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【004】 冒険者デビュー

冒険に出るまで意外とやる事が多いです。準備は時間が掛かるが大切。

まずは冒険者デビューを果たした歳三だが、戦闘になるとどうなる?

剣豪と言われた土方歳三たたかえるのか?

 此所はフローレンス・ランス王国の北西部グレイ州オガミ辺境伯爵領の関所街セイロン。

街の中心部の街役場の隣の屋敷。

広い敷地に建物は普通の大きさの館が有り前庭には荷物満載のままで馬が繋がれていない馬車が多数、綺麗に整列して並べられてあり壮観なのである。

朝露が草の上に水玉が載りキラキラしている。その光景に東の横側から朝日が差している。

 館の入り口から門まで石畳が敷いてありその道と館の入り口付近の馬車の止められていない部分で人が大勢で整列して踊っている。朝っぱらから変な踊りを踊っている。声も聞こえる。数人が「浅い前屈ー。1、2、3,4」と声を上げる。

大勢の人達が「5、6、7、8」続いて

「2、2、3、4」

「5、6、7、8」

「膝回し。1、・・・」どうやら朝の整備体操の様だ。

シェイクスオードの近衛中隊や捕虜のゴールデン・バーボン隊の者達が入り交じってやっている。

日本人ならこの様を見て「ああ、朝のラジオ体操ね」と言うであろうソレに近い光景である。

 そこで、館の戸が開きトシゾウの髪が寝癖で爆発している頭を出しキョロキョロと辺りを覗う。

聞きつけたのだろう気になってやって来た様だ。多くの兵士が整然と並んで整備体操をやっているのを見て驚いた表情をしてから薄笑みを浮かべた優しい表情に変わった。

首を傾げて興味津々な顔をして体操をやっている皆をみている。整備体操をしている皆からトシゾウは丸見えで|夫々≪それぞれ≫が体操し|乍≪なが≫ら

”あ、トシゾウさん起きたんだ。”とか

”すげーな髪の毛寝起きバリバリだな(笑)”思い思いの感想で顔が緩んだ。

 館の入り口出た所でトシゾウが興味津々な顔つきで皆のやっている整備体操の動きを見様見真似で真似しだした。

『膝の屈伸』松葉杖を使い片足スクワットになったが何とか出来た。

『首の回旋』『体側』と続きその次の『上体の回旋』で松葉杖の先が滑って転けた。

並んで体操している兵士の中から「あああ。」と所々で声が漏れた。トシゾウは”仕舞った”って顔しながら直ぐに起きて上がり松葉杖を駆使しながら体操を続け、終了までにあのあと二回転倒した。

 体操が終わると解散し皆バラバラと帰りだした。トシゾウの横を通って入り口から館に入って行った。

シェイクスオードの兵士達はトシゾウに「おはよう御座います!」と挨拶する者、会釈する者様々だが、皆一様に好意的な表情である。

 ドツボな撤退戦の殿という危険から解放してくれたというのが大きいのだろう。

”いやー、無事に帰ってこれてラッキーだよトシゾウ様々だよ。”と思っている兵も少なくない。

トシゾウは皆挨拶してくれるし愛想が良いので状況は飲み込めてないが機嫌が良い。

其処にゴールデン・バーボン隊の隊員が駆け寄ってきた。

「トシゾウさん意識が戻ったんですね。」リトルジョンが満面の笑みで近寄ってきた。

リトルジョンの他に三人が一緒だ。

 トシゾウが四人と喋っている所にマヤと懐いている小型犬が抱っこされて館の入り口からでてきた。トシゾウが寝床に居ないので探しに来たのだ。

トシゾウを見付けて近寄ろうとしたが、他の人達が入り口から館の中へ帰って行く流れが有るので一寸距離を置いてトシゾウが会話をしているのを見守る感じで立っている。

帰り行く人達のおおくはマヤを見ながら”綺麗なお嬢さんだなー”と思っているのか顔がニヤけている人が多い。

 リトルジョンを前に「おお、おはんは確か・・」

顔に見覚えはあるが名前が思い出せないトシゾウである。

「はい、ゴールデン・バーボンのリトルジョンです。シェラの戦いで包囲されて『死なすには惜しい降伏しろ』って助けて貰った。」

とまるで昔からの友に会った様な笑顔で喋ってくる。

トシゾウも混乱した記憶の中でリトルジョンの話で記憶の断片が繋がりその部分を思い出した。

「そやった、そやったねー、『隊長が気絶しちょぉ』っち笑いばさそて、そん場の張り詰めちゅう空気ば和ませ交渉出来ゆう雰囲気ば作ったちゃ『お手柄の若者』ですろう。」

トシゾウの話し方が変だ。勇者召還前の土方歳三だったら『そうか』で終わってただろう返事が、別人の様に『気の良い人』の喋る台詞だ。

更に何処ゾの方言も入っているが、本来知らないはずだ。いや、京の都の壬生に居る時の記憶の隅に一部の藩士と話した時に聞いた事は有ったかも知れないが・・。

マヤの抱えている小型犬が渋い顔をし出した。怪しい目で見ている。

「トシゾウさんの言ってる事が全く判らん(笑)」と珍しく笑いかけのヴィックモロー副長が喋った。

「おお、おはんは目ば開けちゅうまま気ぃば失のうちょった副長ばい」

ニコニコ機嫌の良いトシゾウが何故かヴィックモローの事を覚えていた。

 渋い顔のままの小型犬がマヤの抱っこしている手を振り解いて地に着地した。小型犬はブツブツと小声で

”寝起きでお笑い、大ボケ、天然が発動してる様だが”と独り言を思いながら、トトトとトシゾウの足下まで小走りで近づいた。

猫みたいに軽い身のこなしでトシゾウの脚、腰、背中と駆け登り肩に乗るのかと思った瞬間。

トシゾウの頭に直接『ええ加減目覚まさんかい!!』と声が伝わり同時に小型犬が『猫殴りパンチ』でトシゾウの頭を叩いた。『スパーン』と音がしてトシゾウの頭が左に傾いた。

『ボコ、カラーン』と中で何かが跳ねる小さめの音がした。

トシゾウの耳から黒い球の様なモノが跳ね落ちた。それは地に落ちて転がった後、ダンゴムシが丸まるのを解いた時の様に平たく体勢を変えゴキブリ以上の速度でカサカサと逃げ去っていった。

小型犬は”バグだ。あいつか?悪さしてたのは?”と逃げ去る虫を睨んでいた。トシゾウの前に居た四人は唖然と見ていて何が起こったのか解らない。

 トシゾウの背後にいたマヤは「虫嫌い」と呟きながら少し仰け反りながら嫌な顔していた。

 「あら?」視界がいきなり傾いたトシゾウは状況が理解出ず、一瞬後痛さに頭を抱えて蹲まった。

その蹲った横で普通に着地した小型犬は殴った右手を顔の前に持ってきて息をフッと吹き掛けて”また詰まらぬモノを殴ってしまった。”と言いたそうな顔をしている。

動き、身の軽さから猫と思ったウォルトンが唖然としながら「猫すげー」と呟く。

小型犬は「にゃん」と言う。

ヴィックモローは「えー?どう見てもコレわんこじゃん。(笑)」と突っ込む。

小型犬は慌てて焦って「ワン」と言う。ヴィックモロー、リトルジョン、ウォルトン、ロナウドの四人は「にゃん」と言った動物が「ワン」と言ったので”今、にゃんと言った?”と思いながら混乱した。

 トシゾウは耳元で”仕舞った、釣られた”と聞こえて周りを見る。

マヤと目が合いお互いニコとする。”マヤの声じゃなかったよな”と不思議がるトシゾウ。

 小型犬はソソクサと逃げる様にマヤの元に行き抱っこして貰った。

トシゾウと他四人は|夫々≪それぞれ≫別な事で状況について行けず、変な間が流れた。

 リトルジョンが”こんな、変な間は嫌”みたいな感じで「たしか、自己紹介未だったと思います。改めて・・」

まず副長ヴィックモローが手を出した。「ゴールデン・バーボン傭兵隊の副長のヴィックモローです。」

トシゾウは一寸考え事とする様な仕草をしながら「・・・土方歳三です。よろしく」

トシゾウは新撰組副長だった事を思い出せていないので最初少し間が開いた。

「同じくリトルジョンです。」

「同じくウォルトンです。まだ何処かお加減良くないんですか?」

「んー。腰や背中が・・・、筋肉痛かな?」

「私はシェイクスオード様部下で近衛中隊のロナウドです」

トシゾウは次々と握手しながら「あ、ロナウドは昨日挨拶しましたね。」

「正確には一昨日です。良かったですね。三人さん心配してたトシゾウさんが意識を取り戻して。」

ヴィックモロー、リトルジョン、ウォルトンの三人は”良かった。良かった。”って顔で頷いている。

トシゾウは「え?」って顔で頭の上に「???」が並んだ。トシゾウの心中は”え?昨日じゃないの?”と疑問。

ロナウドはにこやかな顔で「トシゾウさんがこのリトルジョンと降伏の条件で話したの一昨日なんですよ。」とリトルジョンの方に指を差した。リトルジョンは自分に人差し指を向けながら「うんうん」と首を縦に振っていた。

