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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

立方体で男を飼う

作者: 下原太陽

「物語」とは作家が作り出した世界である。人々は文字や絵を通して作家が作り出した世界を覗いて楽しんでいる。小説はその類である。小説家は無から場を作り、その上に人の形をしたものを生み出し、それらに人のような感情を与える。そしてそのものたちを言葉にして説明し、世界の外の人間を楽しませ、悲しませ、感動させる。小説家は男でも女でも作れる。性格も自由に変えることもできる上に、数文字付け加えるだけでスーパーパワーだって与えられる。

 現実世界でも未だに多くの人々は神という存在が世界を創造をしたと考え、拝める。つまり世界を創造する作家という存在は人々がいう神という存在と同等なのかもしれない。

 私が目の前に白い立方体があるといえば、それをあなた方がイメージできた時点で私は世界を作ったのと同じことになる。この世界の神である私はこの世界を自由自在に変えられる。

 立方体の外を無とし、空間をこの立方体の中だけにしよう。そこに30代くらいの見た目の男性を召喚する。彼は私たちの生きる世界を知らないからその真っ白な空間が当たり前だと思っている。なんの違和感も持っていない彼は自分の体を見て、無意味にその空間を歩き続ける。彼に私たちの常識を与えてみよう。彼は突然怯えた顔をして、自分を囲む謎の白い壁を叩いたり、蹴ったり、外に誰かいるのを期待して叫び始める。もし外に何かがいたとしてもなんの言語も習得していない彼の叫びはただの大きな声でしかない。彼にはどんな言語だって覚えさせられる。日本語を覚えさせてみよう。彼の叫び声は徐々に助けを求める言葉へと変わっていった。

「誰かぁ!助けれてくれ!ここから出してくれ!」

外は無の世界で、何もないということを知っている私たちにとって、彼の行動は面白いくらいに空い。

 彼はしばらくして、壁を叩くのをやめて、壁に寄り掛かった。多分壁の外に期待を持つことやめたんだろう。手はあざだらけで相当痛いはずなのに、諦めた理由がそれではなく、誰も反応していないということだというのが面白い。彼は座り込んで突然声を出して泣き始めた。こういう状況になると流石に武士みたいな泣き方はできないんだろうな。だってこの人はまじで恐怖にやられた感じで赤ん坊となんら変わりない泣き方をしている。顔はくっしゃくしゃで目は真っ赤、口の形は平仮名の「へ」みたい。

「俺がなんかしたか?おい、どうせ誰かいるんだろ?答えろよ!」

彼は自分と同じレベルの他の誰かがなんらかの理由を持って、彼を閉じ込めてると勘違いしている。

「なんでもする!お願いだ、出してくれ!」

もちろん外には誰もいない。もし外に世界があって、彼が本当に閉じ込められているだけなら、外から空気を送るための穴かなんかがあるだろう。そしてもし彼のような他の奴が彼を閉じ込めているなら監視をするためのカメラがあるだろうし、彼になんか話すためのスピーカーかなんかがあるだろう。彼をちょっと馬鹿めに作ってしまったのだろうか。それともパニック状態になるとそんなことを考える余裕もないのだろうか。まぁ少なくとも賢い奴とは思えない。いや、もしかしたらそう思われるために故意的にそういう行動を取ってるものすごい賢い奴なのかもしれない。まぁ彼が自分の存在を超越できない限り、私には関係ない。そして創造物である限り、創造主を超えることはできない。

 彼は静かになった。まるで死を覚悟したような顔だ。少し飽きてきた。やろうと思えば簡単に腕だって切り落とすことはできるが、痛みなんか与えてもどうせ同じような行動しか取らない。楽しむためのリソースが少なすぎる。女性を投入してみよう。あえてその女性の顔と性格を立方体の中の男のタイプと真逆にして、女のどストライクのタイプの性格と顔を立方体の中の男にしよう。そして男と同じように簡単な常識と日本語を覚えさせよう。

 女を立方体の中に召喚する。

「うわ、びっくりした。」

男はちょっと嫌がった顔で、女は少し喜んだ顔で、二人は同時に同じことを言った。もう結構面白い。

 二人は軽く会釈をして、女が男に歩み寄る。

「こんにちは。」

女は男に笑顔でそう言う。男も女に同じく

「こんにちは。」

と返すが、男は苦笑いだ。男の方には残念だが、女は男が苦笑いではなくて笑顔だと思っているので、うまくいってると思っている。可哀想に。この女は相当馬鹿に作ってあるので、この状況のおかしさに気づく前に男に気づいた。

「いい筋肉ですね。」

なんてことを女は男の体を軽く撫でながら微笑みながら言う。男はこの女の距離感と馬鹿さ加減で一気に嫌悪感がマックスである。男は急に立ち上がって、距離を置くことで嫌悪感を示そうとするが、この女はそんなことに気づくほどの女じゃない。むしろ照れてると勘違いしていてさらに男に対しての好感度を上げている。

