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【011】 祝勝の宴会 その2+交易事始め

「」は台詞。””は思い・心の中の台詞。『』は名称・擬音・その他

交易で金を稼がないと赤字転落で旨いものも食えなくなるぞと脅されて、

歳三達は交易商人としての一歩を踏み出す。


 エルフの里『ミコライウ』のかなり広い『入り口広場』を全部使った宴会も終盤。

時間で言えば午後8時頃だろうか、酔いつぶれて寝ている者、好きなお喋りを楽しんでいる者、ブチブチ文句を言い|蜷局≪とぐろ≫を巻く者、時間的に頃合いだろうか馬車に乗って町の宿屋に急ぐ商人達。

それぞれの都合で会場に居る人数は減って行っている。

宴会場の手伝いに来た母子、女、子供達は串焼肉を堪能して幸福そうな顔で、それぞれの里の衛士達に付き添われて戻って行った。

会場のキャンプファイヤーも燃えかす・炭が多くなり火も残り火程度。広場は街灯に灯りが灯っていて暗くはないが、人も減り騒がしさが減った分祭りの後の寂しさが漂う。

もう下火になったキャプファイヤーの近くのテーブルでまだトシゾウとポルトスが何か話しをしている。マヤも同じテーブルにいるが散々歌って楽しんで今は、魂が抜けた様に口が半開きの放心状態で椅子に座っている。

そらちゃんは腹一杯食って納得し、机の上で横倒しになり大きくなったお腹を放り出して幸せそうに寝ている。

其所にゴールデン・バーボン傭兵中隊のヘンリー隊長がヴィックモロー、リトルジョン、ウォルトン、フランダースの4人を伴ってやって来た。

マヤは気を使ってそらちゃんを抱っこして隣のテーブルに移った。

ポルトスは5人に『座ったらどうだ?』って積もりで手を差し出し促す。

5人が座り出す間にトシゾウが今日の活躍をねぎらう。

「今日は良くやってくれました。大活躍だ。近衛隊よりもよく頑張っていた。お疲れ様」

と感じ良く賞賛する。

トシゾウの正面にヘンリー隊長がすわり5人とも姿勢を正して

「有り難う御座います。褒めて頂き恐縮です・・・。」

とヘンリーは礼を言って一度言葉を切りる。起立して改まって深々と頭を下げる。

「先日のシェラ野営場での戦いで、自分の隊を救って頂き本当に有り難う御座いました。」と他の4人も隊長に倣って頭を下げて「有り難う御座いました。」と言葉にも心が篭もっていた。トシゾウはビックリ面食らっていた。ポルトスは苦笑いに近い感じで破顔している。一瞬・一時、沈黙と供に清涼感溢れるそよ風が通り過ぎた様な気がした。

沈黙に我慢出来ないリトルジョンが「ああ、是でスッキリした」とホッと一息着く。

横でヴィックモロー副長がウンウンと頷いている。

ヘンリー隊長はしんみりした面持ちで

「ラスパ二個大隊が全滅したと聞いた時は、『ああ俺の部隊は全滅か』と覚悟をしました。悔やみました。

今頃、見舞金を持って死んだ仲間の家族を回っていたかも、と思うとゾッとします。生きていると聞いた時の喜びは言葉に出来ません。」

と苦しかった胸の内を語るヘンリー隊長。

フランダースも遠い過去を思い起こす様な目をしながら

「実際、退路を失って完全包囲状態に成った時、俺達は皆死を覚悟しました。あの時の『気に入った』って一言のお陰で俺達は命拾いした」と思い出して言葉にする。

リトルジョンが続きを喋る「で、今日ウチの隊長も合流出来たので、この機会にちゃんと『ありがとう』を言っておこうって思って来ました。言いたい時に『有り難う』って言えるのは気持ちの良いものですね」

トシゾウは優秀な兵達に好かれるのは個人的にはかなり嬉しいので機嫌のいい顔をする。

「ヘンリー隊長、あれだけの兵を熟練兵に鍛え上げるのに何年かかりました?」とトシゾウは照れ隠しに他愛もない質問をした。

「そうですね。鍛えると考えた事は無かったですが、最初は20人程で難易度の低目のクエストからこなして行くうちに人が増えて、かれこれ10年になりますから・・・。最低でも7、8年は掛かりましたでしょうか。」

ヘンリー隊長は多少の褒め言葉と受け取り少し表情が緩みながら答えた。

「やはり、ソレぐらい掛かるかな。練度も高く、仲間が敗走しても崩れず部隊として機能していたあの時は賞賛に値する。敵から見ても死なすには惜しいと思わせる位にね。」

「自分の隊の隊員の多くが崇拝するトシゾウさんからそういって貰えると皆も喜びます」

トシゾウはニコリとして

「シェイクがそんなあんた達と良い関係を築きたいと必死に頭を捻っている。幾ら推し量った処で口に出して言わなきゃ分からないことだって有る。」

とトシゾウは将棋やポーカー、カードゲームで勝利目前の人の様な顔をして言う。

リトルジョンが斜め左上に視線を泳がせながら「男女関係の様な話しですね(笑)。」

「リトルジョン、あんた分かってんじゃねぇか。そんなあんたに頼みたいことがあるんだ。」とトシゾウはNHKの大河ドラマ『鎌倉殿の13人』に出てくる三浦義村(山本耕史)の様な口調で喋った。

「自分に出来ることであれば・・。」と「はい」的な返事。

「なるべく隊員全員に紙を配って、それぞれが今抱えてる問題、気になる事・心配事を、些細な事でも良いから、各員に紙に書いて貰って俺達が此所を立つ前に集めて俺にくれ、配慮出来るモノと出来んモノと有るだろうが、悪い様にはしない」

「はい。分かりました。自分も心配事が有ったんで何か嬉しいです。宴会のお開きまで1時間チョイありますから。急いだ方が良いですよね。早速行きます。」

リトルジョンは故郷の隣村に姉弟を残して来ていて仕送りをしている。その姉弟の今後が心配なのである。だいたい命が有っただけでも有難いのだが、人間って落ち着いてきて時間に余裕が出てくると色々心配事を思い出すものだ。

直ぐに動き出そうとしたリトルジョンをトシゾウが紙を一杯出して

「ああ、是を持っていけ。今日の作戦予定地が変更になった時の地図だが裏が使える。半分に切って使ってくれ」

と表に地図が描書かれてある裏紙の束をリトルジョンが受け取りその場を離れて行った。

リトルジョンが離れるのを見送ったトシゾウはエールを『グビッ』とのんだ。

ヘンリー隊長が何かを言いかけた時にトシゾウが

「ウォルトンさん、待たせたな。」と神官のウォルトンに向かって笑顔で喋り出した。

「ええっと?何でしたっけ?」とウォルトンは忘れている。

「ターン何とかってのを後で教えてくれるって言っていたじゃないか。」

とトシゾウは好奇心満点のワクワク顔で聞く。

「あああ、『ターニングアンデット』ですね。」

「ああ、それよそれ。」とトシゾウは右手の人差し指を立てて3回ほど縦に振った。

神官クレリックの神聖魔法の技です。効果は不死のモンスターを成仏させる。魂や怨念にも有効。自分を中心とした範囲効果の使い方と、タッチ式で成仏の効果を高めた使い方のどちらかを選べます。」

「今日、倒しても死なないナイトスケルトンを倒したのはソレか?」

「はい。あれは『ターニングアンデット』のタッチ式ですね。」

「おおお。ソレってどうしたら使える?覚えられるんだ?」と益々食い付くトシゾウ。

最近のトシゾウは面白いと思ったら貪欲に食いつく。元々新撰組にいた時はそんな性格ではなかったはずなのだが。

「あれは、クレリック系(神官)の神聖魔法でクレリックのレベル1から使えます。」

ウォルトンはクレリック(神官)に関する説明を大まかに説明しだした。

トシゾウは熱心に聞き入、時折質問する。クレリックに興味のないポルトスは酔いが回ってきたのか、説明が子守歌なのかウトウトと寝だした。

説明を聞いているとクレリック(神官)冒険者レベル3から転職可能の初期職業で、PE(信仰心)の値が13必要。

金属鎧・金属武器供に装備可能だが、刃物類の装備は禁止。刃物類とはダガー、剣類、槍、斧等が装備不可。

盾、棍棒、メイス、槌類、料理用の包丁やナイフ類は可能。

 もし、刃物類を無理に装備すると6時間後から7日間神聖魔法が一切使えない上に体調不良が付いてくる。

戦士系とクレリック系の上級職で『クルセイダー』があり重戦士・騎士が神聖魔法を使える様になったこの職業は剣・大剣に限り刃物が使える。

以上の説明を受けてトシゾウは大まかに理解した。その上でウォルトンが親切に聞いてない事まで教えてくれる。

「冒険者レベル5に成ったら『ジョブスロット』が一個増えるからレベル5に成ったら『大盾』と『クレリック』を併職する人多いですよ。」とアドバイスしてくれた。

理由は、幾つかあるが主な理由の一つは戦闘になればヒーラー(回復役)が真っ先に、また執拗に狙われる事が多い。ヒーラーが倒れられると非常に困るので防御を硬くする為に併職する。

