近寄っていた職員も動こうとしたが金縛りに遭ったようで体がゆう事を聞かず動けない。トシゾウとポルトスが『キリングオーラ』を発動していた。
『キリングオーラ』とは武人が持つプレッシャー・オーラで格下の相手や一般人を萎縮させ動けなくする。例えて言うなら蛇に睨まれたカエル。
「セクハラじゃなくて?」と話を続けるトワイライト。
受付嬢はムッとして”え?、殺気じゃなく、やらしい視線だったの?”と顔に書いてある。目が点アホ毛みたいな毛が二、三本ピンピンとこの瞬間だけ跳ねている。
そして負けず嫌いの性格が「セクハラはビンタされますのよ。」と辛うじて強がって見せた。
トワイライトはパッとダガーを摘んでいる指を離した。受付嬢もサッとダガーを仕舞った。
場が白けた。事務所内で鳴りを潜めていた武装した職員は”もう、勘弁してくれ、スケベオーラかよ”って苦笑いや半笑い顔で頭を掻きながら部屋から出て行った。多少受けた様だ。
トシゾウの背後の武装した職員四名は、金縛りが解けたのと同時に力が抜けてベタンと座り込んでしまった。
ポルトスが「はい、ご苦労さん」と微笑みながら手を貸して武装した職員達を立たせてやった。
金縛りから解けて動ける様になった職員四人は”あれ?動ける”と不思議がりつつも広間の横のドアから出ていった。
トシゾウ、マヤ、ポルトスの三人は知らないが、『勇者召還』の二十日前から一週間前に掛けて王都ラフレシア及び周辺都市で冒険者ギルドを狙った自爆テロ合計三件あった。
この世界にも自爆テロは存在した。残念ながら。その情報はトワイライトの元にも王都の自爆テロに関して目撃情報が入っていた。
内容は痩せた顔色の良くない四十代位の男がマントを羽織ってギルドに入ってきた。
受け付けカウンター手前で止まった。そこに居合わせた『危険関知』のスキルを持った冒険者が不審に気付き近づいて声を掛けると、魔法の巻物を取り出し破いた。一舜の間が空き爆発が起こる。
幸い、大盾職の冒険者数人が受け付けカウンター手前で受付嬢の盾となり被害を押さえ怪我人が数人で済んだ。死者は自爆者一名であった。他の二件でも死傷者が出ている。
そんな事もあり、冒険者ギルドは警戒態勢が敷かれていた。
受付嬢とトワイライトは少し歩いて事務所の隅の場所に着いた。
「では、こちらに置いて頂けますでしょうか?」と受付嬢。あれから少し歩いただけだがもう平常に立ち直っている。そこは流石にプロという処か。
言われた場所にトワイライトは手持ちのバッグから出す様に見せかけてアイテムボックスから鉄鉱石が一杯詰まった麻袋を四つ置いた。置いて直ぐに受付嬢に
「壁の掲示板に有ったゴブリンとホブゴブリン討伐のクエストなんだが」と掲示板に貼ってあった紙を剥がして持ってきていて其れを見せながら
「薬草採取中に襲ってくるゴブリンとホブゴブリンを討伐した。証の為にホブゴブリンの死体を持って帰ってきたが何処に置けばいい?」
「ホブゴブリンの死体ですね。賢明ですね。ゴブリンとホブゴブリンは首飾りや持ち物では区別出来ませんので死体が有ると討伐の証明は出来ますね。」と言いながら別の方向を見る。誰か同僚を捜している様だ。
「ジーン君、この方をモンスター解体所までご案内して。」と同僚の事務員に案内を依頼した。
改めてトワイライトに向かって「モンスター解体所で死体は与ります。検証して問題なければ達成になりますが、後でカウンターの方でクエスト受託の記入をお願いします。」と言われて。
「了解」と答えてモンスター解体所へ案内して貰った。
出た扉から三分ほどで戻ってきた。
「では査定致しますので広間のカウンター前でお待ち下さい。十分もあれば確認取れると思います。」と言われてトワイライトはトシゾウ、ポルトス、マヤの居るカウンター前に戻っていった。
トワイライトはカウンターに戻って、クエスト受託の手続きをしながら査定を待った。