「途中から覚えていないが、ロナウドさんとあの|益荒男≪ますらお≫共が一緒にいるという事は無駄死にはせず生き延びたという事だな」

「はい。あの時に降りました。それから二日経ちます。つまり、昨日一日寝たきりだったんですよ。一昨日交渉の直後に倒れてからずっと。そして馬車に揺られて街に着きこの館で泊まりました。長い時間寝たきりで馬車の荷台は床堅いから背中も痛くなるかも知れませんね」とロナウドが説明した。

トシゾウは暫し考えて「うん。分かった。それでか、腰や背中が痛い。しかし、今の体操で一寸マシになったが。」

ロナウドがニコッとして”そうでしょう”と言いたげな顔をして

「整備体操ね。朝や衛兵の勤務最初にやっとけば、体が|解≪ほぐ≫れて怪我や故障が減るんです。軽い肩こりや腰痛なら治ります。」

「ほうー。それは良い」

リトルジョンが人懐っこい笑顔で「トシゾウさん、義足付けたら松葉杖無しで楽に体操出来ますよ。」と言った。体操中に何度か転んでたのが気になったみたいだ。

「ギソク?」

「はい。脚の失った部分を木の棒や鉄のブーツで代用して何とか二足で歩ける様にする器具なんです」

「お?。そんな物があるのか?」


トシゾウの居た日本の幕末1868年の4月にアメリカから取り寄せた義足を横浜で外国人の医師が歌舞伎役者に使った記録がある。これが日本で最初の義足らしい。四月と言えば時期的に丁度、江戸城無血開城のあたりである。勿論トシゾウは知らない。

「ええ、多少慣れるまで違和感や痛みがあるって聞いた事有りますが、戦いで脚失って引退した兵士、冒険者で使っている人居ました。」

「へー。普通に歩けるのか・・。見てみたいな。」

「多分、防具屋で偶に置いてる所有りますね。」

「分かった、のぞいて見よう。」

「合うのがあると良いですね。」とニコッと微笑むリトルジョンは人が良い。

ロナウドが話しの切れ目を待って食事に誘う。

「マヤさん、トシゾウさんもうすぐ朝食ですよ。食堂に急ぎましょう」

ロナウドに先導されてゴールデン・バーボンの三人とマヤとトシゾウの六人は他の整備体操していた連中から遅れて食堂に入った。


 大きな食堂に大勢の兵達がギッシリと座っており食事を取っている。ガヤガヤと賑やかで時折「パンとスープはお代わり自由だよー!!」と中年の食堂のおばちゃんの声もする。

 広い食堂の奥の壁に出窓があり其処からおばちゃんとメイドが五人居てその出窓の奥は広い厨房が有るのが伺える。

その出窓に次々と食事の皿が載ったトレイを持つ兵が流れてくる。兵達は壁際に列を作って出窓で食べ物を注いでいるおばちゃん達の前に向かって流れていく。

 ロナウドが、部屋の壁沿いに出来ている行列を指さし「あの行列に並んで食事を貰うんだ。」と言って一行を連れて行く。

一行は行列の最後尾に着くまでに何台ものテーブルのそばを通る。

一テーブルには兵が相席で八人座っており、トレイにはスープ、パン、目玉焼き、焼いた厚切りのベーコン、申し訳程度の少量サラダ、コップに入った牛乳が載っており見た限り朝から豪華である。食堂内には二種類の服装がある。

 一種類目はロナウドの部下でオガミ家の兵士の制服を着ており仲間とお喋りしながら優雅に食べている。二種類目はゴールデン・バーボンの隊員で作業着を着ている。そして黙黙と嬉しそうに食事に集中している。

そして、ゴールデン・バーボンの隊員たちは決まってお代わりをする。その食べっぷりは見ていて気持ちが良い程である。六人はそのテーブルの横を抜けて行列の最後尾に加わる。

 ココの食堂に居るオガミ家の制服を着ている者達は誰も捕虜を蔑視したり、いちゃもん付けたり、意地悪したりする者が居無い。此所に居るのはオガミ家の中でも選りすぐりのシェイクスオードの近衛中隊の兵達。

この者達は当然の事ながらシェイクスオードを敬愛しており、シェイクスオードの考え方、行動の基準を良く心得ていると自負しているし、そうあろうと心がけている。

その理由は十年前シェイクスオードの近衛隊が組織された時に、自分達の思いもよらぬ事や習慣に無い事をシェイクスオードが隊の規則として設けられた。

最初は皆「非常識だ!」とか「理解出来ん!」「何を言う若造が綺麗事を」等の疑問や反対の声が多かった。

だが、シェイクスオードは転生者であり昭和・平成・令和の日本に生きた記憶がある。当時の日本のモラル・常識・知識は異世界であるこの世界に生きる人にとって困った時、苦しんだ時に心に染みる内容が幾つか有った。

そして時が経るにつれて「そうしていて良かった」「結果的に気持ちの良い終わり方が出来た」

等の事例が増えていき、『綺麗事を言って』と陰口を叩かれてても綺麗事のまま遣り切りってしまえば格好良く輝いて見え、今では部下から絶大な信頼を得ている。

 今回もゴールデン・バーボン傭兵中隊に対して「シェイクスオード様が要るというなら、必ず要るんだろう。」とか

「ゴールデン・バーボンの連中は確かに良く出来そうな奴等だが、俺には分からん。だが、ワシはゴールデン・バーボンを信用する若様を信じる。若様がええと云うならワシはそれで良い」

といった事を言う者も出て来て居る。兎に角この近衛中隊はシェイクスオードと一心同体で在ろうと心がけているのである。

”シェイクスオード様が期待しているのなら我らも期待する”と。故にこの中隊がゴールデン・バーボン隊と一緒に宿泊し厚遇を良しとしたのである。食堂で捕虜に会っても温かく接してる兵が多い。

 そして一行の六人が出窓の手前まで来た。壁際に小さなテーブルがありその上にトレイが山積みで置いてある。

先頭のロナウドはトレイを一つ取って、直ぐ後ろのヴィックモロー達にも取る様に身振りで伝えた。スプーンとフォークをトレイの手前の部分に置き、お皿も三枚トレイに載せながら少しずつ進む。

続いてヴィックモローがトレイを取る。トレイにスプーンとフォークを載せて、動きが止まる。

一度後ろを振り返ってトシゾウの方を見てから、リトルジョンに小声で何かを告げた。

リトルジョンは元気に「はい、副長。分かりました。」と言ってから振り返りトシゾウに「トシゾウさんの食事も一緒に貰って来ますので、先に席座ってて貰って良いですか?」と愛想よく言う。

トシゾウは全く失念してた様に「へ?」って顔しながら自分の右足左手が無く右手は松葉杖で使っていてトレイを持てない事に気が付いた。顔が理解したって表情に変わり「すまん、世話になる」

「何のこれしきお安い御用ですよ。」と愛想が良い。

トシゾウは列から離れ開いてるテーブルに向かった。

その後、トシゾウを除く五人は食事を注いで貰いリトルジョンは自分のトレイを右手にトシゾウのトレイを左手に持ってトシゾウの居るテーブルにやって来た。

皆で手を合わせて『頂きます』をしてから食べ出した。

ゴールデン・バーボンの三人は美味しそうに、嬉しそうに黙々と食べている。

マヤは普段から余り喋らない人なので黙って食べている。トシゾウは食べる時は必要がなければ喋らないが相当腹が減っていたのか「美味い」と何度か呟いていた。

ロナウドはお喋り好きなのだが周りに合わせて静かに食べている。

八人掛けのテーブルなので二席空いている。そこにトワイライトとシェイクスオードが「お邪魔するよ」と空いてる席に座った。

二人も手を合わせて『頂きます』をして食べ出した。二人ともベーコン、サラダ、目玉焼きをパンに挟んでサンドイッチにしてかぶり付く。トワイライトの方が食べるのは早いが、サンドイッチにした分シェイクスオードも周囲の兵より食べるのが早い。

 周囲が黙々と食べている中トワイライトが「トシさん、食事終わったら冒険者ギルド行こう思っているんだけど」

「冒険者ギルド?」

「うん。詳しくは飯の後にシェイクの部屋で説明するよ。」

「うん。分かった。俺も行きたい所があるんだ。武具屋だ。義足を見に行きたい。」

「あ、なるほど。義足は要るね。一緒に行こう。」

食べながらトワイライトがシェイクスオードを指さして「シェイクは避難民の行政対処で忙しいから一緒出来ないが、俺空いてるから一緒に行くよ。マヤちゃんもポルトスさんも一緒に行こう。」

