【003】戦後処理その1
戦闘の後に付き物の戦後処理です。焦土作戦で避難した村民達への対処。捕虜の扱いなど、責任者には仕事が一杯押し寄せるきます。シェイクスオードはどうたいしょする?
シェラ野営場での戦いより一夜が明けた。冷えた空気、少し霧が出ている横から朝日が差す。
ここはアラビンという村で人口二百人ほどの中位の村である。
村民は今は避難していて居無い。村民は居ないが約千人弱の兵士達が朝日と共にボツボツと起き出し身支度を始めている。
民家によっては「起きろー!!」と怒鳴り声の挙がる家もある。起きて身支度の終わった者から村の中心にある教会の周りに集まり出している。
教会入り口では朝食の配給の準備が進んでいる。教会の中の朝日の入る場所で中隊長数人とシェイクスオードで朝の会議をしていた。
話しは十数分で終了した。撤退戦ものんびり移動するだけと言う声もあったが、昨日トシゾウから
『指揮官たる者何時も最悪の事態を想定して於くべし』と聞いていたし、
昨日のミナブ野営場(敵の本隊を撃破後に蹂躙した隊で酒飲んで休憩してた方)の一個大隊が一時間足らずで壊滅したのも、まさかソレは無いだろうと最悪の事態を想定せずに、油断した結果である。
昨日の今日なので隊の先行部隊と後方部隊は武装したままで警戒を怠らず移動する。昼休憩はドコにするかを話して解散した。
それから二十分ほどして朝食が配られた。そして一時間後には出発していた。村を離れる直前に教会の『聖空界』を止めて村内をチェックして周り異常がなかった様だ。
いや、一件あった。取るに足らないことだが、意識を失ったままのトシゾウを馬車に乗せて出発直前にマヤが横に乗った時にパピヨンという種類の小型犬によく似た動物がトシゾウの腰の横で丸まっているのである。
「可愛い」とマヤが頭を撫でても大人しく撫でられていて。撫でられるのが気持ちいいのか目を細めてる。
後から乗ってきた亜里砂も「可愛い」とデレデレの顔をしたが、「一応やっときますわね」とトシゾウに魔法を掛けた。
『デテクト・エニミー』という魔法で半径5~20メートル以内で対象者に(この場合トシゾウに掛けたのでトシゾウに対して)敵意・害意のあるモノ(生物・生物以外も含む)は赤く発光し、好意や、友情、立場上守る等の場合は青や緑色を発する。
小型犬は青緑色を発していた。マヤ、亜里砂は、青色である。害意が無いことが分かったので可愛さもあって、そのままにした。昼休憩までずっとトシゾウの横で丸まって寝ていた。
昼休憩でトシゾウの乗ってる馬車にリトルジョン他三名が見舞いに来た。
一人は副長のヴィックモロー、他二人はトシゾウが倒れた時にポーションを使って手当てした中年の男、昨晩来た時に『フランダース』と名乗っていた。それと神官のウォルトン。
全員丸腰で一応監視の兵が二名同行している。トシゾウの横で丸くなって寝てる小型犬は体は動かさずに、目だけ開いて四人の様子を見ている。馬車の前でリトルジョンが声を掛ける「トシゾウさんの様子はどうですか?」
マヤがトシゾウの足下の空きスペース座って配給の昼食を食べていたのを一旦中断し四人の方向いて「起きないですけど、息もしてるし苦しそうなかんじもありません。」
「そうですか、神官も一緒ですので、余計かも知れませんが念のため意識が戻るまで神聖魔法のヒールを掛けといて貰おうと思って。」
「有り難う御座います。昨日の夜寝る前と朝出発前にも掛けて貰ったし、そんなに心配して貰って、申し訳ないですような気がします」
ヴィックモローはニコリとしただけ、横に付いているリトルジョンが通訳のように「敗残兵の我々に厚遇を提示してくれたトシゾウさんに何かあったら厚遇が無くなるんじゃないかと気が気じゃなくて、毎度毎度様子を見て来いって皆が・・。」とおどけて見せた。
マヤはクスッと笑って「皆さんに有難御座いますって伝えて下さい」と笑顔で返した。
四人は”超可愛い”とホッコリした。
一呼吸置いてから、神官のウォルトンがトシゾウの右手を取り脈を測り「脈は正常の様ですね。呼吸も聞く分には正常」
ウォルトンがトシゾウの右手から手を放して、懐から聖鈴を取り出した。聖鈴は教会の屋根の上の塔に吊されてる鐘の形をした手の平サイズの鈴に頭の部分にボールペンサイズの棒が付いている。その棒の上の方を持って振るのである。
「ではヒールを掛けます。」
と言って右手に聖鈴を持ち自分の額の十センチ程前に掲げ念を込める様な仕草で詠唱を始めた。
詠唱が終わる頃には聖鈴は白く淡く発光し術が篭もっているのが判る。
そのタイミングで横に寝ていた小型犬がピクッと頭をもたげ神経質そうに聖鈴を見ている。
その聖鈴を寝ているトシゾウの胸辺りに持って行き手首のスナップで聖鈴を振る。『リーン、リーン』ハンドベルの様な澄んだ心地よい音がそこに居た者達の体を抜けて行く。
トシゾウの胸の上で魔法陣が発現しスーッとゆっくり消えていく。ヒールの神聖魔法は終わった。
ウォルトンが聖鈴を仕舞い、「やっても結果は一緒かも知れませんが(傷はもう治っていると思うの意味)、やらんよりマシでしょう。」
言って四人は顔を見合わせて「失礼します」と辞した。
トシゾウの乗せられている馬車から離れるとソコにはシェイクスオードとトワイライト待ってて一部始終を見ており、嬉しそうに笑みを浮かべながら話しかけてきた。
「有り難うね。彼に代わって礼を言う。」と言いながら副長に握手の手を出した。
「シェイクスオード・オガミだ。」
握手をしながらヴィックモローが初めて声を出す。「ヴィックモローです。」
他の三人とも次々握手する。それぞれ「リトルジョンです」「フランダースです」「ウォルトンです」と握手の時に自分の名を名乗った。
「セイロン関門都市に着いたらこき使わして貰う、仕事は山ほど有る。期待している。」
フランダース、昨日気を失ったトシゾウに手当をした中年の男が
「うち等の隊は腹一杯食わしてくれたらその分しっかり働きますよ。」体力と仕事量に関しては自信有りの自慢顔。
「ほう、それは頼もしいな。我が領の仕事の多さに泣いてたところだ、猫の手も借りたい位なんだ。働き次第ではお『飯の代わり自由』を付けても良いぞ。」と期待大の嬉し顔。
「良いんですか?大将。うち等大概食いますよ。・・・ああでもなぁ。」
「ん?どうした?」
「いえね。うちの隊長が今、隊から離れてるんですが・・」
フランダースは内心何とか隊長を呼び寄せれたら、このお人好しの大将からもっと良い捕虜の扱い・契約を引き出せるのでは?と予感して何とか低い交渉スキルと話の持って行き方を駆使している。
シェイクスオードの護衛の様に端に着き沿っているトワイライトはフランダースの意図をうすうす感じているが、邪魔にないように後ろでニヤニヤしている。
「ああ、ヴィックモロー副長が代理やってるって言ってたな。」
「うちの副長も結構頼りになるんですが、隊長の指図だともっと効率が上がるというか、・・・」
言葉に詰まってしまった。フランダースの話術は下手な方の様だ。間が空き脂汗を流し出した。
見かねてトワイライトが「中隊長クラスの傭兵の指揮官だと優秀なのが多いな、良い指揮官だとシェイクお前の仕事で、捕虜に遣らせる分をそいつに丸投げすれば負担減るんじゃないか?隊長さんも隊員と一緒にいた方が心配せずに済むんかもねぇ」
「ほう、一理あるな。」とシェイクスオードも思案し出した。
トワイライトは”食いついた(笑)”と心の中で呟きたたみかける。
「そこの、ヴィックモローさんだっけ?以前に見た覚えがある。たしか・・・隊長の名はヘンリーだたか?」
ヴィックモローの普段余り喋らない口から「ヘンリー隊長です」と答えがあった。
シェイクスオードは目を三角にして「ヘンリーか。彼奴は優秀、優秀。|伝≪つて≫があったら|此方≪こちら≫から出向いて『手伝って』ってお願いしたいぐらいだよ。給料倍払っても良い。」
