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【012】 ドワーフの村サブラ

ドワーフの村サブラで竜の魂に力量を試される。そこで見たものは・・・?。必殺『力の具現化』の真価を発揮できるか試される。

「」は台詞。””は思い・心の中の台詞。『』は名称・擬音・その他

 夕刻、日が傾き田園風景の中の道を馬車は車列を作って走っていく。道は今し方森の中に入った。一行は北に向かっている。

向かっている北方向は森が広がっていてその先に山脈が東西に連なっている。

隊列はトワイライトの馬車を先頭に、トシゾウ、マヤ、Temper、ポルトス、亜里砂の順。

 森に入って直ぐに馬車の車列は止まった。先頭の馬車からトワイライトが降りてきた。

Temperの馬車に駆け寄り

「テンさん、此所から先に見られては不味い物が幾つもある。目隠しさせて貰えないか?目隠しの状態で3時間程ポルトスの馬車の助手席でお喋りでもしててほしい。」

「いいけど・・、馬車はどうする?」

「俺の馬車の後ろに連結して引っ張るよ。一般の人に見られると不味いモノがあるんだが、ソコを通ると、普通に3号大街道を迂回するより3日は短縮出来る。」

「え?3日も?良いねぇ。経費が浮くね。解ったポルトスとお喋りしとくね」

とTemperは聞き分けよくポルトスの馬車に移り自分の手ぬぐいで目隠しをした。

トワイライトはTemperの馬車を自分の馬車の後ろにロープで連結しながら、各馬車のランタンに灯りを点すよう告げた。

トイレ休憩を取り準備が整い次第出発した。ポルトスとTemperは楽しくお喋りしているが、その他は馬車に一人なので寡黙である。

2時間程過ぎて完全に日は暮れた。真っ暗の中、馬車のランタンの灯りが目立ち人目を引くが辺りに人は居ない。

林道から外れ道無き道を通った後、また道に戻り緩やかな上り坂になった。

緩やかな登り道を行く事30分、切り立った山肌に挟まれた谷間に関所が現れた。

関所に着くと、車列は止まり先頭のトワイライトを見て関所の役人が駆け寄る。

「ご苦労様です。こんな日暮れとは珍しいですね。急ぎの輸送ですか?」と役人が親しそうに話しかけながら近寄ってくる。

「ははは、こんな日暮れでも此処に来るまでに魔物に会わなかったよ。良く駆除が出来てる証拠ですね、助かります。」

と相手を労う言葉を言い乍ら荷台の後部積み降ろし口付近の樽を4つ手の平で軽く叩いて「この4つを頼む」と役人に笑顔で告げる。

役人は連れてきている部下6人に「降ろせ」と指示する。そしてトワイライトに愛想笑いしながら

「トワイライトさん、いつもお心遣い有り難う御座います。」と愛想が良い。

「偶にしか通らないが、何時来てもこの付近は安全が確保されている。良い仕事してますね。その樽は何時ものやつ、ワイン、エール、と『ディンバ』の里のフランクフルト、ベーコンが一樽ずつ。息抜きに使って下さい。」

「悪いっすねー。これでまた兵達も喜びます。」と役人は一寸した宴会が出来るのが嬉しいといった表情で楽しみな顔。

「優秀に仕事して呉れているんで私達も安全に通行出来ます。あれは気持ちですので遠慮無く楽しんで下さい。」とトワイライトはいい顔したい性格なのだろうか?気前が良い。

「そう言ってくれると仕事にも張り合いが出るよ。悪いな~、遠慮無く貰っときます。・・・ところで、この時間だとこの先のドワーフの村『サブラ』に泊まるんですか?」

「あ、ああ。泊まりはソコになると思います。」とトワイライトはフランクに話す。

「あ、やっぱり気付いて無いようですね。この数日前に百年に一度と言われる三つの月が重なったの御存知ですか?」

と役人は普通のお喋りを装っているが、”面白い情報があるんだ、何時も貰ってばかりじゃ申し訳ないので良い事教えてやるよ。”と目が語っている。

「あ、ああ。覚えているよ。」とトワイライトは”トシさん達がこの世界に来た日がそうだったな”と思い出している。

「その3日前から約半月の間『サブラ』の村付近の下を通っていると言われている龍脈が勢いを増して暴れているらしいんだ。多くの村人が超常現象を体験しているって話しだ。」

「超常現象?」とトワイライトの興味は引かれた。

「そうなんだ。予知夢、神託、災害の予言とか人それぞれだが、決まってその村に伝わるお守りを持ってないと被害者が出る。」

「被害者?」トワイライトは聞き上手。

「村に伝わるお守りを持っていないと魂が龍脈に流されて戻って来れない。魂が抜かれた状態の奴が偶に出る。魂を抜かれた奴の共通点はお守りを持っていない事だ。」

「それは困るな・・」

「悪い事は言わない、宿屋の女将に言って人数分お守りを買った方が良い。」

役人は一旦言葉を切って、間を置いて続きを話す。

「一週間ほど前に冒険者と称する青年と妹か、娘が宿屋で魂が抜けた状態で見つかったようでだ。魂が戻らないと一週間から十日で力尽きて死ぬらしい。恐い話しだ。

トワイライトさんには良くお世話になっていて、何かあったら俺達も寂しくなります。お守り忘れないで下さいよ。」

と役人は気遣いを見せてくれた。

トワイライトは片手を軽く上げて笑顔で

「解った。そうするよ。有り難う」と言って馬車を動かし出した。

関所の役人が詰め所の入り口付近から、通過していく馬車の車列を見送る。

役人の見送る顔は心持ち浮かなそうに見える。役人の背後から声が聞こえる。

「隊長、今夜は御馳走と晩酌ですね。もう締めてしまいませんか?」

「馬鹿者、まだ閉門時間まで1時間ある。門を閉めてからだ。我慢せい。」

役人は襟を正す。部下には顔を見られていないが不安そうな顔をして馬車の去った方向を見つめて深い溜め息を吐いた。

酒と御馳走に有り付ける喜びよりも”魂ながされんじゃねぇぞ。また元気な顔見せろよ”と心配の方が先に立つ。

その後ろ姿は気の合う友人を気に懸けいる風だった。

その背中を向けている方向では役人の部下達がワクワクを押さえきれず口数が増え賑わしい。2人ほどコッソリと酒の準備を始めいて、焼いたベーコンの香ばしい臭い、味を想像しヨダレが溢れてくる。

ここの関所の道は普段は一般人や商人には開放されて居らず、オガミ領とレイアード領の関係者しか使えないので、商人達の賄賂や心付けなどの甘い汁は一切無い。

それで商人気質のトワイライトが通る時は部下を含めて歓迎ムードで迎えてくれる。一寸した差し入れが良く効いて喜んでくれるのでトワイライトは嬉しくなってまた持っていく事がある。

そんな歓迎ムードの関所を越えて緩やかな登りの山道を20分辿り登り切った所で小休止。

Temperに目隠しを外して貰い、トワイライトは全員に

「ココから、居眠り禁止ね。」と告げる。

ポルトスが頭を傾げて「なんで?」と聞く。居眠り運転の常習犯だからだ。

「命に関わるらしい、ヘタしたら死ぬってさ(笑)」と自分でも”唐突すぎるなぁ”と思いながらトワイライトは半笑いで言う。

「え?まじ?」と皆は驚き顔。

Temperは”え?勘弁してよ~、何時もの笑えない冗談?”と怪しむ顔。

「マジだ!詳しくは宿屋に着いてから話すが、絶対に寝るな。万が一の為に水筒の水を捨ててワイン入れといて。」

と言ってトワイライトは先ず自分の水筒に荷台の樽からワインを入れだした。

「何でワインなんだ?」とトシゾウが聞く。

「昭和の時代に長距離のトラック野郎が疲れた時にたまにやっていた事って聞いた事があるんだが、一寸ずつ軽い酒を取るとアルコールの効果で眠気が麻痺するらしいんだ。

だが基本、飲酒運転は良くない、しない方が良いが馬車は馬が自動で追走運転してくれるんでね。今は眠らない事が大事」

ポルトスは素直に「はい、全く言っている事が理解出来ません(笑)。whyジャパニーズピープル!!」

トワイライト、亜里砂、マヤにはうけて大笑い。何処で覚えたんだろう・・。当然の事ながらTemperは付いて行けて無い。

一通り笑いが治まって、トワイライトが

「取り敢えず、宿屋まであと1時間絶対に寝ない事コレが大事。じゃあ行こうか」と先を急いだ。

予想はしていたが、30分位経った頃からポルトスの声が大きくなり酔っぱらっている事が丸分かり。横で喋っているTemperも声が多くなっている。

トワイライトは”まあいい。無事に着けば・・”と声が聞こえている間は大丈夫だと思う事にした。

無事に1時間経過して『サブラ』の村に到着した。辺りは真っ暗だが遠くに灯りがポツポツと有るのが解る。

 一行は宿屋兼酒場の前に馬車を止めて下りてくる。

 宿屋の戸を開けて入るとまあまあな明るさの広間に大きめの丸テーブルが8つあり、髭を生やした背の低いおっさん連中がお喋りしながら酒盛りしている。客の全員がドワーフのようだ。

ガヤガヤ騒がしかったのがトワイライト達が入ってきた事に気付き静かに成った。酒盛りしていた客達が警戒している証拠だ。よそ者が来たんだ当然の反応かも知れない。

酔っていたポルトスも真顔に戻り、トシゾウも涼しい顔をしているが動きに隙が無くなった。

トシゾウはこの背の低い髭モジャの客達が戦士として優秀なのを肌で察知する。”こいつ等只の呑んだくれではなさそうだ”と無意識に目付きが鋭く成っている。

背の低い店のお兄ちゃんが出迎えてくれた。「いらっしゃい、空いてるお席にどうぞ」と空いているテーブルに案内する。

「6人だが泊まれるか?飯も欲しい。」とトワイライトがウエイターの兄ちゃんに言う。

「はい。大丈夫です。」とウエイターの兄ちゃんは一旦言葉を切って「女将さーん、メシと宿泊6人前!!」と奥に向かって叫ぶ。

奥から「あいよ。毎度あり-!」とおばちゃんの声で返事が返ってくる。

客達は未だに静かなままだ。空気が重い。

ウエイターの兄ちゃんが”仕方ないなぁ”って顔で切り出す。

「お客さん、何処からお越しで?・・いえね役人以外の人間の方は滅多に見ませんので・・」

トワイライトは理解した顔で鼻息をフンと一度つき

「セイロンからだ、『レグルス』の町のお城に届け物がある。」と普通に喋るが、周りは聞き耳を立てているようで良く声が通る。

「レイアードの関係の方ですか?」とウエイターの兄ちゃんが聞く。

「ああそうだ。」

とトワイライトの返事を聞いて納得・安心したのか「なんだ」とか「やれやれ」と声が有ってから、周りはまたガヤガヤと賑やかさを取り戻した。

 此所の『サブラ』の村はオガミ領から山脈を越えて隣接しているレイアード子爵領に入って直ぐの山村、鉱山村である。

ドワーフの住む村で九年前に、近くに洞窟や廃ダンジョンが有るこの村に移住した。

ドワーフについては触れるまでもないだろう。人間に近い亜人種族であるが、この国フローレンスランツ王国内の宗教界で圧倒的最大宗派であるオルテ教団から迫害を受けている種族の一つ。

『サブラ』の村に住むドワーフの部族は九年前にこの地に移り住んだのだが、以前は別の土地で先祖代々暮らしていた。オルテ教を信仰する者達に住む場所を奪われて放浪の末この地に辿り着いた。

この部族は辛い目に合って人間に対しては苦手だ。

だが、自分達を受け入れてくれたレイアード家の人間・役人には礼を尽くし友好を保とうと努力している。

トワイライトの胸ぐらいまでの背丈で金色とベージュの中間ぐらいの色の髭を蓄えたドワーフ2人がほろ酔いでジョッキを持ってテーブルにやって来た。

「兄ちゃん、レイアードの人だって?」とトシゾウに話しかける。

トシゾウはトワイライトをチラッと見たが、トワイライトは軽く頷く。

「ああ、そうだが」

「今、アレなんだ。」とドワーフ二人はニヤニヤしながら言う。

トシゾウは『アレ』が何だか解らないが、酔っぱらい相手は話を合わせるのが鉄則だと思っている。下手な所で話を切ってしまうと、同じ事を延々と何度も聞かされる無限ループ地獄になる恐れがあって面倒だ。