マヤは小型犬に『そらちゃん』と名付けたようでそらちゃんに厚切りのベーコンをあげながら目を見て無言で頷く。

ポルトスは食べながら空いている左手を軽く挙げて『了解』の合図をした。

その時既にトワイライトはサンドイッチにした食事を食べ終わって最後に牛乳を飲み干した。

「あと、ゴールデン・バーボンの三人さん美味い物をたらふく食ってくるのを期待してます」ニコっと愛想笑いしながらトレイを持って席を立つトワイライト。

少し遅れてシェイクスオードが牛乳を慌てて飲み干して席を立つ。

「相変わらず早いよな」と独り言を言っている。周りにいるゴールデン・バーボンの三人やロナウド、マヤは半分食べた処ぐらいだ。

リトルジョンが半笑いで「いや、シェイクスオードさんも負けず劣らず早いですよ」を突っ込む。

シェイクスオードも薄笑みを浮かべつつ片手を”やあ”って感じで上げて

「まあ、俺達サラリーマン遣ってたからなぁどうしても早くなる、職業病みたいなヤツだ。」

と言って食器を洗い場に返して食堂から出て行った。他人よりも遅く来て他人よりも早く食べ終わって去っていった。

ヴィックモローは「サラリーマンってなんだ?」と問う。

ウォルトンは首を捻りながら「さぁ?」。

 ヴィックモロー、リトルジョン、ウォルトン、ロナウド、トシゾウ、マヤの六人には食堂のワイワイガヤガヤとしている中で食べる朝食は美味しかった。


 食事が終わり小一時間経った午前8時、前庭に馬車四,五十台と捕虜のゴールデン・バーボン隊が集まり整列していた。

副長のヴィックモローが隊員の前で命令を伝え「よし、乗車開始」の命令で素早く馬車に分乗していった。

最後に先頭車両にヴィックモローとロナウドが乗車してすぐ馬車の一隊は出発していった。

シェイクスオード、トワイライト、トシゾウ、マヤ、ポルトスはその出発を館の前で見送っていた。

その後シェイクスオードの執務している部屋の横、の応接室に入った。シェイクスオードは執務が忙しいので抜けたが、トワイライトと亜里砂が、トシゾウ、マヤ+そらちゃん、ポルトスがいる。

トワイライト以外はソファーに座って、トワイライトは給湯室で紅茶を淹れて皆に出した。

出しながら「勇者トシゾウと英雄のお二人に現状を説明しておきたい。」

紅茶を出し終えたらトワイライトも空いているソファーに座って喋りだした。

「まず、勇者はこの世界のおとぎ話に出てくる。勇者は英雄を従え人々を苦しめる悪い魔王を倒し平和を取り戻す。・・・なんだ。」

トシゾウは”なるほど桃太郎の鬼退治みたいな話しだな。”と思い話しの続きを聞く。

「しかし、勇者も英雄も最初から強いわけではない。今のトシゾウさんやポルトスさんみたいにレベル1や2で魔王や手下の魔族に戦いを挑んでも返り討ちに遭って無駄死にするだけなのです。

まずは弱い敵と戦ったり、簡単な依頼を達成して経験を積みレベルを上げて実力を高めていって欲しいのです。此所まで良いですか?」とトワイライトは三人を見る。

トシゾウは頷きながら”武者修行が必要なのだな”と自分なりに理解する。

マヤは普通に頷いている。ポルトスは左手をジャンケンのチョキに似た指の形でゆっくり手を挙げ『了解』の意志を示した。

トワイライトは淡々と続きを喋り始める

「実力を高める手段だが、人に害を成す魔物を狩る討伐や駆除、薬草や鉱石などの採取、調べ物の調査や捜索等、様々な合法的な依頼を受けて遂行する者をこの世界では一般的に『冒険者』と言う。

その冒険者に成って自分に合った分野の技能を磨いていき実力を高める。そして依頼を達成すれば収入も得られ其れなりの生活が出来る。

その遙か先に魔王討伐への道が見えてくるはずです。」

三人とも反応が薄い、話しに付いて来ているか微妙だ。

「取りあえず、まず遣る事は『冒険者ギルド』に行って冒険者登録をする。職業を決める。職が決まってから装備を調えよう。

冒険者に成っていれば色々と優遇措置が有って便利なんだ。街への出入り等も簡素化されて楽になる。街の入場料免除とかもある。」

 三人は目の前の遣る事が見えて立ち上がった。

一呼吸置いてトワイライトも立ち上がり

「その前に、武具屋で義手・義足を探そう。」三人共頷いてボチボチと部屋を出た。トワイライトと亜里砂もその後に続いた。

 廊下を歩いてロビー付近の広くなった所でシェイクソードと会った。昨日執務室にいた事務方のメンバー数人と出会ったのだろう、避難民の今後の扱いについて打ち合わせしている様だ。

「出来るだけ、村単位でコミュニティをそのまま維持して入植して貰おう。それを基本にしてだな、そこから離れたい人、そこの村社会に合わない人等を削って、大まかな集団を作り、削った人間を別の集団に当てていってみよう。

あくまでも抽選の結果という名目でね。スピーディに行こう。避難民達は時間が経って待たされている感が募ると不満が湧いていくるからな。」

「はい。判りました。後一点ここの・・・・」と忙しい様だ。

話が終わると、その後も「忙しい、忙しい、忙しい!」

と呟きながら遠ざかっていく。本当に忙しいんだろうけど口癖に成っていそうだ。


 一行五人は門を出て避難民キャンプを避けて少し遠回りをしながら冒険者ギルド横の防具屋に入って行った。

「親父、じゃまするぜ」と案内していたトワイライトが先頭で入った。

店中は広いが陳列棚で四つの筋に区切られ所狭しと商品が置いてある。

正面の突き当たりにバーのカウンターのようなモノが有り、その中には防具屋の主人らしき男が居た。

典型的な武器屋のおっちゃんの容姿である。ゴッツイ体、マッチョで濃い髭ズラに四角い顔、髪はそこそこ有り禿げてない。

おばちゃんが喋る様な「いらっしゃい」の声が出ると反射的にボディービルダーの決めポーズで決める。

「あーらお兄さん久しぶりねぇ、どう景気は?」

「ぼちぼちでんな」

「そーお、ぼちぼちですのね?。よかった。嬉しいわよ元気な顔が見れて、昔なじみの冒険者の悪い知らせが最近多くてねー。」と親父は半分ぼやきながら嬉しそうに歓迎してくれた。

亜里砂もトワイライトの後ろから顔を出して「よ!!おっちゃん。」と右手をチョップの形で挙げて親しそうな笑顔で挨拶した。

お決まりのぼけた様な返事「だれだっけ?」親父の顔が真顔に戻り、マジなのかボケなのか分からない。

亜里砂はムッとした顔で「亜里砂よ亜里砂!!こんないい女を忘れるなんて信じられませんわ」

と腰に手を当てツンとそっぽを向く。

「そうだった。そうだった(笑)。姉ちゃんも元気そうで何よりよ。で、今日は何の用なの?」

トワイライトが愛想スマイルのまま考えつつ喋る「後で装備も欲しいんだが、先に義足と義手を見せて欲しい。どんなのが有るかな?」

「義足と義手ですの?・・・」と防具屋の親父は松葉杖を突いているトシゾウに目を遣った。「あ、貴方未だ若いのに酷い目にあったのねぇ。」可愛そうにって口調からここで嬉しそうな口調に変わり

「って、頭寝癖で爆発してるけど、イケメンじゃないのさー。そのお兄さんの義足を探しているのかい?」

「そうだ。こっちは義手義足に付いて知識がないから親父のお勧めを見せて貰いたい。易しい説明も付けてほしい。」

「分かったわ、こっち来てくれる。」と店の正面のカウンターに向かって右手の奥の筋に向かった。そして下の方の戸棚からまず三つ義足を出した。

「義足には三種類有るわ。まずコチラ、グリーブという鉄のブーツを使った物。反対の脚に普通のグリーブを履けば義足で有る事を誤魔化せる。社交的な場に出るとか、義足で有る事を気にする方なんかが買ってくれる。ただ、見た目以外の性能で使い勝手や歩き易さ等は最低。」

皆、フンフンと真剣に聞いている。アクビをしているのはマヤに抱かれている小型犬のそらちゃんだけ。

トシゾウが「見た目は気にしないな。」と言葉を返す。

「なら、このタイプは止めといた方が良いわね。」と親父は言い次の義足を取り出す。

右手には棒切れみたいな物、左手には右手のヤツをもう少し複雑にした感じの物を掴んでいる。

そして右手の物を持ち上げて、

「これはシンプルなヤツよ。脚の切断された部分をこのソケットにはめ込んで、ソケットの先に付いている棒が脚の失った部分の変わりをするのよ。棒の先にはゴムが付いていて滑り難くなっているわ。