とガッツリ食い付いて更に熱弁。トワイライトとシェイクスオード二人は彼の事を『転生前に良くやった三国志ゲームに登場する張遼や陸孫』程に評価している。万能型で戦えて、内政系の仕事もこなせる有能な武将。
トワイライトは口元にニヤけながら「目の前に|伝≪つて≫あるじゃん」と四人を指差す。
「うーん。!!」と驚きを隠さず唸り言葉を繋ぐ「頼む呼んできてくれ。」
トワイライトはシェイクスオードの右斜め後ろの位置からフランダースに右手を握って親指を立てて『どや顔』をした。
フランダースも”助け船有り難う”の意味を込めて右手を握って親指を立てて『God Job』を返した。
その間にヴィックモロー副長は「了解しました」と承諾した。返事に続いて「差し当たって、馬を二頭お借りしたいのですが」と申し出るが、
「ダメだ二頭では少ない五頭貸します。フランダースの他護衛四名を休憩後に私の所によこして下さい。」
「はい、了解しました」と返事をし敬礼をして隊に戻っていった。
「良かったな、期間限定だろうけど有能な武将を雇えて。」達成感に浸るシェイクスオードを後ろからトワイラトがポンと肩を叩いた。
「だが、まだ話が決まった訳じゃない」とシェイクスオードは|逸≪はや≫る気持ちの自分に言い聞かせているように答えた。良い人材に逃げられた経験が何度もあるからだ
「後は隊員達を甘やかさず領内に居たくなる様にどう魅せていくかだな。まずは気持ちよく働いて貰おう。」
「うん。・・けどな、さっき近衛隊の事務方がさっきポンテから到着した。昼から馬車の荷台で今後の段取りの打ち合わせするから、悪いけどトワイライトお前懐柔策考えといて。人引っ張ってくるの上手だろう(笑)」
「えー。亜里砂に頼んだら?」
「冗談!!、やめて!!、えらい事になる。治まるモノも治まらん事なる。な、頼むよ。」
「うーーん。」しゃあないなぁって顔のトワイライトだが、頼られるのも悪くない。
二人は本来の目的、トシゾウの様子を見て変わりないのを確認してから、|夫々≪それぞれ≫の馬車に戻っていった。
昼休憩の終わ頃五人の捕虜がシェイクスオード乗る馬車の前にやって来た。
「渡した装備を着けながら聞いてくれ。君達五人にはヘンリー隊長を探す、又は連絡を取って貰う。
道中丸腰だと危険なので軽騎馬の装備を着けて貰う。主にラメラ-加工の革鎧と中盾、ロングソード、ショートボウ、ポーション数個、馬だ。で手紙一通を本人の手に渡るようにしてくれ、直接手渡してもよい。
四日以内に帰着すること。それと、五名分の通行手形と隊長さんの分、コレが無いと領内の街に入れないぞ。あと水と食料五日分と旅費、宿屋に泊まるのに銭も必要だな。
他に何か必要なモノはあるか?・・・。あ、昨日の戦場になったシェラとミナブの野営場だが多分魔物で溢れかえっている筈だ近づかない様に、シェラ野営場近くの森も同様だ。迂回して通るように」
話し終わって、装備完了を待っているシェイクスオードの斜め前で銀貨が入った袋と金属製の通行手形を持った兵士が立っており、シェイクスオードの横にはトワイライト他護衛が三名いる。
装備が完了し、フランダースが代表で銀貨の入った袋と通行手形を受け取り「感謝します。では行ってまいります」と礼を述べ敬礼して馬に乗り出発した。
シェイクスオードとトワイライトは五名の騎馬での出発を見送り、昼休憩が終り移動を再開した。
午前中は荷物を積んだ馬車の御者の横で居眠りをしていたシェイクスオードだった。
昨日まで三日間撤退戦の|殿≪しんがり≫を務めていた時は神経を磨り減らしながらだったが、今日は何事もなくのんびり惰眠を|貪≪むさぼ≫り|乍≪なが≫ら行軍出来るのが有難かった。
昼からは御者の横にはトワイライトが座り、シェイクスオードは荷台を空にして昼休憩中に到着した事務方の班長達と荷台の上で打ち合わせ会議をしていた。
馬車の横には軽騎兵が十騎従っている。
道なりに風景は流れ、一時間して指示書の内容が決まってまず領地の玄関に当たる街セイロンへの指示書を軽騎兵に荷馬車から(走行中だが)手渡しして急行して貰った。
続いてポンテ城塞都市への指示書を渡した。そして後二通の手紙を一人一人に渡し受け取った騎兵から順に走り去り急行して貰った。
その後も荷台では会議が続いておりトワイライトは過ぎ行く風景を眺めながら、聞こえてくる会議の内容を聞き流していた。
まずは、避難村民の今後の扱い等を話し合って決めている。仮設住宅の建物の基礎造り、設置、部品の運搬、炊き出しをどの隊に遣らせるかは街の守備隊長に任せても、どれ位の隊が必要か?
例えば仮設住宅の部品を運ぶのに二個小隊と馬車十五台用意する必要があるとか、設置場所のマーキングに一個小隊必要、とかだいたいの目安を指示書で示し効率が上がる様に考えている。
あと備蓄の仮設住宅の部品では戸数が絶対足りないので生産地にどの隊を送り込み増産を計るか、など移動中に出来るだけ仕事をこなしておく。
シェイクスオードの乗る荷馬車付近だけが騒がしい以外は何事もなくマッタリと時間と風景が過ぎていく。
道中魔物も居ない訳ではないのだが、千人近くの大人数、所々に武装した騎兵の分隊(八騎)が配置されており行列に喧嘩を売る魔物は居なかった。
シェラ野営場の次の山脈を越えて平坦に思えるぐらいなだらかな下りと登り小高い丘のアップダウンがあり、道の両側は草地・草原で百メートルほど離れて草地の向こうに森がある。
道は時折標識付きの分かれ道がポツポツとある。トシゾウの載せられている馬車はトシゾウの横に小型犬とマヤが乗っており他負傷者二名も同乗している。その馬車はポルトスが御者をやってて、横に負傷兵が乗っている。柵の守備隊でポルトスの近くに居た兵士らしい。
ポルトスも最初は流れゆく景色を楽しんだりしていたが、段々飽きてきて目が虚ろに成っくる、目蓋が目の半分まで降りてきて居眠り運転に近くなってきた時に横に乗っていた兵士が見るに見かねて「ねえ、ポルトスさん知ってますか?」
ポルトスも我に戻って、ハッとして横の兵士に「あ、有り難う眠り掛けていた」
横の兵士はニコッとして話しかける「知ってますか?この道『大街道』って言うんです大街道三号線って。」
ポルトスは会話をすることでスッと眠気が覚め真顔に戻っていた。そして「大街道?」と初めての言葉に反応する。
「はい。大街道です。王都を中心に五方向にのびてる大きな道です。この道もそのうちの一つです。」
「多くの商人達はこの道をよく使って交易いているし、王都で軍の招集が有った時は此道を通って行きます。国内の大動脈です」
余り興味を誘わない話なので、またポルトスは居眠りしだしたが、馬車を引いている馬が何度も通っているのだろう此の道を心得ており前の馬車を追走して自動運転を実現している。
今通っている大街道は丁度多くの貴族の領地の境目付近を道は通っており、道付近は周辺貴族の領地には属さず国有地となっている。その為道から各領の村まで多少の距離はあり|長閑≪のどか≫な草原の間に延びる道を進んでいる。
日没の手前で夕焼けの頃、シェイクスオードの属しているオガミ領の東の端、セイロンの関所の城壁が見えてきたそのセイロンの関所の向こうに関門街セイロンがある。
シェラ野営場の西出口によく似た地形で山と山の間の谷の部分に壁を作り関所と成ってる。壁の横の長さは約八十メートルで丁度中央辺りに船の船首に似た形の凸とした柱の迫り出しがあり其処を中心に左右対称で、その左右分かれた真ん中辺りに大きな門戸が並んでいる。
シェイクスオードが護衛を伴って先行して関所の右の大きな門戸を空けさせた。
行軍の列は門戸を|潜≪くぐ≫ったが、関所の城壁の厚さが尋常じゃない、二十メートル程ある。初めて通った者は門を潜るというより、トンネルを通った様に感じる。