話を合わせてサラッと流すのが無難だ。

「アレか?」と話しを合わせる。

「そうだよ、アレだよアレ」とドワーフの話しに名詞の主語が無くトシゾウ達一同は全く話しが見えない。

「そうか、アレかー」とトシゾウも驚いた口調。

「アレで『お月さん』が×@÷〆3√4/3±yでよ、困ったんだわさ」とドワーフは一部呂律が回っていない。

「そうか、アレとお月さんかー」と言っているトシゾウも訳が分からない。

ソレを聞いてた亜里砂が急に顔を赤らめてトシゾウの後頭部を軽くピシャリと叩く。

「何あなた達酔っぱらって下ネタはなしてんのー!」

亜里砂の想像の行き着く先は下ネタ。

ドワーフの酔っぱらい二人は顔を見合わせて「がははは」と笑い出す。

「この兄ちゃんと、俺達二人とも男だぜ生理の話しなんてするかよ。生理は辛いって聞くが男にはわかり合えない未知との遭遇だ」

ドワーフの相方もフラフラしながら「うんだ。うんだ。」と相槌を打つ。コッチもそこそこ酔っている。

ソコでトシゾウが「あ、俺、生理痛くらうかもしんねぇ・・。」と思い出したように言う。

ドワーフの二人は半笑いの顔で「ウソぉー」とトシゾウに向かって、トシゾウの胸をパタパタ手の平で触ってみる。男のようだ。

そして「お前男だな、胸ねぇな。」と残念そうに言って、胸を揉むような嫌らしい手つきのままチラッと亜里砂を見る。

亜里砂は悪寒が走り嫌らしい手付きのドワーフの眉間に瞬殺チョップを見舞っていた。

オヤジは酒飲むとどの種族でも質が悪い。

舜殺チョップを食らったドワーフはよろめきながら「何故解ったー!」と呻く。

何か腹が立っている亜里砂を気にせずにトシゾウが

「俺も一つ間違えば・・・」とのんびり言い出すが、トシゾウを遮って亜里砂が

「そんな訳無いでしょう。トシあんたも適当な事言ってるんじゃ無いわよ。一つ間違った程度で男に生理が有ったらお天道様が西から顔出しちゃうよ。」

と亜里砂の何時もの『お嬢様口調』は出てこない、地金が出ている。

「ネーちゃん気風が良いねえ、女にして於くには勿体ない。」と褒めるチョップを食らってないドワーフ。

「んだ(そうだ)。んだ(そうだ)。」と連れのチョップを食らった跡が残るドワーフも嬉しそうに相槌を打つ。超楽しい様だ。

「いやな、前に女神様から言い渡された事なんだが・・・」とトシゾウは頼りない記憶を辿る。

「女神・・それって神託じゃねぇか?」

ドワーフ二人は更に目を丸くし、面白そうに聞く。

全く、酔っぱらいの|戯言≪たわごと≫漫才が花開く。

遊興や娯楽の少ない鉱山の村でボケと突っ込みの面白い6人組が来た。ほっとく訳がない。周りのテーブルの呑み客も戯言漫才の観客のようにクスクス笑い、手を叩いて楽しむ。

「神託だ?」とトシゾウも少し酔いで頬が赤い。

「そうよ、神様の『お告げ』や『啓示』だろ。俺達ドワーフも信仰が深いが『神の啓示』をうけた奴は知らねぇ。いいなぁー。で、どんな事言われた?」

と期待と好奇心が高まり、二人のドワーフが身を乗り出して聞いてくる。

「うん。それがな、王や王国の依頼や命令を受けちまったら、頭痛、生理痛、関節痛、悪寒を伴う倦怠感その他が七日七晩その身を襲うって・・言ってたかな?」

『ブッ』周囲のテーブルで呑んでたドワーフたちが呑んでいる最中のエールを口と鼻から吹き出す。一瞬間が空き『ドッカーン』次は爆笑が起こる

「それ啓示か?」とか「それ、呪いだよ。」「天罰!」笑い声と数多くの突っ込みが乱れ飛ぶ。

涙を流して腹を抱えて笑うやつも出てきた「腹筋が痛い。助けてー」。

皆、酒が入って笑いの栓や涙腺が緩んでいるみたいだ。

周囲の笑いが治まるのに一分ぐらいかかった。

話し掛けていたドワーフが顔にまだ笑いが一部残ったまま涙流しながら喋り掛けてくる。

「兄ちゃん、それで受けたのか?生理痛ってやつ。」

「いや、国王も国の役人にも未だ会った事ねぇよ。」とトシゾウは手を振って否定する。

「ああ、残念。」とニコやかに話している横から女将さんが

「さあ、お喋りもお終いだよ。食事が出来たよ。」と言いながらお皿に盛った御馳走。湯気が立っててガーリックやハーブで焼いた時の食欲をそそる良いにおいの広がるの御馳走を運んできた。

 一品目は人参、タマネギ、ジャガイモ等のゴロとした野菜とウインナー、厚切りの豚肉をコンソメ風のスープで煮込んだ、ポトフという湯気の立った暖かい具沢山スープ。体が温まりそうだ。

二品目は鶏肉と豚肉の香草焼き。良い匂いがする。脂が乗ってて美味そう。

分厚いが硬そうなパン三切れ、ポトフのスープに浸けて食べると美味く食べられる。

そしてエールがジョッキで来た。

トシゾウ、ポルトス、マヤ、トワイライト、亜里砂、Temperの6人は手を合わせて、『頂きます』を言って競う様に食べ出した。お腹が空いていたのだ。

食事が来る迄喋っていたドワーフ二人は自分の席に戻って「ああ面白かった」と飲み直している。

そらちゃんはテーブルの上で、トシゾウ、マヤ、トワイライトの皿の肉の一部を貰って美味しそうに食べている。

女将さんが食べっぷりに笑顔で頷いてから

「お客さん達、食べながら聞いて欲しいんだが、アレの話しは何処まで聞いたんだい?」

ポトフを食べながらトシゾウが「生理痛の話しかい?」

横のテーブルでさっきのドワーフ二人が「ブッ」とジョッキで呑んでるエールを吹いて顔中泡まみれになり乍ら反応して此方を見る。

女将さんが「生理痛はもう良いわ・・。何もまともな事伝わってないねぇ。」とヤレヤレ顔。改めてチャンと説明する気だろう一旦間を置いて

「えっとね、この村にはね地下深くに『龍脈』(地脈ともいう)と言う力の流れが通っていてね、普段は何も無くソコら中の村と変わりないんだけどね。」

トワイライト以外のトシゾウ、マヤ、ポルトス、亜里砂、Temperの5人は『ふむふむ』と食べながら話を聞いている。

トワイライトは”ああ、関所の役人が言ってたアレかな?”と思い出している。

女将は続きを喋り出す

「月食、満月、月の重なりが有ると『龍脈』が月の影響を受けて勢いが増したり、暴れたりするんだよ。それでね一週間前に月が三つ重なってね、『龍脈』が荒れ狂う程に勢いを増したのさ。それで、ドワーフに伝わるこのお守りがないと・・・」

と女将さんが息継ぎの為に一瞬途切れて息を吸う。その一瞬の隙にトシゾウの口が滑った。

「生理痛になるのか?」言ってしまってトシゾウは”仕舞った”って顔を歪める。

『チュドーン』周りのテーブルで爆笑の噴煙が上がる。シリアスな話しに傾いていただけに意表を突かれた爆発力は凄い。「がはははー」と・・。

女将は腕に力こぶを造り鬼の形相でトシゾウを睨み付ける。「ゴンタくれ(悪ガキ)か・・あんたは!」と言葉を絞り出す。

「すんません。もうしません」と主人に怒られた犬の様に小さくなるトシゾウ。

トシゾウの頭の上に(スキル『お笑い』+350Exp)が浮かび、一瞬で消えた。

女将さんは鬼の形相のままだが、気を取り戻して説明を続ける。

「お守りがないとね・・『龍脈』に魂を流されて抜け殻に成ってしまう事がある。だから、このお守りを首に掛けて寝ること!ややこしいことに成るから、いいわね!。」

トシゾウ達6人は食べながら「はーい」と素直に受け取り、お守りに着いている紐を直ぐさま首から掛けた。

トワイライトは受け取ったお守りをマジマジと見つめて”是が関所の役人が言っていたお守りだな。頼む手間が省けた”と思いながら

「気が利くな、大事な物を有り難う、女将・・。で貸し出しには幾ら掛かる?」

とトワイライトは端っから払うつもりでいる。こんな田舎の酒場だ、少しでも稼げる時に稼ぐはずだと思っている。

「お守りの御代は結構です。その代わりと言っては何なんですが、食事の後で見て頂きたい物が有るのです。」

トシゾウとトワイライトは「見て貰いたいもの?」と顔を見合わせて言葉を重ねる。

「はい。幸いお客様の中に『魔法使い』さまが居られる御様子。『魔法使い』様に見て頂きたい物が有るのです。食事終わってからで構いませんのでお願いします。」

と女将に言われてトシゾウ、亜里砂、トワイライトは何だろうとワクワクする。マヤやポルトス、Temperは気にせず美味しく食べている。

食事が終わって、まずTemperは先に2階の女子用4人部屋に先に入った。マヤ、そらちゃんも続いて女子用4人部屋に入った。

ポルトスも腹がふくれて眠いので2階の男子用4人部屋で先に寝た。

トワイライト、トシゾウ、亜里砂が女将に連れられて3階の2人部屋に案内された。

部屋の中には二つのベットがあり、奥の方には血の気の失せた美人の娘が寝ている。年の頃なら12才程度。

手前のベットは空。ベットの脇には荷物が置いてある。娘の枕元には金袋が置いてあり口が開いており、金袋の外に銀貨が十数枚並べてある。

違和感と言えば、二人部屋なのに娘が一人だけ、更に顔色が凄く悪い。

女将さんが先ず口を開く。

「さっき言っていた魂を流された親子です。父親が一緒だったのですが、父親は力尽きて死にました。娘の方は村のクレリックの回復魔法等で何とか延命中ですが、もう保たないかも知れません。」

「この二人は客として泊まったのかい?」とトシゾウは真顔に戻って聞く。

「三つの月が重なる前日だったかねぇ、夜更けに父親の方はこの宿屋に辿り着いて意識を失い倒れました。深手を負っていました。娘の方は既に意識がなく抱きかかえられていたわ。

多分『盗賊に襲われたのではないか?』と言われている。翌朝村の衛士が山賊4人の骸を発見したようなの。」

新撰組時代に探索や情況判断で豊富な経験を積んだトシゾウは瞬時に

「まあ、だいたいの線は村近くで山賊に襲われ返り討ちにしたが、深手を負いやっとの思いで此所に娘を連れて来た・・。そんな感じですか?」

と有りがちな線だがそう状況判断をしている。

「傷の具合からして、私もそんな感じだと思うよ。」と女将も否定はせずに話しを続ける

「で、父親が意識を失う前にソコの袋を出して、『この子を頼む』と言って意識を失った。宿屋備蓄のポーションも使い、クレリックに来て貰って回復魔法等掛けて貰ったんですが、折悪く今はアレでしょ・・」

と女将は話の途中で息継ぎをする。

トシゾウはまるで猫がオモチャを見つけた時のようにピクンと目が三角になり言葉を発そう賭した瞬間。

トシゾウより早く女将がトシゾウの口の前に人差し指を縦て突き出し言葉を制す。そしてニヤッと勝ち誇った笑みを浮かべ

「生理痛じゃないですよ。龍脈の氾濫。」と言った。

トシゾウは負けたと認め悔しそうに地団駄を踏む。

女将は気にせず続きを話す。

「龍脈の氾濫で魂が流されたようなんだよ。魂の入っていない体は傷の癒えも悪く父親は一昨日息を引き取ったのよ。この娘も意識が戻らない。多分魂が流されたんじゃないかってね。顔色も少しずつ悪くなっている。」

と女将は説明を終えて”可愛そうに”と哀れみの目を娘に向ける。

話を聞いていた亜里砂が

「なるほど、それで私に頼み事なんですね・・・。有効な手段は氷系魔法、『アイスコフィン』(氷の棺の意味)かしらね。」

と亜里砂も真剣な顔で記憶を辿りながら延命の唯一の候補を挙げた。

「それをお願いしたくて見て貰った訳だよ。」と女将は哀れでならないといった表情で答える。

亜里砂は早速氷系魔法『アイスコフィン』の情報等をステータス画面>所持魔法>詳細でジックリ確認している。

トワイライトが女将さんに

「一介の宿屋の女将さんが魔法の事まで詳しいとは思えないが・・」と情報の出所を聞く。

「この村のクレリック、神父さんが昔に冒険者をやっていてね。4日前に見て貰った時に魔法使いに凍結保存して貰わないと衰弱が進んで近いうちに命を落とすって言われたんだよぉ。」