もう一つは、ヒーラーなのに前で殴りたい人。『大盾』で重装しながら右手にメイスを持ちタコ殴りする。

メイスは刃物ではないのでクレリックの神聖魔法は使える上に、重装すれば防御力が高いのでダメージの通りが少ないので十分に前線に出て殴り合いが出来る。

パーティの前衛が足りている場合は、殿、後方への備えを担当したり、もしパーティの大盾が倒れても予備・2枚目の盾として繕う事が出来る。

パーティのメンバーが少ない時でも、『大盾』(タンク)と『クレリック』(ヒーラー)兼務出来るので良くお目に掛かる。

以上の説明を聞いて、トシゾウも益々『大盾』(タンク)と『クレリック』(ヒーラー)兼務の『ヒラタン』をやってみたくなった。「便利じゃねぇか」

只、問題もある。トシゾウのステータスのPE(信仰心)が極端に低い。クレリック転職条件はPEが13必用だが、トシゾウのPEは8だ。

トシゾウ、ヘンリー、ヴィックモロー、ウォルトン、フランダースの5名は揃って頭を抱えた。

ポルトスは酔いが回って気持ちよく夢の中。マヤは暇なので楽しそうに聞いている。

『ステータス修行』はPEが15まで受ける事が可能だが、通常のクエストやギルドで伸ばす事が出来ない。

レベル30以上特性のある職種、PEの場合『クレリック』か、その上位『ビショップ』『クルセイダー』でベル30以上のキャラクター。

又はレベル20以上の『クレリック』か『ビショップ』、『クルセイダー』で『教官』を併せ持つ者から『修行クエスト』を受けて習熟を積み課題を達成する事でステータス修行が出来て数値を伸ばせる。

 オガミ辺境伯爵領のあるグレイ州の町に教会は有るには有る。しかし、辺境の僻地に勤務する『クレリック』はレベル10前後の初心者を脱した程度の者が多くステータス修行はできない。

ヘンリー隊長が「普通は『王国立アカデミー』に特科で短期入学して、そこの教授の授業を受けて『修行クエスト』を出して貰う。それが常識的な線かな?」

後、PE特性の職種で習熟を積んでいったら職レベルが上がった時にアップする事もあるけど効率が悪い。

他のゴールデン・バーボンの3人も「うんうん」と頷きながら「修行クエスト以外は常識的に無理っぽいよな」と感想が漏れる。

 そして、『王国立アカデミー』に入学するには、王国政府で働く者か貴族・王族の紹介状か推薦状が必用なので、シェイクスオードも呼んで話に加わって貰った。無論トワイライト、亜里砂も付いてきた。

シェイクスオードは「俺は今や逆賊なんで俺の家が紹介状出しても無理だろう。」

「王城で処刑されたカルロスが生きていたらねぇ、解決したんだけど。」と亜里砂。

シェイクスオードは渋い顔で

「今更仕方ないな・・。トワイライト、お前の所で紹介状出すしかないんじゃない?、お前の義理のお兄さんのレイアード子爵と有名人で戦上手のダン・レイアードの紹介状が有ればアカデミーも嫌とは言わんだろう。」

トワイライトは少し考えて「それが現実的かな。うん解った。明日姉さんに手紙書くよ。・・・ところで特科の入学はいつだっけ?」

シェイクスオードがすかさず答える「締め切りが奇数月の10日で試験が12日、翌13日に結果発表。入学は15日だったかな?」

「締め切りまで半月あるな。」とトワイライトは左斜め上の虚空を眺めがら思案している。

残ったチュートリアル的な説明と体験をどう効率的に消化するか思案している。

そしてトシゾウの方に視線を戻して

「まず、投資の領収書があるので『商人ギルド』で商人登録してから、『商人ギルド証』を持って投資実績を反映させてから、商人クエストを数回こなしつつ王都を経由してアカデミーに願書を提出・・・でどうだ?」

とトワイライトは考えながら喋ったので所々言葉がスローに成った。

トシゾウは「言われても良いのか悪いのか分からん。」とほろ酔いで頭が回らない。

「ふん」とシェイクスオードが”そうだな”と言いそうな笑い顔で

「商人は慣れてくると交易で結構稼げる。まあ、才能次第だが。何をするにも軍資金が一杯有った方が楽しめる事は多い。嫌じゃなければ商人・交易もやってみた方が良いと思う」

と中長期的なアドバイスをしてくれた。

「半月有れば、お使い・配送クエスト2回こなす位で丁度良いんじゃないか?」とヘンリー隊長も時間的段取りもそんなモンだろうと言ってくれている。

話しをしている間に宴の閉会時間が来た。

宴会の参加者はゾロゾロと帰りだしている。

商人達は駐車場で自分の馬車で車中泊する者、町に向かう者様々。

エルフの『ディンバ』『ドニプロ』の幼子と母親や女、子供、里の者達は『大行進』阻止に参加した戦士達や里の衛士達と一緒に一団となってとっくに帰って行った。

『ミコライウ』の里のエルフ達は宴会場の後片付けを始めている。

今日活躍したゴールデン・バーボン傭兵中隊は宴会場の片付けを手伝っている。

近衛中隊も片付けを手伝った後セイロンの町に帰る予定。

Temperはセイロンの町の宿屋に予約を取ってあるので町に戻ると言っていた。もう帰ったのだろうか?姿を見かけない。

シェイクスオードは近衛隊に付いて帰るのでトワイライト達に「先に帰っていて」と言ってヴァネッサとミレイとロナウド、ヘンリーの5人で片付けの様子を見ながら終わるのを待っている。

トシゾウ、ポルトス、マヤ、トワイライト、亜里砂はそらちゃんを連れて馬車には乗ったが、

「先に帰ってもなぁ・・」と近衛隊と一緒に帰ろうと馬車で待機している。

待っている間にトシゾウはリトルジョンから、ゴールデン・バーボンの隊員の心配事を各自が書いた紙の束を受け取った。片付けの前に時間が大分有ってその間に頼んでくれていた様だ。

トシゾウはコロッと忘れていて「ああ、忘れちょった。忘れちょった」と苦笑いで誤魔化す。

出発までに間に合った。

大人数で片付けをやったので直ぐに終わり、近衛隊の後にトシゾウ達の馬車も続いて出発した。

出発直前にトシゾウはリトルジョンが持ってきた書類をシェイクスオードに渡した。

ゴールデン・バーボン隊は里の自分達の宿舎に戻っていった。

トシゾウ達は夜中にセイロンの町の屋敷に到着し早々に寝た。

屋敷で寝る前にトシゾウは魔石の魔力充填装置に魔力を注入に行ったら、ヴァネッサとミレイの二人とすれ違って「おやすみ」を言ってねた。二人の笑顔はやはり超可愛かった。


 朝が来た。セイロンの庁舎横のオガミ家の屋敷は朝が早い。

6時半頃、屋敷の玄関前で今朝も整備体操が始まっている。

近衛隊の人達が多く参加している。勿論ロナウドの姿もある。トシゾウ、マヤ、ポルトスも機嫌良く参加していて、近くにヘンリーとゴールデン・バーボン傭兵中隊の捕虜になっていない隊員の姿もある。

朝日を浴びて気持ちよく体を動かす。腹が空いている事を体が思い出した。その後食堂で朝食を取る。

そして朝の8時半頃から近衛隊は今日の仕事に動き始める。本日はプレハブ住宅の部品を生産した里から設置予定地に運ぶ配送が仕事で、小隊(約33名前後)毎に4つに別れて馬車数十台と騎馬で出発していった。

