淫王-翼=
※下ネタはいってます。
「…………」
「……。……」
「………………」
昼下がりの午後。
早乙女家宅の居間にて、そこには、三人の人影があった。
トライアングルを描くように正座で向かい合う三名のうち、一人は銀髪に碧眼の幼女。人形のように小さく愛くるしい彼女を見つめる、金の髪に紅の瞳を湛えたこれまたニンゲン離れした美しさをした少女。
『異世界殺し』と畏れられた魔王の成れの果てと、彼の大王の臣下の中で最も強力な力を持つ大悪魔。
そんな二人を比較するかのように見ているのは、作業服に無精髭を蓄えた大柄な男性だった。
魔王から連絡をもらった男は、その慌てぶりに、清掃業務を中断し、学校を抜け出して早乙女五河の実家に走った。校舎修繕の件で五河からは山のように仕事を与えられてはいたけれど、そこは上手く説得しておくからと、マオの要求にとりあえず従った。
「なるほど、概ねの状況は解った。……で、俺にどうしろと」
姿勢を崩し、あぐらをかいて一つに結った白髪混じりの髪をぼりぼりと掻きながら、男は部屋を見渡した。
「ここは、いつ来ても年老いた臭いがするな」
雇い主である五河の部屋に、男は何度かお邪魔したことがあった。
教育施設を経営するぼんぼんの一人息子でさぞ豪勢な邸宅にお住まいかと思いきや、肝心の棲み処は、築六十年が経過した郊外にある二階建ての一軒家だった。
「祖父母からいただいた、大切な家らしい」
男の発言にむっとなり答えたのはマオだ。
それから、サイドボードに置かれた写真立てに目を配る。老夫婦と若い男女、幼い男の子が家の庭で撮った集合写真。
早乙女五河の両親は、五河が五歳の頃、車の運転中に突然行方不明になった。
崖下から発見された車内にいた五河は、車が大破していたにも関わらず無傷だった。事故、事件の両面で警察はその奇怪な状況から大規模な捜査を行ったが、両親は見つからず、唯一の証人である五河も意識を失っていたせいか当時の記憶を失っていた。
両親は今も、見つかっていない。事件から七年以上が経過し、失踪者の死亡が認められた。
一人残された五河は、父方の祖父母夫婦に引き取られ、産まれてから両親と五人で暮らしていた実家に今も住んでいる。そんな祖父母夫婦も、魔界のゲートが開く少し前に、他界した。
マオが五河から聞いた経緯はこうだった。
「話を戻すが……アガレス」
と、マオが少女に向き直るが。
少女は、少女の姿ではなくなっていた。髪や瞳は同じだが、背は高くなり、あどけなかった顔立ちは艶やかさが垣間見え、未成熟だった胸元は大きく張っていた。
少女は、本来の姿を取り戻した。
魔王軍幹部〈十八冥光〉が一角。〈司欲淫王〉のアガレス。
「はい、マオ様」
主に声をかけられたことに幸福を感じたアガレスが、くすりと笑みを浮かべながらマオに応えた。
「どうして、逃げ出してきた?」
「……小生も、これでも努力したんです。ですが、せっかく再会できたのに、またマオ様に会えないと思うと、胸のあたりが……苦しくなり。気がつくと、なにもかも吹き飛ばしていました……」
小さい声音で、もじもじ、もぞもぞとするアガレスは、まるで恋する乙女のようだった。言っていることはこの上なく物騒だが。
「余と約束したではないか!? しばらくは政府の許で大人しくすると!」
「だって、だってだって! マオ様、約束したのにぜんぜん迎えに来てくれないんだもん。
アガレスわるくないもん!!」
ぎゅむ! と、再び少女の姿に縮んでぶんぶんと拳を振るアガレス。
「あっきたね! 貴様わざとやってるだろ!?」
「え~んマオさまがいじめる~!!」
え~んえ~んと、ウソ泣きするアガレスがぺろっと舌を出した。
「ぜんぜんと言ったってまだ三日も経ってないだろ? 淫王とか呼ばれておいて、大悪魔もお子様だな」
「は? 無職なうえにニンゲンに飼われてこき使われている枯れた元・勇者がなにを。死にたいんですか自殺願望ですかわかりましたそこまでお望みなら今ここで神話にして差し上げます」
頬杖をつく男に大魔法をお見舞いしようと屋根の上に魔法陣を顕現するアガレス。
「やめろ近所迷惑だ。貴様も、あまり挑発するな。マジで。喧嘩一つで世界が消し飛ぶ」
マオに宥められた男も、手元に大剣を召喚し空間が歪むほどの強烈なアガレスの殺気を相殺していた。
「やはり、好きにはなれませんね。勇者というのは」
世界を殺す魔王に対抗すべく、世界が生み出した絶対の力。人でありながら、人ならざる奇跡と運命を背負わされた『呪いに祝福された児』。
「いつの日か、あなたとは決着をつける刻が来ます」
「お生憎様。俺は……そこの幼女の『ティンPO』を手に入れるまでは死ねなくてね」
「マオ様の失われた『ティンPO』は小生の物です」
「残念、こいつの『ティンPO』を|掴むのは俺が先だ」
「いいえ小生が先に掴みます」
「いやいや俺が」
「いえいえいえ小生が」
「なんの話をしてるか貴様ら!?」
なにかを握るような動作をする二人に、この世で最も下品なやり取りが繰り広げられている気がし、マオは涙目で叫んだ。