「なるほど、それでか・・。良い判断だ。」

とトワイライトは納得して亜里砂の方を見たが、亜里砂はブツブツ言いながら魔法の説明の詳細を念入りかくにんしている。

なので、トワイライトが代わりに話を進める。

「『アイスコフィン』で合っているが、細かい設定が要りそうなので魔法陣を使った魔術の必要が有る。この部屋を使って良いか?女将」

「今夜の泊まり客はあんた達だけなので好きにして貰って良いけど、壁、床や家具の破損は勘弁だよ」

「大丈夫だって、分かっている。」

と遣り取りしていると亜里砂が話しに復帰してきた。

「トワイライト何であんたが魔法に詳しいの?」と今度はトワイライトが何で?と聞かれる。

トワイライトはドヤ顔に近い勝ち誇った顔をして

「ふふふ。暇見て上げた。ステータス、知識、装備品に巻物十分良い物品が宝箱で手に入ってたからね。売らずに残しといて使った。レベル23まで3日掛からなかった。今、レベル31だ。」

「え?23迄3日・・で今31?・・。今私35・・」と亜里砂は追い付かれた感じがしてガクッと落ち込む。

「35か、おばんに成ったな」とやっとトシゾウが口を挟めた。

「ちゃうわい・・歳はまだ27よ。」と亜里砂は直ぐ元気になった。

「それよりも・・このまま『アイスコフィン』は危険だと思う。」

と真顔に戻る亜里砂。斜め前から見ると個性的な顔立ちであるが、美人な方で真剣な時の顔が似合う。その真剣な顔でベットで寝ている娘を見ながら話しを続ける。

「肉体から魂が抜けてだいぶん時間が経っているのでしょうね。お肌の色、顔色も悪い唇なんか紫だし・・。生命力が底を尽きかけていると思う。

このままだと『アイスコフィン』に肉体が耐えられないと思う。生命力が尽きかけている状態で凍結しても体が耐えきれず壊死していきそう」

流石は亜里砂だ普通なら見落としそうなポイントを見落とさない。その道の玄人だ。

その亜里砂の表情は険しいが、チラッとトシゾウを見てトシゾウを見ながら

「仮に魂がこの肉体に入れれば魂から生命力の補充がされるのですが。」と喋りながらトシゾウを見ている。

トシゾウが人差し指で自分を刺して「え?俺?」と問う。

「そう、最初に会った日に野営場でガラクタ漁って読めるの有ったでしょう。パタッと倒れたヤツ」

「んん?あ、アレか確か『幽体離脱・憑依』だったかな?」

と言ってトシゾウは目の前の空間を指でなぞりだした。

タッチとスワイプを繰り返してステータス画面>所持魔法>『幽体離脱・憑依』>詳細で説明を見ようとした

「ダメだ・・・、字が汚くて説明が読めない(笑)」と苦笑いのトシゾウ。

亜里砂と、トワイライトは呆れて開いた口がふさがらない。

「仕方ないなぁ、出たとこ勝負でやってよう。」とトシゾウ。好奇心がウズウズして堪らない様だ。荷物をベット横に置いて空いているベットに横たわる。そして目を瞑り少しして顔の表情が緩む。見た目は寝付いたように見える。首にはお守りが掛かっている。

その横のベットに寝ている娘がムクッと上半身を起こす。目も開いたが顔色が悪い。唇も真っ青。起きていきなり

「かわや」と言ってトイレにヨロヨロと急いだ。起き出して判った事だが、娘の着ている服がボロボロだった。

女将さんに付き添われてトイレに行って娘が部屋に帰ってきた。

「腹へったー」娘が帰ってきて開口一番。声は少女なのだが、喋り方はトシゾウ。

亜里砂が女将さんに「何か食べれるもの有りますか?残り物でも良いので」と頼む。

女将さんは「残り物はないけど、シチューかポトフなら作れるよ」

「じゃあ、それでお願い。あとバケツとお湯お願いします。体拭いてあげたいの」と亜里砂は気の効く優しい子。

「はいよ。作って持って来るわね」と女将さんは早速食事を作りに行った。

トシゾウは娘の体に入る事が出来て肩や手足を動かし異常がない事を確認している。

その動きを見ながら亜里砂が

「トシさん、ステータス画面を開いてステータスのヴァイタリティ(Vit)の値を見てみて」

「ん」と答えるが娘の可愛い声で、普段聞いているトシゾウの喋る文言なのでギャップが激しく笑えてくる。

娘が空をなぞり、スワイプして「ヴァイタリティは2だ。横に上矢印が付いている」

「何とか、ギリギリセーフでしたのね。そのヴァイタリティが0迄減ったら肉体は崩壊しだしてポーションや回復魔法でも回復出来なくなり死に至りますの。」

亜里砂は説明しながら”運の良い娘ね”と感心しながら説明を続ける

「ヴァイタリティの横の上矢印は数値の回復を意味してますわ。トシさんの魂が入った事で、トシさんの元気な魂から肉体に生命力が供給されて徐々に数値が回復します」

亜里砂は取り敢えず状況が好転した事で嬉しくなり説明が丁寧になる。

娘は少し体を動かすと息が切れて疲労感が出て来るので、朝の整備体操で覚えた深呼吸を使って息を整え少しずつ動くようにしている。

「なあ亜里砂、Hpが10って・・赤字なんだが・・。」と娘ことトシゾウは良い所に気が付いた。

亜里砂は思い出したように

「ああ、それは多分ヴァイタリティが減った事でHpの最大値が10迄落ちたんだと思う。いま横の最大値が徐々に回復しているはず。最大値が徐々に回復だからポーションをチョビチョビなめる感じで飲んでね。」

と説明しながら、トワイライトと共同でベットを壁際に寄せて魔法陣を書く床のスペースを確保している。

トシゾウ(娘)は壁際に寄せられた椅子に座り言われた通りポーションを取り出し

「へーい」とチョビチョビなめ始めた。

すると視野の左上のHpの表示が黄色に変わり数値が徐々に戻り始めた。

トシゾウ(娘)は座りながら、”これで一寸は動けるかな?”と一息着く。Hpが25/25まで回復してきたのである。HP10のままだと、廊下や階段で転けたら命取りになる気がして、動きが慎重に成るのだ。

「一寸立って手を横に広げてみて」

ベットを移動させ終わってトワイライトがメジャーをもって娘の体に手を回したり、採寸を始めた。

「なにをしている?」とトシゾウは見れば採寸だと分かるのだが聞いてみた。

「着ている服がボロボロなんで、待っている間にこの娘の服を作ろうかな~って思った。」

とトワイライトは採寸して寸法をメモに取りながら、序でに喋っている感じ。

「商人スキルの『縫製』を持っているんだが、今は優遇職じゃないんで作れる物は知れているが、ボロより良いだろう。・・・俺、横の部屋で作っているから何か有ったら呼んでくれ。」

と言ってトワイライトは出ていった。作ったとて一文の得にも成らないし、お節介でもあるが、遣りたい事なので遠慮がない。

とても綺麗な娘なので洒落た服を着た姿を見てみたいと思った様だ。いい絵が見たいと。

亜里砂が「ヴァイタリティ(Vit)は何処まで回復した?」と聞く。

娘は「5/14まで戻った。」

「あと2時間もあれば充電終わるね。その間に色々やっておこう。」

と話している内に食事が届いて壁際に寄せたテーブルに置いて貰い食べ始めた。

亜里砂はその間に魔法陣を書き細かな設定を書き足している。

 娘が食事を終わって一息着いた頃に女将さんが体を拭く為のお湯を取りに行ってくれた。

娘(魂はトシゾウ)は改めて自分の着ている服を見直したがボロ。刃物で切られた跡、血の跡、破けている部分など、乞食に近い酷さだ。

だが、更によく見ると布の服をベースに肘や膝、お尻の部分はソフトレザーを予め継ぎ当てして補強してある服の上に、革製のベスト。肩口から胸の上部辺りは硬目の革で補強してある。

手の込んだ丁寧な作りで半分防具化した此の服がこの娘の命を山賊の刃から守ったと言っても過言ではない。

事実、ベストの傷口を見てみると革・ハードレザーが斬撃を受けて斬れている部分の半分位が服地が斬撃を受け止め内側まで貫通していない。だが部分的に裏地を貫通しているのも幾つかあるが、傷口は浅いだろうと想像が付く。

元は着る者の為を思い手間暇掛けて作られた真心が篭もった服だったのが分かる。

”母親の仕立てだろうか?愛情の詰まった服だな”とボロボロになった服を脱いで丁寧に折りたたみ自然に拝む

”持ち主を良く守った。お陰でこの娘は助かったぞ。”とトシゾウは心の中でボロボロの服を褒めた。

「亜里砂、この部屋暖めて欲しい、寒い。」とトシゾウは下着姿で体を縮こまらせて頼む。

魔法陣を書いていた亜里砂は手を止めて振り返り頷いた後に、詠唱を始めて火と風魔法を組み合わせて温風を吹き出す魔法を発動した。ファンヒータみたいな暖かい風が吹き出し部屋は瞬く間に暖かくなった。

暖かくなったのでトシゾウこと娘は女将さんが汲んできてくれたお湯にタオルを浸して絞り顔や首筋から拭きだした。拭いた跡は汚れが落ちて綺麗になっている。

顔と首だけでもタオルは真っ黒になり濯いだ。

続いて両手、肩の後や胸、お腹と拭いていき出血跡?返り血?汚れが落ちた所々の部位に傷跡が残っている。傷口は軟膏やポーションで直ぐに塞がっても傷跡は数週間以上経ないと消えない。

その激しかった戦いの傷跡が体を綺麗に拭くに連れて出て来る。

下着も脱ぎ脇の下、股、お尻や足も綺麗に拭き終わり、拭き残しが無いか足の裏やお尻の方まで体を捩って見回す。

年の頃は12才位、スタイルの良い細身の体には全身小さな傷跡が残っている。一糸まとわぬその姿は見る者の視野が明るくなり、ため息が出る程の綺麗な立ち姿。耳が長くとんがっている。エルフの娘だ。

エルフの中でも飛び抜けて美しい娘だ。その美しさ、可愛さは神が造り給わねば有り得ないと思えるほどである。

信心深い者なら「おお、神よ」と呟いたに違いない。それほど美しくも神々しい、周りに光が溢れるようだ。

脱いだ下着は女将がバケツに残った綺麗なお湯で洗い、亜里砂が魔法のファンヒータ機能で温風を当て乾かしている。

乾燥に時間が掛かりそうなので、トシゾウは手刀に半身立ちで剣の型を行う。

ブンブンと風が鳴る。

そして少し経ち「乾いたよ」と言ってから亜里砂がホッカホカの下着を娘に差し出す。

下着、パンツとキッズブラジャーを付けた時に「あ、痛。」と娘は傷跡のない所を押さえて首を傾げる。

亜里砂が魔法陣を書き込みながら顔も向けず視線も向けずに

「トシさん、イメージのまま型を遣ったでしょ、エルフの娘は体も弱いし、筋肉も発達途上なの。あんな動きしたら攣ったり、筋肉痛に成るのは当たり前よ」

「あ、ああ。そうなのか、それで・・・。両手両足が揃った感覚なんて久しぶりだったから、つい嬉しくなった。」

とトシゾウも五体満足を少し楽しんだようだ。

『ガチャ』とノックも無しに戸が開く。トワイライトが帰ってきた。手には子供用の服。出来上がったようだ。

女将は「入る時はノックぐらいしなさい」と言おうとしたが遅かった。

トワイライトは入るなり何かを言おうとして口を開けたまま固まり一瞬過ぎる。そして出た言葉が

「おお、神よ」

と意外な言葉がトワイライトの口を突いて出で、|跪≪ひざまづ≫いてしまった。

亜里砂が「それ、絶対無いわ!!」と間髪を入れずに突っ込む。

「え?・・・独り言なんだけど。似合わなかった?」

トワイライトは超美しいと思った時に、昔見た洋画の1シーンで外人のナイスガイが「Oh、Mygod」と言たシーンを思い出し言葉が出てしまったのだ。悪気は無い。

亜里砂にとってトワイライトの口から『神よ』と言う信心気のある単語が出る事自体がヘソで茶が湧かせるわ、あり得ないのであった。

「そんな事より、服が出来たぜ。着てみてくれ」と何時になくテンションの高いトワイライトが服を娘に渡す。

娘は受け取り身に着ける。

「うん。ピッタリ。窮屈な所も無い」と言いながら感心して体を捩ったりストレッチで伸ばしてみたりした。

トワイライトが作ってきた服は白を基調に明灰色(淡い影のような柔らかな灰色)が第2カラーで小さめのパーツ部分がこの明灰色。

この明灰色の部分はパーツや色分けの端に流水模様の白抜き図柄が刺繍で施してある。こんな手の込んだ作業は直ぐには出来ない。前もって作り貯めてた生地か、良い物を見付けて買い込んでいたのを使ったのだろう。