関所を通って山に挟まれた谷間の道を二百メートルぐらい行くと|山間≪やまあい≫を抜けて急に視界が開け田園風景が左右に広がっていた。
正面は街の城壁と門戸の篝火が見える。道幅は昼間に通っていた大街道より狭くなったが馬車一台通るには余裕がある。
日が落ちて夕暮れで徐々に色合いは黒味が強く暗くなった。田園風景も暗くなる中で遠くにポツポツと明かりが付きだし光の点がまとまっている場所がある所に民家が村があるのだろう。
空は闇に染まりきった訳ではなく、西の方はまだオレンジ色、薄いエメラルド色の残った夕暮れで、グレーの雲に夕日が当たり雲の西側の一部分がオレンジ色に染まっている。
西の空が綺麗な夕焼け。現代ではマジックアワーと呼ばれる|瞬≪またた≫く間の一時。綺麗な西の空をバックに中堅よりやや大きめの街セイロンが正面にあり、道が続いている先に篝火が焚かれている。
低い城壁の内側は明るく、城壁の様に光を遮る物のない街の上方向に溢れる様に光が出ているのが横から見て判る。
シェイクスオードの率いる此の大隊の隊員は四、五日前には街に滞在していて、街の明かりでこの様な光景は見慣れていたはずだが、みんなこの明かりを暖かく懐かしく感じていた。
外壁の門を通って町中に入ってみると|宵≪よい≫の|口≪くち≫で酒場や食堂は営業している。町中を歩いている客もまだ酔っぱらった人は見ない。
門から街の中心に向かう大きめの通りを進み町役場前の広場に来た。
広場は仮設テントが所狭しと一杯建っていた。役場の裏は教会で西隣はシェイクスオードのオガミ家が所有している屋敷がある。その屋敷に向かった。
町役場前の広場の近くを通った。広場には仮設テントが所狭しと並んでいる。規則正しく立てられているが、窮屈に押し込んだ感じが否めない。
町役場前の広場では炊き出し(食べ物の配給)が行われていた。広場のテントは避難民が利用していて、町役場の関係者、手の空いた衛士、教会の関係者らが忙しそうに避難民への食事の配給の世話をしていた。
避難民が列を作っている先で配給も行われている。
シェイクスオードは状況を確認し”あの指令書で上手くやっている。”と部下達が頑張っているのを嬉しく思った。
撤退戦開始前に「飛地の村民を避難させるので各街は避難民の受け入れ準備を始める様にその数約一万八千弱。そして、セイロンの街で避難民を各街に割り振る。
引率護衛した兵は受け入れる街まで同行し、食事の配給や宿所やテントの手配など避難民が落ち着く迄世話をさせるように。
セイロンの街の役所の職員だけでは避難民を捌ききれる数ではないので、各街の役所は可能な限り多くの職員をセイロンに助っ人として派遣すべし。」
以上の内容の指令書を各街の責任者と守備隊長宛に発していた。
シェイクスオードという男は、戦闘指揮なら人並みだが、戦略や政治力、商業関係は人並み外れて優れている。今回も避難民の扱い処遇を事前に計画・立案し手配していた。
そして、シェイクスオード一行が到着するずっと前に避難民が護衛中隊に引率されセイロンの街に到着し、避難民の人数と、各街の受け入れ可能人数と照らし合わせて奥の国境城塞都市『カルペグ』から順に割振り、一晩休ませた後向かわせた。
実際に指令書だけでは所々に不備や問題が生じた筈なんだが、指令書を受け取った守備隊長達や役場職員が”こりゃ一大事だ”と奮起し身の引き締まる思いを持って知恵を絞り労力を惜しまずなんとかスムーズに事を運び巧く回して呉れたと想像に難くない。
”あんな指令書で、良くここまでやってくれた、上出来だ。落ち着いたら休暇を大盤振る舞いしよう”とシェイクスオードは一人苦笑いしている。
シェイクスオード|殿≪しんがり≫部隊の一行は三つに隊を分けてその一つは役場西の屋敷にの敷地内に入った。残りの2隊は屋内競技施設と大規模研修施設に分かれて入った。
シェイクスオード達と一緒に捕虜も役場西の屋敷に入った。馬車やその他荷物は前庭に置かれ馬車を引いてた馬は御者が、騎兵の馬は騎手が馬屋周辺に繋なぎ、飼い葉や水を与えた。
他の者達は屋敷の軒先に|夫々≪それぞれ≫の持っている荷物を置き屋敷内に入った。多くの手ぶらの兵士達がゾロゾロと建物の入り口に入った。
其処はロビーで横幅二十メートル奥行き十五メートル位の長方形一階と二階吹き抜けで床は石造りでつるつるしている。
部屋の真ん中から向こう正面の壁まで幅の広い階段があり一階と二階の中間ぐらいの高さで踊り場になっていて左右両方向に階段が続き二階に至る。踊り場の向こう正面の壁には人物画が掛かっている。
照明があるようでロビーは明るい。ロビーの一階には左右両方の壁はノブの付いたドアが三つある。
左側の一番手前のドアより1メートル間を空けて簡易ベットが畳んだ状態で山積みになっており、その横にシートを敷いた上に畳まれた毛布の山と枕の山が並んでいた。
中隊長の一人が正面の階段登った踊り場の所で、資料の紙を持って大声で指示をしている。
「みんな、まず入ったら左手から簡易ベット、毛布、枕を各一個持って係員の指示に従い部屋に行け。行ったら簡易ベットをセットして寝床を確保しろ。
順番は関係ない。早い者勝ちだ。溢れたら廊下やロビーで寝ろ。寝床の確保が終わったら外に置いた自分の荷物を簡易ベットの下に移すように。」
と大声で指示した。
所々で「了解!」とか、「おいよ!」と返事がする中で、「質問!」と手を挙げる者がいた。
「何か?」
「自分達は捕虜なんですが、自分達も一緒でいいんすか?外で野宿じゃないんすか?」と姿装備を見れば投降した者達だと判る。
ヴィックモロー副長とリトルジョンが居て、リトルジョンが喋らされている。まるで通訳を介して喋っている様な感じである。
「大分寒さは緩んできているが、夜に外で寝ると風邪を引くかも知れんぞ?」
と既に戦闘もなくなり、気が緩みフランク(きさく)にジョークでも混ぜようか?みたいなしゃべり方で問う。
「風邪・・外だと引くかも知れませんね。」と真面目に答えるリトルジョン。
「今夜風邪引かれたら、明日から働いて貰うのに効率が落ちるんじゃないのか?」
と中隊長は意地悪そうな顔で言う。
「え?いいんすか?」と嬉しそうな顔のリトルジョン。
「俺達の隊は誰も気にしない。武士は相身互い言うだろ。」
言ってるうちにロビーには捕虜しか残っていなかった。
「あ、うちの隊員もう皆行っちまった。君達しか残ってないので、部屋空いてたら使ってくれ、|溢≪あふ≫れたら廊下かロビーで寝るように。あ、あとトイレで寝るのは辞めてくれ。(笑)」と1回ジョークを入れたかった中隊長が笑顔で話し終える。
トイレで寝るのは嫌だなって顔しているヴィックモロー副長の横でリトルジョンが笑顔で
「はい。トイレは遠慮しときます。」
「じゃあ、寝床の陣取り行ってきてくれ、終わったら捕虜諸君は再度ココに集合。」
言い終わると、捕虜等も簡易ベット他を一式持ち次々に係員に案内されてロビーから出て行った。
少し経って寝床を確保した捕虜がロビーに帰って来るとメイドの案内係にやや広めの食堂に案内された。
縦長のテーブルに長いすを部屋一杯に詰め込んで何とか人数分の席を確保した感じだ。
そのテーブルの上に鳥や豚、牛、羊の肉料理、サラダ、スープ、パン、ナンが大皿に盛ってありテーブルの真ん中に並んでいて、席には取り皿とフォーク、ナイフが置いてあった。
余りにも豪勢な食卓を見て、部屋に入った最初の数人が足を止めて一、二拍おいて
「おい、部屋違うぞ!!」と|翻≪ひるがえ≫って部屋から出て行こうとする。
後ろの仲間は「え?何?何?」中を覗くと豪勢な食卓が見えて理解した。
”ああ、シェイクスオードの旦那の兵達用の食堂だな、場所間違えたんだ”と合点し、案内係のメイドに