直ぐに査定は終わり達成許可が下りた。
四人は二枚のクエスト依頼書を見比べながら、採掘の方の達成経験値は戦闘経験値500Expで、ゴブリンとホブゴブリン討伐は戦闘経験値1500Exp貰える。レベル2から3に上がるには1000Exp必要なのだ。
採取の方を先に達成すると残り500Exp足りないが、討伐の方は3に上がって500越える。先に討伐をクリアしてレベルを3にして大盾に転職して残りを受け取った方が得なので先に討伐クエストを達成報告する事にして、各員銀貨60枚と1500Expを取得した。
トシゾウ、マヤ、ポルトスはそれぞれレベル3に上がった。トシゾウとポルトスは戦士レベル3に成り派生職『大盾』がアンロックされた。
手順書を見て確認。多少の違いはあるが順調に進んでいる。次にポルトスとトシゾウが『大盾』に転職する。アビリティを取得する為である。
ポルトスとトシゾウが大盾職のアビリティの『防御力上昇+』を取得。
ポルトスが、『防御力上昇+』の横に『防御力+』を見付けたので質問してみると、こちらはレベルアップ時ではなく、防御力に一定量上乗せするアビリティで、ポルトスもトシゾウも取得した。
そして、最後に鉱石採取のクエストを達成報告し、全員で金貨五枚と銀貨三十枚そして、戦闘経験値500Expを取得した。
まずトシゾウがスキルを取得する。『盾術』盾術が上がると盾の扱い・盾での攻撃力が上がる。
『フォースシールド』大盾で受けた時に衝撃波を発する。
『シールドエンチャント』大盾に状態異常を付与する。攻撃を大盾で防いだ時に攻撃側は状態異常の%数値が蓄積していく。盾で殴った時にも有効。
『挑発』自分への敵視を増加させターゲットを自分に奪う。
『シールドバッシュ』盾で殴る。敵視も上がる
ポルトスは面倒くさいので「トシの取ったスキルと同じでいいや」と同じ物を取った。
最後に、マヤは魔法の呪文『ストーンバレット』と『ファイアーブリット』、『ストーンウォール』、『ヒートネット』、をとりあえず取った。
最低限すべき事が終わって、受け取ったお金を仕舞った時点で、受付嬢から「あ、終わりましたか?では、通知します。今朝一番で『緊急事態クエスト』が発令されました。総動員令です。」
ポルトスはカウンターに身を乗り出しながら「どれどれ」と興味津々な表情。
そのポルトスにトワイライトは「そんな期待するモンじゃないよ。今朝話したジャン。」と耳打ちする。
ポルトスは「あ、そうやったか?」と今朝何処まで話しを聞いていたか疑問。
トシゾウは”話しを聞いてから・・”って顔で聞く体勢。
受付嬢はA3位の大きさの羊皮紙を広げて『バン』と見せた。
其処には、『緊急事態クエスト』て表題の依頼書だった。副題は『オーク肉収穫祭』
内容:☆大行進を止める。 ☆オークを含む魔物の討伐・殲滅。
クエスト報酬:戦闘経験値2,000Exp、銀貨八十枚。副賞:オーク肉及び、獣肉一定量(換金可能)。及び初級転職許可書一枚。
レベル不問。参加職種:大盾(気絶盾)、アタッカー(重戦士、戦士、魔法使い、槍兵他)、ヒーラー。※魔法使いは火気厳禁。
参加受付場所:エルフの里『ミコライウ』入り口広場。
開始時間:明朝午前十時。 司令官:新撰組副長 土方歳三
主催者:シェイクスオード・オガミ伯爵公子
備考)明朝十時厳守。現地集合。クエ受け、装備点検、軍需雑貨忘れずに。最寄りの街『セイロン』より昼夜通して有料のシャトル馬車運行。参加受付は現場の日の出より行います。大規模戦闘の想定で参加して下さい。と書いてある。
受付嬢は名刺サイズのチケットを四人に配りながら、「はい、参加チケットです。」と笑顔で押しつける。
トシゾウ達は主催者側なので断る理由が無く結局四人ともクエストを受けて冒険者ギルドを出た。