 トシゾウはポルトス、マヤ、亜里砂とトワイライトと供にシェイクスオードの執務室横の応接室でTemperの来訪に同席していた。

前日に言われた通りセイロンの町の屋敷に朝一番にやって来た。トワイライトが屋敷の玄関で待っていて、応接室に案内した。

シェイクスオードもトシゾウ達とお喋りしながら待っていた。

簡単な挨拶の後に昨日の奴隷商通報の謝礼として、セイロン、ポンテ、マスリの町での投資許可書、と通行許可書と報奨金一封。を手渡した。

通行許可書と投資許可書があれば扱う商品等に置いて、オガミ領で基盤を置く商人・商会と同じ待遇が得られるので、商人としては得意地域が増えて商いの手が広がる。

今で言えば、穀倉地帯であるオガミ領の食料、穀物や肉類を仕入れて王都・王都以東の食料価格が高騰している地域で売り捌けばそこそこの良い利益が出る。

そして、オガミ領で不足気味な金属武具や金属類を積んで戻ってくれば行きと帰りで利益が出せる交易パターンが出来上がる。

”凄い得をした”って顔に書いてあるTemperにトワイライトが

「トシさん達の『商人ギルド』での登録に付き合ってやって欲しいんだが」と頼む。

「まあ、この後どうするかは考え中だったからいいよ。」と気前の良いTemper。

「また頼むねー、テンちゃん」とポルトスが両手を合わせて嬉しそうにしていると、Temperも少し嬉しそうに見える。この二人気が合う様な感じに見える。

「じゃあ、いこうか?」とTemperがトシゾウ、ポルトス、マヤ、亜里砂を連れて出ていく。何故か自然に違和感もなく亜里砂もメンバーに入っている。

5人を見送った、シェイクスオード、トワイライトは別の執務室の横の部屋、会議室に移った。

其所には既に、ヘンリー隊長他2名の捕虜になっていない部下が席に座って待っていた。

「待たせました。」とシェイクスオード。

3人は起立して「よろしくお願いします。」と一言って礼をし座り直す。

ヘンリー他2名が着席して一寸後に、近衛隊事務方のミレイが入って来てシェイクスオードに、書類を渡して、一礼して退室する。

会議室の隅にある給湯室でトワイライトはお茶の準備をしている。

シェイクスオードは気にせずに切り出す

「ヘンリー隊長遠路来て頂き恐縮です。」

「何を仰います。」

「貴官率いるゴールデン・バーボン傭兵中隊の捕虜の今後の扱いについてヘンリー隊長と相談がしたかった」と前置き無しに本題に入るシェイクスオード。

「我が隊の隊員を死なせずに降伏を受け入れて頂き心から感謝します。有り難う御座いました。」

とヘンリーは隊員が助かった事に謝意を示す。

ここでトワイライトが紅茶を出す。

「まあ、昨日の様な戦闘に参加する事は今後、ほぼ無いと予定してます。今後捕虜諸君には強制労働に4年間従事して貰う。殆どが肉体労働と考えて貰って良い。

そして、隊員達とは既に3度の食事と宿舎は約束してある。仕事で良いパフォーマンスを示せば晩飯にエールを一杯付けるとゆうオプションも約束している。」

「おおお」とヘンリーに随伴している二人が漏らす。

”待遇良いじゃん。俺も捕虜に志願しようかな?”と思っていそうな顔だ。

「はい。通常強制労働は5年以上7年前後と聞いてますが、4年で良いのですか?」

「1年短くなっても、その分私達の依頼を受けてくれれば問題ない。ん?どうした?長い方が良いのか?。此方は強制労働が空けた後に欲を言えば4、5年契約してくれると嬉しいが。」と気前の良さを示そうとしているシェイクスオード。

ヘンリー隊長が申し訳なさそうな顔で

「実は我が隊は昨年末から年始に負けた側に雇われてまして、今回のラスパ隊長の負けで2度目になります。」と懺悔の様に告白する。多くは・・、いや余計な事は語らない。

シェイクスオードもヘンリー隊長が言っている事の真意に付いて理解出来ていない。傭兵もやった事がないし、傭兵でないと解らない事情なんて想像も付かない。

 この世界の傭兵業界では1度目の負けた側への参加組は『まあまあ、勝負は時の運』と余り影響がないが、連敗だと雇う側の見方は一変する。

『負け夫くん』とか『縁起が悪い』、『疫病神』などと揶揄されてサーっと潮が引く様に仕事は無くなる。

一年ほど経って教会に多額の寄付を払って『お祓い』(最後の敗戦から1年経過している必要が有る)をして貰い晴れて『厄払い』。

教会の発行する『厄払い証明書』が有って漸く仕事の依頼が少しずつ戻ってくる。

以前に一度だけ連敗した事があり、その時はゴールデン・バーボン傭兵中隊は存続の危機に陥った。

城壁の修理や、町の工事などの肉体労働で4ヶ月は何とか食いつないだが、ソコから数ヶ月仕事が無く食うに困る状態で遂に中隊をパーティ(8人)単位に分け、魔物討伐やダンジョンに潜らせて、クエスト・素材採取等で食いつないだ。

元々副長のヴィックモローやリトルジョンをはじめ冒険者上がりの隊員が二十数名居て彼らの提案で、冒険者ギルドのクエスト・討伐・採取の依頼を片っ端から根こそぎこなしていき報酬や素材の換金で食いつないだ。

なので一時期「奴等が通った後は採取クエストでさえも残っていなく、草も生えない」と陰口を叩かれるほどクエストを片っ端から飲み込みながら町から町へと流れて行った。

その過去の経歴もあり、今回の対モンスターの戦い方等は熟練冒険者並に手慣れていた。

あの時は常に飢えていて悲惨だった。とヘンリー隊長は記憶している。

なので、ヘンリー隊長はゴールデン・バーボン傭兵中隊のほぼ9割の隊員が捕虜で強制労働と|雖≪いえど≫も食住の保証付きなのは涙が出る位いの厚遇なのである。表には出さないが・・。

残り自分と敗戦時に買い出しに出ていた一個分隊約20名のその間の食い扶持は心配であるが、買い出しの時にラスパ大隊から預かったお金がある。

そして輸送中だった食糧・酒その他物資を食料が不足している地域で売却した資金が手元に有りそれはラスパ隊長から貰えてない戦闘手当等の報酬の代わりとして頂戴し、冒険者をやりながら食いつなぐ算段・胸積もりも有った。


話しは戻り、「今現在、捕虜諸君はエルフの里『ミコライウ』で木工作業を泊まり込みで頑張って貰っているが、宿舎の準備が出来たので木工作業が終わったら州都のマスリを拠点に活動して貰う予定だ。」

「はい。」とヘンリー隊長は相づちを打つ。

シェイクスオードは砕けた口調で身を乗り出して言う

「ヘンリー隊長、モノは相談なんだが・・・」

「はい。何でしょう。」とヘンリー隊長は|畏≪かしこ≫まる

「隊員の多くが捕虜から解放されるまで、雇われてくれませんか?。現在この町の広場見て貰ったら解ると思うが、難民で溢れている。その難民の世話や仮設住宅の組み立てや部品の搬送で殆どの兵や町役場の職員は手一杯に成っている。

そんな情況で、問題や遣るべき事や仕事が次々と処理出来ずに積み上がっていく。その問題の消化を手伝って欲しいんだ。無論、給料は割り増しで払う。捕虜で無い残りの隊員も遊ばせておくのは勿体ないだろう。その隊員達も雇用する。待遇は要相談でどうだ?」

とシェイクスオードはヘンリーを何とかして雇いたくて仕方がない。

ヘンリーの方は昨日トシゾウからチラッと聞いていたので驚かなかったが、”この人本当に私を評価して買ってくれているんだ”と思い嬉しかった。

「割増しは要りません、負けが続いて雇おうと言う人が居無い中で残った部下供々雇って頂ける話しを断るのは、相当なイカレ野郎と部下に罵られます。」

とヘンリーの心は傾きつつも揺れ動いている。

”いや、この誘い話が旨すぎる。実は『旨い話には裏が有る』で毒入り危険な話しかも知れない”とそこそこ苦労を積んできた勘が警戒信号を発している。

その一方で”いやいや、我が傭兵中隊を高く評価していて頼りにしてくれている現れ。それに、ココで誘いを断っては今後1年ぐらいは雇い主は現れそうにない。食いはぐれるぞ・・・”と心の中で葛藤しながらだが、涼しそうな顔の口から色よい返事と受け取れる台詞が出てしまった。