慣れれば、多少は敏捷に動くことや、ステップを踏む事が出来るわ。だけどその分クッションが無くソケットにはめ込んだ脚の付近に炎症や痛みが出ちゃうのよ。機構が単純な分価格は安目よ。」

次に左手の物を持ち上げて、

「此方はソケットに付いている棒が太いのと、普通の太さと二段階になっているわ、この太い部分はパイプになっててバネが仕込んであるわ。

それで先の普通の太さの棒が着地した時にパイプの中に入り込みバネの効果でクッションに成って着地の衝撃を和らげているの。

普通に歩き回ったり立っている事が多いと此方の方が良い反面、踏ん張りが利かず戦士などの回避行動や踏み込んでの攻撃は無理ね。

機構は単純な方だけど棒一本に比べればそこそこ手を加えているのでこっちの方が価格は高いわよ。」

トシゾウは話しを真剣に聞いていて時々相槌をうっていた。

防具屋の親父は一旦話を切り間を開けてから

「百聞は何とかって云うじゃない、試着してみたらどう? 手伝うわよ。」と言って呉れたのでお言葉に甘え試着してみた。

トシゾウは感心した。義足ならば松葉杖を使ってヒョコヒョコと何とか歩いてたのが、コツコツと二足歩行が出来ている。トシゾウは”普通に歩ける様になる。義足とは有難い物だ”と思ったが、トシゾウの直感が

”歩ける様になったのが有難いのではないな、三日前まで普通に歩けていた事が有難いのだな、失って初めてその有難みが判った。”なぜだかそう思えた。

 そして、実際に装着してみて説明にあったソケットを付けた部分に来る痛みはスプリング無しの方で歩いた場合着地の時にジワリ、ジワリとある。

スプリング付きの方は着地の時に圧が掛かるのを感じる程度だった。

手に三十センチ程の棒切れを持ち剣撃を想定した踏み込みを軽く力半分位で遣ってみた。スプリング付きの方は踏み込みの時の大地方向への力がスプリングに吸収しその後反発する。踏ん張りが利かず、更にベットの上で飛び跳ねた時の様にバウンドが起こり上半身が不安定になりとても剣を振れる状態ではない。

トシゾウも”移動・歩行用で実戦には無理だな。”と感じ親父の説明を理解した。

次に棒一本のスプリングが付いていない義足を試した。コチラは何とか軽い踏み込みなら行けそうだが脚のソケットに差し込んでる辺りの痛みが酷い。トシゾウはしゃがみ込み右足のソケットを嵌めてる部分(すね・ふくらはぎ付近)を抱えて「痛ててってて、無理だこれは」と言って転げた。

防具屋の親父も呆れた顔で「呆れた。ソレほど無茶するお馬鹿さんは初めて見たわよー(笑)。だいたい義足ってのはねぇ、本来歩けない人が何とか歩ける位なのよ。踏み込んで剣撃なんて以ての外。いやーイケメンが馬鹿な事するのは嫌いじゃないけどね。」

トシゾウも床に座って苦笑いしながら

「遣ってみないと気が済まない・・。昔はそんなんじゃ無かった気がするんだが・・・。思い出せない・・。」と黙って思案しながら間が空いてから、

「まあ、体験して気は済んだし理解した。」

「俊敏さを要求される、シーフ、ローグ、レンジャー、ハンターは無理ね。でも戦士や騎士辺りなら戦い方を工夫すればギリギリって所かしらね。常識の範囲なら、神官、魔法使いが妥当ね。」

「なるほど・・。」トシゾウは立ってみて義足の様子を見ている。

このタイミングで防具屋の親父とトワイライトがアイコンタクトを取りトワイライトが少し頷いた。

防具屋の親父が|態≪わざ≫とらしく思い出した様に「あ、そうそう戦士の派生職でタンク職の人が使っていた義足で良いのが有るんだけど、見てみる?中古だけど物は良いヤツよ・・。」

「ものはついでだ。見せてくれ。」

「ちょっと待ってて。」

と足下の戸棚の奥からスプリング付きの義足を出してきた。

「着けてみて、スプリング付きのタイプの品質は二ランク上の物よ。二種類のバネで微妙な調整をしてあるの。それと『痛感耐性』と『リトル・エイド』のスキルが宿った魔石がセットされているわよ、豪華ねー。」

と説明を聞いてるとトシゾウも興味が出てきて着けて歩いてみた。着心地は良好。軽いステップなら踏める。感触はスプリング無しに近いが、痛みは殆ど無い。

「これは良い。」と感心するトシゾウ。心の中で合点がいったような納得感がした。

「あら、気に入ってくれた?高いわよ。でもイケメンだから負けてあげる。金貨三百枚」

トシゾウはマヤとポルトスと顔を見合わせた。”そういえばこっちの世界の銭もってなぇな”

と気が付いた。トシゾウはアイテムボックスから自分の財布を取り出し握った分の小判を出した。四枚の小判が机の上に出た。

 武具屋の親父は珍しそうに手に取ってみて「へー。外国の金貨ね?大金貨位の大きさはあるんじゃなーい?、しかしねぇ、この町にはね両替商無いのよー。残念。」

トシゾウは”使えないのか?小判”とガッカリ仕掛けた時にトワイライトが即座に金貨の一杯入った袋をドンと置いた。

「預かっているのが有る。ここから立て替えて使おう。」と笑みを浮かべている。内心では”亜里砂に勝った(笑)”と。

皆の視線がトワイライトに集まる中、亜里砂はアイテムボックスから金袋を出して置くモーションに入る寸前で止まっていた。亜里砂は”負けた・・。”と心の中で呟いき、アイテムボックスから出しかけた金袋を入れ直した。

トワイライトの置いた金袋を親父が開けてみて、

「おお、大金貨じゃなーい。」と目を輝かせている。

 大金貨は楕円形で金貨より何倍も大きく金と白金を使い宝石まで埋め込まれている豪華な硬貨で、金貨百枚分に相当する。

 防具屋の親父は大金貨三枚を取り

「まいどありー。次は義手ね、コッチよ。」と義手が並んでいる棚に案内した。

 義手は余り迷うことなく先に釣り針の様なフックが付いている義手を選んだ。トシゾウが義手と義足を着けて店を後にした頃には一時間が過ぎていた。義足のお陰でぎこちないが何とか歩ける様になって嬉しかった様でトシゾウは微妙にニコニコが顔に滲み出ていた。流石に松葉杖の生活は不便だった。


 次に向かったのは冒険者ギルドで防具屋の横にある。一行は冒険者ギルドには入った。

室内の作りは酒場と同じで、まず入り口から入ると待合室・談話室を兼ねた大きな部屋になっており正面奥がカウンターになっていて受付係の女性が居る。

手前に丸テーブルが左右に四つづつ置いてあり一つのテーブルには椅子が六個周りに置いてある。真ん中は広めに通路として開けてあり、左右の壁際もスペースが広めに取ってあり、掲示板に色々張り紙が貼ってある。

その前で七・八人が張り紙を真剣に見ている。通い慣れた冒険者だろう壁に依頼が張り出されており依頼を物色している。

酒場と違い室内は明るい。大きめの窓は開いており外の光を取り込んでいる。、更に天井から大きめの光の魔石が何個も吊されていて屋外と同じ位明るい。

右に二テーブル、左は一テーブル数人ずつ座ってくつろいていたり、喋っていたりで賑わっている。トワイライトを先頭に一行五人が入ってくると、室内の皆チラッと一行を見るが普通の人に見えたのでそれぞれ行動の続きに戻った。

 一行は奥のカウンターまで進みトワイライトが

「冒険者登録をしたい。」と受付嬢に依頼した。

「はい。登録するのは五名ですか?」と笑顔で聞き返してくる。

「いや、三名だ。俺とこの女(亜里砂)は既に冒険者なので。」とトワイライトは首から紐で衣類の中に入れている冒険者証を取り出して見せた。少し遅れて亜里砂も見せた。

それを見て受付係は「では、そちらの三名様が新規登録ですね。」

とトシゾウ、マヤ、ポルトスの方を見て頬を赤らめながら三枚の記入用紙とペンを差し出した。

 トシゾウは気付いていないが、マヤ、ポルトスを含めトシゾウも年齢18歳位に若返っているのである。

召還前、本来土方歳三は函館戦争当時三十代半ばだったのだが、召還された者は皆十八歳に若返って再出発なのである。

トシゾウは若くて超イケメンで輝いているので、プロの受付嬢でも”はっ”としたのを隠しきれなかったのである。三人はカウンターで記入用紙に記入て提出した。

「申請書類はOKです。次に職種を選択します。まずレベル1で選択出来る職は『戦士』と『魔法使い』『プリースト(神官)』『ハンター』『シーフ』が有ります。

『戦士』は前線で剣や盾で活躍する職。『魔法使い』は後方から魔法を使って攻撃したり戦士の援護をします。『プリースト』は回復役です。『ハンター』は弓を使って遠距離攻撃と罠の設置が可能。『シーフ』は奇襲・軽業と罠の設置と解除等です。