スカートは標準で膝ぐらいの長さ、全体の印象は白色の少女アイドル・魔法少女。清楚でいて可愛いさをイメージする造り。気合いを入れて相当良い素材を惜しみなく使っている。まあ、職人級の腕と道楽者のなせる技だな。

トワイライトは嬉しそうに見取れて言葉が出ない。

「まあ、可愛くて悪く無いけど・・制作者の趣味が大分前面に出てますわね」と亜里砂はトワイライトが拘りを込めて作った事を見抜いていた。

「ああ。良い絵が見られた」とトワイライトは人(亜里砂)の話を聞いていない。見取れている。

そして、明灰色の靴と白い手袋、聖職者の帽子に近いデザインの物(白)を出してきた。

着けると、白系衣装の少女アイドルか聖女様のような姿になった。

見ていた女将さんも溜め息と供に「おお、神よ」と天使を見た様な表情。

「一応、この服のセットには『体力回復(微)』と『魔除け』の効果が付いている。是で邪霊に憑依されて体が乗っ取られたり、悪戯される事はないだろう。」とトワイライトは得意げ。

女将さんは「そんな凝った物をよくこの短時間で出来たねぇ」と感心する。

「一応商人スキルの『縫製』カンストなんでね。良い生地・素材は溜め込んでいたから組み上げ中心だったし、靴、手袋、帽子は今度バザーに出そうと作って置いてたヤツだから。・・サイズが合って良かった。」

ドヤ顔のトワイライトが喋り終わる頃に亜里砂が立ち上がり

「ふー。何とか書き終えた。トシさん、ステータスどお?どれだけ戻った?」と顔の汗を拭き顔を上げる。

トシゾウは空に指をタッチ後スワイプしてステータス画面をみる。

「ヴァイタリティは14/14・・フルまで戻っている。HPも27/55と最大値が戻っている様だな。あれから1時間半ぐらい経つ充電も終わったという事だな。」

と娘は可愛い声で喋るが言葉使いと内容はやはりトシゾウである。

「ポーション残り全部飲んどいてね。此方ももう終わる。」と亜里砂も魔法陣の書き込み内容をチェック中。

娘は半分残ったポーションを全部飲み干す。

一応魔法使いのレベルを持っているトワイライトも魔法陣をチェックしている。

「あ、亜里砂・・。ここ記述オプションの引数が違う。」と魔法使い用のロッドでポイントを指す。

トワイライトも魔法使いのレベル30チョイ迄上げているので、魔法については知識も有るし、魔法陣も読める。

「あ、ホントだ・・。」と亜里砂は急いで記述の誤りを訂正し、書き直す。

タオルで局所を擦って消し、正しい記述を書き直す。

使っている記述具は魔法陣用の『ミスリルインクチョーク』でチョークに見えるが、中にミスリル粉を使った魔力を良く通すインクが練り込んであり魔力が流れ易く魔法回路を形成する時に良く用いられる。

その『ミスリルインクチョーク』はとても高価な物でだが、書いた文字や図の見た目は普通のチョークで書いたモノと何ら変わらない。

そして、まもなくチェックも終わった。そしてトワイライトに視線をやり

「定着させてるよ。手伝って」と言う。

亜里砂は片膝を付き魔法陣の一番外側の線に右手の人差し指で触れる。

次いで、トワイライトは亜里砂と対極の位置に移動し同じく片膝を付き右手の人差し指で魔法陣の一番外側の線に触れて、亜里砂に視線を合わせる。

アイコンタクトの後、同時に頷いて一拍後に「エスタブリッシュ(establish)」と同時に唱える。二人の魔法陣に触れている右手の指先から魔力を流す。流された魔力は白いやわらかな光を放ちながらチョークの白い線に沿ってサーッと広がっていき魔力の通った跡は白く発光している。

光は両極から一瞬で全体に広がり魔法陣全体の線と記述が発光し出した。まるで床に魔法陣の線や記述の所が穴を空けられていて床下から強い白いライトで照らされて上方向に光が漏れている感じに光っている。

「コレで即応状態に成った。10分以内なら何時でも発動可能よ。」と亜里砂が告げる。

女将は初めて魔法陣を使った魔法の実演をみて言葉を失っている。

トワイライトは亜里砂を信用しているので黙って見守っている。

亜里砂が娘に

「魔法陣の真ん中に来て。そして凍結が完了するまで『憑依』は解かないでね。あと目は閉じている方が良いわね。この魔法陣でのオプションは『ディスペル』で魔法を壊すか魂が戻れば術は解けるわ。それ以外の条件では解けない。あと邪霊排除も付与してある。」

と言っている内にも娘は魔法陣の真ん中に移った。そしてトワイライトがロッドを手渡す。

「魔法回路を3つ仕込んだロッドだ。護身用に持たせて於いて。『アイスコフィン』が解けた時に敵がいたら大変だからな」とトワイライトの老婆心なのだろう。

そこでポーズだが、亜里砂は「突っ立ったままでは芸がないわ。」と言うが、トワイライトがポーズを3件提案するが即却下。女将に聞くと「私に振らないで」と首を振る。

全員で「ううん。」と悩んでいると扉が『カリカリカリ』とネズミが囓るような音がする。

女将さんが不思議に思い開けると小型犬のそらちゃんが嬉しそうに飛び込んできた。

そらちゃんにとって、今、魔力に満ち溢れているこの部屋は非常に必用。

実はトシゾウが『勇者召還』された日に召還したサーヴァントであるそらちゃん。見た目は小型犬のパピヨンで愛らしいが、スキルの『シェイプチェンジ』で変身中。中身は別物。

トシゾウが幽体離脱して娘に憑依した事で魔力の供給量が減り維持コストが備蓄した魔力を食いつぶしだしたので心配になって駆けつけたのである。

トシゾウの魂が娘に生命力の供給を優先した事で一時的に魔力が低下したのが原因だ。

そらちゃんは、トシゾウの魂を見付けて娘に尻尾を振りながら駆け寄る。

娘は破顔して優しそうな笑顔で膝を少し曲げて前に屈み両手をそらちゃんに差し出して撫でようとする。

「そこ、ストップ、フリーズそのまま、表情変えずに動いちゃダメ。」と亜里砂とトワイライトが叫ぶ。

娘も言われるまま硬直する。中身はトシゾウなので、危険な時など動きや表情等を即固定する訓練は足りているのである。

トワイライトは「そのまま、そのまま」と言いながら歩いて魔法陣に進入してそらちゃんを抱っこして魔法陣から出る。「亜里砂、詠唱始めて」

そらちゃんを足下に降ろして「そらちゃん、居って」と言って自分も魔法陣への魔力供給を始める。

亜里砂は小声でブツブツと詠唱を始める。室内の魔力飽和度が一気に上がる。

まるでスチームサウナに入った時のムッとした湿気のようなモノの密度が上がる。

そして亜里砂の口から『アイスコフィン』とトリガーの言葉を発して、湿気の塊の様な濃密な魔力が一気に魔法陣の上に集約され、スチームサウナの中の様なムッとしたモノが室内から消えて寒さが戻った。

トシゾウが「もういい?表情作るのゲンカイ」と愛らしい表情を動かさずに泣き言をいうが、亜里砂が「もう少し我慢しなさい」と言う。

魔法陣から真上に光が立ち上り足下から氷の塊が生えてきて、動きと表情を変えない娘を飲み込んでいった。飲み込んで10秒で『アイスコフィン』氷の棺が完成した。

少しして、横のベッドからトシゾウが起き上がってきた。”あの体勢を維持するのは大変だった”

そして、氷の中の娘をシミジミ見て”早く帰って来いよ!その魂”と思う。

氷の中の娘はそらちゃんに微笑み屈みかけて手を差し伸べようとする姿は当に『聖女』と言っても過言ではないほど美しく、優しそうで、愛らしい。そう見ているだけで其所に天使が降り立ちそうな絵なのである。

普通のおっさんが見れば、一目で『ズキューン』と言う言葉が胸を貫き、『アイドルの親衛隊』と化す事だろう。

無事に術式は完了した。

トワイライトと亜里砂はフラフラで、トシゾウは未だ余裕がある。女将は目の前で起こった事、魔術を始めて見て驚き放心状態の少し手前

みんな「後の事は明日にして今日は遅いから寝よう」と言うトシゾウの意見に合意してそれぞれの部屋に戻っていった。

皆お守りを着けて寝た。

ポルトスは大酒を飲み酔っぱらった挙げ句に超巨大ゴーレムと殴り合いの喧嘩をしている夢を見た。

亜里砂は先代の『勇者』歩美と町で服を買いにショッピングを楽しむ夢を見た。ただ、勇者の歩美は11才位の子供の状態だった。幼なじみでもある亜里砂には懐かしかった。

トワイライトは交易で大も儲けして喜んだ夢だが、お金の心が躍る使い道が見あたらない、「宝の持ち腐れじゃ、どげんしよー?」と虚しさを覚え途方に暮れる夢だった。

トシゾウは、墓場の端っこで骸骨・ゾンビの近藤勇、沖田総司、永倉等とエールを呑みながら昔話や与太話、「最近どうなんだ?」って話をして楽しんでいて、視野の右下端で『僚友召還』というスキル名がピコピコ点滅していた。

そして、マヤも変な夢を見た。

 薄暗く霧が立めている。おぼろげに前を進む人影に付いて行っている。少し歩くと綺麗な花畑がある河原にでる。

川の水位は浅く小川程度だが、人影は小川を渡り先に進んでいる。マヤが河原の花々を愛でながら小川をまたいで越えようとすると、何らかの力に引っ張られ川下の方に流されていく。

流れる方向に向くと、光の渦だ。前から光の塊が幾つも後ろに通り過ぎていく。流されている感覚だ。

体は金縛りになり、手足は動かない。人影がいつの間にか左横のすぐ側に移っていて顔が見える。トカゲだ。角もある。

トカゲはマヤに微笑んだように見えてその後、前を向く。釣られてマヤも前を向く。

光の渦がパッと消え視界が広がった。


背の高い岩肌に囲まれた広場が現れた。広さは東京ドーム3個分位の大きさの洞穴の中のようだ。

天井の一部は崩落していて青空が覗いている。

広場の壁際隅っこには無数の冒険者の亡骸、骨、錆びた装備品や武器が散乱している。広場の隅っこでない広い所にもチラホラと骸は転がっている。

広場の横合いからまあまあ高い位置から広場を見下ろしていた。

左手の奥から少し前に出た位置で巨大な羽の生えたトカゲが動いている。

マヤの意識は感情もなく淡々とその様子を案内してきたトカゲの横で眺めている。只、見ている。


巨大トカゲの周囲で騎士12人とポルトス、シェイクスオード、トワイライトの合計15人は接近戦を繰り広げた。

トワイライトが『挑発』や『敵視光線』で敵視を稼いでタゲ(ターゲット)を取り、自分に相手の攻撃を集めて攻撃を流したり凌いでいる内に他のメンバーが側面や後方から攻撃を加えるオーソドックスな作戦である。

攻め手は攻撃武器に『エンチャント』を施してスキル攻撃、溜スキル攻撃、滅多斬りであっと言う間に決着が付く予想だった。あくまで予想。

通常の大型モンスターやグリーンドラゴンの若い個体であればそうなっていたであろう。

目の前に居るのはドラゴンで間違いないない。そして通常の個体よりも大きい。強いヤツだ。


『エンチャント』とは武器や盾に付与する魔法・神聖魔法で、与ダメージ、切れ味、状態異常等の追加ダメージ・効果を攻撃対象に与える。ポピュラーな技は『バーニングソード』で剣身に炎を纏わせて追加ダメージと火傷の状態異常を負わせる。


