焼かれた栄光に降り注ぐ清浄
某日、とある城下が地図上から姿を消した。
原因としては魔力行使による大規模な火災である。放たれた途轍もなく大きな魔力はすぐさま広い城下を包み込み、一瞬にして地獄に変えてしまった。突然の出来事だったため運良く逃げ出すことのできた者はおらず、その日のうちに一族郎党根絶やしにされてしまったのだった。
それをやった犯人の最有力候補に、冒険者の間で最凶最悪と噂される魔族、魔人フィーニャの名前が挙げられている。近隣の星見の丘にて目撃されたという情報があり、そこから件の城下が滅ぶまでにかかる時間が、丘から城下にたどり着く時間と一致しているという。更なる目撃情報が無いため真偽は定かではないが、他に考えられる情報がなかった為、この線で歴史が定着したのだった。
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その城下の見どころは、区画ごとに区切られて綺麗に整った街並みと街の中央に設置された噴水広場、そして永らくその地を治めてきた王族の力を具現化させたお城だった。その造りとして特徴的なのは、街の入口から噴水広場、城の全容を一望できる点である。街に暮らしながらも王に謁見するかのような街並みは威厳もあり、そこに暮らす人々にとって安心感をもたらしていたという。
あたしもそんな芸術的な街並みが見てみたいと思って、その城下を訪れたんだけどねぇ...
「...えっ...燃えてる...?」
ようやく見えてきた城壁から黒い煙がいくつも上がっているのが見えた。何が起きてるのか確かめたかったから全力で走る。
息を切らしながらもたどり着いた城下。噂通りの見どころはそこには無く、ただただ地獄が出来上がっていた。
「なんだよ...これ...」
城下の入口に立つだけで熱が身体まで届き、あたしの体温を上げた。ニンゲンの姿は見えない。建物に取り憑いた熱の化物は天高くまで吹き上がり、その存在を誇張していた。
どんどん姿を変えていく街並みを歩く。横で爆発が起きて何かが吹き飛ばされて来たから見てみると、焼かれて焦げた大きな塊だった。本来の姿がどうだったかなんて、考えたくない。そう思ったところに炎に包まれたニンゲンがあたしに向かって走ってきた!思わず避けてしまう。
「ひいぃぃぃい!!熱いよおおお!!!」
絶叫。もがき。苦しみ。その姿を、あたしはその絶望をただ見てるしかできない。力尽きて倒れる直前、あたしに手を伸ばしながら口がこう動いた。
「タ、ス、ケ、テ...」
そしてそのまま倒れ、動かなくなった。
目を背けてその場を離れる。
どーして、こーなったかな...?
考えても考えても答えなんて出てこない。くるわけない。わからない。
城下を歩くと、どんどんと身体が熱くなっていく。このままここにいるのはまずいかな。でも、することがある。あたしがこの街にしてやれること。それはーー
「大気中に漂う魔素よ。我が祈りに応えよ。我が手に集え、蒼きマナ。集いて雫に、集いて水に、集いて雲に、集いてさぁ登れ」
熱の化物があたしに取り憑こうと触腕を伸ばしてくる。抵抗せず集中を続ける。あたしがしたいことはもうすぐに終わる。
「火に巻かれし哀れな土地に恵みの雨を。そして滅びゆく憐れな御魂に安らぎと清浄を与えん」
祈りは通じた。天高く登った魔力は具現化して雨となり、燃えさかる城下に降り注いだ。
建物を覆っていた熱の化物は次第にその姿を縮こませ、あっけなく消えてしまった。
もう一度、目を閉じて祈りを捧げる。...本当は死神になってさまよってる霊たちを導いてあげたいんだけど、もうひとつやることがある。次の目的地はお城だ。お城に向けて歩みを進める。
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城は、それまで築き上げてきた栄光を指し示すかのように高く作られてたんだと思う。ほかの建物も高いものはあったけど、城下の入口から城を見ることが出来たというのだから、それは相当高かったに違いない。