いかがなさいますか?一応紙にまとめてあります。お貸ししますので相談なさってはいかがですか?」

と言いながら説明が書かれた羊皮紙の巻いたものが渡された。この世界では紙が二種類あり、普通紙と羊の皮を紙として使った羊皮紙があり用途や特性に合った使い方をしている。

今回は新人冒険者に何度も貸し出したりするので丈夫さが要求され、かさばるが丈夫な羊皮紙が使われている。

トシゾウ達が説明書を持ってテーブルに移った。三人で説明紙を見て「『自分の能力値で秀でた部分を活かすようにしましょう』だって。」

黙々と三人が自分のステータス画面を見ながら職業を決めた。

 トシゾウは『戦士』、ポルトスも『戦士』で二人とも「当然だ。」と言っている。マヤは『ハンター』を選んだ。各自記入用紙に職業を書き込んでカウンターに提出した。

「まず、ヒジカタ トシゾウさん、こちらの登録機に手を置いて下さい」と受付の横にある登録器具に手を指延べ案内した。トシゾウは案内に従い手を置いた。

「ヒジカタ トシゾウ 男性 職業は戦士を選択で合ってますね。」

「ああ。」

「選択した職業は合わない場合等理由を問わず当冒険者ギルドで有料ですが転職出来ますので心配要りませんよ。」と説明しながら登録器具の操作をして、最後にガチャンっと音がした。

登録器具の向こう側から人差指と中指を合わしたぐらいの大きさで薄い札・冒険者証を取り出し、札の端に穴が空いていて其処に金属の輪っかが付いていて紐を通して首に提げれる様にして差し出した。

「ありがとう。」とトシゾウは礼を言い、差し出された冒険者証を取りあえず首から提げて襟の間からシャツの中に入れた。ボツボツ歩いてポルトスに代わった。

ポルトスも冒険者証を貰い、続いてマヤも冒険者証を受け取った。三人に冒険者証が渡ったのを確認して冒険者ギルドの係員の女性が

「登録は終了です。これから登録後の活動内容と注意事項をお伝えします」

三人は真剣に説明を聞くぞといった顔で頷く。

「まず、等級ですが高い方からS、A、B、C、D、E、Fと七等級あり、登録直後はランク『F』です。

Fランクを維持するにはノルマとして二週間に一度依頼を達成して頂きたいです。二週間以内に一度以上依頼が達成が出来ない場合はギルドの冒険者資格を失います。

また、ギルドの冒険者資格が有効な間は街の出入り、入出国もこの冒険者証で可能です。街に入る時に徴収される入場料も入国料も免除。

定期的に依頼をこなしていれば依頼の報酬もあり長旅を続ける事も出来ます。使い方に次第で凄くお得で便利ですよ。活用下さい。あと、依頼を達成していくと功績点が給ってランクアップが可能です。ランクアップすれば受けれる依頼も増えます。」と一通り説明が終わった。

三人とも冒険者証を受け取ったのを見届けてからトワイライトが

「では、次に『依頼』を受けようか」といいながら

”この地域でランクFで受けるられる依頼は採取以外ほぼ無いだろうけど・・”とこの地域だと依頼の多くははDランク以上なので期待はしてない。

トシゾウはワクワクした気持ちで「依頼ありますか?」とカウンター越しに目の前にいるギルドの女性職員に聞いて見た。

 女性職員はまずカウンターの上に置いてある紙を真剣な面差しでを指でなぞりながら目で追っている。見るからに頼もしそうだ。リストと思われる紙を確認し終わって

「紹介出来る依頼は二件だけあります。両方とも採取の依頼でランク不問です。一つは薬草採取で、もう一つは鉱石採取です。どうされますか?」

トシゾウ、ポルトス、マヤ、トワイライト、亜里砂は顔を見合わせてトワイライトが採取場所を聞いてみた。

説明では薬草採取の方は馬車で一時間移動してエルフの里『ディンバ』のある森の外れで数ヶ所採取ポイントが有る。

其処から一時間移動すれば廃鉱跡の洞窟で依頼の鉱石が採取出来そうなので、上手くハシゴすれば一日でこなせそうだとトワイライトは判断し、四人で受けた。

亜里砂は昼から、シェイクスオードからの依頼が有り冒険者ギルドを出たら別れるらしい。

トシゾウ、ポルトス、マヤ、トワイライトは依頼を受けた。

受けてからトワイライトはトシゾウ、ポルトス、マヤの三人に小声で持っているスキルポイントを確認して貰った。

一般の新人冒険者は成り立てで2か3ポイント位だが、勇者と英雄は初期値から一般人の十倍以上持っている筈なので確認したら三人とも三十以上持っていた。

召還前に得意や技能を多く持っていれば更に多く持っているはずである。更にレベルアップの時にもスキルポイントは貰えるのでトワイライトは積極的に取っていけばいいとアドバイスした。

差し当たって今回、採取の依頼(以後クエストと言います)なので、『薬草知識』、『鉱物(土壌)知識』それぞれ1ポイント使ってスキル取得する事しにた。あと、この町の冒険者ギルドには『採取』、『観察』、『生態調査』『生物知識』、『魔物知識』のスキルが取れる。

トワイライトが言うには「『観察』と『採取』だけは絶対に取っといて。」と念を押す。

『採取』は2ポイント必要、『観察』、『生態調査』『生物知識』、『魔物知識』は各1ポイント。

結局トシゾウは『薬品知識』、『薬草知識』、『鉱物知識』、『採取』、『観察』、『生態調査』『生物知識』、『魔物知識』で9ポイント消費し取得。つまり取れるだけ取った。

マヤもポルトスもトシゾウと同じで9ポイント消費し取れるだけ取得した。


 五人は冒険者ギルドの建物を出た。出て直ぐ亜里砂が「私、仕事が有りますので是で失礼致しますわ」と言って人混みの中に消えていった。

”これから冒険か”とワクワクしている三人にトワイライトが

「冒険に出る前にまず、武具屋で装備を整えて、雑貨屋でポーション類を買ってからですよ」

と言ってさっき義足・義手を買った防具屋連れて行った。中に入ると防具屋の親父がまたゴッツイガタイでボディビルダーの決めポーズをとりながら

「おかえり、待ってたわよー。職業決まった?」

まずはポルトスが言い出す「親っさん、俺は戦士だ。」

「あら、男らしい職業ね。お似合いよ。」

「ふふふん。似合うと言われて悪い気はしないな。今ある装備を出すから見て貰えるか?たらない物や傷んで変えた方が良い装備が有れば教えて欲しい。」

と言ってシェラ野営場で使った防具と武器を出した。

トシゾウがシェラ野営場で錬金術でサイズ直しをした防具である。

出した防具を防具屋の親父が真剣な眼差しでまず、ガントレットを手に取りじっくり観察して「これは、チョコチョコ傷が入ってる程度で未だ未だ使えるわね。此方のグリーブもそうね」とガントレット(鉄製の籠手)の後にグリーブ(鉄製のブーツ)も観て問題なかったようだ。

ブレストプレートや兜もみて

「鎧のブレストプレートは結構傷が付いているわ。しかし大事に使えばもう暫くは保ちそうね。兜もそう。それに比べてこの大剣もうダメだわ大きくひん曲がってるし刃こぼれも酷い、まるで戦場の激戦地で使った後みたい。良くココまで使ったわねって状態よ。」

呆れる表情の親父にたいして驚いた顔のポルトスが

「良く分かったなぁ、まるで見て来たみたいに。」と話が弾む。

この大剣もトシゾウが錬金術で錆落としと補修をした『大剣クレイモア』だった。元々ソレほど良い鉄を使ってなかったようで簡単に歪みだしたが、ポルトスは気にせずに金棒のように使っていた。当に『鬼に金棒』だったのである。

「へへへ。過去に三、四回見てるのよ、こんな風に成った剣を。そして持ち主は皆生き残った。中には怪我したのも居たけどね。だから、あんたも激戦くぐり抜けてきたんでしょ。」

「・・・・」言い当てられて流石にポルトスは言葉お失っていた。

「共に激戦をくぐり抜けて来たんだから、この大剣・相棒に最後に手合わせて心の中で『有り難うお疲れ様』って礼を言いなさいよ。ボロボロに成るまで働いた結果なんだからね。」