その『エンチャント』を使い緻密に早期に畳み掛ける筈だった。しかしそうはいかない。

竜は戦闘開始直後に『対物理障壁』を張ったようで、刀身が竜の体30センチ手前で弾かれる刀身が体までとどかない。弾かれた時に一時的に8角形の透明な板状の『対物理障壁』が姿を現す。

ポルトス、シェイクスオード、騎士達は接近戦が効かず攻めあぐねる。

その割にはトワイライトの大盾で殴る攻撃は弾かれない。透過して殴れている。只、ダメージがない。状態異常の蓄積値と敵視が上昇する。

竜は攻撃を受けて反撃する。広範囲を薙ぎ払う尻尾攻撃が来て騎士3名が払い飛ばされる。うち一人は直ぐに起き上がったが2名は状態異常を食らったようだ。

他の者達は回避して避けるか、盾で受け流した。

発症した一人は右手を動かすと激しい筋肉痛がする。『50肩』って状態異常らしい、「50肩ってなんだ?」と仲間の騎士に聞くが首を傾げる。

もう一人は腰を押さえて|跪≪ひざまづ≫いて身動きが出来ない。

「いででえでー・・。腰が、腰が・・」と痛くて動け無さそうだ。バルガスという騎士だ。

他の騎士達とトシゾウ、ポルトス、トワイライトやシェイクスオード達は皆、横長の目で他人の災難を内心笑う様な顔で。

”あああ、ギックリ腰ね・・。ご愁傷様。辛いんだよなぁあれ・・・って(笑)”と心の呟きはシェイクスオード。

騎士の隊長メッシは「ロベルト、マイネール」と竜に斬撃を加えている部下の騎士に声を掛ける。

二人の騎士が少し下がり、「ウイッス」「はい」と返事と供に盾を前方に構えて隊長の方に顔を向ける。

隊長が「バルガスを連れて後衛の位置まで後退」と指示を出す。

「すいません隊長。『パラディン』でありながらこのような醜態・・」とバルガスが苦渋の表情ながら隊長に詫びる。

『パラディン』とはクルセイダーの上位職で騎士職の最高職。戦闘職でありながら神聖魔法と多少の魔法が扱える。

位置的には枢機卿クラスの地位で『神の前盾』とか『神意の代行者』と言われる宗教的な地位を持ち神直轄で宗教行為や戦闘を行う。

宗教トップの教皇に『パラディン』への指揮権はない。一部の一般人からは彼らを『聖戦士』様と呼ばれ敬愛されている。


隊長は半笑いで「無理はするな、後衛の護衛でもしてろ。」と言いつつ心の中では

”寄りによって、状態異常が『ギックリ腰』じゃあな・・・夜の女(娼婦)とやり過ぎるからだ・・。まあ、当分それもお預けだな・・笑える。ドラゴン面白い事するじゃねぇか・・”

ロベルトとマイネールと呼ばれた騎士が『ギックリ腰』をやった仲間バルガスを肩を貸して担ぎ引きずっていく。

「そっと、そっと、うあ、止めてくれー!ああがああ!!」とバルガスが引きずられて行く時の小さな衝撃が腰にひびき、断末魔に似た泣き言を叫ぶ。

その直ぐ後に亜里砂の大技の爆裂魔法が飛んで来て、騎士達や、トシゾウ達は一端距離を取った。

竜の少し上の位置で8角形の透明な板状の『対魔法防御障壁』が姿を現し、爆裂魔法の直撃を妨げて、竜の体には小さな炎しか達さず全く効いていないのが判る。

次にマヤが弓を大きく引き絞り放つ。『ヒュン』と竜に当たるコースで矢が飛び刺さるかと思われたが体の直前で又しても8角形の透明な板状の『対物理防御障壁』が矢を弾き地に落ちる。

引き続いて2本、3本と射るが結果は同じ竜の本体には届かず地に落ちる。

詠唱が終わり亜里砂が他の魔法が発動するが、やはり『対魔法防御障壁』で防がれて竜の本体には届かない。

魔法も弓矢も効かないようだ。

竜の背中からヘドロのような塊が3つ飛び出し、翼が生えて鳥の形を形成してから胴体が人の形に姿を変えパーティの後衛の方に飛んで行った。ガーゴイルである。

丁度バルガスを運んできた騎士二人が居合わせたので迎撃に当たり、マヤが弓で、亜里砂が魔法で支援し何とか迎撃出来ている。

竜の背中からまた、ヘドロのような塊が放出される。

「隊長さん、騎士達も一端下がって、この竜に今のままでの接近戦はショッパイ、下がって対策を考えてくれ。」

とトワイライトは騎士達に一端下がって、後方で対策を考えて貰おうと声を掛けた。

「解った、コイツのおもりは頼むぞ」と騎士達はマヤや亜里砂の所に戻っていった。

トワイライトは自分一人で何とか竜のタゲ(ターゲット)を取りお相手が出来そうなのでシェイクスオードや、トシゾウ、ポルトスにも下がって貰った。一緒にいてもらちが明かない。

後方でマヤが攻撃が効かずに落ち込んでいたと思いきや突然に顔を上げて

「今、思い出した。このシーン前に見た。」とマヤは真顔で言い出す。

シェイクスオードと騎士の隊長メッシは対策を話し合っていたが、「何?」とマヤの方を見る。

「忘れていたけど、今思い出した。このシーン、ドワーフの村で泊まった時に夢で見た。」

「あの、地脈の太いのが通っている『サブラ』って村か?」とシェイクスオードは領地周辺なので知っている。

「うん。」

隊長のメッシも「俺も聞いた事有る。予知夢、神託、色んな奇跡が起こる村って」と単に夢物語では済まない場所だぞ。

「うん。その時に、この戦いに勝つ夢を見た」

その話しに騎士の隊長メッシもよこから”ほぉー都合の良いな”って顔で聞く。実は打つ手が無く困っていた。

「で、その夢はあの竜に勝てたのか?」

「うん。細かいことは未だ思い出せないけど・・『力の具現化』ってスキルを使ったはず。」

「『力の具現化』か初めて聞く名だ、ユニークスキルだな。それ持っているんだなマヤ君、君が」

無言でマヤは頷く。

緊張感と供に静寂が一瞬その場に訪れる。そしてシェイクスオードとメッシ隊長がお互いの目を見る。

そしてトシゾウが静寂を破る。

「他に手がねぇんだったら、其れを遣ろうじゃないか。」

そんな話しをしている間に、一方の竜の方はトワイライト相手に首をもたげて溜の後に炎を噴いた。

大盾を持ったトワイライトが溜の間に横に回り込み更に、足回りの良さ素早さで竜の吐く炎・ブレスを横っ飛びで回避する。

少しでも炎が懸からないように回避しながら大盾を炎の方向に向けている。

竜が炎を吐いた後、竜の動きが止まる。トワイライトが近寄り攻撃する。

トワイライトは盾で3発殴ってから、右手に持ったロッドを頭上に掲げ状態異常上昇の息吹を放つ。

竜は皮膚の多くがタダレている。所々肉がそげ落ち骨が見えている。そうドラゴンゾンビだ。

少しすると竜は動き出すし、それに合わせてトワイライトも距離を取る。竜を中心に左寄りに回っていく。パーティの居る方向から竜の攻撃の方向を逸らす為である。

右手、左手と竜の引っ掻き攻撃が来る。トワイライトは一度目の右手攻撃は避けて、次の左手攻撃は大盾で弾く。『パシン』とジャストガードのいい音がする。

手、尻尾、噛み、どの攻撃も重くダメージは大きい腐ってもドラゴンである。一発でも受ければスタミナの半分以上は持って行かれる。スタミナが切れると『受け』も『回避』も出来ない。

全部『受け』るとスタミナ切れを起こし仰け反って硬直し無防備になる、なので避けれる所では成るべく『回避』する。

竜の攻撃の種類によって攻撃後に多少の隙が生まれる。そこでトワイライトは可能な限り大盾で殴っているが、ダメージはぼぼ0。ダメージが0なので『対物理障壁』が反応しないようだ。

例え多少ダメージが付いたところで相手はドラゴンゾンビだ、自動回復が有り数秒で完治する。

ドラゴンゾンビの体から時々黒いタールの様な塊が空中に射出される。射出された塊は羽が生えて空を飛びだし羽の下には鬼の形の石像に形を成す・・ガーゴイルになった。

ガーゴイルとは羽の生えた怪物の石像。それが動いて襲ってくる。

ガーゴイルが3体、奥のパーティの後衛が居る所に向かって襲ってくる。パーティが居る手前で降りて、一体はシェイクスオードとやり合う。もう二体は仲間の騎士が迎撃する。

ガーゴイルは割と簡単に倒され石屑に戻る。

迎撃に出た騎士二人はパーティの所、仲間の元に戻る。

パーティの中心には、マヤ、ポルトス、トシゾウが居てその周りに騎士が12名居る。

中心にマヤが居て、精神集中しながら何やらブツブツ詠唱を続けている。

ユニークスキル『力の具現化』発動の初期動作の最中である。

マヤの右手には紐が握られていて紐の先はポルトスの左手。

ドラゴンゾンビに張り付いているトワイライト以外は全員紐を持っていて紐の先はポルトスの右手に繋がっている。

紐は各員の手からうっすらとした光減点がポルトスの右手に伝わっていき、ポルトスの左手からマヤに転送されている。

つまりポルトスが近くにいる全員から魔力を集めマヤに送る。ポルトスのユニークスキル『デンシン』であろうスキルの性能がアップして魔力と霊力が送れるようになっている。


ユニークスキル『力の具現化』とは・・・。「本来持つ力の一端を現実化する」とあるだけで、何が起こるか書いていない。マヤ本人は予知夢で見たみたいだが何も言わない。

必用魔力量2千万、必用霊力量4百万、術者必用レベル24。ミニゲームをクリアして発動する。ミニゲームのクリア迄に必用魔力量・必用霊力量の蓄積を完了している必用がある。

尚、初回限定で発動時には3倍の魔力量・霊力量が必用になる。

ドラゴンゾンビ対し色々試して、手を尽くしたが悉く通用しなかった。

この広間に散らばっている数多くの冒険者の骸が語っている。並大抵の事では通用せずやがて力尽きて骸になるのだと。

『力の具現化』は得体の知れないとても厄介でコスト食いなユニークスキルだが、一抹の希望を賭けている。マヤはコレで勝てると言った。皆もコレに賭た。

勿論、魔力の大量発生源のトシゾウも、亜里砂もポルトスを経由して大量の魔力を供給している。他の騎士達も微力ながら同様に魔力を送っている。

 マヤの精神集中は終わっていないが、変化があった。

集中しているマヤの頭上3メートル位の高さやや後方に250インチを越える巨大画面が出現した。

画面の左上に『魔力:1870万/6千万』とあり、右側の分母の数字は動かず、左側の分子は下5桁以下が高速でカウントアップされていて早くて数字が見えないが次々と上の桁の数字が上がっていく。

右側の分母は多分スキル発動する為の必用魔力値で、左側は現在の充填魔力値だろう。充填率25%と越えた事で第2段階に入った様子だ。

画面の真ん中には左、中央、右と3つ数字が並んでいる。数字が3つ並んだ画面より少し離れて右下に『START』と書かれたスタートボタンが出現した。

スタートボタンは赤い光を発し点滅している。

騎士達の隊長『メッシ』がボタンの近くにいるので亜里砂が「隊長さん、そのボタン押して」と頼む。

「おう」と隊長がスタートボタンを押すと、マヤの上の巨大画面の中央下にタイヤを横倒しにしたようなお皿の様なモノ、そのお皿の両サイドに銀色の玉が二つずつ映し出される。

同時に貯留魔力が12万減った。

画面下に映された玉の左端の一個が画面下の中央のお皿の上に載る。

画面中央の数字3つが下に滑り始めて回り出し、見えなくなる。一拍間を置いて数字が三つ画面の奥からグイッと現れる「6 3 7」。はずれ。

画面下のお皿の上の銀色の玉がお皿の中に吸い込まれて両サイドに並んだ玉の左端が再び画面下中央の皿の上に載る。残った玉は一個左に移り、右端の玉のあった場所に新たに銀色の玉が下から生まれてきて、銀の玉の補充で魔力が3万消費されて貯留魔力から3万点引かれた。

