05 宝石に夢を――――a synthetic jewel
店に入ったのと同じ時間に、あたしは店を出る。あの人は嘘をついていたわけではなかったらしい。
「……すごく、きれい」
水たまりに映っているのは、さっきとは少し違うあたしの姿。といっても、変わったのは片目だけ。それはちょっぴり恥ずかしいなとも思ってしまった。
アヤメと、宝石の方のアヤメと同じ色の瞳。これが魔眼なのだろうか。叩いても音はしないし、特におかしいものが見えたりもしない。これのどこが魔眼なのだろうか。
「あの人、宝石に命を与える力って言ってたよね。なら、宝石が無いとなにも起こらないってことなのかしら?」
それなら納得である。早くあの家に戻らなければ。そして、アヤメに再会するのだ。さて何から話そうか。
さっきまでいた、魔眼のお店のことにしようか。それか二人分の食べ物を遠慮なく食べてしまったこととかもいいかもしれない。
いつもよりも家に帰るのが少し楽しみで、それでいて少し不安。もしなにも無かったら、アヤメと話すことが出来なかったら。
不安があたしを支配しないように無理に明るい歌なんてうたって、慣れないスキップというのをして。そうしてたどり着いた路地裏の小屋。
誰かが入った形跡も、出た形跡も無い。当然と言えば当然のこと。だって、めぼしいものなんてここには無いのだから。砕けた宝石に価値を見出だす人なんて、今のあたしくらいしかいないのだし。
「お願い……あたしの魔眼。大親友のアヤメを、アヤメを生き返らせてくれる?」
フワリと蒼い粉が舞い、それはだんだんと人の形を作っていく。それはあたしが知っている形。アヤメという人間の形。
「アリ……ス?」
空のように青くて透き通っているという部分以外は、間違いなくあたしが知っているアヤメ。これも、洋服や化粧である程度は誤魔化せるだろう。
「アヤメッ!」
「どーしたの、その目。空みたいに青くなってるよ?」
不思議な表情であたしを覗きこむ透明な少女の姿。空みたいに青いのはどっちの方なのだろう。
「アヤメだって人のこと言えないじゃない。全身真っ青よ?」
「あははー、ほんとだ! なんか変なの」
これであたしの日常は守られたのかな。アヤメが宝石になったり、あたしが魔眼持ちになったりとかの非日常的なことが起こっているけど、まぁいいか。
そっちの方が面白そうだし。
そうでしょ、アヤメ?
「でも生きてて良かったー、動けるようになって良かったーって思うの。宝石になってても、意識だけは残ってたからね」
「動けるようになったお祝いに、美味しいもの食べに行っちゃう?」
「うーん、宝石って食べ物食べられるのかなぁ?」
「ものは試しでしょ? やってみないとわからないわ」
そうしてあたしたちはちょっとおかしな日常を取り戻して、面白可笑しく日々を過ごしていくのでした。