屋敷に一旦帰りながら「大盾の装備無いけど防具屋へ行かなくて良いのかな?」とトシゾウとポルトスは、「買いに行くのを忘れているんじゃないか?ポーションも昨日コボルドに渡してきたし。」と相談している。
「今回、多分・・間違いなく『ミコライウ』の里で支援バザーが立つと思うんだ。」とトワイライトは当てが有る事を明かす。
「へぇ」とポルトスは馴染みがある言葉らしい。
「バザー?」マヤとトシゾウはピンと来ない。
「会戦や局地戦、イベント等で戦う連中が使う武器、防具、ポーション、雑貨等必要な物を割安で売って支援している人達が居るんだ。イベントが発生したら市が建って人で賑わって・・お祭だな。」
そのお祭が好きなのかトワイライトは話しながら少し笑顔になる。
「今回はモンスター相手の討伐クエストだが、商人ギルドの連中も参加する。連中は戦闘職の参加者に防具や、武器雑貨等を売ったら支援行動として『功績有り』と見なされてクエスト達成に成るんだ。戦闘が得意でない商人職の人達にとって数少ない戦闘経験値が貰えるイベントなんだ。」
「でな、商人の職業で上位転職する時に、人気の上位職は戦闘・冒険者レベルが要求されているのが有るから、間に合うなら多少無理してでも、商売ほっといても駆けつけてくるヤツがまあまあ居るんだ。商人の生産職の人達には普段作った物品の在庫一掃、売り上げが立つ嬉しい機会でもある。で、そんな奴等がクエストが終わったら祝勝会とか言って持ち寄りで、宴会開くんだ。それが楽しくて生き甲斐にしているヤツもいる。」
「へぇー。ほんまかいな・・。商人職ね。」とポルトスとマヤは聞く事が新鮮で知る事で楽しんでいる顔だ。
「クエストで貰える戦闘経験値は戦闘職の半分程だが、多くの商人にとって不得手な戦闘のリスク無しで貰える戦闘経験値は魅力らしい。」
トシゾウは「戦闘経験値で釣って、兵站・補給の替わをさせるのか。」と感心する。
トワイライトは流石トシさんって顔しながら
「そうさ、主催者側も食料や防具・雑貨等本営で足りない物を発注している。その『配達クエスト』と『緊急事態クエスト(支援者用)』の両方を受けて行くと効率が良いし、現地バザーで武器や防具等を買ってくれた人が商品を気に入って呉れて親しく成った話しは聞く。」
一息入れて続ける「逆に、商人達が現地で親しくなった冒険者や傭兵などの戦闘職に商隊の護衛や荒事の依頼をしたり交流・出会いの場にもなっていて、活気溢れているんだ。皆は『お祭』って言って楽しみに来ている人が多い。」
ポルトスは「そりゃー、楽しみだな。」と神社の夜店に行く前の子供の様な顔をしている。
トシゾウは横でウンウンと頷いて同意している。マヤもワクワク顔である。
「じゃあ、今回は現地行ってから装備や雑貨揃えるで良いんだな。」とトシゾウが確認する。
「ん、そうしよう。バザー見て回るのも楽しいよ。」
と喋っているうちに屋敷の外門まで来た。馬車が二十五台と騎兵一個小隊(三十五名)が出発していった。先発隊である。
屋敷の入り口でシェイクスオードが、護衛一個班(十名)と共に先発隊を見送った。
先発隊を送り出した後トシゾウ達四人に
「俺は本来今日と明日するべき仕事を今日中に終わらして出発する。先に行ってくれ。現場の事はトシさんとトワイライトの指示に従えと先発隊には指示してある。現場を頼む。」と言い残して執務室に足早に戻っていった。
トシゾウとマヤとポルトスは、アイテムボックスに入っている鉱石を屋敷の中庭の壁沿いで全部取り出して積み上げた。鉱石を全て出しアイテムボックスを空にした。
トシゾウ達四人は支度をして、馬車一台、馬三頭に乗ってエルフの里『ミコライウ』に出発した。屋敷に戻って三十分後にはもう出発していた。
『お祭』と呼ばれるイベントを楽しみにして。
次回、モンスター大行進
君はオーク肉を食べる事ができるか?