「俺たちは捕虜だ、案内する食堂を間違えてるよ。お姉さん・・あんないいモン見せられた目の毒だぜ(笑)」
と中年の捕虜が未練の残るかおで笑いで誤魔化しながら言った。
女性に対し優しく失礼のない様に気を使った言い方をされて案内係のメイドは微笑みながら
「いえ、この部屋に案内するように仰せつかっております。」
その言葉を聞いて中年の捕虜と横にいて一緒に中を見た仲間は目が三角になり驚きの表情で
「えー?マジで?」と叫んでしまった。
そして入り口付近でザワザワしている所にヴィックモロー副長がウォルトンとやってきて目と仕草で”何をやっている早く入れ”と促した。
中に入った捕虜の傭兵達はザワザワしながら入り口付近で戸惑っている。ヴィックモロー副長とウォルトンも中に入り漸く状況が理解出来た。
中にいた世話係のメイドと案内して来たメイドはドッキリカメラのテレビ番組を見ている様にイタズラ心を|擽≪くすぐ≫られニヤニヤ笑顔になっている。
メイドの説明だと部屋を間違えてなさそうなので、「総員配置に付け!!全員並べ!!」と副長が命令する。
あっと言う間に全員が食卓の前に並んだ。さっきまでキョロキョロしながら戸惑っていた奴等が人が変わった様にえらい違いで命令だと動きが速い。
「よし、全員着席」一斉に綺麗に動きが揃い『ザッ、ザッ』と音を立てて長椅子に全員座った。そしてシーンと静寂が場を支配した。
食堂の前の所に一段高くなったステージがあり、ステージの奥の壁には家の旗が飾ってある。
そこにさっきロビーで指示してた中隊長が登って捕虜一同に向かって、咳払い一つ払ってからしゃべり出した。
「昨晩、シェイクスオード様が言われたとおり今晩はたらふく食べて貰う。そして明日から『ヒィヒィ勘弁してくれ』言う程の過酷な任務に就いて貰う予定だ。この屋敷の者達が腕に|縒≪より≫をかけて用意したご馳走だ。しっかり楽しんで貰いたい。」
と口上を述べているうちに、冷えたエール(ビールに近い発砲酒)が大ジョッキ一杯に注がれて運ばれてきて、次々に捕虜の兵達の食卓に並んでいく。
捕虜の兵達は座ったまま背筋をピンと伸ばして拝聴していたが、エールを運んでくるメイドの揺れる胸にも気を取られ、前に置かれたエールのシュワシュワした炭酸の音と香りがたまらん。
腹も減って死にそうで、理性が吹き飛ぶ寸前。前で喋っている中隊長の話は途中から何を言ってるかもう判らない。
顔には隠しきれない満面の笑みと落ちそうなよだれ、まるで飼い犬が餌を前に『お預け』をくらって我慢している状態。
それが一個中隊百三十二匹長椅子の上でお座りして尻尾をパタパタさせて『食べてよし』を待っているマゾイ我慢大会。
前で喋っている中隊長も可愛そうになり、
「では諸君ジョッキを持て」と言って自分も冷えたエールの入った|結露≪けつろ≫一杯のジョッキを片手に持ち上げて
「諸君等の今後の働きに期待する。カンパーイ」と言って中隊長はジョッキを半分まで飲み干す。
捕虜諸君も「カンパーイ」と呼応してキンキンに冷えたエールを飲む。
そして捕虜諸君にとって初めての冷えたエールとの遭遇「はー。ナンじゃこりゃ!」を発する様に衝撃であった。
「キンキンじゃん」
「んめーー」と声が上がる。人によっては冷えたビールの喉越しに言葉を失いジョッキに見取れる者、言葉では表せず拍手する者。
それを見ている世話役の中隊長も”俺も最初にシェイクスオード様達にキンキンに冷えたエールを呑まして貰った時の衝撃を思い出すよ。一度呑むと癖になる!”
と何年か前の事を思い出してウンウンと頷いていた。で、頃合いを見て「肉を多めに用意しました。しっかり食べて欲しい。残すと作ってくれた人に失礼ですよ。」と勧めた。
「はい」「イエッサー」と威勢の良い返事が返って来て、少しすると静かに成った。
美味しい食事が人を無口にしたのだ。美味い蟹を食べてる時のように。食器の音、ムシャムシャ食べる音だけが響いていた。
時間が経った。最初に料理の皿を並べている時は”こんなの食べきれない、絶対に残すよ。”と思っていたメイド達。
目の前の皿が全部空になり、全員揃って手を合わせて『ご馳走様でした』をした時には”この人達只者ではない”と驚きの目で彼等が食堂から出て行くのを見送っていた。
食堂から戻った捕虜達は、歯磨いて、トイレを済まして十五分後には簡易ベットで横になっていた。
その誰かが「今晩のエールは美味かったなぁー。メシも最高だった。」
呼応してあっちコッチで「んだ、んだ」「うんうん。」「そうだなぁ」と返事が上がる。
「またいつか、こんな幸せ有ると良いなぁ」「んだ、んだ」「うんうん。」「そうだなぁ」それから五分後イビキが鳴り響き出していた。
初めての『キンキンに冷えたエール』と美味いメシを食って幸せになり幸せのまま今日を終わらせる事が出来たので良かった。
その様子をシェイクスオードの執務室で聞いたシェイクスオードと、トワイライトはガッツポーズで、イタズラが成功した子供の様に喜んだ。
ハッピーサプライズは成功すると本当に気持ちが良いと実感していた。同じ執務室に居ながら仕事をしてたシェイクスオードの部下も同感で、笑顔が漏れて
「おお、やったか(喜)?」って顔でウンウン。と頷いたりしていた。が仕事の手は動いていた。
此所シェイクスオードの執務室は入り口正面奥にシェイクスオードの机があり、通路を確保して四人一組で班を作り机を並べて事務作業に励んでいる。
四人一組の班が三つ合計十二人が部屋の中で次々とシェイクスオード発の指示書・命令書を文書化して、チェック役が内容を確認して印を押し発送係に回される。
切りの良い所でお茶やコーヒー、タバコで一息入れるのも各自自由で|夫々≪それぞれ≫のペースで仕事をしている。一応喫煙はバルコニー限定である。
シェイクスオードの机の上は資料が積み上がっていて、机の横にトワイライトが居てシェイクスオードと施策をどうしたら良いか問答し策を練っている。
机の端にエルフの女性二名が秘書の様に付いており、一人は椅子に座って、机の端でシェイクスオードとトワイライトの会話の内容を速記で記録している。
もう一人は話の内容から施策の原案の概要とキーワードを紙に書き、壁際のホワイトボードに貼り付ける。
政策に矛盾があったり、不都合が起きた場合その紙を睨んで「どうしよう」「こうしよう」と議論したり、場合に寄って室内全員で頭を抱えて議論した事もあった。
何時尽きるか分からない仕事の洪水が押し寄せる中でシェイクスオードの部下達はみんなよく頑張っている。
トワイライトはシェイクスオードの友人であり、冒険のパーティ仲間であり、同郷の転生者。家族親族ではなく、部下や家臣でもない。
政策を練る時なんかは同郷の転生者であればこそ、元居た世界での常識で話が出来たり、カルチャーギャップを気にせず喋れる仲間である。
亜里砂も同郷であるので困った時は亜里砂も偶に参加している時がある。今はこの部屋に亜里砂は居ない。
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イビキが鳴り出してから約一時間近く経って、ヴィックモロー副長とリトルジョン、ウォルターが捕虜の世話をしていた中隊長に付き添われて遣ってきた。シェイクスオードが執務している部屋の扉にノックする音がする。『コンコン』
「どうぞ」シェイクスオードは机の上で書類にサインしながら返事する。
その横には書類が積み上がっている。その机の横二メートル離れた場所の壁際に立っているホワイトボードに紙のメモ書きが数多く貼って有り、その前でトワイライトが腕組みをして左手を顎に当てて考え込む表情でシェイクスオードの秘書一人と喋っている。
扉が開いて捕虜の世話をしていた中隊長が顔を出し
「シェイクスオード様、捕虜の三人がトシゾウ様の見舞いに参りました。」