「そうか、そうか!!誘いを受けてくれるか。」とシェイクスオードは『承諾したと此方は受け取ったぞ』と|態≪わざ≫とらしく大喜びしてみせる。

シェイクスオードも相手が迷っている事は良く解っている。食料・穀物の産出は多いが領地は辺境のど田舎だし、先日も王国の軍と戦った逆賊と判断材料のマイナスは多い。

なので、シェイクスオードは大げさに喜んで見せて、話しの途中で「やっぱり辞める」と言い出し辛い雰囲気を作ろうとしている。

ヘンリーの心の中の迷いは頭を高速回転させて論理的に消化して行くが迷いが晴れない中で

トワイライトがボソッと口を開く

「まあ、王都からの討伐軍が気になる情況だが、ラスパ二個大隊が壊滅した今王国で動かせる部隊は存在しない。各騎士団は東と南の戦場に張り付いて動けず、部隊を新設しても最低1年以上訓練しないと使い物にならない。」

トワイライトは一旦言葉を切り、ヘンリーが話を聞けているか?頭が、思考が空回りしていないか?様子を見た上で話しを続ける。

「騎士団を動かせない以上、新兵で作った部隊だけでは三号大街道ミナブ野営場付近のモンスターの群れを突破する事は無理。ココに辿り着く事は無いだろう、つまり王国との戦闘は当分無いと思って良い。」

再びシェイクスオードが話を切り出す。

「私も戦闘は当分無いと踏んでいる。ヘンリー隊長には戦闘以外の仕事を頑張って貰いたいと思っている。当家の家臣に交易や物資・資材等の調達、土木建築などが出来る人材が殆ど居ない。その辺りをカバーして欲しいのだ。」

とオガミ家の切実な内情を隠さずに話す。

ヘンリーも内情を話されて、信用・期待されている事を感じ気持ちが少しずつ前向きに動く。

「はい。食料や物資等の買い出し、調達はよく任されてました。」

「それは助かる。うちの家は戦闘が得意な人材はそこそこ居るのだが、事務系や段取り・準備、調達系の仕事が得意な者はエルフやハーフリングが多くてね。その者達を領外に出すとその身に危険が及ぶ」

と少し苦笑いのシェイクスオード。確かにヴァネッサやミレイをはじめ優秀な事務職は殆どが亜人で、オルテ教の影響下に行くと教団関係者の攻撃や迫害の的になる。

そしてシェイクスオードは話しを続ける

「で、給料は傭兵雇用の2割り増しで支給する。今日の午後この部屋にもう一度来てくれ、隊員も一緒にね。給料を支給する。」

「はい。有難く頂戴します。」とヘンリーは観念した。

「それで、給料を受け取ったら初仕事だ。」とシェイクスオードは笑顔で告げる。

紙の束を三つ机に置くき説明を始める。先ず右側の紙の束を指さして

「ゴールデン・バーボン隊が泊まり込みで工作をやっているエルフの里の者が夕食の時や、酒を飲んで隊員とのお喋りの時に得た隊員の心配事のリスト。」

次に真ん中の紙の束を指さして

「これは、昨日帰る時にリトルジョン君が提出した、隊員の心配事等のアンケートの束。まあ、是が出て来て、エルフの人達に探らせた情報と付き合わせてれば大体は出揃いそうだ。」

そして次に左側の紙の束を指さして

「その二つを元に悩み事で分類した名簿がコレだ。見てみてくれ。」

と言われてヘンリーは三番目の書類を開けて見る。

 先ず目に入ったのは『妻や子を故郷に残してきて仕送りが途絶えたら困窮するだろうと心配』で並んだ名簿にフランダースの名があった。まず対象者が多い項目が最初に来ている。対象者はフランダース以外に54名。意外と妻帯者の出稼ぎが多い。

”先ずは命が有って良かったが、時間が経てば経済的な問題や苦労が出て来るな”とヘンリーは改めて問題を認識した。

「本人が望むなら・・だが、州都マスリ、セイロン、ポンテの町に迄来て貰えれば、それぞれ町の詰め所や町役場・関連施設の掃除や食堂の手伝い他、

女性でも出来る非肉体労働の仕事でさえ何処も人出が足りていない。働いてくれるなら給料を出すので自活出来るように成るはずだが・・。」

ヘンリーは、急に言われても予想外の内容なので理解が追い付いて来てないのだが、何となくだが感覚的に”それ、美味しそうじゃない?”と勘が働き、少しだけ嬉しい驚きの表情が漏れた。

「町関係や、オガミ家に関わる仕事、役所の仕事に関わるならば、官舎や寮を用意してやれる。つまり、奥さんがこの地に来て雑用でも食堂のおばちゃんでもやれば、給料は出すし、住む所も手配出来る。

捕虜諸君の年期が明けるまで、近くで働きながら暮らして待てる。捕虜にも週1日の休暇を与えるその間に情況が許せば会いたい者は家族に会いに行っても良い。それでどうだ?」

シェイクスオードは顔に”俺達の気配りはどうだ!!”と得意げなドヤ顔が出た。

面食らったヘンリーは”出た、ドヤ顔だ”と思いながらも「あ、いや、良いと言うか、有難い提案ですが、捕虜にソコまで優遇していいんですか?」

シェイクスオードはざっくばらんに実情を明かす

「このオガミ領が有るグレイ州は魔族領と接していて最前線とゆう事も有って嫌われた土地、過疎地だ。移って来て住もうって奴は希だ。なかなか人口が増えない。

町の役場や城でさえギリギリの人数で回している。故郷で路頭に迷っている位なら、夫の居る過疎地であろうとも移り住み食いつなぐ方が良いだろう。

我が領内の町は過疎地なので空き屋が多い。そんな空き屋をちょっと手を入れたりリノベをすれば、そこそこな寮になる。家族が此処に来れば食と住は解決しやすいぞ。」

「んんー。」ヘンリーは考え込んでしまった。”余りにも話が旨すぎる”

シェイクスオードは気にせずに次の集団の資料に目を移し話しだす。

「次に、リトルジョン他27名のケースだが、親を亡くして妹弟で助け合って生きている。年長の兄(当人)が傭兵で生活費を稼ぎ仕送りをしてる。仕送りが出来なくなり弟妹が心配だそうだ。」

リトルジョンの話が出たのでヘンリーは

”そういえば、長年リトルジョンと供に仕事しているが、あいつ自分の家族の話はしなかったなぁ”と思い返していた。

トワイライトが口を挟む。親を亡くして姉弟で生きていく事が大変なのを良く知っているのでつい口が出てしまった。

「故郷の村で弟妹だけで暮らしているケースもあるが、親戚の元に身を寄せている弟達もいる。親戚が面倒を見ていると言っても多くの場合は仕送り金が目当てで養ってやっているに過ぎなく扱いも悪い。

親戚と言っても仕送り金が止まると『金の切れ目が縁の切れ目』になり家から放り出されて食うや食わずで路頭に迷う事はよく有る事だ。

故郷で弟妹だけで暮らしている者達も同様で、仕送り金が途絶えると飢え死にが待っている。しかし、そんな孤児達も半数は生き残る。大方の悲劇は姉や妹が体を売って弟達を辛うじて生き延びるさせる涙を誘う話しが多い」

ヘンリーは黙っていたが、更に押し黙り悔しそうに、表情が陰っていった。

ヘンリーが知っているリトルジョンは何時も陽気でひょうきん者、それでいて仕事は安定感充分で失敗した所は殆ど見た事がない。

顔を思い出そうとすると何時も笑顔だった。娼婦と遊ばず酒は付き合い程度で大酒も呑まない。

品行方正な良い仲間だ。それ以上個人の事情には深入りしない、それが傭兵だ。

常識なのだが、今になるとソレで良かったのか?と迷う。

”俺はリトルジョンの笑顔が見れて良かったとソコで終わっていたが、その奥に弟妹の幸せもリトルジョンの笑顔に含まれていたんだ”と気付き罪悪感に似た重さが心に圧し掛かる。

捕虜になる事は収入が無くなる。リトルジョンからの仕送りが途絶えて、弟妹が路頭に迷い最悪の場合弟妹供に飢えて死ぬ。又は涙を誘う物語のどちらかだ。

誰もが想像出来る末路。ヘンリーの表情が苦悩に満ちる。ヘンリーという男は根は凄く優しく情に厚い男の様で、その部分を見るとヘンリーは隊長には向かないカモ知れない。が、優れた才能・能力がその不利な部分をカバーしてお釣りが来ていた。