紐を持って魔力を送っている皆が一様に”コレがミニゲームか”と認識した。

画面では外れ(バラバラの数字が並ぶ)の数字の並びが現れては消え、又現れる。

外れの並びが現れる度に、銀の玉が画面下中央のお皿に吸い込まれて、右端の一個が補充されて魔力量3万が引かれていく。

亜里砂とトシゾウの魔力チャージ送信量が膨大なのだが、度々3万引かれるので少し増加量が緩やかになった。だが着実に増えていく。

チャージしていく中で、トシゾウも亜里砂もMPの残量が30%を切ったのでMpポーション中(最大Mpの50%を回復)を一本飲み干す。騎士達も次々とMpポーションを消費していく。

「まるでパチンコのCR機だな。玉の代わりに魔力とポーションがどんどん飲み込まれていく。」と亜里砂がミニゲームってパチンコCR機だと感想を述べる。

その不毛な外れ表示が続く中でもトワイライトだけ竜の近くで、敵視を集め竜のターゲットを保持したままチョロチョロと逃げ回っり時折攻撃を受けたり、反撃したりと上手く立ち回り敵視を稼いでいる。

トワイライトとしてはドラゴンゾンビのタゲ(ターゲット)を保持して敵を惹き付け、パーティに攻撃が飛ばないように、タゲが移らないように気を付けている。

相手の攻撃を盾受けしたり、隙を見て盾で殴ったりして竜の敵視と状態異常をコツコツと稼いでいる。

 相手がドラゴンゾンビなので、『睡眠』、『麻痺』、『混乱』、『毒』、『気絶』の状態異常はアンデットには無効になるので効かない。

効くのは『凍結』、『石化』、『鈍化』、『炎上』。ただ、『炎上』は直ぐに消えたら自動回復されるので無意味。

 『石化』は4分間石化する。『石化』は硬直して動きが止まるが、硬くなりダメージは減衰する。『凍結』は1分間と硬直時間が短いが、硬直中の被ダメージの減衰はない。

今回トワイライトが選択したのは、『凍結』と『石化』。『石化』は硬直時間の長さが目的。

今現在、『凍結』の状態異常蓄積値は97%で既に完成目前に成ったので、状態異常を『石化』に変更して盾受けしたり、盾で殴り敵視と状態異常を稼いでいる。

だが、それでも偶にタゲ(ターゲット)が跳ねる。魔法詠唱中や回復魔法等はタゲ(ターゲット)を吸い寄せる効果が有る。

「おーい、すまんタゲ跳ねただ!!」とトワイライトが大声で叫んだ。

竜の頭付近の空間で左右両方で1つずつ計2つ白く輝く魔法陣が展開される。

声を聞きパーティ内にいる騎士の隊長『メッシ』と負傷した騎士4名はマヤより竜寄りに居て、魔力と霊力を供給しながら魔法陣を書き、いざって時の為に術の準備をしていた。

『霊力』とは信仰の力を源にする魔力の一種で『クレリック』系の神聖魔法を発動する為には魔力ではなく霊力を必用とする。

隊長と負傷した騎士4人の5人で霊力を注ぎ魔法陣を発動させ、神聖魔術『ハニカムシールド』、魔法と物理ダメージをカットする5重のシールドを展開させた。

そして少し遅れてドラゴンゾンビの放った強烈な爆炎魔法がパーティを襲った。

『ハニカムシールド』の5重の防御シールドが爆炎魔法を受け止める。

5重の防御シールドのお陰でパーティに被害が無かったが、防御シールドは砕け散り霧散する。

今魔術を発動した騎士達は「おお」と響めいた。『ハニカムシールド』が一瞬で消し去られたからである。10分は保つだろうと思っていたようだ。

彼ら騎士達の記憶では一度発動すると、例え其所が戦場の最前線であろうと、20分位は十分にダメージを吸収し持ち堪えられる強力な防御シールドなのだ。

この『ハニカムシールド』の強化版が竜の張っている『対魔法シールド』と『対物理障壁』なのだろう。

それが一瞬で消し飛んだ。威力の絶大さを想像し騎士達の背中に悪寒が走る。再キャストには10分のリチャージタイムが必用な上、魔法陣を描かないといけない。

”手間掛けて書いたのに・・”と顔に出ている隊長のメッシは竜を睨み付け「一撃かよ・・」と呟く。

その竜はパーティの方向を向いたまま口元でドラゴンブレスの溜が見て取れた。

隊長のメッシは「やばっ」と焦った表情に変わる。今のメッシは打つ手・対策がない。間に合わない。

その騎士達や隊長の横を通りトシゾウが最前に立つ。右手には大盾を構えている。

そして竜が溜を終えてドラゴンブレスを放つ。

同時にトシゾウが『大盾』の上級スキル『フォースフィールド』を発動しトシゾウを中心に半径2メートルの範囲内が光り輝く(ダメージ無効・状態異常無効)霧に満たされた 。

トシゾウは格好良く右前半身で膝を少し曲げてやや腰を落としシールド防御の態勢を取る。

ドラゴンブレスが高速でトシゾウの纏った光の霧に当たり、弾かれ細かく砕かれた光の線が周囲に散水シャワーの様に撒き散らし飛ばされる。

弾き砕かれたブレスの熱線がトシゾウからやや離れた周囲の床、壁、天井に当たりその部分を赤く発光させ溶け落ちる。

ドラゴンブレスが尽きて静寂が戻る。トシゾウの顔は強ばっている。

頭では解っているが、進み出てドラゴンブレスを受けるのは超恐かった。

そのトシゾウの肩を後ろからポンポンと、騎士の隊長が叩き

「ははは、助かったよ、もう死ぬかと思ったぜ(苦笑)」とビックリの笑顔のまま声を掛けた。

新撰組の時代に散々修羅場を潜ってきたトシゾウでさえビックリのにやけ顔のまま振り返り

「お、おお」としか声が出なかった。

結果的に『フォースフィールド』で跳ね返したとはいえ、強烈なドラゴンブレスを正面から真面に受けたのだから超恐くて生きた心地がしなかったはずである。

 竜の周辺ではトワイライトが飽きもせず淡々とドラゴンブレス後の硬直中に竜を大盾でタコ殴りしていた。

盾で数回殴り、敵視を稼ぐ必用が有る事を思い出し、ロッドから『挑発光線』を照射しタゲ(ターゲット)をパーティから奪って保持を確認後、今度は『石化の息吹』を吹き付けていた。

 パーティの所で亜里砂はひたすら、魔力を送り『Mpポーションを飲む』を繰り返していて多少気持ち的に暇がある。

亜里砂は戦闘開始間もなく強力な魔法を放ったが、竜も戦闘開始時に張った魔法『アンチマジックプロテクション』で減衰しチョコッと傷ついた程度だった。

その後魔法を色々試したが殆ど効かなかった。その後マヤのユニークスキル発動の為の魔力供給開始まで、遣る事がなく拗ねていた。

そんな時に女性の大きな声で「リーチ」と声が掛かる。亜里砂、トシゾウ、他騎士達まで手が空いてる者達は巨大画面を見た。

巨大画面の右端と左端の数字が1で揃い真ん中の数字を待つ状態。左右の1の数字がダンスしている様に見える。右に左に踊りながら中央に1が来るのを待っている。

画面中央の数字の通過が上から下に数字が連続で高速に通過していっているが速度が落ちだした。

そして数字の通過がゆっくりになり『7』『8』『9』の後に竜の顔を可愛らしくデザインしたマークが画面上部から下がってきて、『1』『竜のマーク』『1』の並びで止まった。

『竜のマーク』の顔のデザインの目が丸く大きくなって、瞳が点。”しまった”って顔に成った。やはりハズレである。

トシゾウ、ポルトスと隊長を含めた騎士達は「あああ。おしい」と初めてのパチンコCRモドキの演出が楽しい。

一拍おいて、次の銀の玉が画面下中央の皿の上に載り、数字の回転が始まる。

シェイクスオード、亜里砂は過去に見たことがあるパチンコもどきに興味はなく普通にしている。

亜里砂は”これ、マヤの趣味?・・ヒョッとして『召還』で若返ってはいるが『召還』前はパチンコ屋に入り浸りのおばはんやったんちゃうか?”と邪推、どうでも良いことが頭を過ぎる。

トワイライトは前世でパチンコ、競馬大好きだったので、気になるのだが、今マヤの方を見ている余裕はない。

マヤの頭の上に有る巨大画面の端の貯留魔力量が75%を越えてきた。

画面から「魔力充填75%」とアナウンスがあり、ハズレで減った右端の玉の出て来る場所に『檄熱』と書かれた赤い玉が下から湧き出てきた。

トシゾウ、ポルトスと隊長を含めた騎士達は「おおお、良いんじゃない?」と楽しそうにどよめく。

もう、ほとんどパチンコ屋で新台が超大当たり継続でドル箱が積み上がりギャラリーが後ろで観戦している状態と変わらない。

騎士の隊長メッシがふと気が付いて「おい、お前等!あの赤いのが来るまでに魔力の送電急げ間に合わんぞ!」と我に返った。

皆「おお、やべ」と騎士達とトシゾウ、亜里砂も改めて送電に注力する。

パーティの所で魔力が増大しているのを竜は察知してガーゴイルを頻繁に射出してマヤ達の所に向かわせる。

騎士達が迎撃に当たり食い止めるが、ガーゴイルの押し寄せる数が増えて手一杯に成りだした。

「魔力充填率90%」と充填率の告知にガーゴイルと戦っている騎士達も”あと少しだ”と希望を捨てない。

トシゾウと亜里砂もMpポーションをラッパ飲みしながら青いオーラを燃やして魔力を急増産している。

丁度その頃、トワイライトは竜の手による攻撃を盾の『ジャストガード』で弾き、竜の状態異常の『石化』が遂に100%に到達した。

竜はパキパキと音を立てて体の中心から石化していく。これで4分間は時間が稼げるとトワイライトは一息着いてポーションとMpポーションを飲む。

 そして遂に、画面の『檄熱』と書かれた赤い玉が皿の上に載った。

画面の数字が回転を始めて一端回転する数字が見えなくなった瞬間、画面の右端から軍艦を小さく可愛くデザインしたミニキャラの艦が、旭を浴びたように赤味を帯びて画面左側に向けて数多くの群れが画面一杯にサーッと走り抜けていく。

「え?」と騎士達。リーチ予告を知らない騎士達は何にでもワクワクした。

艦艇が過ぎ去った後画面に大きめのウインド枠が開きカットイン(ビデオが流れる)。

映像には暗い室内で足の高い椅子に一人の男のシルエットが胸を張った良い姿勢で座っている。

暗くてシルエットだが影の形からスーツのような服に、学生帽の様な形の帽子を被っている。

そして横にある壁から管のようなモノが斜めに出ており、そこから次々と声がする。

「ボイラー調子よし」

「艦内全機構異常なし」

「総員出航準備完了」

帽子を被ったシルエットの人物が、帽子の鍔の左端を左手の指で無意識に触りながら、暗闇の中で目がきらりと光る。

「|両舷半速前進微走≪りょうげんはんそくぜんしんびそう≫」と静かに声を発する。低めの声でも周囲が不要な物音を立てないので十分に聞こえる。

横の方から大きめの声で復唱がある「|両舷半速前進微走≪りょうげんはんそくぜんしんびそう≫」。

そこでビデオカットインは終わり暗い部屋の帽子姿の男を映していたウインドは閉じる。

騎士達のうちガーゴイルと対峙していない者、トシゾウ、ポルトスは「おお、何か有ったぞ!これは・・・」とドキドキワクワクしながらマヤの上の巨大画面に食い入るように見つめる。