ポルトスは少年のような顔つきになって真顔で歪んでボロボロな大剣にパチンと手を合わせて|黙祷≪もくとう≫した。

実際には十数秒しか経っていないが長く感じた瞬間を経てポルトスが目をパチと開けて

「是で良いか?」と神妙な表情で聞いた。

親父の方も微笑みながら「貴方良い子ね、この子(大剣)も”本望だ”って喜んでいるわ。惜しいかな今度生まれてくる時は鋼の剣になっておいでよ。」

と優しい表情でボロボロの大剣に語り掛けながら刀身を撫でている。

ポルトスも感動した顔をしてその仕草を見ていた。

”いい話だなぁ”って顔しているマヤに抱かれている小型犬『そら』ちゃんがピクッとして大剣の方を注視している。

同じ瞬間トシゾウの目も淡く赤い光を宿しながら大剣を見ていた。そして直感的に

”今この剣に魂が宿った。ゴミ同様に成った今頃になって・・・。『仏作って魂入れず』って|諺≪ことわざ≫が有るがその逆で鉄屑に魂が入ったな。|拵≪こしら≫え直したら名剣になる。”

とトシゾウの『神の恩恵』がそう感じさせた。そのトシゾウの『神の恩恵』が発動しているのをトワイライトは背中ゾクゾクワクワクさせながら黙って面白そうに見ていた。

 トシゾウは「なあ、ポルトスその大剣俺が預かりたいがいいか?」とニコリと笑顔。

「あ?、ああ良いぜ。」と答えて親父に向き直って「親父、アレぐらいの剣ないか?」と問う。気持ちは切り替わりは早い。

防具屋の親父はわざとらしそうな口ぶりで

「この町には武器屋が無いのよ。でね、防具屋だけど多少の武器も置いていますわよ。大剣はコッチ。」とポルトスを連れて行く。

その間にトシゾウはボロボロな大剣をアイテムボックスに収納した。少し経つとポルトスが大剣の『バスタードソード』を持って戻ってきた。

「これが良い。」

親父も「大剣の類は余り置いてないのよ、只ね是の制作者は知っていて手を抜かずに作り込んでいく真面目なヤツ。鋼ほどではないけども良い鉄を使っているわ。割と良い武器よ。」

「俺はこれが良い。」ポルトスは気に入った様だ。

 次にマヤが装備を選ぶ番である。防具屋の親父が出してきたのはレザーとハードレザーの鎧の一式。革鎧の上に胴体、肩や太もも、膝等、要所要所にハードレザーを配した組み合わせのセット。金属系鎧に比べて軽いし、弓の動作や罠など細かい作業、隠密行動や追跡などにはレザーの方が適しているのでハンターや弓兵の装備として組み合わせで選ばれている。

武器は扱いやすいハンターボウにした。トシゾウも一緒のレザー、ハードレザーの組み合わせの防具に武器はロングソード、小型盾にした。

 防具屋の親父が言うには

「左手が義手なので盾でガッツリ受けると手が痛む上に外れる可能性がある。『パリィ』と言って小盾や剣で敵の攻撃を弾いて受け流し、隙が出来た敵を攻撃するスタイルで戦うと良い。」とアドバイスしてくれた。トシゾウのレベルも1なので親切心から言ってくれた様だ。

その後、商売上手の武具屋の親父の提案で、ポルトス用の革鎧一式も買う事にした。戦闘の予定のないクエストや作業は動きやすい革鎧が適しているからである。

 別れ際に防具屋の親父が「戦って死を選ぶぐらいなら、尻尾を巻いて逃げなさいよ。冒険者の世界は生き残ってナンボ、逃げる事より死ぬ事の方がダサイんだからね。必ず生きて帰るのよ。いいわね!」と声を掛けてくれた。

 続いて雑貨屋に一行は向かった。雑貨屋で体力回復ポーション十個、軟膏三個、毒消し四個をそれぞれ買った。買い物が終わった事でトワイライトから、トシゾウ、ポルトス、マヤの三人に金貨二十枚と銀貨五十枚が入った金袋が渡された。

「渡す様にと預かった金を渡しておくよ。当面はこの金を元手に遣り繰りしていってくれ。落とさない様にな。」

 最後に受け取った金で酒場で弁当と水を買い、屋敷に止めていた馬車を一台借りて出発した。トワイライトが手綱を握る馬車に揺られて一時間が経ち森の中に入った。更に森の中を三十分進み目的地に着いた。

戦闘のない薬草採取の任務なのでレザー系の身軽い鎧中心で背中に薬草入れの大きな篭を背負って四人が馬車から降りた。

「三人はパーティ組んでくれ。」とトワイライトに言われるままトシゾウ、ポルトス、マヤの三人はパーティを組んだ。

「で、パーティ組んだらトシゾウさん、ステータス画面のパーティ管理がある。開けてみて」

「ああ。わかった。ステータスオープン」と言ってから目の前の空を指でなぞっている。少し間が空いて「ああ、コレか・・。開けた。」

返答を待っていたトワイライトが「そこで、『パーティ共有スキル』って有るから開けてみて。」

「ん。コレか・・何も無いが?」

「え?・・・。あ、パーティの称号で『勇者パーティ』を選択セットしてくれ。」

「ふむ。パーティ称号で・・・『勇者パーティ』・・・セットした。で・・『パーティ共有スキル』おお・・・『鑑定』?」

「うん、そうだ。それで勇者の固有スキル『鑑定』が使える様になる。ポルトス、マヤ確認してみて」

言われるままにステータス画面にを確認する。

「あ、『鑑定』がでた。」とマヤが驚きの声を漏らす。続いてポルトスも確認した。

「それで、便利な使い方その1だが、『鑑定』と『薬草知識』を指で|擦≪なぞ≫って線で繋いでみて、あとねさっきギルドで取った『観察』も繋ぐ。」

トワイライトに言われて三人とも『鑑定』と『薬草知識』、『観察』を繋いでみるとそこそれぞれ直線が引かれて更に線の上に『連携』と浮かび上がり、『OK?』と聞いてくる。

「連携か?」とポルトスがトワイライトの方を見ながら聞く。

「そ。『連携』させるんだ。」

「OK押した。」

「設定したら、まず『観察』を使ってそこの草むらを目を凝らし見てみて。」

三人は『観察』を発動後トワイライトの指さした草むらを見る。

すると草むらの中に輪郭が明るい蛍光の赤で縁取られて浮かび上がり見やすくなった草がポツポツと散らばっている。

その草むらの中心に光る湯気みたいなのが立ち上り『この付近だよ』と言わんばかりに知らせてくれている。そして蛍光の赤で輪郭が付いた草一塊毎に吹きだしが付いて『薬草』と丁寧に説明まで付いている。

「コレは楽だ。」とポルトスが驚きの声を上げる。

トシゾウも「ううむ。」と唸りながら薬草の採取を始めた。マヤは既に草むらにしゃがんで薬草を摘みだしている。

始めて十五分ほどたつとトワイライトが思い出した様に「ああ、フィルターリングを一部解除して、毒消しや他の薬の材料になる草花も採取しといたらいいよ。仕分けしてアイテムボックスに入れておいたら、採取系クエストを見つけた時に即納出来るから。」

トシゾウはなるほどと言う顔をしながら採取の手を止めずに

「しかし、なんかコレってズルしている気がしてならない・・。こんなにあっさり取れていいものなのか?」

「ズル、不正じゃないよ。勇者の恩恵と、あと連携の知恵と組み合わせ。スキル重視のこの世界でスキルがあるとトコトン便利になる。」

とトワイライトはニコッとしながらも手を止めずセッセ、セッセと背負った採取用の篭に摘んだ薬草類を放り込んでいく。

「トワイライトー。篭が一杯になった。」

「篭の中身をアイエムボックスに放り込んで続行。」手を休めずに草を摘みながら普通に返事をするトワイライト。

「はーい」

ポルトスが返事してから少々の間無言の時間が過ぎる。

三人とも『採取』のスキルレベルが1から2に上がった。

 採取を始めてから小一時間が経ち今居る周囲の薬草類は大方取り終わった。

トワイライトは辺りを見渡し薬草を採取した草むらの端で膝を着きショートソードを抜いた。ショートソードを地面すれすれ平行に振り剣技『ソニックブレード』を発動した。地面を這うようにソニックブレードが飛び草を薙いで行く。トワイライトはトシゾウにショートソードを差し出し

「草が刈れてない所狙ってやってみて」と言う。

トシゾウは真似をして四回目に額の前に小さなスパークが走り技を覚えた。

「次はポルトス。」言われてポルトスも嬉しそうに真似をする。二回目でトシゾウと同様スパークが走り技を覚えた。次いでマヤの方を見るが、マヤは首を振って

「私、剣術まだ取って無いからいい。」トワイライトは無言で頷いて残った草むらを刈る為に真空波を次々に飛ばしていく。その作業をしながら喋り出す

「草むらの中から薬草を選んで摘む。摘まれた薬草は根が残りまた日が経ち雨が降れば芽を出すが、雑草が生い茂っていたら芽を出したばかりの薬草の若葉は他の雑草に邪魔されて日の光が当たらない。目的の薬草は育ちが遅くなる。」

