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大砲の向く先に

天を裂くような。この比喩は、全ての次元(セカイ)に共通して実在した。


それは、魔法が確立もせず、他の知的存在によって極限にまで科学の発達も見られない、この次元の片隅の文明においても。


そして魔力を知覚できない存在とは、想像力も退化しているとも。幼女の身体に造り変えられた今に過去の自分にふり返るのは相当、マオにとっては面映ゆいが。


天上に影響を及ぼす自然の御業を、魔力を操る者にしてみれば、自ら現象として発生できるのだ。


たとえば、その究極たる超魔法―-『天開(てんかい)』は、たったの一撃で世界基盤の法則を()じ、破綻させる。自然現象でも修復不可能な一撃を、幾億と数えられたセカイでも、使用の資格保持者は、一桁を超えない――超えてはならないのだった。


だが、奇跡を起こすには、それに見合う代価が求められるのが必定だ。『天開(てんかい)』には使用者の命が腐敗するのを代償とする。


神も、魔王も、おいそれとは世界に干渉できない。真なる肉の身体を持つ中で唯一の使用者なのは勇者だったが、彼は人の子に産まれた。宿命の果てに救う多数の命と同様に、自分自身の命もまた弱いことを知っている。


マオは思い続けた――海界が白撃に真っ二つにされた底を呑んでいく。神の因子が生んだ怪物は光に砕かれ、禍々しい色の雨を散った肉片から降らせた。


五河(いつか)や勇者と全く同じニンゲンでも、救世主にはなれないだろう。


知る以上に知り尽くした者は、()に遜色せず、簡単に世界を滅ぼす。


「見事に、やったな」


惨状にマオは笑うしかなかったが、苦々しく表情を取り繕う目撃者とは真逆に、海を割った当人は、最後まで緊張感を欠いている。


「ごめんねぇ。ウチのせいで、魔王(マオ)さまにはとんだ夏の初体験になっちゃった!」


太陽の下だと、メテボンニクニの笑顔は本当に輝いて見えた。


砲撃の余波で海上の雲が散ったのも、実は計算づくだったのではないかとさえ思えてくる。


「これじゃあ入れないよ。ねえねえ、アガレスの力で、汚れた海って浄化できそーね?」


〈神域固定〉を用いれば、できなくはないはずだった。権能は、理論上ではアガレスの害敵となる現象の無力化。


「あら、お安い御用ですよ。汚物の後始末後に、貴方がその手ずから抉り出した心臓を、私に下されば」


もちろん、差し出した心臓もまた加熱消毒して、灰は海に撒く。汚物処理を強要する者もまた、汚物に変わりない。


「回りくどいのに、死ねってアタシにはちゃんと聞こえた……」


スモモも感心するサクラに同意した。


「命を対価にか。悪魔の(あくま)みたいな交換条件だね」


とはいえ、メテボンニクニだってまだ遊び足りない。そして生き足りないので胸の内はアガレスには上げられなかった。


「替わり、といったら失礼だけど。魔王さま、ちょいとそこの物陰へ」

「だからなんでそうも回りくどい!? あと貴様のは、意味ちがってるからな!」

「最後まで、このサマーアンバサダーに責任を果たさせてちょーだいな。ああゴーッち、しばらく預かっててよ」


砲門を剛の身に押しつけたメテボンニクニは、マオを自動販売機の裏に連れて、しばらく戻らなかった。


「…………」

「あ、あの……なんですか」


自販機の陰を、恨めしさ二、羨ましさ百ともはや支離滅裂に睨んだアガレスは、半眼のままで見返した。一人の少年を〝重い〟と呻らせた、今は冷たい。


魔神を消滅(ころ)した、熱砲を。