トシゾウと亜里砂の魔力供給は続いており既に100%に達した。

数字が回っている奥から先ず左に『7』の数字がドンと奥から飛び出てくる。数字の色は赤で金の縁取り。

『7』の数字の後ろにドラゴンが抱きかかえるように居て両手で『7』の数字をガッチリ掴んでいる。

同じ絵柄の『7』が右側にもドンと出る。

「リーチ」と画面からリーチの呼び声がする。

右側と左側の『7』が右に左に振る感じに一緒にダンスしている。画面の中心で先ず『竜のマーク』が奥から飛び出て過ぎ去って行く。

次に『1』『2』と過ぎてから速度が落ちてゆっくり『3』が奥からやって来て丁度良い位置で『3』が瓦礫になり砕け散る。『4』も砕け散る。

画面の右下には新しい銀の玉に文字が1字ずつ『ま』『さ』『か』と浮かぶ。

三つ並びの中央に『5』が来た。『5』はドン、ドンと後ろから何かで突かれてその衝撃波が数字の前方まで染み出している。3回目のドンで粉砕し瓦礫が砕け散る。

騎士達にトシゾウもハラハラドキドキしながら「おお、もう少し。来い!」と歓声を少し漏らしながら手に汗握り見守っている。

奥から『6』が現れてくる。『6』も後ろから突かれるが3回目まで無事に耐えた。

3回目で砕け散らなかったので巨大画面を見ている騎士達は「ああ、ダメかー」とか「むむむ。」「くー」と口々に悔しがる。

敵が石化しているとはいえ、画面が面白くてまだ戦っている事を忘れているかも知れない。

半数の騎士達はガーゴイルのお相手で手一杯。それどころではない。

トシゾウも「チッ」と諦めた瞬間。巨大画面の上端から牙だか爪が4本、ザクッと画面の上端から下端まで切り裂かれて4つの傷跡を縦に付け、牙の部分がピカッと輝る。巨大画面の傷跡以外の部分がが真っ赤に変わった。

大画面を見てたトシゾウ、ポルトス、騎士の隊長、ガーゴイルを片付けた騎士達皆が

「うお!」と声を出して驚いた。

巨大画面に蜘蛛の巣状のヒビが入り『パリーン』と割れたように砕け散り大画面の中心の奥に吸い込まれていく。

色んな文字や映像の断片、光の点が画面の中央に吸引される様に一点に塊りゆき、明るさが増し爆縮していく。

トシゾウ、ポルトス、騎士の面々も固唾を呑んで見守る。

そして『ドカーン』画面に爆発の映像と供に竜がガッチリ掴んだ『7』が3つ並んだ。一呼吸置いてから画面が暗闇一色になり右上り斜めに『777』が『ダン』と音と供に出る。

瞬時に又消えて暗闇を経て右下がり斜めに『777』が『ダン』と出てから、消えて溜の間が開き最後に真横に『777』が『バン』とアップで出た。

巨大画面の中の『777』の背後でドラゴンが首を大きく振り回し周囲にブレスを撒き散らして辺り一面火の海で画面が真っ赤っ火になる。そして背景に『大当たり』と出て3つの数字7がキラリと光る。

トシゾウ、ポルトス、隊長を含めガーゴイルを始末し終わった騎士達も「おおおー、来た~!」と跳び上がって大喜びする。

 亜里砂、シェイクスオードは冷めた目をして同じ事を考えていた。

”殆どパチンコCR機じゃないか。天井のポッカリ空いた穴から鉄球が山ほどドラゴンゾンビにジャンジャンバリバリ、ジャンジャンバリバリ降り注いで竜が圧死する算段じゃない?。”

”アナウンスで『今日は出ます、出します、出させます。』なんて言ってさぁ・・ネタだわ、ネタ!”

と二人は同じ想像をしていた。

 広場は『パンパカパーン』とパンファーレが鳴り響き、壁の高い位置で赤い光の帯が右周り左回り両方向から駆け巡る。

マヤの頭上の巨大画面にあった『777』がひっくり返り『力の具現化』の文言に変化する。

トシゾウ、ポルトス、隊長は戦いよりも”いよいよだ!”とワクワク笑顔で好奇心が止まらない。

その広場に音楽が鳴り出す。

『ジャンジャンジャンジャジャジャジャヤ、ジャジャジャジャジャン』

『ズンタタタッタズンタッタタータタータター』その曲は皆さん御存知の『軍艦マーチ』だ。

今までガーゴイルと戦いガーゴイルを倒した騎士達は汗を剣を持ったままの右手で拭い、賑やかな巨大画面に目を遣る。

マヤは魔力充填率90%の時から意識が無く、少し宙に浮き祈りのポーズのまま体が少し発光していて『トランス状態入っている』って感じだ。

それが一瞬強い光を発し、横に大分離れた空間に暗い大きな横穴が空いた。

穴の外見はSF映画の次元トンネル風。空間に開いた穴が黒地に青い細線が幾重にも走る闇で洞窟の入り口みたいな造りだ。青系の小さい光が穴の周囲から穴の中にユックリと吸い込まれていく。

中には霧が立ちこめて穴の中からユックリと外に流れ出している。その大きな暗い横穴の奥に何かが潜んで居る。

 発動したての術を見守るトシゾウ、騎士達、ポルトス、シェイクスオード、亜里砂等は期待一杯の顔。

ドラゴンゾンビは未だ『石化』から解けていない、固まったままだ。もう少し保ちそう。

再びマヤの上に有った巨大画面に再びシルエットの男が映り、椅子に座ったまま手の平を開いて右手を前に突き出し。

「1番2番主砲発射。摩耶前進!!」と号令する。

シルエットの男の横から復唱が返ってくる

低い男の声でユックリ復唱が返る「両舷全速よ~そろー」

別の男の声で早口で「1番、2番てー!」と横の壁から出ているパイプの蓋を開けて、パイプに向かって気合いを込めて叫ぶ。

『ボボン』『ボボン』と二度砲声が聞こえる。

 空間に開いた暗い横穴から二筋の火線が2組伸びていく。行き着く先は石化中のドラゴンゾンビだ。

初弾の2発は石化中のドラゴンゾンビの直ぐ手前で『対物理障壁』が8角板状の姿を現しそれに突き刺さる。『対物理障壁』の横に耐久力ゲージが現れググッと減る。

次に僅かの差で2弾目の2発が伸びて来て『対物理障壁』に当たる。爆発が二つ起こるが『対物理障壁』の耐久力ゲージの減りはイマイチ。チョコッとだけだった。

暗い横穴から『ボー』と汽笛が聞こえて、大量の霧が流れ出て来る奥から巨大な物体がを出て来る。

霧と供に出てきた物体は横穴の巨大な入り口から出た部分が洞窟内の控えめな光を浴び船の先端だと分かる。船首の先端には金色の菊の御紋が付いている。

船首に続いて大きな船体がニューっと姿を現し甲板に連装の1番砲塔、背負いの2番、甲板の高さに戻り後方を向いた3番砲塔が現れるて、太めで大きな艦橋が光を浴びる。

船が進むことで艦橋の後方で白地に赤の旭日旗が風を受けてたなびく。

マヤの頭上の巨大画面でもたなびく旭日旗がアップでドンと写る。

艦橋が暗い横穴から出た瞬間に船を中心に周囲の空間がサーっと書き換えられて広がっていく。

元々かなり広いが洞窟の壁だった周囲が青空の下の海原に変わっていき比べものにならないぐらいの広さ東京湾ほどのだだ広さに書き換えられて伸び広がっていく。

地面は青く波打ち、そこそこ広かった広場は『ただっ広い海』に姿を変えた。

その艦の持つ記憶『青い空に蒼い海そして強い日差し』に周囲を書き換えていった。

『軍艦マーチ』は未だ元気に鳴り響いている。

トシゾウ、ポルトスやシェイクスオード、騎士達が居る部分は半径5メートル程の円形のステージが海面より2メートルほどの高さで形成されており、船着き場の突堤に似た場所に変わっていた。

騎士達は情況に頭が付いていけず驚いて口を開けて見守っている。隊長が辛うじて

「心象風景の具現化なんて・・そんな大魔術を・・。しかし海水と日差しではあのゾンビは死なんぞ。」と前置きして、言葉の奥に見た事もない船の実力に期待している。

シェイクスオードが「あれがマヤ、『力の具現化』?」と呟く。

亜里砂が船姿を見て「帝国海軍一等巡洋艦高雄型の3番艦ですの。」と面白そうに破顔する。

艦橋の中では暗かった室内が窓の外から入った光で大分明るくなった。シルエットだった人達の服装や顔がハッキリ判る。

シルエットだった人物は黒っぽい一種軍装を着ていてそれに会う帽子も被っている。日本帝国海軍の将校だ。

襟は正しく立てて留めてありピシッと着こなす紳士。だが姿が少し透けて見える。実態化した英霊である。

他の艦橋要員も乗組員も皆同じでそれぞれ英霊で『力の具現化』に因る召還を受け「またあの船で供に戦えるのなら」と召還に応じた英霊達。

日本海軍の一種軍装を着た紳士の英霊は摩耶艦長『大江覧治』大佐で薄笑みを浮かべつつ(再び自分の艦と供に戦える喜びで少し目尻に光る物が滲んでいる。)命令を発する。

「砲術長、主砲1番から5番一式弾(徹甲弾)装填。右舷3時の方向を指向せよ」

「は、主砲1番から5番一式弾装填の上3時の方向を指向します。」と砲術長が復唱する。

復唱後、砲術長が各所に命令を伝える。

「水雷長、右舷魚雷発射準備。3時の方向を指向せよ」と艦長は次々と命令を発していく。

「右舷全速、取り舵90」

機関長は艦橋には居ないので伝令員が機関室に命令を伝える。

艦橋の前部中央で舵を握っている航海長が操舵輪を左に勢いよく回しだして

「とーりかーじ」と大きな声で復唱する。

右側への遠心力が徐々に増し、同時に艦橋の窓から見える遠くの風景、青い空、遠くの入道雲が右に流れていく。

艦が左に曲がっていく。艦の右舷がドラゴンゾンビに向く。

「右舷副砲、一式弾装填。撃ち方始め」

と艦長が淡々とした口調で命令を出し砲術長が受けて命令を各所に伝える。

「了解であります。・・右舷副砲1番、3番一式弾装填。うち~方始め。」

右舷の12.7センチ連装砲が素早く動いて狙いを定め砲撃を開始する。

次々と副砲の弾がドラゴンゾンビの『対物理障壁』に当り、コツコツと耐久力ゲージを削っていく。

丁度ドラゴンゾンビの『石化』が解けだした。

海面より2メートルの高さのステージにパーティの面々が居るのだが、シェイクスオードが腰を下ろして座り

「俺達はもう遣る事無さそうだから冷えたエールでも一杯やりながらどうです?」

と騎士の隊長にアイテムボックスから冷えたエールを2杯取り出し片方を勧める。

「こんな時に酒?、むふ。乗った」と隊長も最初は少し驚いたが。”剛胆なヤツだ、負けてられん”と破顔して受け取る。

それを見た騎士達も「あ、隊長ずるい。俺も呉れ。俺も・・」と結局シェイクスオードは全員にエールを振る舞う事になった。

そして、エールを飲む前に「領内の村で作った極うまのビック・フランクだ、これエールに合うぞ」

と串に刺した大きめのフランクフルトをシェイクスオードは取りだして、亜里砂に少し焼いて貰いケチャップとマスタードを掛けたヤツを皆に行き渡らせると隊長が

「ええ、マヤ殿の勝利とドラゴンゾンビ討伐成功を祈念して・・・乾杯」

「カンパーイ」と早々と乾杯をしてしまった。

『ゴク・ゴク・ゴク』と皆戦闘そっちのけで最初の一杯を飲み下す。

「っぷはー」「うめー」「冷えたエール最高」「シェイクの旦那!お代わり有る?」

と宴会が始まった。「え?ここで酒盛りする?」とは誰も突っ込まない。

シェイクスオードの横で隊長も騎士達も戦況に目をやる。

亜里砂、ポルトス、トシゾウはステージの前の端に座ってエールを飲みながら、ビックなフランクフルトを頬張り観戦モード。ほぼ野球場で野球観戦している風景と変わらない。

こいつ等は楽しめる時に観戦を楽しむ様だ。たくましい。

摩耶の艦橋で「もどーせー」と方向転換が終わって舵を戻す声が響く。

方向転換が終わり、船体の腹を竜にさらしている。

主砲は右への旋回を終え照準を定めている。

「主砲発射準備完了」と艦橋に響く。

「主砲発射」と艦長が主砲発射を命令する。一瞬遅れて砲術長の「てー」が続く。

『バン・ババラ・バンバン』主砲斉射の轟音が轟く。

ドラゴンゾンビの『対物理障壁』が悉く受け止める。『対物理障壁』の耐久力ゲージが大幅に減りコンマ数ミリ以下残るだけになった。

「主砲1番2番は一式弾を、主砲3番4番5番、零式弾(通常弾・榴弾)に変更し次弾装填。」と次の命令を艦長が発する。

そこに「魚雷発射準備完了」と水雷長が報告する。

「魚雷全弾発射」

重巡摩耶の右側面の4連装魚雷発射管から、4発ずつ計8発の魚雷が射出され、水中に潜りドラゴンゾンビに向かって進んでいく。

ドラゴンゾンビは『石化』が解けきり、重巡摩耶に対してドラゴンブレスを放つが距離があり外れる。2発目が辛うじて船尾に命中する。

船尾に被弾し轟音と供に摩耶は揺れる。機関部の関係箇所がやられたのか速度が落ちていく。

「艦尾損傷!火災発生」「有毒ガス発生!」「主機シャフト破損。」と艦橋で被害報告が飛び交う。

「ダメージコントロール急がせ」「消化班・応急班は防毒マスクを着用せよ」被害に対する対応の指示も飛び交う。

ドラゴンブレスではなかなか当て辛いのでドラゴンゾンビは魔法に切り替えた。右手の直ぐ上に魔法陣が展開され10秒かけて魔法陣の輝きが増し発動される。

足の遅くなった重巡摩耶の右舷中央に空から火柱が叩きつけられ大きな爆発を起こす。

艦橋は激しく揺れて艦橋要員の何人かは打ち所が悪く昇天する。額には白い三角の布が巻かれ、「ああ、艦長お先に逝きます」と合掌しながら『チーン』と金属音をさせて水雷長と航海長がユックリと天に登っていく。