「なるほど、それで草刈りするのか!」ポルトスが理解したようだ。

「そうだ、そうやって採取後の後処理をすればやがて芽を出した薬草も日光に当たって育ちやすい。それに、こうやって草を刈っておけばその辺りは採取して有用な薬草は其処には無いよっと判り、無駄に薬草を探して時間を浪費する事もない。

これは薬草採取のマナーだな。・・あ、後な、草刈りの代わりに火の魔法で焼き払う者も居る。草が焼けて灰になれば肥料になる。焼き畑の農法なのだが、木の多い所や森の中では山火事・森林火災が怖いので火は使わないほうが良い。」

と注意事項を説明してトワイライトは黙った。

そしてマヤの横で寝そべっていた小型犬のそらちゃんがピクッと俊敏な動きで首を|擡≪もた≫げて森の方の一点を見つめる。早期警戒スキルに何か引っかかったのだろう低い唸りを出しだした。マヤも

「どうしたの?そらちゃん。」

と振り返る。|徐≪おもむろ≫にトシゾウがユラーと立ち上がりそらちゃんの睨んでいる方向に歩き出す。

その先には太い木そして根本に籔が有り、如何にも何かが隠れていそうなポイント。

ガサッを篭を下ろし左の腰に鞘に入ったロングソードを下げているのをチラッと目で確認して前に視線を戻す。

 太い木の手前三メートル弱で止まる。そのまま少しの間動かない。

唐突に「ギエー」と叫び声と共に茂みから薄緑色の小男風の者が跳び掛かってきた。

ゴブリンである。間合いギリギリの外で止まって居たので、ゴブリンは焦れて我慢しきれず襲い掛かって来た。

トシゾウは右足を一歩斜め前に出し軸にして左足で軽く後ろに蹴り左側が下がる様に体を捌く。

棍棒を両手で大上段に振りかぶったゴブリンが勢いよくすれ違う。

トシゾウの後方でゴブリンが胸の真ん中から左の脇下にかけて横一文字に斬撃の後がありその傷から血を吹き出して倒れた。

トシゾウの右手にはロングソードが握られていて右横斜め下の方向に向けられていた。

ゴブリンとのすれ違い様に抜刀し居合い斬りの要領で胸に斬撃を与えていた様だ。そのすれちがいの時に先程と同様トシゾウの額の前に電気の放電の様なスパークが小さく灯り、頭の中で「剣技『一閃』を覚えました。」と告知があった。

同時に襲い掛かろうとしたのだろうが一瞬の違いで遅れてもう一匹のゴブリンが棍棒をまたも上段で振りかぶり突進してきた。

トシゾウは右脚を一歩踏み出して左足を引き半身になり右手に握ったロングソードを突く寸前また小さなスパークが走り、かなりの早さの突きが三つ繰り出され、頭、喉、みぞおちに決まりゴブリンはトシゾウの前を横切り倒れ絶命した。

トシゾウが突きを出している最中「剣技『神速(無明)三段突き』を習得しました。」と告知が有った。

トシゾウは”『無明三段突き』といえば総司の必殺技だったな。”と心の中で呟いた後、

”総司って誰だっけ?”と何故か思い出せないでいる。

実は今朝昏睡から覚めてからトシゾウこと土方歳三は勇者召喚前の記憶を失っているのである。過去の記憶を無くしている事自体認識してない上に苦にしていないトシゾウなので

”ま、良いか。”で終わってしまった。

 最初に襲いかかってきたゴブリン二匹が倒れてからゾロゾロと十匹位のゴブリンが茂みや木の陰から出てきた。

と同時に矢が二本トシゾウに向けて射られたが、一本は避け、もう一本は右手に持ったロングソードで叩き落とした。飛んで来た方向を見るとゴブリンの一団の後方に弓を持ったゴブリンが二匹居た。矢が当たると自信があったのだろう、|躱≪かわ≫されて「ギーギー」喚いて|地団駄≪じたんだ≫を踏んで悔しがっていた。

 そうした緒戦に見取れていたポルトスが護身用のロングソードを抜いて駆けつけてきて

「トシ、それ良いな、その技(笑)俺もやりたい。」と『無明三段突き』が気に入った様だ。ワクワクした顔で護身用のロングソードを片手にトシゾウの横に着いた。

 その様子を見ていたトワイライトは腕を組んで観戦モードで遭遇戦を静観しており、心の中で

”剣技取得には条件がある。まず剣術のレベルが必要レベルに達している事。技によるが必要な技・ベースになる技を持っているか?、ステータス要求を満たしているか?そして使用武器が合っている事。

以上の条件をクリアしていれば覚えられる可能性がある。後は動きを真似る事ぐらい、まして目の前で技を見る事が出来ていれば更に確率は上がる。”

だが、ポルトスはお約束の様に技のが覚えられない。トシゾウの横についてゴブリンと戦っているが、お目当ての『無明三段突き』の真似をしており額の前にスパークが走って本人も

”お?”と期待した。

だが別の技を覚えた。「剣技『パワーストライク』を覚えました。」と告知があった。

ポルトスの剣技が発動したと同時に一旦溜のポーズを取り強烈な一撃を放った。

ポルトスの前に居たゴブリンは右手に持っている棍棒で受けたが、そのままポルトスの剣圧に押され袈裟懸けに叩っ斬られた。

横目で見ていたトシゾウは「ヒュー。やるなあ!」と賛辞を口にしていた。

ニヤッと気をよくしたポルトスはもう一度同じ技を横殴りに出した。

警戒したゴブリンは今度は盾で受けたが盾は木製で粉砕されてそのまま両断されてしまった。

前回のシェラ野営場での戦闘の時と同じでポルトスは圧倒的な破壊力を示し始めた。トシゾウは出来の良い兄弟を見る様な温かい目で

”こいつは間違いねぇ。舞台が整えば世に語り継がれる英傑だ。頼もしくてワクワクするぜ。”と嬉しかった。

 ゴブリンの一団が粗方片づいたと思ったらゴブリンよりも二回り大きい上位種。ホブゴブリンが

”一寸はやる様だな。楽しませて貰うか”といった不敵な笑みを浮かべてゆっくりと近寄ってくる。

ポルトスも嬉しくなり、ロングソードから得意な武器大剣に持ち替える。アイテムボックスにロングソードを仕舞い大剣を取り出している最中に矢が二本左肩と左脇腹に刺さった。

ホブゴブリンの後ろで弓を持ったゴブリンが二匹「ギイ、ギャイ」と言いながら喜んでいる様だった。

その喜んでいる弓持ちのゴブリンの左側の一匹に胸に二本頭に一本矢が刺さり後ろに倒れた。もう一匹のゴブリンは矢に気付いて”え?”って表情で矢の飛んで来た方向を見ると同時に胸、喉元、頭に矢を受けてバタッと後ろに倒れた。

倒れたゴブリンの見ていた方向には弓を構えて怖い顔、鋭い目付きをしたマヤが睨んでいた。

その時矢を受け乍らも持ち替えを終えたポルトスに横合いからゴブリンが一匹飛び掛かりポルトスの背中左肩付近を強打する。討ち漏らしてた一匹が茂みや木の陰に隠れて近寄ってきて不意打ちを慣行した様だ。

その一匹にポルトスは痛みを無視しつつ大剣で切り伏せた。静観していたトワイライトは慌ててポルトスの前に立ち大型の盾を構えてショートソードを抜き援護に入った。

 マヤはホブゴブリンの足下のやや前方に牽制射を放ち動きを抑えるも効果は短くまた歩み出した。マヤを蹴散らしポルトスを殺る気だ。

牽制が効かないと判ったマヤは今さっき覚えた弓技『速射三連』をホブゴブリンに放った。コンコンコン。胸に三発命中したが跳ね返された。

マヤは首を突き出し目を細めて目を疑った。もう一度撃つ。また跳ね返される。通じない事が判り渋い顔になる。チラッと後ろのポルトスを見る。

ポルトスはトワイライトに手を貸して貰いポーションを飲んでいる。さっきの棍棒の一撃が効いている様だ。

マヤは意を決した眼差しを正面のホブゴブリンに向け今度は一本ずつ丁寧に狙い放った。コン!とやはり弾かれる。マヤの表情はもう変わらない。弾かれるのは承知の上、もう少しポルトスがポーションを飲む時間を稼ぎたいだけ。その後ろでは、剣を杖代わりにして片膝を付いているポルトスにトワイライトがポーションを差し出し、

「ポルトス、このポーションもう一本行っとけ。」

「すまねぇ。大分マシになった。」とトワイライトに差し出されたポーションを飲みながら生気が蘇ってきたポルトスが立ち上がる。

「フウ」と一息ついたトワイライトがマヤの方に目をやる。

マヤはポルトスの回復の暇を稼ごうと弓矢の牽制射でホブゴブリンの接近を鈍らせようとしているのが健気に見える。弓を放ちながらジリジリと後退するマヤ。

ポルトスにポーションを飲ませて少し待てば動ける様になるのを確認したトワイライトは、次にマヤにの方に視線を移し気に懸ける。

牽制射を続けながらジリジリ後退するマヤの左側三メートルほど離れた茂みで気配をトワイライトは察知し舌打ちする。

”ちっ。こまいの(「小さいの」の方言・ホブゴブリンに対して小さい方のゴブリンを指している)がまだ残っていたか?・・・しまった!”