 男の方は馬鹿ではないので、目の前に女が突然現れるというおかしな状況に戸惑っている。自分の周りを再確認するが、もちろん何も見つけることはできない。男は女から逃げ回って、一定の距離感を保とうとしている。どちらにも服を与えていないので、もしお互いがお互いのことを少しでも「あり」と思っていたら最高な状況だったかもしれないが、男は女のことを完全な「なし」だと思っているので、最高であったかもしれない状況が一気に最低になっている。

 面白くなるかもしれないので、男の性欲を限界まで上げて、場所を少し暗くする。男はこの不思議な現象に戸惑う事すら忘れるくらいに、この状況に怒りを覚えている。女はこの現象を機にすぐさま男を襲おうとする。この状況を想定して、場所を暗くしたけど、本当に女が飛びかかるとこを見るとエグいなと思う。馬鹿に作ったつもりだけど、少しクレイジーさが多すぎたかもしれない。さっきまでの男ならば、正当防衛とかなんとか自分に言い訳して抵抗していただろうけど、男が襲われていることを少し受け入れ始めた。ただやっぱり相手が本当に嫌いなのか目を閉じて、口で「ララララ」と口ずさみ、他のことを想像しながらマグロ状態でいる。正直、そりゃそうかと思った。人の単純さは滑稽である。

 ここまでは想定通りだったので、時間を少し進めてみる。そうすると男は女の首を締めていた。それは確実に興奮材料ではなかった。男は怒りに喜びを少し混ぜたような表情だった。おそらくそれは怒りの吐口であり、ストレスの写しだった。女は本気で抵抗していた。いくら馬鹿でも、流石にこれが本気の殺しであることを彼女は理解していた。生きの良かった女の動きは少しづつ消えていった。女は女ではなく、女の形をした死体と化した。

 こいつは想像以上に面白いかもしれない。作ったときは絶対にこんな奴ではなかった。この状況でしっかり成長してくれたのかもしれない。さっきまでは全てが想定どおりで全て一気に消してしまおうと思ったが、こいつには惹かれてしまう。

 死体が邪魔なので、空間から消そうと思ったが、男が死体をいじり始めた。男は女の首を本気で踏みつけ始めた。最初は怒りをぶつけているだけだと思ったが、こいつはそれでは止まらない狂気の持ち主だった。こいつは首の骨を折り、体を足で押さえ、首を全力で引っ張った。こいつはその後のことを考えて、女の首を引っこ抜き、体だけ残し、性欲処理の道具として使おうと思っている。えげつないくらいエグい奴が誕生したかもしれない。こいつらを動物園感覚で楽しんでた俺はなかなかの方だと思ってたが、俺でもこんなことはしないぞ。

 こいつは怒りに溺れれば溺れるほど楽しいやつになりそうなので、女の死体を丸ごと消した。

「誰ダァ!」

流石に人の能力の範疇を超えた自分に都合の悪い現象が連続したので、何かが自分を虐めてることに気づいた。

 もっと虐めたいので、立方体をガラスの壁で縦に二等分し、男がいない方に男のどタイプの女を召喚する。

「いらねぇんだよ!」

男が俺を楽しませないために、反応をしなくなった。女と逆の壁をむいて無表情でいる。私と対抗し始めた。女をあえて積極的にしてみて、声が届くようにもしたが、男が微塵も動かない。つまんないので女と壁を消した。

「やっとだな。おい、俺に何がしてぇんだよ!」

表面上は完全に狂気じみた怒りに取り憑かれたような形相だが、この男の心には少しの恐怖が宿っている。

 私はこんなやつと直接話す意味も特にないので、壁に「調子に乗るな」という字を浮かべた。男は特に表情をかえず、また大声で口から文句を吐き続けた。チワワのようだった。でも見くびられるのも腹が立つので、男の足を消した。男は片足から血を流して転び、泣き叫んだ。さっきまでいた威勢を張った男は突如いなくなった。その弱さが非常に可愛らしい。

「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。」

男は一番最初の弱い彼に戻った。

 彼は結局、私の文字から生まれた存在でしかない限り、創造物と創造主の壁は超えられなかった。この世界の神である私は、面白ければ与えるし、面白ければ奪う。未来を描きたければ描くし、興味がなかったら彼は固定された時空で一生を無限に過ごす。

 

 世界は神の自慰行為でしかない。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ただの立方体から始まり、そこから読者の想像力や好奇心を巧みに利用した流れるような展開が素晴らしかったです。 既にできあがった文章を読まされているはずなのに、まるで自分も作者と一緒にリアルタ…
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