シェイクスオードが、虐めるのもそれ位にしろと言わんばかりに口を挟む

「そいつ等を連れて来ればいい。オガミ領内では子供は学校に行き、教育を受ける権利が有る。」

とシェイクスオードは得意げに話す。

「学校?」とヘンリーには聞き慣れない単語である。

「うん、学校だ。子供に読み書きソロバンと生きていく為に知っておいた方が良い知識を教える場所だ。そして子供が育つ方向を示し助け見守る機関だ。」

「貴族の子供が行く『王国立アカデミー』みたいなモノか?」

「似ているが、対象は庶民の子供だ。家族の居る者は家から通い、孤児や家の無い子供は奨学金を貰いその奨学金で寮に入り生活しながら学業を進める。奨学金は一種の借金で、学校を卒業後に仕事に就いてから給料から少しずつ返済する。

子供達が成長し学校を卒業後にオガミ家の関係する職場、例えば衛兵や、町役場の職員、その他の関係機関で五年以上働けば、奨学金の返済は全額免除される。」

「奨学金・・。いい制度だな。凄いなオガミ領は。」とヘンリーは目を丸くする。

初めて聞く内容だが、勘の良いヤツなら良い制度は直ぐに本質に気付く。

オガミ領で学校に寮を併設し、奨学金制度を作ったのは十二年前にシェイクスオードが整備させた。学校自体が出来たのは九十年ほど前の初代イットウ卿の時代、最初は学校を寺子屋と呼んでいた。

十二年前、転生者であるシェイクスオードは昭和や平成の日本の義務教育や奨学金制度、学生寮等の知識、記憶をある程度残っていて、知っている範囲ではあるが所々この世界に合う様に修正して導入した。

奨学金は転生前の日本でシェイクスオードの同期の学友が利用していた。昭和・平成の日本を知らないこの世界の者に取って知る衝撃と供に画期的に受け止められる事が多い。

この世界のでは、人間の子供は何か事が起これば飢えや病気で大人に成長するまでに半数が死ぬ。子供が無事生き残って大人になるには困難が多い世界なのである。

原因の大半が栄養失調等の飢え、不衛生、お金があれば医者に診て貰えて治る病気・・。貧困並びに貧困に関連する事柄で多くの子供達がこの世界では死ぬ。

シェイクスオードは、現代の日本・世界の『子供は宝』の言葉の重さを知っているつもりである。

仮に基礎教育が受けれたら、つまり貧困の家の子でも読み書き、ソロバン(計算力)他の教育が受けられればチャンスと頑張り次第で貧困から抜け出せる可能性はあると信じているのである。

OECD(経済開発協力機構)の報告記事で貧困層の貧困からの脱出、その国の所得平均の中央値に達するまでに、発展途上国のとある国では平均11世代かかり、先進国では平均4〜5世代であると聞いた事がある。

つまり識字率の高い・低い、計算能力、教育水準・理知的な思考の格差がその理由の一つ、又は原因の可能性が高いのではないか?と推測・仮説する。

現代世界でも『子供達の教育水準を上げる事はその国の未来に投資する事』と言われているが、ヨーロッパ中世に近いこの異世界ではそういった概念はまだ乏しい。

恵まれない子供達にチャンスを。今、貧困という理由で貧困層で在り続けざるを得ない子供達が、貧困で苦しんだ子供達が、チャンスを活かして成功し「僕、やったよ!」って今は幸せと笑うところが見て見たい。

 よく異世界転生者のチート能力、強大な魔力等で「俺つえー」をやる物語は多いが、この二人は違う。

勿論二人とも戦士系の職業持ちなので攻撃力はこの世界のトップクラスを有しているが、魔力や攻撃力が超強くてチート無双する事にこの二人は余り興味がない。

それよりも、前世の現代日本で生きた時の記憶が、見聞き体験した制度が当たり前だと二人は思っていて、少なくともこう在るべきだと感じている。

なので、世の中を成るべく当たり前に近づけたいと思っている。手の届く範囲だけでも。

現代日本を知っていたからこそ理想の形が解る。それを実現しようともがく方が本人達は面白いらしい。

現代日本の社会システムでも所々不備や改善点を残していて完璧ではない点が多少有るかも知れないが、多くの人が、優秀な頭脳が数十年にわたり改善・洗練した社会の仕組みや制度は多くの人を幸せにする・不幸にしないという目的を大いに果たしていたはずだ、と記憶している。

 現代日本ではそれが当たり前になっていて有難みが判らない事の方が多いのだが、異世界では元々そんな仕組みなんか無い。

実現出来れば当たり前でないこの世界でその有難みは大きく、多くの人の笑顔を生み、人の将来・人生を豊かにすると思うと、笑顔で「ありがとう」と言ってくれた人の笑顔が目に浮かび励みになる。


話しの脱線が長く続いた。話を戻そう。

「実情を言えば、オガミ領では中々人口が増え難い。外から移り住む人も殆どいない。理由は魔族領に近いので危険な場所と普通の人々には思われている事と、|辺鄙≪へんぴ≫な田舎だからだ。

なので路頭に迷い死ぬ子供の命があるのなら、呉れ。死ぬぐらいなら此所で教育を受けて生き抜き、成長して成功して領内に還元してくれ、領内の稼ぎ手になってくれと望むのだ。」

とシェイクスオードは本音を話しながら、ふと我に返り本題に話しを戻す。

「話しが脱線してしまった。ヘンリー隊長に頼みだ。リトルジョンの姉弟を始め子供達を|騙≪だま≫くらかしてでも良いから兎に角連れて来てくれ。」

とシェイクスオードは感情が少し暴走気味で一寸失言。

「え?|騙≪だま≫すんですか?」とヘンリー隊長は笑いかけの驚き顔。

「騙されても、兄に会えて幸せに暮らせればOKだろう!」

とブレーキが壊れている。シェイクスオードだけではなく、トワイライトにも偶にある現象。

絶句しているヘンリー隊長を横目にトワイライトが黙って居れずに

「騙したらあかんやろお前!。子供は勘が鋭い、騙されたと思えば付いてきてくれないぞ。それより、捕虜の隊員に『兄からの手紙』を書かせて説得させるんだよ。来てくれれば兄も楽になると書かせるんだ。」

と今は冷静なトワイライトが良案に導く。

「え?捕虜の仕事を楽にするのか?こき使う積もりだが」シェイクスオードの頭は空回り中。

「いや、こき使うで良いんだ。姉弟が近くで元気にしているのを見られれば精神的に楽になるだろうって事だ。」

「ああ、そうだな。・・、って事でヘンリー隊長、各員の手紙と家族の招集を頼む。コレが最初の仕事だ。」

「はい。コント見ている様で面白かったです。」とヘンリーはニヤニヤしている。

「あと、ヘンリー隊長と捕虜になっていない隊員には、何かと動いて貰うので軍籍を渡しておきます。ヘンリー隊長には『特尉』少佐待遇だ。他の者は『特曹』で准尉待遇です。雇われている間はそれでお願いします。」

