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控えめに言って……燃やしたい

※可燃性のスプレーは火に近づけると事故を引き起こす恐れがあります。この物語はフィクションです。決してマネをしないでください。

第一回『マオ様のドキドキはじめて(はーと)』は、マオの乱入により失敗に終わった。


「マオ様には昨夜、十分なおくすりを飲んで、お休みいただいたはずですが」


頬に手をやりため息を洩らすアガレス。


「やっぱり……()()()おったか」


どうりで。昨日のスープが苦かったのはアガレスの料理の腕前のせいだけではなかったと。

マオの純血(五河に付いているのはアレなので純血とは意味合いがちがうが)を奪うため薬まで用意するとは。


まあ、これも、従者にとっては想定の範囲内。


「新妻編のお次は、ツンデレ義妹と参りましょうか」


ランドセルを背負うアガレスは、今は普段とは年齢を下げ、転校の挨拶でクラスに披露した少女の姿を取っていた。


マオの従姉という設定で朝日家に転がり込んだアガレス。

出掛ける前、正体を見られた五河の記憶はすでに改ざん済みだった。

朝の出来事は、五河の中で、()()()()()()()

〈司欲淫王〉にかかればニンゲンの記憶の上書きなど、紙に書いた文字を消しゴムで消すより容易い。


焦らずとも、マオのはじめては……ゆっくり奪えばよかった。


「くっ、くく……えへ、えへへへへへ…………」


煮え滾った鍋のように肩を揺らすアガレスと並行しながら、マオは背中に悪寒を覚えながら、計画の阻止続行を誓った。


「ぐっもーにん朝日さん!」


そんなマオを、後ろから奇襲し抱きしめる一人の温もり。


「サクラちゃん……! また、そんな……往来のまんなかでっ……!」


恥ずかしそうに手で顔を覆いながら、スモモがスキンシップする二人の元に駆け寄った。


「よいよい。サクラは、相変わらず元気よなぁ」

「元気爽快背中カイカイは、わたしの十八番さ!」


すりすりと額をマオの背中に推しつけ、サクラはニカっと笑ってみせた。


「あれ。……朝日さん、今日、おべんとう、は……」


コンビニ袋を提げ歩くマオを見、勘のいいスモモがはてと首を傾げる。


ここに来るまでに、途中のコンビニでマオは手持ちの小遣いでパンを買った。買い食いはNGだったが、事情を話せば、五河のわかってくれるだろう。記憶を操作された五河に、再度説明するのは心苦しい。


担任という立場上、注意されるのは避けられないが、アガレスの愛()たっぷり弁当を食べるよりはまだ優しかった。


ちら、と、その事態を招いた大元へマオは視線をやった。


「あら、そちらの方々は?」


主人と同様にコンビニ袋を持ったアガレスは、マオにサクラとスモモについて訊ねていた。


猫を被っているのか、その顔は朗らかにニコニコ笑っている。

が……妙に、つくりものっぽいというか、仮面を張りつけたような笑顔の裏で、ずももと効果音がつきそうな異様な殺気を、マオにくっつくサクラに向けていた。


「わたしサクラ、こっちはスモモ! てか、同じクラスじゃん!?」

「お、おは……よう。明久瑠(あくる)……さん……」


元気溌溂なサクラに釣られ、ぱあと花咲くようにアガレスが笑う。


「まあ、なんて元気なんでしょう? お近づきの印に、(わたくし)からも」

「えっなになに?」


期待に胸を膨らませるサクラ。

ごそごそと袋からアガレスが取り出したのは、立ち寄ったコンビニで買った、殺虫スプレーだった。


「なぜそんなものを持っている!?」


呆気に取られるサクラとスモモの先にツッコんだのはマオだった。


「マオ様の崇高なお姿に惹かれ、虫がたかってこないようにと。案の定、一匹はぶんぶんと五月蠅(うるさ)いキンバエに、もう一匹は、うじうじ湿ったナメクジでしたか」

「こやつらはニンゲンだ! よく見ろ!」


必死に訴えるマオだが、主にべたべたと縋りつく不埒な不届き者を駆除せんと、嫉妬に駆られた明久瑠アスナは同級生にじりじりと寄る。


「……そうでしたわ! 私、もっといいものを買っておいたのですよ?」


思いついて手を叩いたアガレスは、もう一方の手に百円ライターを構え、かちりと火を灯してみせた。


「やめろ! それほんとにまずいから!!」

「消毒もできて、一石二鳥です!」


このままでは、この悪魔のせいで小学生のイメージダウンになりかねない。というかサクラの命が危うかった。


「すまないふたりとも、こやつ、早起きは身体に毒だったらしい! とりあえずサクラは、余から離れろ!」


落ちた頭のネジを巻こうとマオは引き寄せたアガレスの側頭部を殴打した。


「あっ、いけませんそんなっ……ああ!」

嬉しそうに身をよじり甘い吐息をアガレスは吐く。

この場合、こいつこそが『猛毒』だった。


「そうする。……なんか、このままだと、わたし、アスナちゃんにひどい目に遭わされそうだから……」

「ごめん、なさい……明久瑠さん」


そそくさとマオから離脱したサクラと怯えるスモモを見たアガレスが、ふんと鼻を鳴らし

て手にした殺虫剤とライターを仕舞った。

いつでも取り出せるように、警戒は怠らない。


これは、人付き合いを本格的に見直した方がよさそうだと、マオは、頭を抱え唸るのだった。

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