「……あの、ホントーに……今さらも今さらなんだが。今の余を、貴様は今どう思ってる……?」


ぬっと再登場したマオは、メテボンニクニに耳を塞ぐ姿を見せつけていた。


こんな恥辱を言い放てるのだ、少なくとも尊敬の念は薄い。


「念のため言っておこう、この二人に関しての差は、色と背くらいのことを」

「金は銀の上って意味合いだし……背は……ニカっ」

「歯を見せるな」

「それで、も。アガレスには魔王(マオ)さまが一番なんだよ。だから魔王さまがやらないと。魔王(マオ)さまだって遊び足りないくせに」

「そんなに名を呼ばなくても、一回で理解できる! ……アガレスよ、その……海を浄化にする、件について、だがな」


後ろにメテボンニクニ、サクラ、スモモを待機させた形にアガレスの前にマオは立った。


「もう一分は経ちましたか。マオ様の口を借りて、それで私が自ら提示した条件を忘れると? 侮られたものです」

「まあそう急かず。ていうか。あれ、いいのかなぁ……アガレスこそ、そんな口を利いちゃって。魔王(マオ)さまは……〝本気(マヂ)〟だよ」


腕を組み直しふったアガレスの(かぶり)を、砂浜に足跡を付けながら、マオはとてとてと追いかけた。


なびいた髪が肩に落ち着く前に、両腕を、胸の上に落ち着かせる。


メテボンニクニに耳打ちされた説得の秘訣。片方の腕は少し高く上げ、親指は唇に爪が触れるか触れないか、ギリギリの距離を保つこと。


太陽は立ち位置の斜め後ろ。陽の光が、瞳に隠れた潤みを艶やかに暴いてくれる。


――ああ。ギャル考案の脅し文句は全くもう、(はずか)し死しそうだ!


「余はね、もっとアガレスと、海であそびたいの……。アガレスじゃないと、余は……夏がつまんないよぉおお……」

「〈神域固定〉。海域の浄化完了しました」

「海浜の清掃作業、完了しました」

「我々が滞在中、汚染を食い止めるため海上周辺の工場地帯を魔力で感知、平行世界に転移させました」

「このテロリストが!!!!」


海水欲数時間に経済を危機に陥れたアガレスに対してマオは、即座に解呪を命じたのだった。


後日、数秒だけだが主要、閑散地域問わずの電力網が一斉しダウン、原因が、発電施設が地図の上から消えたと朝のニュースを騒がせるのを、この時のマオは薄々勘づいていた。


「サー! 我々は、マオ様のためなら自分の命も屑と投げ出せる忠実な僕であります。サーッ!」

「それでいいのか!? さっき片づけたゴミの仲間ですって宣言してるけど、本当にそれでいいのか!?」


ちなみに、敬礼を解かなかったのはスモモで、アガレスに同伴して怪物の荒らした砂浜を綺麗にした。


「砂浜を綺麗にするなんて、スモモはやっぱり、いい()だねぇ」

「はへ!? ――へっへへ……ありがとう……サクラちゃん」


頭を撫でられ、彫刻の如き完璧だったスモモの敬礼がふにゃりと蕩けた。これで素に戻るんだったら、サクラには常時頭を撫でてもらいたい。


「あくッ、明久瑠(あくる)さん、とか、メテボンニクニさんに、くらべたら……こ、こん……こんなこと、しか……やれないから。はず、はずか……しい」


くしゃくしゃの紙みたく縮こまったスモモは言うが、マオはそんなことないと返事した。


「でもでも、わたしって、魔法……つかえない」

「だから役立たずと? 余に言わせれば、魔法が使えない者こそ、側にいてこんなに心安らぐ瞬間はないものだぞ」

「う……うう」


素のモードのスモモは、励まされ、笑いを返すのにも勇気がいる。それでアガレスの『共感(パス)』が力を貸して、浜を掃除したとしても、自主的に動こうと意志を示したのはスモモ本来の性格である。