シェイクスオードは、階級章を渡す。

ヘンリーは起立して敬礼して

「私、ヘンリー特尉並びに旗下の各特曹は身命を賭してオガミ家の為に尽くす事を誓います。」

と宣誓して各階級章を纏めて受け取り、また座る。

「ヘンリー特尉、引き続き残りの分類の対応を話し合ってから、旅費・経費の計算をしよう。」と捕虜の残りの分類、例えば両親が故郷で居る分類等の話を詰めだした。

トワイライトは此方の話しが軌道に乗ったので、トシゾウ達が気になって部屋を後にした。

トワイライトは屋敷から出て直ぐ近くの町役場庁舎の前の広場、今は難民キャンプになっている横を通って迂回する。

そして、広場から中央通りに抜けて『冒険者ギルド』の前まで来て立ち止まり、頭を掻き出した。

「あ、しまった!ここ『冒険者ギルド』だった・・。」

この関所街セイロンには『商人ギルド』が無い。最寄りは馬車で3時間半の距離にある州都『マスリ』にまで行かなければ無いのである。

 州都『マスリ』は地方都市にしては大きい方で、町が大きい割に人口が少なく、倉庫や商店・商会などが多く商業の町。其所の中央通りに『商人ギルド』がある。

その州都マスリに『商人ギルド』があり、Temperとトシゾウ、ポルトス、マヤ、亜里砂、そらちゃん一行は馬車で向かったと思われる。

馬車で出発した頃を屋敷の馬小屋で馬の世話している者に聞くと45分ほど前に出発したらしい。

”45分前なら余裕だ。マスリに着く前に馬で追いつける。”と見積もる。

トワイライトは出発前に急いでレイアード子爵領の姉に手紙を書いて速達で出した。トシゾウ達三人の身元保証人とアカデミー特科の推薦状のお願いである。

そして馬に跨り、トシゾウ達一行の後を追った。馬の速度なら馬車が州都マスリに着くまでには追いつけるだろう。

一方トシゾウ達はのんびり馬車旅。今回はポルトスが手綱を取っていて、助手席にはTemperが座りお喋りの相手をしている。仲が良さそうに見える。

トシゾウと、亜里砂、マヤにそらちゃんは馬車の荷台でウトウト居眠り。

馬車の幌の裾が半分位の高さまで捲り上げて紐で止めてあり、そよ風が車内を抜けて行く。

外の景色は田園風景が流れていく。道の両側に村や畑がずーっと続いていて開拓・開墾がかなり及んでいる感が有る。畑に出来る平野は畑にしてあると言う方が近い。

相当人員と期間を懸けて畑の開墾を推し進めなければコレだけ一面畑だらけな光景は広がらないだろうと推測出来る。畑の区切りには農道・畦道が通じていてチラホラと農夫の姿もある。

道の両側に広がる畑は地形に関係なく広がっており、アップダウンする丘もありその先の向こうに森が広がっているのが遠目に解る。適当に眺めている分には判りづらいが、向こうの森もかなり広い。更に奥に山脈が連なる。

 今馬車で街道をゴトゴト通っているトシゾウやマヤ達は長閑な田園風景の中を進み、ボーッと流れていく風景を見ていても飽きず、心が癒される気がして気持ちが良い。

 州都マスリが見えてくる手前でトワイライトが騎馬で追い付いた。

追い付いたがもうすぐ目的地の州都マスリなので、トワイライトは騎馬のまま馬車の後で追走し続いて町に入った。

馬車などを置く用の駐車場に止めてやっと合流。Temperとポルトス、トシゾウは普通だが、亜里砂とマヤは寝起きで体が重いらしくフラフラしている。そらちゃんは近くの馬車の車輪にオシッコを3回程掛けて回り一息着く。


Temperの案内で中央通りの『商人ギルド』に向かう。やはりこの町も避難民のキャンプ・簡易テントの群れがあり賑やかなのはその付近だけだ。

人の多い避難民キャンプを抜けて少し行くとまた人通りが多い地区に差し掛かった。

Temperが簡単な観光案内じみた説明をしてくれる。

「『商人ギルド』と『交易所』が有ってそこに続くこの辺りは商会・商店が建ち並ぶ商業区画。他所の州の商人はこの区画しか足を踏み入れない者も多い。まあ、グレイ州で売っている物はだいたい此所で買えるから。」

トシゾウやポルトス、マヤは「へー」と感心しながら見渡すと街並みが豪華。

一軒々々の建物が豪華で綺麗な造り。横幅を見ても建坪は広く石造りで三階、四階建てが殆ど。商会・商店の顔で建物の豪華さで宣伝の効果も有るのだろう。多少競っている感じもある。

商会の建物は12軒で州都レベルの街では少ない方だ。

殆どが食品・穀物を扱う貿易商の支店で、本店・本社は2軒だけ。その本店の2軒の方が見た目の豪華さは落ちる。財力の違いだろう。

商館街の途中人気のない小道に入ってから、トワイライトがトシゾウ、ポルトス、マヤ、亜里砂にコソコソとTemperに気付かれ無いように小声で話しかけて

「パーティを一旦解散しよう」と言ってパーティを解散する。

その上で「各自ステータス画面で称号を『かけだし冒険者』にしてくれ」

とトワイライトに言われるままにトシゾウ、ポルトス、マヤの3人は称号を『かけだし冒険者』に設定する。

そして「『注意一秒、怪我一生』だ念には念を入れて素性を隠さないとね。あとアイテムボックスは人前では可能な限り使わない様に。アイテムボックス使っているの見られるだけで『お尋ね者』に成ると思ってね。」

と注意深く勇者と英雄が持つスキル『アイテムボックス』の所持を隠蔽する。今はTemperが居るので『勇者』『英雄』と気付かれないように神経を尖らせている。

そして、豪華な商館街を通りトシゾウ達一行は『商人ギルド』に到着する。

まず、『商人ギルド』で商人登録をするのだが、最初に受付嬢から「『冒険者証』を持っているか」と聞かれる。

3人とも「有る」と答える。受付嬢から『冒険者証』の提出を求められて『冒険者証』を渡す。

受付嬢が『冒険者証』を魔道具にセットして諸情報を参照して『商人ギルド証』の各項目欄にデータが転送される。

そして、項目に誤りがないか読み上げて確認する。

「土方歳三さん、住所不定、無職(商人職)。戦闘職は大盾でレベル3、年齢34才、称号はかけだし冒険者。以上で間違いないでしょうか?」

「うん。間違いない」とトシゾウは頷く。

受付嬢はジッとトシゾウを見つめてから、ニコリと笑い『商人ギルド証』の処理ボタンを押す。美人の受付嬢にジッと見つめられてもトシゾウはビクともしない。

処理には少し時間が掛かり待っている間に

「とても34才には見えませんわ。絵画から出てきた17、8才の可愛い男の子のよう。」

と褒め言葉を言いながらウットリとトシゾウの容姿を愛でている。言葉の後半はうっかり思考が漏れてる様な感じの口調。

”そう言えば若返ったっけ・・”とトシゾウは思い出す。

土方歳三は元々地元や江戸で評判に成る程の男前。ラブレターを数多く貰った実績がある。

その男前が、『勇者召還』の効果で18歳前後に若返ったその姿は、例えるなら平成・令和の某男子アイドルのトップグループの花形スターと同等かそれ以上の輝きを放っている。

 受付嬢はジッとトシゾウを見れば見る程嬉しそうにウットリとする。胸の奥が少し苦しい。

もし今トシゾウが『夜を一緒に楽しもう』と誘えば喜んで応じていたはずだ。

”いえ、仕事をほっぽり出して今すぐにでもテイクアウトしたいぐらいよ!”と受付嬢の心の叫び。

処理が終わり魔道具が静かになる「はい、出来ました。」と『商人ギルド証』と『冒険者証』の二つをトシゾウに渡した。

 受付嬢は次にマヤの『冒険者証』を受け取りマヤの登録を始めた。

 トシゾウは受け取った『商人ギルド証』と『冒険者証』を右手の平の上で並べて見ているとトワイライトが横から

「それ、はめ込んだら一つに成るよ。」とささやく。

トシゾウは「おー。」と感心したが、少ししてトワイライトに右手を差し出す。

「やって。」

と言って義手の左手を出す。トワイライトは釣れて

「そうだな。」とトワイライトは「うっかり、忘れてた」と独り言を言いながら『商人ギルド証』と『冒険者証』を受け取りはめ込んで『カチ』と音がしてくっついた。

デザインがイマイチな一個のペンダントになった。

次にマヤが『商人ギルド証』を貰い『冒険者証』にはめ込んで一つにした。

その次はポルトスだが、また受付嬢は嬉しそうな顔をしている。ポルトスも整った顔のイケメンで18才位に見える。トシゾウとタイプが違うが、体育会系の爽やかで陽気なタイプのイケメンスターと言える程である。

この受付嬢は美人ではあるが男好きの様だ・・。ポルトスの横でTemperが警戒モードに入り目が横線になっている。

顔には”ポルトスに色目使うんじゃないよこの女”と書いてある。

ポルトスも『商人ギルド証』を受け取り『冒険者証』にはめ込んで首から下げ直した。

一通り登録が終わったので、転職はどうするか?って事に成ったが、初期登録時に転職書が一個貰えるので、受けたクエストに合う商人職で良いのではないかと言う事をTemperは奨めている。

『商人ギルド』で受けられるクエストは『冒険者ギルド』と違い交易なのでパーティが全滅して死滅の危険が無い為、レベルやランクの制限は少なく殆どのクエストは制限無しが多いのだ。