と身を翻し後ろのヴィックモロー副長、リトルジョン、ウォルトンの三人が見えるようになった。
三人には中の様子が見えた。シェイクスオードが部屋の奥の方の机で書類を積み上げ事務処理をしている様子。
小学生の班を組む時の様に四人一組のチームで机をくっ付けて班を作り通路を効率的に確保していて三組の班で十二名が事務作業を頑張っていた。
シェイクスオードは顔を上げて確認し「あんた達か・・。トシさんの見舞いだな?」
「はい。」
「分かった。案内しよう」
と事務作業の手を止めて”一寸休憩するか・・”と言いそうな顔で
室内にいる事務作業をしている人達に、
「休憩取りながらボチボチ勧めといてくれる。俺、トシさん所行ってくる。あと、十時になったら無理をせずに仕事止めて寝てくれ。」
と言い残してフラーっと出て行った。相談相手をしていたトワイライトもそれに続いた。
事務係は個々に「はい」とか「了解です」とか返事しながら仕事していた。シェイクスオードも疲れたのか軽くアクビをしつつ。
シェイクスオードは三人と一人を案内して歩き出した。トワイライトは何気なくシェイクスオードの斜め後ろ歩いている。
廊下を歩いているタイミングが丁度良かったのかヴィックモローが
「今晩、豪華な食事有り難う御座いました」と礼を言い出した。
「ああ、気に入って貰えたかな?」
「勿論です。特にあの冷えたエールも最高でした。」
「だろう、魔道具冷蔵庫は亜里砂の作った物の中では傑作。仲間で必死に材料集めしたからな。」
「それに、美味しく豪華な料理の数々。普段よほどの事が有っても我々の手の届くご馳走では御座いません。」
シェイクスオードは、ウンウンと頷きながら上機嫌である。そこに、リトルジョンがぽろっと「まるで、この世の食い納めのお話に出てくる様なご馳走ばかりでした。」
と行ってしまって、仕舞ったという顔をした。
そこでトワイライトがぷぷっぷーと吹きだし笑った。「ははは。やっぱ勘ぐるよなぁ(笑)。そんな心配する奴いたか?」
「はい。何人か・・・副長もその一人です。話聞いてると自分も心配になりました。」
シェイクスオードもピンと来たのか
「そういえば、昔に聞いた話に妖魔に滅ぼされそうな村が何年か毎に一度、若い娘を生け贄に出す事で村を妖魔から見逃して貰う。その若い娘が生け贄に出される前の晩にご馳走をたらふく食べて、綺麗な衣装に身を飾り送り出されるとか。そんな話を聞いた覚えある」
「自分達も捕虜の身分のわりにたらふくご馳走を頂きました。仲間の中で『ご馳走さま』の時に『最高、もう何も思い残す事はねぇ』っていってた奴居ました・・・」
リトルジョンの声が暗くなってきた。廊下の先を向いたままのシェイクスオードをトワイライトが後ろから
「シェイク|揶揄≪からか≫うのもいい加減にしろ、イタズラ好きのガキか。」
と見るに見かねて言い出した。振り返ったシェイクスオードの顔は笑いを堪えたニコニコ顔で、喋ったら笑い出しそうなところを我慢している状態だった。
トワイライトの目は横線一本の状態に成り
「もういい、案内続けて、俺が言う」一行はまた歩き出す。世話役の中隊長は全部知っているので、イタズラ好きのガキを見ている感じでニコニコした顔に書いてある。
”余興、余興、シェイクスオード様は今朝から緊張の糸が切れているから”と。
トワイライトは説明する心積もりをしてなかったので何から話そうか迷いながら出た言葉が「明日は森の奥に行って貰う。」
リトルジョンが反応して「え?森の奥で妖魔討伐っすか?」と暗い声。
トワイライトが「妖魔じゃないって」突っ込みを入れる。
遂にシェイクスオードがゲラゲラ笑い出した。
妖魔討伐は通常の兵員一個中隊で戦ったとして中隊が全滅しても不思議ではない程の難易度の高い上級の魔物であり、一般兵にとっては死神的な存在。ただ、熟練の冒険者のパーティ(6~8人)であれば討伐は可能である。
個人々々の攻撃能力が高くないと歯が立たず無駄死に成る相手なのだ。
自分もやって仕舞ったと頭を抱えるトワイライト。
そして笑いの残るシェイクスオードが
「森の奥にある里の木材工房に行って貰う。」と言う。
シェイクスオードの笑いの治まり話を続ける
「うちの領内は慢性的な人不足を抱えている辺境地故の事情なのだが、折角手に入った百三十名もの貴重な優秀な労働力を簡単に死なせるような、そんな勿体ない事誰がするか!!」
半笑いのまま本音を言い更に
「今日のご馳走は期待の表れ、良い仕事で結果を出せば又あるかも。取りあえずは明日は大工の親方の木材工房に行って力仕事。四泊五日ぐらい頑張ってきて貰う。命をかけた任務は木材の鋸引きで、命の危険は無い。コレで安心したか?」と三人を見る。
「そうですか」と気の抜けた顔のヴィックモロー副長。
トワイライトがニコっとしながら
「詳しい話は見舞いが終わってからにしよう。」と言ってる間にトシゾウの寝ている部屋についた。
シェイクスオードがノックをして中からマヤの声で「どうぞ」と返事。部屋の一番奥のベットでポルトスが寝息をたてて寝ている。
その横がトシゾウで寝たきりだ。トシゾウの足下でマヤが小型犬に餌をあげている。夕食の肉を何枚か皿に載せて持って帰ってきて今食べさせている。
マヤが小型犬を抱っこして「はいお父ちゃんの様子見て貰いましょうね」と大分マヤと小型犬は仲良しになっているようだ。
一行はトシゾウの顔色を見て大丈夫そうだなと感じて安堵の表情。神官のウォルトンがベットに寄って右手の脈を取る。寝息の呼吸音を聞く。
そして「うううん。一応健康体のように思えますが、意識が戻らないんですか?」
マヤが小型犬を抱っこしたままで「はい。一度も目を覚ましていません。」
「悪い所はなさそうだが・・・取りあえず掛けとこう」と聖鈴を取り出し詠唱を始め神聖魔法のヒールを掛けた。
ヴィックモロー、リトルジョン、ウォルトンの三人は「お大事に」と言って退室した。
そしてシェイクスオード、トワイライト、捕虜世話役の中隊長達が部屋から出てくるのを待って、元居たシェイクスオードの執務室まで戻っていった。執務室の前で執務室の横の部屋に通された。
応接室のようで中心にテーブルがあり、テーブルを囲むようにソファーが置いてある。日本の中堅企業の応接間にそっくりな配置である。
「遠慮無く掛けてくれ」シェイクスオードが奥側のソファに座りヴィックモロー、リトルジョン、ウォルトンは手前側のソファに言われて座った。
トワイライトは部屋の奥端の給湯室に入った。
捕虜世話役の中隊長がシェイクスオードの斜め後ろに立って護衛の様に振る舞おうとしている。シェイクスオードは捕虜世話役の中隊長の方をチラッと見て
「ロナウド、何している堅い事は抜きだ横に座れ」
とソファの自分の横を手でトントンと軽く叩き其処に座るよう促した。捕虜世話役の中隊長はロナウドと言うようだ。
そのロナウドが座ってシェイクスオードが喋り出した。「まず、貴方達の隊の名前を聞いてなかったな。」
「ゴールデン・バーボン傭兵隊と言います。相手によってはゴールデン中隊と言う方もいます。」
「分かった、ゴールデン・バーボンだな。」
「ゴールデン・バーボン隊には明朝、朝食を終えた後、荷物を|纏≪まと≫めてエルフの里に行ってもらう。そしてエルフの大工の頭領の手伝いをして貰う。四泊五日の予定だ。このロナウドと二個小隊と馬車四十台が随伴する。心配の妖魔討伐は予定にない。安心してくれ。」
正直者のリトルジョンは胸を撫で下ろし安堵の表情で表情が緩んだ。
「エルフの里があるんですか?」とヴィックモローが意外そうに聞いた。
そう聞いてシェイクスオードは、”はっ!!”として表情が一瞬で硬くなった。
”仕舞った。オルトラム教徒の有無を先に聞く事を忘れてた。早計だった。”と悔やんだ。
「その前に、|貴方方≪あなたがた≫の中にオルトラム教はいるのか?」とシェイクスオードの目が警戒モードに成っている。