艦長は座っていた椅子にしがみつき無事だった。

「右舷損傷!火災発生」「右舷第1、第3副砲大破」「右舷魚雷発射管1番、3番損傷」「右舷ボイラー破損・航行不能」

と被害の報が次々と飛び込み被害は甚大なのが伺える。

無事だった艦橋要員が被害対応の指示を出している中「主砲発射準備完了」の知らせが届く。

「主砲2番発射」と椅子にしがみついた体勢のままの艦長が発令する。

右手をダランと下げた砲術長が左手で握った船内電話の受話器に向かって

「主砲2番てー」と叫ぶ。

船首から2番目の一段高くなった背負いの連装主砲が火を噴く『ドン』

火線がほとんど動けないドラゴンゾンビ伸びていく。『対物理障壁』が姿を現し『対物理障壁』に一式弾(徹甲弾)が命中する。

『パキーン』とガラスの割れる音に近い甲高い音が鳴り響き『対物理障壁』が粉々に砕け散った。ミリ以下の残っていた耐久力が消し飛んだのだ。

ドラゴンゾンビはまさか『対物理障壁』が砕けるととは思っていなかった様で、驚きで詠唱中の魔法を中断してしまった。

椅子にしがみついた姿勢のままの艦長の目がキラリと光る。『好機到来』

「主砲3番4番5番発射」

艦長の姿を見守りながら発令を待っていた砲術長が受話器に向かって

「3番から5番てー」と叫ぶ。聞く側は何度も受話器から耳元で叫ばれて耳が痛いだろう。

重巡摩耶の艦橋の直ぐ前の3番主砲と後方の4番5番主砲が一斉に火を噴いた。

『ドドン、ドン』火線が伸び『対物理障壁』が消失したドラゴンゾンビに直撃し、爆煙が広がる。一拍於いて漸く魚雷が到達し水柱が上がる。魚雷8本全弾命中。

爆煙の中からドラゴンゾンビの肉片、骨や右手だった物がクルクル回りながら飛び散り近くに落ちて水繁吹が飛ぶ。

完全観戦モードで、大人しく見ていた騎士達、シェイクスオードやポルトス、亜里砂達も遂に

「おっしゃ!」、「やったか?」とか「おおお」と言葉を発した。

爆煙が薄れ、ドラゴンゾンビだった物が姿を現す。

左足は消し飛んでいるが、右足は腐った肉と骨が残っている。胴は腹の辺り迄しか残っておらず胸から上は消し飛んでいて、ソコに太い大きな魔石が顔を出していた。

魔石周辺の傷口が『シュー』と音を立てて少しずつ回復を始めている。

摩耶の艦橋では艦長が「主砲1番、確り落ち着いて竜の魔石を狙え研ぎ澄ませ!」と言い、

船内電話の受話器越しに砲術長がそのまま伝え1番砲塔の砲手に発破を掛ける。

砲術長が受話器を持ったまま「照準よし」と伝える。

「主砲1番てー」と艦長が発令する。

『ドン』最前列の1番主砲が火を噴く。オレンジ色の砲弾が高速で目標に近づき、ドラゴンゾンビの胸の魔石にオレンジ色の2本の線が刺さる。

魔石に蜘蛛の巣が張った様なひび割れが走り『ビシッ』っと音がする。

そして、直後魔石が砕け散り『パーン』と音が響く。

ドラゴンゾンビの居た辺りから光がビーム兵器の様に天に伸びて頭上にあった小さな雲を貫いて消し去り光の柱になる。魔石に蓄積していた膨大な魔力が解放され上方向に噴出した様だ。

光の柱の根本、ドラゴンゾンビが居た地点では光の中ドラゴンの骸骨が両手を挙げて踊っているような影が映り、程なくその骨が力なく崩れて地に落ちていく影が映った。

同時に光の柱のやや上の方で『もの凄い形相をした悪魔の顔』がモノクロで浮かび悔しがっている様に見えたが、次第に光に飲まれ削られ消え去った。

その光景を艦橋に居る艦長は無表情で見つめている。

同じ艦橋に居る他の艦橋要員は無言ではあるが歓喜の雰囲気がグッとアップしているが、我慢している。待っているのである。

艦橋要員の一人が双眼鏡を両手で握り情況を目視して報告する。

「竜の魔石瓦解、溜まっていた魔力・悪意も消失したようです。」

艦長は視線を船正面の空の青さに移し、壁の受話器を取り艦内放送を使って

「任務完了。諸君ご苦労だった」

と目的の達成の宣言と乗組員の労を労った。艦橋を始め艦内各所で歓喜の歓声が挙がる。

乗組員の英霊にとって愛する乗艦で戦えた事、この艦で勝利した事が非常に嬉しいのである。

パーティの面々、シェイクスオード、トシゾウ、ポルトス、亜里砂、騎士の隊長と騎士達は言葉無く良い戦いを見た余韻に浸っている。

『ルルルー、ルルルルルー、ルルルルー。』

マヤの『魔導ステージ』が関与しているのか、エンディング曲の様な静かで優しい音楽が流れている。控えめな音量だ。

マヤの体は未だ戻ってきてないが、巨大画面は残っている。その巨大画面には黒いバックに『完全勝利』の文字、赤字で金の縁取りでユックリ浮かびあがった。

ドラゴンゾンビの居た場所で天に立ち上った光の柱は、柱の太さが徐々に細くなっていき遂には消えた。

光の柱の有った根元には、ドラゴンの骨、皮、砕けた魔石の破片、腐った肉その他が転がっていた。もはや動き出す気配はない。

海原に成っているこの空間で流れていた緩やかな音楽が終わり、次にピアノの曲が始まった。

暫く聞いていると『蛍の光』だった。シェイクスオードとトワイライト、亜里砂の三人はズッコケた。亜里砂は顔を引き攣らせて”パチンコ屋の閉店の音楽やん”と心の中でつっこむ。

 モコモコと煙が立ち上る重巡洋艦摩耶。その艦橋の一番高い所から、まるで砂で作った造形物かの様に風に吹かれて砂が飛ばされる様に削り消えていく。

艦橋やマスト、煙突、主砲塔等の上面から徐々に風に吹かれ、すり減り崩れ消えていく。

 崩れ逝く重巡摩耶から多くの英霊の御霊がユックリと空に昇っていく。

半透明の英霊は一様に重巡摩耶に対して敬礼をしていて、その顔には万感の想いが現れていた。

有る者は恋人を駅のホームに残し電車で帰って行く時の表情。艦長の大江大佐は良い面構えで薄笑みを浮かべたまま涙を二筋三筋流す。また表情の少ない者は硬い表情のまま目だけ潤ませている。

それぞれの想いを胸に愛艦の大事の為に集った英霊達が大事を終え帰って行く。

船の甲板より上が消え去った頃から遠くの風景から元の洞窟の壁面に戻りだし、空間が縮みだして濃霧が辺り一面に湧き、濃い霧で周りが見えなくなる。

そしてサーッと風が吹き霧を押し流し、スーッと霧が晴れてきた時には元の洞窟に戻っていた。

パーティの所にマヤの体が戻ってきていた。トシゾウ、ポルトスをはじめ仲間が駆け寄り「傷の手当てを」と言っている声がする。マヤは負傷している様である。

 亜里砂とトワイライト、トシゾウが何か異変を感じ取りドラゴンゾンビが居た場所の天井で青空の見えるポッカリ空いた穴の方を見つめている。

亜里砂が、「ま」、「さ」、「か」と嫌な予感がしている。

『チン、ジャラジャラジャラ。チン、ジャラジャラジャラ』と何度も同じ音が繰り返し起こっている。

天井のポッカリ空いた穴の手前にいつの間にかレバーが現れている。ポッカリ空いた穴から差し込む光が段々遮られて暗くなり、現れたレバーが左にスライドする。

トワイライトは「や」、「は」、「り」と亜里砂の言い方に合わせて嫌な予感は的中と顔を見合わせる。顔には危機感が現れ”ヤバイ”って顔に書いてある。二人同時に「ズラカレ!」と口にする。

スライドするレバーに合わせて天井ポッカリ空いた穴から鉄球が無数に勢いよく落ちてきて地面に当たり四方八方に弾き飛ぶ。鉄球はバレーボールほどの大きさ。

瞬時に亜里砂とシェイクスオードはもう逃げ出している。

「もう!今さらーー?」と亜里砂は冗談で予想した光景が的中し目を疑った。

シェイクスオードは「撤収!撤収!」と声を掛けつつ、この男逃げ足は速い。

ポルトスと騎士達はマヤと、ギックリ腰の仲間をそれぞれ数人で担いで一目散に逃げ出す。

「イテー、そっと、そっと運んでー!」担がれるとギックリ腰に良く響く。

トシゾウと、トワイライトで|殿≪しんがり≫をやっている。大盾で飛んでくる鉄球を弾きながら出口に下がっていく。

このチームは最後までドタバタコメディだ。

トワイライトは横目でトシゾウを見る。

トシゾウは「かなんなぁ(かなわないなぁ)、へろへろじゃけぇ」とぼやきながらも楽しそうである。

トワイライトは土方歳三の生涯を歴史書に書かれてある程度は知っている。前世の日本で読んだ。

自分達が学生時代、二十代前半に悪友達とバカやってドタバタしながらも楽しかった青春がある。

今思えば懐かしく楽しかった思い出。辛かった事もあった筈だが、辛い事やしんどかった記憶は時間が経てば風化し抜け落ちていく。結果良い思い出しか残らない。

土方歳三はそんな青春の時期に『勤王の志士』と自称する殺人鬼達と命の遣り取りを繰り広げていた。バカやって仲間と笑い合えるなんて無かったと思う。

トワイライトは個人的に前世いや、前の世界幕末の日本でトシゾウが楽しまなかった分、今後楽しんだらいいと思っている。いや楽しむべきだ。勿体ないよ折角女神からボーナス余生を貰ったんだから・・と。

その情況を遠目に、予知夢を見ている方のマヤの精神が見守っている。横には此所に誘ったトカゲがいる。よく見るとゾンビになったドラゴンと同じ顔だ。そのドラゴンが喋り掛けてくる

「漸く見つかりました。将来貴女が成長した暁には、今予知した様に闇に落ちた私の体を倒して欲しいのです。それでやっと私も転生出来ます。その時が来たら思い出しますからお願いしますよ」

と言い終わるとマヤの意識は後ろにグッと引っ張られて高速で戻っていく。

周りに有った映像が光の点になり向いている方向に流れていく。背中向きに光の渦を逆行していく。

意識が無くなり、ふっと目が覚める窓の外は空が白んでいて夜明け目前だった。

マヤは何か夢を見たはずなのだが思い出せない。もどかしいけど思い出せない。体がだるい・・。寝冷えでもしたかな?

「今日何か面白いこと有るかな?眠いから何も無くて良い。そう、馬車で移動。そして馬車の荷台で寝る」

と決意するマヤの想定ではトワイライトの馬車の荷台で皆と居眠りする積もりだが、一人一台馬車を御す事を忘れていた。


マヤは意外と怒らすと手におえない。本当に怖い人です。その気になれば師団単位でも殲滅しそう。

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