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絶対悪の胎

「魔力反応、なお上昇中。拡大止まりません!」

「くそッ!」


遊園地――偽装施設の地下に設けられた作戦指揮所内は混乱を極めていた。魔力計測を表すデジタル数字はどれも『測定不能』を示しショートし、計器類がオペレーターの席の至る場所で火花が散った。


「発生源は――やはり……」


指揮官は――衛星映像に映し出された遊園地の上空を見ながら唸った。

数分前、観覧車に配備した狙撃班から〈司欲淫王〉の結界を無力化したと一報が入ったその矢先、膨大な魔力数値を、計測器が一斉に叩き出し始めた。


衛星カメラが捉えた映像には――片翼を展開し上空に浮かぶ〈司欲淫王〉の姿。だが、身体中の至る場所から、凝固した魔力が――泥のように噴き出しており、その目は虚ろに沈んでいた。意識があるのかどうか、映像では曖昧だった。


「狙撃部隊はなにをやっている!?」

「魔力数値、臨界突破。『抗魔弾』では抑えきれません!」

「なにが『魔術戦闘の新兵装』だ! 防衛省のハイエナ共め……!」


元々異世界関連の事案は、外交に手慣れた外務省と、異世界人の衛生面をケアする厚生省、異世界人が犯した犯罪の取り締まりについては警察庁の管轄だった。

だが各省庁の足の引っ張り合い――特に魔法関連の兵器開発に関心を持っていた防衛省は様々な策でこちらの縄張りに介入してきた。


今回の装備譲渡に関してもその一つだった。作戦に武器と戦闘人員を提供してくれる手前、横槍を入れてくることに強く言い返せなかった。動くかどうかもあやふやな兵器を手に、実験に駆り出される実働部隊も気の毒に思うが。


その、結果が――これだった。


「そん、な…………魔力上昇収束しませんッ!」

「バカな! もう臨界点を超えているんだぞ!?」


アガレスが吐き出した〝(おり)〟は、落下せず周囲に蓄積し――繭に包まれるように彼女の身を満たしていく。その周囲には、いくつもの――交差した虹がかかっていた。


悲鳴交じりに女性オペレーターは叫んだ。


「屈折現象確認――これは……空間歪曲!」

「光を歪めるほどの魔力質量を……あれが(はら)んでいる……だと…………!?」


自分たちの上空に浮かぶ――宇宙と同質量の物体を見つめながら作戦指揮所の一同は、死神の足音を聞いたような悪寒に襲われた。


***


「しっかりしろ! ――オイ、マオ……!」


勇者に支えられ、マオはすくりと起き上がった。魔王が、勇者の手を借りるなど、と、頭に響く鈍い痛みに後頭部を押さえながら、自虐めくようにマオは思った。


「…………あれ? ――余、生きてる…………?」


倒れた拍子に頭を打ったらしい。だがそれ以外――特に目立った外傷はなかった。自分は、確かに撃たれたはずで。弾が、当たった感触もあった。現に気を失い――アガレスの結界も、消滅した。確かにあれは――魔法による攻撃だった。だがありとあらゆる魔導に精通するマオでもあんな魔術、どの世界でも見たことがない。


「『〝抗魔〟弾』だ」

「コウマ、ダン……?」

勇者が聞き慣れない単語を口にしマオは、それを反芻する。


勇者が説明する。


「対象の魔力を中和する魔弾、一時的だが、撃たれると魔力が流れる神経が麻痺し、魔法が使えなくなる。魔力で編まれた武器や結界なんかだと――術者とのパスそのものが切れ破壊される」


なるほど、と、勇者の説明にマオは納得し頷く。


あれだけの銃撃があったのにも関わらず、遊園地内および周辺に損壊はどこにも見当たらなかった。だが当たれば魔力を宿してない者にも多少、衝撃やケガを負う――被弾したマオも転倒し気絶した――らしい。避難する一般人を勇者が庇った理由もこれで得心いく。


勇者も魔法を使うが――術式自体は、彼の体内の精霊によるもの。浮遊する精霊を操作し精霊が発生させた火や水という物質を自在に操る。

だが『精霊遣い』である勇者自体は、アガレスや――かつてマオの体内にも存在した魔力神経が具わっていなければ魔法を使うこともできない……ただのニンゲン。彼に従う精霊も、魔力で操られているのではない。魔を討てと――精霊が彼に力を与え、彼はそれに『応え』ているに過ぎなかった。


精霊は魔法で物資を生むが、物質は物理法則に従う。ゆえに――魔力で編んだアガレスの結界とはちがい魔弾の影響を受けなかったのだろう。

精霊そのものも、言ってしまえば魔力でできた『生命』だが、属性は『正』――対して、アガレスおよび〈十八冥光〉たちそして、魔王の魔力属性は『負』だった。属性によって魔弾が抑制する魔力の種類を調整できるのか――先の彼の説明だけでは情報不足だった。


いや。今、そんなことは、マオにとって――どうでもよかった。


「どうして――貴様は魔弾について知っている……?」

「………………そう――段取りで決まっていたからさ」

「〝段取り〟?」


観念した勇者が、マオに真実を打ち明けようとした――その時だった。


「逃げろォおおおおおおおおお!」

だれかが天を指差しながらそう叫んだ。

そこに浮いていたのは――『巨大』と、そう形容するしかない影だった。


アガレスを包んでいた泥の繭は形を変え、厚く黒い鱗に覆われ縦に伸び裂けた巨大な顎に三白眼の――操り糸に吊られたように項垂れながら上空に漂うその巨影は……(わに)のような『(カタチ)』を思わせた。


マオがぽつりと、力なく呟いた。


「…………アガレ、ス…………!?」

「アガレスって――あれが……!?」


「――――――――――――ッ!!!!」


 覚醒した『アガレス』は、全長の倍はあろうかという三対の片翼を拡げ、憎悪に満ちた声で咆哮し――地上に降り立った。粉塵が撒き上がり、忌々しいニンゲンの悪臭が残った園内を、足音を響かせ彼女は蹂躙を始めた。


「下がってろ!」


マオを強引に突き飛ばした勇者が前に出る。アガレスの足は、避難で殺到する客の群れを追随していた。跳躍した勇者の周りには、炎で編まれた各種様々な類の武器が浮かんであった。


その一つ――身の丈を優に超える片刃の戦斧を手に取り彼は、吼え猛るアガレスの頭部に振り下ろした。殺す勢いでかからなければ、全員死ぬ――!


「…………な!?」


手応えはあった。斧は、彼女の頭蓋を確実に砕いた。


だが、肥大化したアガレスは――今だに健在だった。空気を蹴り後退した勇者は返す刀で次の武器を選択、今度は鎖の先に燃える鉄球のついた――いわゆるモーニングスターだ。


だがこれも、アガレスに到達する前に、勇者の手の中で――繊維のように炎が(ほど)ける。

それからどれを試しても、彼女には傷一つとつけられなかった。

「どうなって……ッ!?」

「深追いするな! 今の貴様では、暴走したアガレスを止めることはできん!」


勇者――正しくは彼の精霊――の魔力、それは、彼の剣の技量と合わさり、魔王に匹敵すら匹敵する威力を生む。それが、全く通用しないなんて――。


「……いやいや、これは、とても参りました……」

「貴様はッ!?」


遊園地の地下立体駐車場から出てきた黒塗りのワゴン車から出てきたのは眼鏡をかけた例の室長に――そしてもう一人の、若い、手錠をかけられた男。その顔を見、マオは息を思わず呑んだ。

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