ヴィックモローはシェイクスオードの表情急変で背中に冷水を浴びせられた様にヒヤッとした。
「いえ、少なくとも此所にいる三人は違います。」と慌てて否定した。
「自分も違います。私は『豊穣の神』を信仰してます。」とウォルトンも真剣な表情で答える。
「私も違います」とリトルジョンも続く。
そして改めてヴィックモローが口を開く「隊長の直属でハーフリングとドワーフが居ますのでオルトラムは居無いはずです。」
オルトラムとは宗教団体及びその信者達を指し王都ラフレシアに大教会を構え、教主は国王と親密な関係。
デウアラムを信仰する教派の一つで、神に似せて作られた人間を尊しとするヒューマン至上主義、ヒューマンによる統治・冨の独占、亜人の排斥・奴隷化を掲げる。
この世界で亜人とはエルフ、ドワーフ、ハーフリング、獣人をいいオルトラム信者の亜人への偏見、差別、貶みは苛烈で有名である。
他に商売の利益追求に重きを置く教えがあり、商売の神様の側面もある。
先代国王、現国王と教主が親密であるという事から不祥事など何かあれば国王に執成しを頼めるとあって政治面での保険的な利点もあり、多くの王侯貴族の間でオルトラム信仰、領内主要都市にオルトラム教の教会誘致が流行っている。
王都ラフレシア及び周辺の大都市では絶大な勢力と影響力を持っている。ここオガミ辺境伯爵領では辺境地故にオルトラム教から相手にされず、信徒もおらず教会もない。そして、オルトラム教とは距離を置いていた。
何よりもシェイクスオード本人がオルトラム教を嫌っていた。渋い顔でシェイクスオードは
「明日の朝で良いので、一人一人確認してくれ。オルトラム教が一人でもいたら教えて欲しい。行き先を伝えるのはその後にして欲しい。」
「分かりました。確認して一人でもいたら先に報告します。公表はそれからにいます。」
「すまない。で、一応オルトラム教徒が居ない前提で話をするがいいか?」
「はい。その前提でお願いします。」
「簡潔に言うとエルフの里の木材工房に行って工房の親方の指示に従い、組み立て式の仮設住宅の部品を作る手伝いをして貰う。」
「仮設住宅?」
「そう、仮設だ。まあ三年長くても五年保てば上等の安くて簡単に作れる仮住まいの家だ。」
「はい。」
「色々考えた結果、避難民には住宅がネックになってくると判断したんだ。」
「住宅がですか?」
「そうだ。先の撤退戦でラスパ大隊との戦いで略奪に遭わない為に飛地の村々に住んでいる領民を此方の辺境地の方の領内に避難させた。
その数|凡≪およ≫そ一万八千人。三つの街それぞれ約6千に別けて避難民キャンプを設置して収容している。
その避難民に必要な物として第一に食い物、是は避難する時に各村の義倉(災害や飢饉の時の為の食料の備蓄)の中身を全部持ってきた。これで当分は配給で食いつないで貰う。
第二は住む所。つまり仮設住宅。狭くても他人の目を気にせず家族で暮らせる家が必要なんだ。
第三は着る物だが、みんな裸で避難してないから要望が挙がるまで『着た切りすずめ』で可能な限り我慢して貰おう。
要望が多くなったら大の男が今度はお針子だ。ははは。我慢しやすい物は優先順位低めで。つまり、一万八千人の避難民の住み家が課題。一万八千人と言っても家族数で言えば約三千六百世帯。
備蓄で建てられるのが約千百世帯分。二千五百世帯分の仮設住宅が不足している。是が当面の課題なんだ。『衣食足りて礼節を知る』と言う名言があるが、住む事も大事だと思っている。」
「え?そんなの有るんですか?聞いた事がないです。」とリトルジョンは当然の反応。
「あ、そうだったな(汗)。管仲は知らないな。」
とシェイクスオードが言ったのは中国古代の名宰相の名言である。知らなくて当然だなとニヤッとして頭を掻いた。笑顔で誤魔化しつつシェイクスオードは話を続ける。
「避難民は殆どが簡易テント、簡易ベット、プライバシーの無い難民生活。『略奪・強姦・虐殺に合わなかっただけ良かった。』『生きてて良かった。』と云う者達もいるが、そんなの最初だけだ。
避難生活なんて月日が経てば経つだけ精神を蝕んでいく。精神的疲労と将来への不安に加え、プライバシーの無い生活で、安心して寝れない等精神的ストレスで体力と気力を奪っていく。つまり、狭くてちゃちでもいいからすぐ建つ家が大量にいるんだ。」
ヴィックモロー、リトルジョン、ウォルトンの三人は”重要な説明だろうけど言っている事が判らない。”と思いつつ相づちを打って話の邪魔はせずに聞いている。
「で、普通に家作るなら石材や煉瓦だが、手っ取り早く建てる為に木材で作り規格や家の構造を統一して簡素化し、生産地で建物の壁、屋根、床、外壁等の部品を量産して輸送し、後は設置場所で組み立てるだけ。プレハブ工法と言うんだけど、その生産地での部品の生産の手伝いをお願いしたい。」
ちなみに、ヴィックモロー、リトルジョン、ウォルトンの三人は説明について行けてない。
シェイクスオードや、トワイライトのように転生者で前世の記憶を持つ者、つまり平成の世の日本を生きた記憶、特に大災害に関してテレビや報道で被災者・避難民に起こる困難に関しての知識と理解が無いと此の話には着いてこれないのである。
正しい事を言っているのだが、シェイクスオードはソコを失念している。だが、三人は理解出来ない部分は置いといて要点の『生産地で木製住宅の部品作りをする』という部分は捉え、三人は仕事内容を理解した。
「確認ですが、木材工房に行き家の部品を作りを手伝うでいいですか?」とヴィックモローが言った。シェイクスオードは色んな事情や背景等の説明など長く喋ったが、命令として簡単にすればヴィックモローが言った一行で済む話。
「ああ、そうだ。が、木工と思って甘く見たらいかんぞ。なんせ作る数がとんでも無く多い。各街の守備隊から手の空いてる中隊を数カ所あるエルフの里に派遣しているんだが、大変らしい。」
仕事の内容を理解して安堵した顔のリトルジョンが感想のようにつぶやく。
「本当に、妖魔退治じゃなく、肉体労働なんですね。」
「そうさ、折角の貴重な労働力。妖魔なんかに関わらせたら労働力が減るじゃないか、勿体ない。大事に安全に働いて貰えれば明日も、明後日も仕事を消化してくれる。
この辺境地まで来るのは行商人と冒険者ぐらいだ、田舎までわざわざ労働者は来ないのだよ。」
半分愚痴が入ってきている熱弁の途中で、トワイライトが今入れた紅茶を出してきて、話を遮った。
まずヴィックモロー、リトルジョン、ウォルトンの三人、続いてシェイクスオードと、世話役のロナウドに出した。
ウォルトンが鼻をクンクン鳴らせて「良い香りですね。」と目を細めて香りを楽しむ様子。
「お!、紅茶お好きですか?」とシェイクスオードの表情に少し笑顔がでる。
「ええ好きな方です。」
「領内のエルフの里で栽培されている紅茶で私もトワイライトも気に入っている茶葉ですお口に合えばいいですが」
ウォルトンが言われるままにカップを取り口元に運ぶその時にはもう目を閉じて嗅覚と味覚に集中している。口を付け動きが止まる。五、六秒後に目が開きカップを置く。
「美味しいですね。久しぶり良い紅茶飲んだ気がします。」
「それは良かった。エルフが茶葉を栽培すると味が良くなるんだ。あと木の実や果物を育てるのも上手だ。弓を使う狩りは特に上手で戦でもエルフは弓兵の適性が極めて高い。
反面筋力や体格スタミナが低く力仕事は不得手、鎧で重装しゴリゴリ前線を押して行く戦いには全く使えない。得意不得意の偏りが極端な連中で気位が高く・・いや、誇り高く気むずかしい・・。」
聞いている三人は表情が曇ってきた。リトルジョンが一旦息を吐いてから「人間関係が難しそうですね。」
シェイクスオードは”難問だよなぁ”って顔しながらも「最初だけだよ。打ち解ければ結構面倒見良い上に気前も良い。」フォローしてるが余り効果がない。