そこに能力の差異など、些細にも足りえない問題だった。


「遊んでこい。其処許はそれでいいのだ、年相応の子どもらしく、存分にな」

「――行こう。その、マオに悩殺され噴き出した鼻血も洗い落さなくちゃね」


浄化の完了した海に、手を繋いだ二人の少女は駆け出した。


「さて。それで――答えを聞かせて貰おうではないか?」


サクラに引かれ走り抜けたスモモの足下。やれやれと、出血に紅く染まる砂を集めたマオは踵を返した。


「答え、か。この身体になってから、むずかしい議論は頭が痛くなっちゃう」


舌を出してとぼけたメテボンニクニに、どの道とアガレスが釘を刺すように言った。


「政府機関は近く貴方がたを尋ねるでしょう。脳味噌を奪われないよう、今から頭を鍛えておくことですね」

「脳味噌!? 脳味噌ってなんだよ……!」


悲鳴を上げるということは、状況が伝わってない剛も、事の重大さくらいは感じ取れている。


魔力もなしに、特殊な技術も用いず、メテボンニクニは(ゴミ)の銃で神を殺した。ギャルの金髪に包まれた頭蓋に納まる脳は、この世界の人類史の常識を覆し、各国の勢力図を根底から崩す宝であることが大々的な閃光の先に、示された。


当然、剛も無事では済まない。あの禿頭は温厚な性格だが、必要とあれば、少年も平和の礎に歴史の闇に埋める非情さを持つ。魔王も敵に回したくない曲者だった。


「どうする……いや、メテボンニクニ。貴様は、この少年のために……一体、どこまでやれる?」

「――魔王を殺す。というわけで、ウチ、メテボンニクニは覚悟を決めて、魔王(マオ)さまの敵になります!」


メテボンニクニは、神に向けて撃った砲門を、次は魔王の成れの果てである幼女に向けた。


「ゴーッちに危害を加えようとしたり、ゴーッちの家族を危険に晒したら、容赦しないからね」

「――。――は、はっはっはっはっは! そうかそうか、そこまでやる覚悟か。アガレス」

「は」

「今日この時を以て、大賢者メテボンニクニを〈十八冥光〉から破門とせよ。是より我らは、一切の政治的関係を禁忌とすべし。よいな」


マオの勅令をアガレスは記憶に焼き刻んだ。


「ということで、貴様はもう魔王の僕ではない。自由の身だ」

「いや、いやいやいやいや! 展開早すぎるし、あっさりすぎるって……! ウチ、今日から無職の、ただのギャルになんの!?」

「無職……ぼんちゃん、高校通ってんじゃん」

「サイレンスプリー! ゴーッち! ――でもまあ、そうなるよねー! 脱会の制裁とかなくて、ホッとしたけど。〈死定洞子〉……カッコよくて気に入ってたのに」

「気に入ってたのか。よいよい、くれてやる。其処許らを襲うような不届き者への脅しにでも使え」

「ホント!? やったー! これは祝杯だね。ゴーッち、サイダーで乾杯しようぜー!!」


剛はメテボンニクニに連行される形で、海の家で散財しに走っていった。


「よかったですね、マオ様の憂いが、一つ消えて」

「おや。なんの話か判らんな」

「メテボンニクニの真似なんか、止めてください――シエルのこと、これから、ずっと気に掛けてゆくつもりなのでしょう」


悪魔は全てを見透かしている。


「あ奴は、ちゃんと作れていたのだな。自分の、自分だけの居場所を」


自ら身体をこの世界に適した状態に作り変え、自分の生きる世界だと胸を張って走れるメテボンニクニに、マオは心からの賛辞を贈った。


いつだったか、似たような空を眺めた。裏切られたかつての仲間を、今度は自分が裏切った。古い居場所を捨て、新しく移った居場所から追われたシエルと永遠に別れた日に見上げたのと、この空も同じ。


それが、まさか、こんなにも。


「今度は、三人で来よう。余と、アガレス。あと……」

「それがよろしいかと存じます。こんなにも気持ちがいい空の下だと、子作りにも最適です」


これが夏かと判りかけ、そうメテボンニクニやサクラ、スモモがここにいるのに感謝しかけたマオの気持ちは。


悪魔の一言で、台無しにされた。


「ああ。五河様に宿る、マオ様のあの逞しさ、雄々しさが懐かしい」

「そんなに余の『ティンPO』と清々しいこの空を絡めたいか!?」

「おやマオ様、ついに『ティンPO』って言いましたね♪」

『ギャル編』これにて最終回です!

ホントに、最後までこんな形でシメちゃってすんません(*- -)(*_ _)

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