 何時もマヤが可愛がっている小型犬が茂みの向こうの気配に向かってタッと走っていく。

マヤは気付かずにホブゴブリンに矢を射掛けている。

トワイライトの脳裏には茂みのゴブリンが小型犬そらちゃんを棍棒で殴りつけ致命傷を負わすイメージが過ぎった。はらわたが抉られる様な思いで思わず「そらちゃん」と叫んでしまう。

ゴブリンが茂みから飛び出す。小型犬そらちゃんには気付かない。

そらちゃんは一旦身を沈めて「素人め、気配が消せてないわ!」と台詞を吐きながら脇を締めアッパーカットを繰り出しながら飛び上がって右前足で引っ掻く動作をした。

只、右前足は全然届いていない。しかし、飛び出したゴブリンの体の辺りを衝撃波か、真空波らしき白っぽい引っ掻き傷が描かれ次の瞬間ゴブリンが三枚におろされて、ゴブリンが飛びだした方向とは反対方向に飛び散って行った。シタッと着地を綺麗に決めて右前足の先をフーっと吹いた。その一部始終をトワイライトはしっかりと見ていた。嬉しい誤算である。驚愕の表情に嬉しさが滲み出て破顔の表情になっている。

 マヤが横からの奇襲に気を取られてホブゴブリンへの牽制が疎かになっていて、ホブゴブリンが距離を詰めてきていた。ヒヤッとして表情が強張り引き脚が早くなる。”ヤバイ”と言いそうな表情のマヤの前に義足の右足を引きずりながらトシゾウが割って入った。

 トシゾウは義足に付与されている痛感耐性のスキルを一時的にOFFにしっている。

ついさっき右足太ももに矢を受けたが、痛みは少ししか感じなかった。

トシゾウは新撰組時代に培った感覚で傷を負った時に痛みの感じ・程度で傷の程度をある程度把握しながら戦っていた事が多かった。痛みはある程度までは無視して戦っていた。

しかし『痛感耐性』スキルで痛みが減ったりすると傷の程度が把握出来ず剣撃が行けると思っていても実際思っていたより傷が深い場合数回の打ち合いで力が入らなくなり窮地に陥る事が有る。

これ位の痛みなら未だ大丈夫とか、この手の痛みはダメだ撤退せねばとかその感覚が、『痛感耐性』スキルで狂う事にトシゾウは危機感を覚えた。

痛みはかすり傷程度だが、太ももの傷は矢が刺さっていた。それを見て違和感を感じた。そして直感でそのスキルを一時停止させた。

そしてトシゾウの方に来た三匹目・最後のゴブリンを倒し、マヤの方が心配で駆けつけてきた。マヤのやや前方に立ちホブゴブリンに向き合う。マヤには無言で目を見てアイコンタクトを取る。

マヤは無言で頷き、ポルトスの直前まで下がりかばう様に立ち弓を構えた。

そのマヤの前に小型犬のそらちゃんが格好良くもマヤをかばう様に立ち、その前にトワイライトが大盾を構えて立ちふさがる。チラッと背後の仲間達を見たトシゾウがホブゴブリンに向かって構えた。右前半身に立ちロングソードを向ける。

 顔にはうっすらと笑みが残る。トシゾウとしては手足が負傷した事で一時はもう剣を持って戦う事は無理だと諦めていた。それが今義手・義足のお陰で工夫が必要とは言え何とか戦えている。”俺、まだ戦えるんだ”と判ると嬉しくてたまらない。

 ホブゴブリンにとってトシゾウは負傷していて動くのがやっとの様に見えるトシゾウが自分と戦おうというのが気に入らない。

”なめるなコノ野郎”怒りの雄叫び「ギャーオ」を挙げてトシゾウに大きな剣を振り下ろす。ロングソードで受け流される。

ホブゴブリンに少し隙が出来て左手に一太刀入るが浅傷だ。その後何度か斬りかかるが、その都度防がれる。

最初の一太刀で不用意に斬りかかり浅い傷を負ったので注意深くトシゾウのロングソードが届かない距離を取りだした。

ホブゴブリンは体も大きければ腕も長くトシゾウよりも大分リーチに差が有る。更にトシゾウのロングソードに対して大剣を振り回しているホブゴブリンからの剣撃は届いてもトシゾウの反撃は届かない。

だが、トシゾウはホブゴブリンの攻撃は悉く防いでいる。何撃かの後ホブゴブリンも戦い方を変えてきた。強く重い攻撃系の技で押だした。強打の場合角度によっては受け流しは困難で片手のロングソードでは無理がある。

避けるしかない。受け流しでも敵の強打に対して少しタイミングがズレればロングソードがはじき飛ばされそうになる。

受け流しや剣防御に回避を織り交ぜながら凌ぐがジリジリ押されて後退し出す。

トシゾウの右手のロングソードが飛ばされそうになり防御が崩れるが、敵・ホブゴブリンの方も強打の後で崩れた防御に追い打ちが間に合わず仕切り直しになる。

強打を避わして強打後の隙を攻撃しようとしてもリーチの差でトシゾウのロングソードが相手の体に届かない。ホブゴブリンは冷静な上に攻め方が巧い。

トシゾウは右前半身で右手のロングソード一本で敵の攻撃を捌いており左手は腰のベルトの位置に当てている。

左手の義手のフックがいつの間にかベルとに差されている日本刀・愛用の『大和守源秀國』の鍔付近の鞘を押さえている。

アイテムボックスからいつの間にか気付かれない様に出していたのである。

 ホブゴブリンの強打が遂にトシゾウのロングソードを叩き飛ばした。一瞬場が凍り付く。

トシゾウの斜め後方でロングソードがクルクル回転しながら落ち地に刺さる。

トシゾウは無表情。ホブゴブリンはニヤーっと顔を歪め大剣を振り被りながら前に踏み込む。

トシゾウのロングソードはもう無い反撃を喰らう心配も無い。トシゾウは右手で頭を庇う仕草をした。

避けきれない時に人間の取る行動だと感じてホブゴブリンは”勝ったぞ!!”と勝利を確信し振り被りから更に目一杯溜を作る。

そして渾身の強打を繰り出そうした瞬間、この瞬間を待っていたトシゾウは、右前半身で左手は腰のベルトに差した愛刀の鞘の鯉口付近を義手のフックで押さえ、右手は額の前に有ったのが今は柄を握っている。

腰を屈めて構え”一閃”と技を叫ぼうとした時、目の前でスパークが走り、ホブゴブリンの左脇を抜刀状態で突き抜けていた。

ホブゴブリンの胴体が脇腹から両断され、上半分が宙に舞い崩れ落ちた。同時にトシゾウは右足の着地に失敗し『ぼよーーん』と反発、バク転を失敗した子供の様に右足主導で跳ね『ズデーン』とひっく返えった。トシゾウは真顔で

”やっぱりこうなるねー!”と宙を見ていた。

 両断されたホブゴブリンの後方で音がした。木が三本並んでいる場所から『バシ』と音がして木の幹にやや斜め一直線に続いた切れ目が現れ、切れ目から上の部分が切れ目に沿って滑り落ち『ドスン』と転がった。

 良い位置で見ていたトワイライトは驚きの表情で

”これ、『一閃豪真空斬』じゃねえか?剣術レベル9要求の奥義。フルプレートの騎士を鎧ごとブッタ斬り纏めて虐殺できる技。戦場で使うと戦線が一気に崩壊して終わっちまう決戦技だったような(汗)。”

と顔を引きつらせていた。

 トシゾウは倒れたまま大の字になり空の青さに気が付き見取れていた。手応えは有った。ホブゴブリンは倒した。敵はもう居ない。

 トワイライトが手をパンパンパンと叩きながら

「撤収!撤収!念のためゴブリンの死体から首飾りだけ取っておいて、討伐の証になるから。ホブゴブリンは魔石も取れるから死体ごとアイテムボックスに入れて持ち帰ろう。」

「はーい。」

トシゾウは起き上がりホブゴブリンの死体をアイテムボックスに仕舞い込み、マヤとポルトスは首飾りを取ってゴブリンの死体を大きめの木の根元一カ所に集めた。

出発の準備が出来たので一行は馬車に乗り次のクエストのポイントに向かった。丁度お昼を一時間ほど過ぎていた。

2022/01/25 20時 話の内容を一部改訂しました。冒険者ギルドと薬草採取の場面です。

2022/06/15 改行を増やし段落分けを多く、多少見やすくしました。

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