シェイクスオードの横に座っているロナウドもフォローしようとして
「貴方達より前にエルフの里に行った中隊が『良い所を褒めて、不得手な所は成るべく触れない作戦』をやった連中が居たんだ。『すごい器用だね』とかエルフは弓が得意だから弓の腕比べもやった。
当然弓の得意なエルフが勝つんだが褒めまくる。すると酒が振る舞われたらしい。それも、エールじゃなくワイン、リンゴワイン、シェリー、ブランデーとか高級酒がでたらしい。」
三人の死にかけてた様な顔がパッとお宝を見付けた様に明るくなり。「ええ?」とか「マジっすか?」と身を乗り出した。
さっきまで眠そうな顔していたリトルジョンが
「なんか、俄然やる気出てきた。えっと『機嫌取って打ち解けよう作戦』でしたっけ?」
シェイクスオードが苦笑しながら「うん。それで良いよ作戦名」
ロナウドの話が続く「それでな、エルフって『森のハンター』って異名が付いてる程に狩りが上手なんだ。ハンターとしての誇りも高い。
大物仕留めた時の自慢話聞いて『凄いなぁ』ってヨイショしたらドヤ顔して翌日わざわざ狩りに行って大鹿と、ワイルドボア(大猪)の丸焼きをご馳走してくれた。味付け特に塩加減とハーブの加減が絶妙ですぞ。エルフの肉料理は超美味い。」
リトルジョン、ウォルトンの二人はニヤけた顔が宙を見つめ開いた口からよだれが垂れそうに半開き。妄想の中にトリップしていた様な顔をしている。
副長は意志力で一生懸命その手前で踏み止まっていた。
ウォルトンは鼻息荒く「任務喜んで拝命致します。全力でエルフと良好な関係を築いてきます。」といい。
シェイクスオードは「うん。」と言ったが、トワイライトが立ったまま紅茶を飲んでたのを止めてニヤニヤしながら
「違う、住宅の部品を量産する手伝い、助っ人だよ。(笑)」と突っ込む。
リトルジョン、ヴィックモロー、ウォルトンの三人とも笑顔で「イヤーそうでした(笑)」
シェイクスオードもニヤニヤしながら「しかし、ご馳走でもてなして貰うぐらい信頼関係を構築してきてくれよ。」と右手を頭の上辺りまで挙げて激励する。
ヴィックモローが真顔で「有り難う御座います。ですが、それは捕虜の待遇ではない。捕虜に対してそんな厚遇でいいのですか?」と常識をぶつける。
笑顔のままシェイクスオードは「有能であれば、捕虜でも関係なく能力を十二分に発揮して欲しい。領内の積み上がった仕事を処理してくれて、常人が十こなす所を十二こなすならボーナスを出そう。
君達ゴールデン・バーボン中隊は人一倍頑張った分美味いメシ、美味い酒に有り付けるなら前向きな努力を惜しまない連中だと思っているが。」
「確かに言われるとおり食いしん坊です。」
「此方も積み上がった仕事が減って助かる。君達は頑張った分美味い物食えてハッピー。それで両方が納得するなら、ウインウインじゃないか。細かい事気にするな、この扱いが嬉しいなら働きで応えろ。」
そう言われて嬉しかったのか三人は少し涙ぐむ様な表情を覗かせて「了解」と答えた。
期待している家臣の様に手厚く扱われたのが嬉しかったのだ。
「私は期待を込めて君達ゴールデン・バーボン中隊を労働力としてエルフの里に派遣する。我々の関わる処はそこまでだ。エルフにとっては不得手な力仕事・重労働を肩代わりしてくれる助っ人が来て助かる。
彼等が助っ人を気に入りどう遇するかはエルフの問題だ。仮に助っ人が頑張っていて気心の通じる仲間だったら暖かい持て成しのメシを出そうと思うだろう。気持ちで動く連中だからな、君達次第だ。気に入らん相手には冷や飯が出るだろう。」
三人は”なるほど、冷や飯は困るな。”と理解した顔をした。
リトルジョン、ヴィックモロー、ウォルトン三名は礼を言いタイミングを合わせてお辞儀して退出した。
戸の向こうでは何か相談しながら帰って行く話し声が扉越しにかすかに分かった。内容は分からないが大体の予想は付く。
部屋の中では、空いた席に腰を下ろしトワイライトが飲みきってない紅茶を楽しんでいる。
シェイクスオードはロナウドに「明日からの引率頼むな。」
「はい。何時も通りハーフリングの牧場経由してから向かいます。」
「前回、エルフの里で持て成された人が付き添うんだ頼りにしている。指導しっかり頼みますよ。」
「最善を尽くします。機嫌を取る気になってくれたので気が楽になりましたよ。エルフのご馳走様々ですな。(笑)」
「全くだ、関係する者全員が笑顔になるのが一番。さあ、夜更かししても良い事無い。寝ようか。」
「はい」とロナウドが返事し立ち上がりそのまま寝床に戻って行った。
続いシェイクスオード、トワイライトが立ち上がる。
トワイライトは給湯室に行き自分だけマグカップに追加で紅茶を入れさらに、ブランデーをワンフィンガー(指一本分の量を)入れて、かき混ぜて部屋を出る。
ちびちび飲みながら寝床とは別の方へ廊下を歩いていく。中庭に接してる廊下から中庭に降りていった。
中庭は人気のない暗く静かだが虫の鳴く声だけが聞こえている中庭に降りていき、木陰にあるベンチに座り紅茶をちびちび飲む。
夜風は緩く流れている。冷えた夜風に湿気があり森の香りがする。
月明かりで庭の形や木々草花の形は判るが色は夜の色。木陰の下などは月明かりも届かず暗くて何があるのか判らない。
その木陰の下のベンチに座り闇に紛れて紅茶をすすっている。普通に考えるとかなり変な奴がだ。
十分ほど経ってベンチの側に歩み寄る人影があり、近づいてしゃがみ声がした。
「隊長遅くなりました。」
トワイライトは木陰の闇の中で紅茶を飲んでる姿勢を変えずに
「ハンゾウご苦労様。まずは相場動向を聞こうか?」
「はい。」ハンゾウは相場表をまず渡して、
「目立って価格が動いているのは武具と医薬品です。王都以東で食料が慢性的に不足している様で小麦等の穀物類、そしてハムやウインナー等の加工肉の価格が高値を維持してます、繊維・織物・衣料は安定してます。
王都及び南部と北部で武具と薬草、医薬品も緩やかな上昇基調。塩など調味料や香辛料、嗜好品はこの西部以外で下落局面に入ったようです。
三ヶ月前に比べて王都から東部、南部付近で非軍事物資関連から、食料や軍事物資になる品々に|物色≪ぶっしょく≫の対象がシフトしてきて在庫が品薄に成ってきている様です。雲行きは悪いですね。他は・・」
と大まかな相場の変化の報告を受けた。
物の値段の変化等から国や地方の動向を読む鍵が眠っている場合があるので、トワイライトは真剣に報告を聞き入っていた。がアルコールが少々入って頭が巧く回らない感じである。それでも頭を働かせ思考を巡らせる。
王国の東部と南東部二カ所で敵国と接している場所で武具や食料が値上がりしている。
これはその付近で小競り合か小規模の会戦が最近発生した、又は頻発していてそれ等の需要が上がっていると見て良いだろう。
数字からの予想ではその様に想像出来るが、予想が外れる場合も多々あるので、数字からの予想で当たりを付け周辺の街や村で情報収集や聞込みをして情報を集めて事の真偽を裏打ちをする。
今回、国境付近の街の酒場で得た情報だと小競り合いが何度か有ったが、双方の被害は少なかったらしい。
王国としては隣国との戦闘で手一杯でオガミ領にこれ以上兵力も物資も裂く余裕が無いはずであると想像出来る。
「相場の方は判った。頼んでいたシェラ野営場付近の様子はどうだった?」
「はい、大街道の三号線ミナブ、シェラの野営場付近は二体の妖魔と多数の魔物が確認されました。商隊の二隊が何も知らずに近寄った様で、襲われて護衛もろとも全滅した様です。大街道三号線はミナブ付近は魔物に封鎖されて麻痺しています。商隊は仕方なく脇道使って迂回している様です。」
「まあ、そんな処(想定の範囲内)か」