でも今は、そんな栄光を踏みにじるかのように焼き尽くされ、ボロボロに崩れ果ててしまっている。高かったであろう柱も途中で折れてすぐにも倒れてしまいそうだ。
城が崩れてできたたくさんの瓦礫の山の中央。そこにそいつはいた。姿は見えないけど、大規模な魔法を使ったんだ。大きな魔力がダダ漏れになってる。
「いるのはわかってる。出てきなよ」
話しかける。赤い魔力の流れが球状に渦を巻き、隠していたそいつの姿を顕にした。
『くけけけけ!よく俺様がここにいるとわかったなぁ!?褒めてやるぜぇ!!』
簡単に言うと、探偵もののテレビでよく出る犯人役のシルエットのような体型をした悪魔だ。黒い身体に細身ながらも鍛えられているようで筋肉質である。
「褒められても嬉しくないけど」
『ケッ、素直に喜べよ!この俺様が褒めることなんて滅多にねえんだからよぉ!!』
ギャハハと哄笑する悪魔。耳障りだね。聞く事聞いてとっとと殺ろう。
『しかし俺様の大規模魔法は凄い!そう思わねえか?この街全体を覆い、全て焼き尽くした!建物も自然もニンゲンさえも!!気持ち良かったぜえ!!!』
聞こうと思ったこと全部喋っちゃったね。ならもういいかな。
『お前も炎に巻かれてみるか!?熱くて慌てふためいて自分の身体が黒ずんで灰になっていく!そんな面白え姿を見せてくれよなぁ!!』
言い終わるなり目の前の悪魔が魔力を解き放ち、あたしの身体を覆った。このままだと全身が焼けてしまう。
でも別に慌てることなんてない。死神の形態になる。大鎌を振り回して魔力を切る。
『なんだと!?てめえ、何者だ!?』
自分の魔力を切られて驚き後ずさる。その一瞬の隙をついて悪魔の後ろに瞬間移動、大鎌を首にかける。
『名乗るほどの者じゃないよ。それじゃサヨナラ』
力を込めて大鎌を引く。悪魔は首を切られてあっけなく滅んだ。
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城下の入口に戻ってきて、もう一度振り返る。見どころだったはずの景色はそこにはなく、建物は崩れ水は枯れ...見るも無残な廃墟となってしまった。
「ごめんなさい...助けられなくて」
目を逸らして城下を後にする。次の場所へ向かおうと歩き始めると、それは聞こえた。
ーーーありがとうーーー
はっとして振り返る。まだ残っていたのか、ニンゲンの霊たちが横に並び、笑顔で手を振っているのが見える。中央の冠を被った霊が頭を下げ、控えていた兵士たちが敬礼をしていた。そしてーー
美しい街並み、噴水広場で高く放たれる水の柱、その奥で街を見下ろす城...かつてそこにあった景色が一瞬見え...
光とともに消えて今ある廃墟に戻ってしまった。
「助けられなくて、ごめんなさい...でも、良かったんだね...みんな笑顔だったね...いいもの見せてもらったよ...!」
溢れ出る想いを抑えきれず、頭を下げる。
頭をあげても、見えたのは崩れた廃墟のみ。でもあたしの眼は...在りし日の城下を写したよ...!
次の景色を求めて、歩き始める。次はどんな景色が見られるかな...?
つづく
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しかしながら城下の最後としては不可解な点がある。大規模な魔力行使による火災の直後に、更に大規模な魔力行使による雨が降らされて火災は鎮火されている点である。魔人フィーニャが火災を起こしたとするならば、直後の雨は誰が降らしたのか。まさか犯人が火災を起こしてすぐ自分で鎮火するなどありえないだろう。そこに暮らす人間が目的ならば、人間だけをどうにかすれば良いのだから。
謎は深まるばかりである。
了
オリキャラ妄想シリーズ第2弾となります。
この話書き終えるまでに、
ミスって全部消したのが1回
寝落ちして進んだ箇所が消えてしまったのが4回
流石に蛇足すぎるかと思って2時間近くかけて書いた部分を消したのが1回
などと作者自身も冒険している真っ最中だったりします。
魔人のライバル、もう1人のオリキャラを登場させたかったなぁ....