只、転職等の特定のクエストを受領する時にだけスキルによる制限や、冒険者レベル等の必要条件が科せられているモノも有る。

今、掲示板で多く残っているのがオガミ領の食料を大量に買い付けて目的地に配送する『お使いクエスト』の類だ。

配送地は『王都ラフレシア』、南部国境の城砦都市『ハンブ』、東部国境『マッカザル』の3種類。

どれも穀物の小麦か大麦を20袋、及び食品の肉類20樽の合計40個で、実際に積んでみると馬車1台に満載の量相当だ。

ポルトスはTemperに「テンさん、どれを受けた?」と聞く。

Temperは「一度王都に戻りたいから王都行きかな。」と普通に答える。

ポルトスはトワイライトに向き直り「俺達も王都行きでいいか?」と一緒に行きたい様だ。

「あ、ああ。王都には寄る用事があるな。テンさん王都まで一緒するか?」とトワイライトも普通に問う。

「じゃあ王都行き受けとくね。そっちは時間どれ位掛かりそう?」

とTemperは予定時間の調整を話し出す。

トワイライトも普通に仕事の話しをする感じで

「クエ受け、転職、スキル取りで・・・1時間位かな?」と終了時間の見積もりを言う。

「そっか、じゃあ私は荷台に残っている品を交易所で売ってくる。1時間後に交易所経由で倉庫街に行く」

と言ってTemperは『商人ギルド』を後にした。

Temperが離れてトワイライトは少しホッとした。理由はトワイライトとTemperは仲の良い古くからの友人で信用出来るのだが、トシゾウ達3人は当代の勇者一味でトワイライトにとって最高機密扱い。情報を漏洩させてはいけないので最新の注意をしている。

更にTemperが勇者の情報を掴み誤って情報を漏洩させてしまえば、Temper自身にも危険が及ぶからである。知ってろくな事は無いのである。

トワイライトの警戒は緩んだ。亜里砂も警戒を解いた。亜里砂は一言も喋らなかった。気配を消す様勤めて端っこに潜んでいた。

 商人職経験者のトワイライトを信頼しているので、トシゾウ達は商人職を決めるべく相談する。

今回は食品の配達が仕事なので食品を多く買えるようになるスキルの『食品取引』が取れる『食品商』を取るのが良いと言われて、3人とも『食品商』に転職した。

次にスキル取得だが、職業には『優遇スキル』があって、その職に就いている間は該当の優遇スキルは、商人ギルドで取得出来る。

まず『食品商』の優遇スキルは『食品取引』、『調味料取引』、『調理』、『価格交渉・見積り』があり、『調理』と『価格交渉・見積り』がスキルポイント2を消費する、『食品品取引』、『調味料取引』は各1ポイント消費して取得する。

今話しているスキルポイントは正式には『商人系スキルポイント』と言って商人系のスキル取得にしか使えない。

以前にセイロンの『冒険者ギルド』で使ったスキルポイントは『冒険・戦闘系』のスキルポイントであり、別系統で使えない。

 此所マスリの街の商人ギルドで有していて、商人に教授出来る固有スキルが幾つかある。

一つが『酒類取引』あと、『解体・保管』と『馬車運用』がある。

『酒類取引』は文字通り酒類の一度に購入出来る数量が増える。

『解体・保管』は冒険者スキルの『採取』で取れる素材以外の物を取得出来る。

モンスターや獣の死体から食肉・皮革・牙・爪等を解体・分別し収得する事が出来るようになる。まあサバイバルや狩猟には便利なスキルである。

取り敢えずトシゾウ、ポルトス、マヤにとって初期のスキルポイント保有値が常人に比べ遙かに多いので此所で取れるスキルは全て取った。

仲間の商人職の初期設定を見ていた亜里砂がいきなり「商人デビューする」と言い出した。

トワイライトは意表を突かれ「え?今更?」と耳を疑う。

「交易やっている間ずっと見ているだけなのは暇だから一緒に商人始める」と言って亜里砂も商人登録を始めた。

 話しは戻るが、職業で優遇に指定されているスキルは成長が早い。

例えば『食品商』には『食品取引』という優遇スキルがあって『食品取引』がレベル1からレベル2に上がるのに、『食品商』だと習熟値が50必用になる。

職業が『食品商』以外で『食品取引』が優遇から外れているとレベル2に上げるのに習熟値が100必用になって効率が悪い。

なので、上げたいスキルの優遇を持っている職を選んで修行するのが良い。

と言う事で今回はグレイ州の食品の生産地から穀物と肉を大量に買い込んで輸送する配達クエストを開始する。

 まず、王都ラフレシアに配送する配達クエストは受けた。目的地が王都以外の他の2件も受ける事にした。余分にアイテムボックスに交易品の食品類を詰め込めば余裕である。

余った食品は品薄の町の交易所で売り捌けば充分美味しい儲けになる。

帰り道で積んで帰る交易品の事を考えて落とす町を決めようとトワイライトは目論む。

一行はパーティ編成を実施し、更にクエストを受けてからトワイライトは『商人ギルド』で更衣室を借りて余りセンスの良くない服に着替えてきた。ズボンや手袋も着けているがコレもセンスイマイチ。

見るに見かねてトシゾウが「お前さんにしては、えらく良いセンスの身なりに着替えたな」と皮肉を言う。

トワイライトは頭を掻きながら苦笑いして「そう言わんでくれ。この服はドコゾの民族衣装なんだが食品取引+2の優れ物だ。セットで+4有る。調味料も+3になる。」

「ほう。それがどうしたのだ?」とポルトスは頭の上に『?』が出ている。

トワイライトはどう説明するか思案しながら

「取引スキルってのはパーティ内で共有可能なんだ。それで一人でも取引スキルが高い人がいればパーティ内で皆が使える。交易品や商品を数多く買う事が出来る。今俺のスキル『食品取引』のレベルは8+4、『調味料取引』は9+3。

こんな感じで一番スキルが高い人がスキルをブーストすれば、他のメンバーはより多く買う事が出来る。買った数量が多いとスキルの習熟も早く溜まりレベルが上がりやすい。つまり、トシさんやポルトスの取引のレベルが上がりやすくなるんだ。」

トシゾウは”なるほどそうゆう理由でダサイ格好しているんだな”と理解した。ポルトスもマヤも成る程と頷いた。

理解した上で「パーティ内で一人持っていたら良いんだったら、俺達スキル取る必要有るのか?」

とトシゾウが素朴な疑問を発する。

「単独行動する時もあるだろう、手分けして買い集める事もあるだろう。将来的に色々と融通が利くからな。だから、各自持っていた方が、そして上げれる時に上げといた方が何かと便利だ。」

とトワイライトは一応建前を言った上で表情を崩し本音を言う

「各自スキルを取って小まめに上げておかないと、いざって時に後悔する。将来色んな原因で金に困る事が必ず起きてくる。

その時、金に困ってから狼狽えるより、金に困ったら、いや困る迄に交易で効率的に稼ぐ様にしていればいい。

実際に商人で貿易とか出来る時に移動の序でにやっとかないと金が持たなくなるのが現実だ。第一の理由として良い防具や武器は金が掛かる。一流の武具なんて更にだ。この前買ったマヤの『エルブン・ボウ』なんて本来もっと高いんだ。」

トシゾウとポルトスは「おおー」と驚き顔でマヤを見る。

マヤは目をキラキラさせて『ビックリ』と『嬉しい』を混ぜた可愛い表情で驚いて見せる。

「将来的にはポルトスやトシさんも、それ以上の武器を持たないといけなくなる。その名剣を持って暴れ回るポルトスって誰も止められない。想像がつくよ。まるで・・・」

とトワイライトは言葉を飲み込んだ。

ポルトスは名剣・宝剣を振り回して暴れ回る自分のイメージがスッと湧き好みと一致し

「そうだな。そうだな!そうだな!!」とテンションが上がる。

それとは別にトワイライトが飲み込んだ言葉は

”まるで地獄絵だよ。阿鼻叫喚。この前のラスパ大隊の後詰めの大隊を壊滅に追いやったのは機嫌良く暴れ回ったお前だ。”と相手に多少同情したくなる感がある苦笑。

「そんな武具を揃えようとした日には、素材に莫大な費用が掛かり、一気に赤字転落の借金生活が待っている。金を常に稼いどかないと行った先々でその土地の美味い物が食えなくなる。それ良いのか?良くないだろぅ。」と脅して一旦間を置き

「それと、商人やってて取引にスキルポイント使わなかったらスキルポイントが余ってくるんだ。勿体ない。それに取引スキルって交易品を売買してたら勝手に成長しているできたスキルで手が掛からなくて優秀な子だ取っといて損はない。」