「はい。ただ、夜になると更に危険に成ります。」
「ん?夜に?」
「日が沈むと、ゾンビ、スケルトン等アンデットの群れが辺りを徘徊しているとの事です。その数約千三百弱。その中には王国軍正式採用の軽装革鎧を着けてるアンデットが多く居るようです。」
「ああ、心当たりある。だが昨日死んで即日アンデットって早くないか?普通はアンデットになるのは6~12日経ってからの筈だし、ダンジョン内ならまだしも、平地でアンデット化率が高すぎる千三百弱だと戦死者のほぼ100%だ。」
「死霊術使いが居るのでは?と周辺を探索しましたが手懸かりはありませんでした。」
紅茶を飲みながら思考が巡らせているトワイライトだが、何か思い当たって「はぁ」とため息をつき
「色々考えても原因として断定出来る情報がない。推測の域を出ない。当事者の我々が見てたのに、解らない事っていうのはどうしようもないな。」
トワイライトは言いながら、マグカップの紅茶が空になっているのに気付いた。
ああ、飲んじゃったと言う顔しながら
「会員の皆様に相場表・物価表をお渡しする時に『大街道三号のミナブ、シェラ周辺で撤退中の辺境伯軍に王国軍が猛追し。
甚大な被害を出し日没で戦闘を止めるが血の臭いを嗅ぎ付けた妖魔と魔物が集まり、夜の闇に紛れて双方に襲いかかり両軍とも壊滅。
辺境伯軍の指揮を執っていた者は意識不明の昏睡。王国軍側指揮官は行方不明。
その後妖魔を含む魔物達がミナブ・シェラ野営場を占拠し大街道三号線は封鎖・麻痺している。
オガミ領及び周辺の穀倉地帯から王都以東への食料の移送は途絶す。食料高騰・食糧不足が予想される為早目の食糧確保をお勧めする。』・・・以上の内容を速報として別紙添付」
どうやらトワイライトの近くで喋っているのは、トワイライト旗下の諜報部の頭の様である。
月明かりの元に移動し速記でメモを取る。諜報部の頭が内容を記録する間はトワイライトもユックリと喋った。
メモを取り終えた諜報部の頭は木陰の闇に戻り、「意識不明の昏睡って・・シェイクスオード様はご健勝の様でしたが。」
「シェイクじゃないよ。」
「ではやはり、隊長でしたか?それならあの快勝ぶりは納得します。昏睡はおまけですか?」
「俺も昏睡してないだろ。俺じゃない。俺もシェイクもラスパ(王国の追討軍の指揮官)相手にアソコまであっさり勝つのは難しいだろう、五分五分の戦いか辛勝ぐらいだな。
戦い方をシンプルに落とし込み、シンプルに勝つ。軍神の如き凄い戦術家が正に『降臨』したんだ。当世の上杉謙信てところかな。」
「へぇー。戦術関係で隊長がソコまで仰るのは初めて聞きました。」
「興味が湧いた様だな。」
「はい。」
「ハンゾウ極秘事項で他言無用だが。」
「はい」暗闇の中でも判る多少の緊張感を含んだ感じが伝わってくる。
「勇者が召還された。その勇者は魔法、攻撃力を使わずに、戦術と罠を使って六百の兵で二千のラスパ二個大隊をあっさり打ち破り全滅させた。
敵は戦上手のラスパ大隊長だぞ。その勇者に王国側より先に出会う事が出来た。本当によかった。」
其れを聞いてハンゾウの緊張感は解け懐かしさと共に先代の勇者の面影が脳裏に浮かんだ。
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小高い岩の丘、膝の高さ位の平たい一枚岩に右足を掛け登ろうとしている若い女性。金銀で装飾された騎士の鎧を身に着け名剣を片手に此方に気付いてこっちを見て微笑んでくれた。口元には優しそうな笑みが浮かんでいて無事で良かったと言いたげな表情。
先代の勇者の思い出の一場面。
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「まずは、幸運の女神に感謝ですな。」
「ああ、国王達に最初に会っていたら先代の勇者の二の舞だ。其れはなんとしても避けたかった。・・・・あ、すまん要らぬ事を言ったな。」
「いえ、私とて先代の勇者のアミ様と何度かお会いして話もしました。勇者様はご自分が辛い時でも笑顔で接して頂いたあの時の眩しさを覚えています。勇者様に再びお会い出来る事楽しみにしています。勿論口外はしません。」
「そうか、・・そうだな。・・・では、相場表に添付書類付けて速報で届けてくれ。」
「はい。早急に。」と言い残して気配が消えた。何も物音はしなかった。
トワイライトは少し経ってから木陰から出てきた。月明かりに照らし出される表情はしんみりしたモノであった。
話の中で出てきた先代の勇者の事を思い出して危うく感傷に浸りかけいた。
感傷に浸る時は酒飲みながらと思っているのだが、紅茶に入れたブランデー程度で口数が増えしまった。酒はあんまり強くない方で人並みに呑むと翌日の午前中は使い物にならない。
本人もソコは分かっているので翌日の予定が無い時に限っている。ユックリと歩いて寝室に戻る。
部屋に入るとベットが三台有り一番奥は亜里砂が既に高いびきで寝てる。真ん中にシェイクスオードで枕元のテーブルに光る物が有り枕元をほんのり明るく照らしている。
シェイクスオードも既にベットで横になっておりチラッとトワイライトを見て「遅かったな。」と一言。
「ああ、家の用事だよ」とそっけなく。
「相場表&短評だったか?。」
「そそ。家の収入源だからね。|疎≪おろそ≫かに出来ない。」
「そうだな(笑)俺も頼りにしている。我が領の穀物の売却の時に重宝する。」
「お客様、そう言って頂けると有難いです。・・・なんてね(笑)」良いながらニヤッとするトワイライト。
「ふふふ。」たわいも無い会話を交わし低く笑っうシェイクスオード。
トワイライトも上着とシャツ・ズボンを脱ぎ、短パンを履き、Tシャツ・短パンツでベットに潜り込んだ。
寝る体勢が整ってから「ミナブからシェラ野営場付近が封鎖状態に成った。魔物と妖魔(上位クラスの魔物)が占拠しいる様だ。あと、夜になるとアンデットが大量発生しているらしい。」
「あああ。それは大変だ。」シェイクスオードは驚いた様子もなく逆にニヤニヤしている感じに近いし、台詞は棒読み。言い終わってアクビも出た。
トワイライトもニヤニヤしつつ目を閉じて口だけ動いている。
「嬉しそうで何より、自分らで仕出かした事なんで予想は付いてたが、大街道が魔物で溢れた。結果として王都から次の追討軍が来ようにも魔物達が防波堤の役割を果たしてくれる。有難いものだな。」
トワイライトが喋っている間にシェイクスオードは眠りに落ちた。スヤスヤ寝息をたてている。
トワイライトも口を閉ざし目を閉じる。
”そう言えばこいつ、昼休憩後から事務方の主任・班長達が到着してずっと馬車の荷台でずっと打ち合わせやってたよな、御苦労さん”と思い出しながら眠くなってきている。
少ししてシェイクスオードの枕元のテーブルに置いてある光の魔石が蓄えた魔力を使い果たし光りが小さくなり光るのを辞めた。
トワイライトがウトウト|微睡≪まどろ≫んでいると、横でシェイクスオードがうなされだした。寝言の内容から擬人化した仕事に追いかけ回されている様だ。この先二週間起きても寝ても仕事に追い回される御苦労様な労働者|此所≪ここ≫に眠る(悪夢)おやすみ。
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朝日が上がる一寸前、トシゾウは目覚めた。松葉杖を突いて庭に出ている。髪の毛は寝癖で爆発している。寝ぼけた感がある格好で。昨晩トワイライトが出ていた庭に出てきていた。
「ここはどこ?」
新しい一日の始まりであった。
前話と今回期せずして戦記物に近い内容に成ってしまいまた。次こそは歳三の冒険が始まると信じています。ちゃんと、歳三と冒険したいと思います。次回は冒険を始める為の買い出し等から。
2022/06/15 改行を入れて段落編成を改善しました。