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すーすー(まるでリップを塗ったような体験でした……)

最後だけ下ネタはいります。

五河(いつか)……!!」


室長とした男、それは、紛れもない――マオの担任の早乙女五河教諭その人であった。


「…………やあ、ひさしぶり――朝日さんも……元気そう、で、よかった……」


苦笑を浮かべ、五河は、マオに頭を下げた。ひさしぶりに見た五河の顔は、尋問と検査で疲れ切っていた。


「こちらの指揮官と協議して――早乙女さんの解放が決まりました。検査の方でも、特に目立った問題は見つかりませんでしたし」

「……まさか()()を、調べたのか……?」

「ええ、最初こそ、摘出手術も視野に入れました。ですが、医師によると、ほかに前例がなく、魔力も、検査中は安定しませんでした。襲撃事件以降のお二人のデータから、朝日さんのお傍にいた方が――早乙女さんの中の、魔王の力も安定することが判明して、釈放の許可が下りたんです」


「で。……見たのか?」


「はい、世の中には恐ろしいことをする輩がいるものです。ですが、彼らをのさばらせたのは我々です。全国の公務員を代表して深く、お詫び申し上げます」

「はっ、いえそんな!」

「貴様の平謝りなどいらん! 五河もそこで律儀に応じるな! ――にしても」


眼鏡の奥を、紅潮し腕を組んだマオが頬を膨らませながら睨んだ。


「……本当に、ここに監禁されていたのだな」

「ここは異世界研究の極秘施設なので」


肩をすくめ苦笑する役人は、憤ったマオに――気づいていた。


「なんの関係もない民を、雲隠れに利用して。良心は痛まないのか…………?」


理解したうえで、彼は、彼女に今一度問う。


「世界を滅ぼしてきたあなたが――それを、今、我々に()きますか」

「……!」

「ニンゲンは……弱く、ずるく――とても、尊い種族です。あなた方に勝つために、多少の『対価』を出し惜しみしている場合ではありません。そして、今――我々は、こうして生き残っている。これは履がえようのない――『事実』だ」


アガレスが心から憎悪し――理解できないと断じたニンゲン、その反骨精神。騙して、欺き、脅威の中――生存し続けようとする、種の存続の貪欲さに魔王は、心底から恐怖を覚え震えた。


手下を、戦争で使い捨てにしていたかつての自分よりよほど、冷徹で業が根深い。


「〝愚痴〟を言ってる場合か! 今は、あいつをなんとかするのが先だろ!?」


気がつけば――勇者は暴走するアガレスに防戦一方となっていた。攻撃が全く通用せず守りに転じるしかなく、勇者は彼女の主であるマオに、なにか止める手立てがないか意見を仰いだ。


「『抗魔弾』も、なぜか通じませんし、この異常な魔力の瘴気……」


魔力計測機器に目を落とした室長は(うな)るよう言った。


防衛省管轄の隠密部隊『カオナシ』との合同作戦では当初、早乙女五河を囮に、アガレス、勇者を拘束する予定だった。自由にしておくには、彼らの力は、強大すぎた。この機を逃すと――いつ脅威となるか。


「そこのお前! この俺を騙したことについてはこの際水に流してやる! どうやったらこいつは止まるんだ――魔王!?」


振り下ろされた尻尾を大剣で勇者は受け止め叫んだ。足が地にめり込み花弁が開くように亀裂が(はし)った。


「〈神域固定〉を発動させたアガレスには、攻撃は一切通用しない。奴が魔法を……解除するまで」


魔王の才覚を持つ〈十八冥光〉にはみなそれぞれ――得意とする『権能』を持っていた。


〈神域固定〉――それが〈司欲淫王〉の権能。


彼女の主軸に展開した魔法陣を範囲にした周囲一帯の物理、および、魔法攻撃を、味方に対して、全て、無効化する。たとえ、世界を創り換えるような大魔法でも――例外なく。


魔王に見初められ才能を開花させたアガレスはこの力で〈十八冥光〉に最後に加わり、だれよりも早く、魔王軍、その参謀の席を手に入れた。


結果、アガレスの権能で魔王軍は無敵と称していい軍事力を確立させた。そして魔王による世界侵略は――今までの、十年もくり上がった。

「チートじゃないですか」

「此度の大戦においては、使う機会こそないまま我々は敗戦したが」

「そんな大魔法、それこそ……世界を壊せるような『一撃』で向かわないとッ――」


言って勇者は――思い浮かんだ考えに自ら、背筋を凍らせた。


「――――『天開(てんかい)』――――」


『天開』――それは神をも殺す一撃。自らの生命魔力を糧に発動する、大魔法を上回る超魔法。


使える種族はごく一握り――それこそ魔王あるいは同等の魔力を有する『神』くらい。


だが、星の加護を受けている勇者は『神撃』を()()()()()()()()()()()で使い、紙一重の攻防で勝利していた。『天開』なら――魔力の差で〈神域固定〉を相殺できるかもしれない。


だが、彼は使用を躊躇った。勇者は一度『天開』を発動させている。強大ゆえに発動者の命を蝕む『天開』は、無尽蔵に魔力を生む魔王でも連発はできない。二度目の使用は彼にとって――避けられない死を意味していた。


ここでアガレスと心中したところで――マオたちを救うか。

あるいは『天開』を使わずに――多くの命が無に還るのを、黙って見ているか。


「…………」

「……一つだけ、方法がある」


マオの言葉に、選択を迫られた勇者は顔を上げ、だれもが彼女の言葉の続きを待った。


「貴様らは、引き続き彼女の足止めを頼んだ。要は――お前だ、五河」

「ぼっ僕?」


まさか――自分が指名されるとは、と五河は疲れに緩んだ己の顔を指差し()き返した。


「アガレス、奴は、今も昔も――貴様らニンゲンが、大嫌いだ。……だが、どうか、余と約束してほしい。アガレスを救ったのは余ではなく――お前だと……お前自らの口から奴に話す…………と」


魔王にあるまじき顔で――マオは、期待と不安に瞳と潤ませ五河に手を伸ばした。


「これは……」


周囲が動揺する中で、マオと五河の身体を翠の閃光が包み込む。


「……くッ、そ……!?」


毛細血管が切れ循環していた血液が(うち)に漏れる。神経の一本一本が焼き切れてもかつての主人に呼応して流れ込む高密度の魔力への拒否反応は収まるどころかさらに強くなる。元は自分のものだったはずが。


五河と感覚を共有しただけで、こうも反動が(あわら)れるとは。


「ア……ガレッ……ス……!」


我を失い暴れる従者にマオは手を伸ばした。魔力の流れを感知しアガレスがこちらを向いた。


すきを見せたアガレスに勇者の一閃が入る。


大きな口を開け咆哮するアガレス。それは――慟哭(どうこく)のように、主人に助けを求めるようだった。


痛いはずだ。苦しいはずだ。それでもなお怒りのままアガレスの体内で魔力が増大していく。


「いま……助けてやるからな……!」


痛覚を支配しろ。魔力の流れを(とら)え。かつての感覚を思い出すのだ。


意識が遠のく。()()()()()()調()()


現実から虚構へと意識が転換する中で、


「くッ、ぅう……!」


股間に(はし)るこれまで感じたことのない――痛みとも(かゆ)みともつかない刺激に声を上げながら()()()五河だった。




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