と言われて、トシゾウ、ポルトス、マヤ、亜里砂の4人はスキルを取得して『商人ギルド』を後にした。

次に向かったのは中古の馬車を扱う馬車屋。

今まではトワイライトの馬車に乗ってきたが、コレから交易品を一杯積むので各自中古のやや大きめの馬車を各自が購入して交易所に向かった。

交易所には街の他の地区とは違い人が多く賑わっていた。つまり街の住人は多くないが、交易をする商人や商売で街に訪れている人が多いということだ。

意外や意外で交易所の店員と話している商人の多くはトワイライトと同じダサイ身成の服装をしている者が多い。

トシゾウ、ポルトス、マヤ、亜里砂の4人は驚いた顔で目を疑った。

「あらま、トワイライトみたいなダサイファッションのお方が何人も居てますのね、ココは異世界かしら?」と亜里砂の顔が少し引き攣り気味。

さりげなくトシゾウがボソッと「ああ、ココは異世界だな。」とボケで拾ってあげる。(スキル『お笑い』+25Exp)

気にせず亜里砂は毒づく「ココはオタロード(オタクロード)じゃあ御座いませんのに・・」

 オタクロードそれは日本各地の大都市の片隅に存在して、独特の服装をした『オタク』と呼ばれる種族が集まる通りで、『普通の人』には人詠んで『私達の知らない世界』だそうだ。

(諸説有るが、一説ではアニメの主人公一条輝という青年がある女性に対して『あなたは、』を『おたくは、』と言う言い方をアニメマニアが真似して使い

「あなた」を「おたく」、「おたく」と言う呼び方が一時マニアの間で流行った。そうゆう呼び方をする人達を自然に『オタク』と呼ぶように成ったとか・・知らんけど。

諸説有ります。大阪のおばちゃんが裏話言った時は最後に『知らんけど・・』と付けて終わる)

交易商人に取っては「当然の事だ、見た目は一銭の得にも成らん。ダサかろうが取引量が増えて数が揃い儲けが上がる方がええだ。身成は仕事せん」と言うのが本音。

「身成を気にしてる奴は未だ初心者だよ。ここだと初心者は一目で分かる。」だそうだ。・・・そらそうだ。

そして、交易所の店員の所に行ってトワイライトが慣れた口調で売買の話しをする。

交易品を注文して注文書に品名と数量を店員が書き込む。その注文書を人数分の5枚受け取って、交易所の会系係の所に行く。

トワイライトは会計係に『値切り』を一発入れて3%引いて貰い各自、自分の分の代金を支払った。

支払いが終わった時点でダサイ民族衣装(取引スキルのブーストアイテム)の出番は終わったのでトワイライトは会計係の所の直ぐ横に何個も設置してあるある更衣室で着替えてくる。

ソコにあるって事は支払いが終わったら殆どの人はそのコースで動き着替えを行っているってことだ。

トワイライトが出てきた。いつも着ているレザー系防具の装備に戻っている。

丁度その頃会計係の方向からTemperもやって来た。例に違わずダサイ民族衣装一式を着ている。

それを見たポルトスは「ブルータスお前もか・・」と小声でぼやくが、明るい苦笑い顔で「お疲れさん」と声を掛ける。

Temperも合流して着替える。一行は次に伝票を持って馬車で倉庫街に行き、買った荷を馬車に積み込んで、街の東門で待ち合わせして出発しようと申し合わせた。

倉庫街で交易品を受け取り、馬車に積める分は積み、はみ出した分は各自のアイテムボックスへ収納した。

勿論人目をはばかってだが倉庫街には人気は少なく、倉庫の係員も数量のチェックが終わると次の受け渡しに行ったので一目を気にせずにアイテムボックスに収納した。

一人一人馬車一杯に荷は積んでいるが、実際にアイテムボックスに収納した分も含めると一人当たり馬車4台分を所持している事になる。がアイテムボックスの容量には未だ余裕がある。

それぞれ馬車を運転していて5台の馬車が連なる商隊と化している。そこにTemperの1台が加わり6台で州都『マスリ』の東門を出発した。

トワイライトはTemperに「うち等は『ミコライウ』他2つのエルフの里に寄って投資実績を反映させてから王都に向かうがどうする?」

「んんー。じゃあ私もエルフの里に寄って名産の『極旨焼き肉のタレ』と肉製品買い込んで行こうかな?」

6台に成った商隊は関所町『セイロン』に近いエルフの里の『ミコライウ』に先ず寄って領収書を提示し投資実績を反映させてその内容を『商人ギルド証』に記録をした。コレでこの里の名産品が買える様になった。

トワイライトとTemperは馬車の中で着替えてまたダサイ民族衣装一式を着用していた。

トシゾウ、ポルトス、マヤ、亜里砂の4人はトワイライトの売る交易品を真似してマスリの町で仕入れた交易品の一部の牛乳、チーズ、蜂蜜、塩と砂糖のそれぞれ3分の1を交易所へ売った。

交易所の親父は「おお、どれもこの里で不足気味の品ばかりだ。高く買い取らせてもらうぜ」

と里に必用な物ばかりなので、交易所の親父も機嫌良くなった。その状態で里の名産品『極旨焼き肉のタレ』や『ハーブ調味料』の各3種と肉製品のハムやベーコン、フランクフルト等の食品も購入した。

交易所の親父は機嫌が良かったので、少し値切りをすると「仕方ねーなー、兄ちゃん良い品持ってきてくれたし、少し勉強しておこう。」数量と仕入れ単価に少しおまけをしてくれた。

Temperが『ずるい』と言いたい顔で

「何を落としたら良いか知ってたのね、ずるい。教えてくれても良かったのにー」とふくれた。

「ふふん。企業秘密だ・・・だがテンさんも知っちまったな。」とトワイライトもニコニコしながら企業秘密を見られたと言っている。

「ええ。確り見ました。次から使わせて貰います。」とTemperもニコニコしながらメモ帳を出してメモを取っている。

トワイライトは交易品の相場を調べて情報を会員に流す事業に関わっているのでこの手の情報は豊富に持っている。

信用出来る友人(Temper)にチョコッと知られる位なら良いが、広まると困るので

「テンさん、テンさんが稼ぐ足し程度で止めて下さい、他に言いっこ無しですよ。」と口止めをする。

「解ってる。解ってる。他には言わない。私の口は硬いのよ」とその辺りのマナーは良く分かっている人である。

それをトワイライトも知っている。が『私の口は硬いのよ。』って言われるとつい

「でも、熱をくわえるとー・・。」とニヤニヤしながらつっこむトワイライト。

「パカーっと口を開いて・・てハマグリか私は(笑)」とボケるTemper。

見ているトシゾウも、ポルトスもマヤも二人の漫才ネタのような話しをクスクス笑って楽しんでいる。

そんな感じで後2カ所のエルフの里も回り『ディンバ』の里ではトワイライトが数日前に注文していた肉製品への加工した御馳走を受け取り仕舞い込んだ。セイロンの町に着いたのは昼の4時頃。

一行はセイロンの町の北門近くの交易所で残り買えるだけ穀物類を買って馬車に押し込む振りをしてアイテムボックスに収めて積み込みながら待機する。

Temperは流石に、”馬車一台に積みすぎだろ・・入る訳がない量だ”と思ったが、”スノーさん(トワイライト)たら冒険者もやっているから、ドコゾのダンジョンで異次元収納付きのバック(レアアイテム)でも見付けたんでしょうね・・。いいなぁ”

とTemperは勝手に適当に理解した。人をうらやんでも精神的に良くないと知っているのでそれ以上考えないようにしている。

トワイライトは積み込みの間に、急いでシェイクスオードに会いに行き「王都へいってくるわ」と告げて直ぐに戻ってきた。

シェイクスオードは「ああ?ちょ、ちょっと待って」と言おうとしたが、トワイライトはもう居なかった。

シェイクスオードは「やれやれ(笑)」と漏らし、執務室の自分の席に座ったままで苦笑いを浮かべていた。

同じ部屋にいる近衛中隊の事務方の面々は「またですのね」とクスクス笑いながら見送った。

夕方4時半にはセイロンを出発した。隊列はトワイライト、トシゾウ、マヤ、亜里砂、ポルトス、Temperと馬車は続く。そらちゃんはトシゾウの馬車に乗っている。

馬車の一団は北東の方向に伸びる道を辿っている。セイロン関門とは別の方向である。

そろそろ日は傾きだしている。


次回は交易。

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