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魔眼売りの青年のお話~悪魔も天使も紙一重のこんな世界で、人間は何を願うのか  作者: 藤原 アオイ
第1章 魔眼売りの少年と宝石の少女――a synthetic jewel
3/5

03 花に願いを

 あたしはアヤメをボロボロの布で包んだ。だってそっちの方が暖かいと思ったから。宝石が温度を感じられるとは思わなかったけど。


「アヤメ……」


 そうして、あたしは()()を済ませるために外に出ていった。これが正しいこととは思ってはいないけれど、生きるために必要だからやる。たったそれだけ。


 こんな世界に秩序も善もない。あるのは無法だけ。無と言ってしまっている時点で、無いと言っているようなものだけれど。


「アヤメの分も、あたしが生きていかないと。そうしないとアヤメに申し訳ないからね」


 法も何もない世界では、人が死ぬのも日常茶飯事みたいなものだ。昔は良かったと街の人は言っているが、昔のことなんて知らないからよくわからない。


 それに、今は朝ごはんの方が優先順位が高い。だから盗りに行く。アヤメのことをわりきれたわけではないが、アヤメは宝石になって確かに存在している。だったら何も問題ない。


 鼻歌交じりで路地裏を歩き、そのまま表の通りに出る。割れたまま放置された煉瓦。それはいつまでも割れたまま直されることはない。人の死もそれと同じようなことなのだろう。


 割れたらそれでおしまい。直ることはない。


「……アヤメ、大丈夫かな」


 割れるという言葉によって、宝石になった彼女の姿が頭に浮かぶ。


 少しだけ心配はするものの、彼女のことだから問題ないだろうと納得する。普通に動いていた頃はお調子者で有名だったし。


 きっと何も起こらない。なにか起こったとしても、アヤメなら大丈夫だって。そうあたしは思っていた。




 ****




「……知ってるかい? 魔眼を生み出すのは人間の感情なんだ」


 キリのいいタイミング。僕はそれを見計らってから口を開く。説明しないといけない時が来たから。だから説明する。


「人間の……感情?」


 不思議そうな表情を見せる彼女。それもそうか。あんな奇跡が人間の感情を糧にしているなんて、信じろと言われて信じられる話でも無いのだし。


「ああ。それも、人間のマイナスの感情が一番力になる。復讐したい、殺したい、同じ目にあわせたい、恐怖のどん底に落としたい。その他色々、選り取り見取り」


「そんな感情、あたしは持ってない!」


 それを聞いた彼女はやはりと言うべきか、かなり狼狽えている。彼女の願いはきっと、アヤメという少女に関すること。きっと優しすぎる願いなのだろう。


「なら、なんでここに来れたんだろうね?」


 彼女を助けたいなんていう陳腐な願いなら、ここに届く前に処理されている。もちろんデリートという、夢も希望もない方法で。


「それは……」


「言ってくれないとわからないんだ。だから――――」




 ****




「おばちゃん、いつものお願い」


「あいよ」


 投げ渡されたのは、必要最低限の食料。人間が生きていくのにはちょっと少ない食べ物。ただ、それは今日のあたしには当てはまらない。


「ありがと。あと、ちょっとききたいことがあるの」


「なんだい、こんな婆に。金を手に入れる方法なら今はないよ。それとも……恋かい? 恋なのかい?」


「恋じゃないから。そのね、もし……もしもだけど、大切な人が宝石になっちゃったらどうする?」


 二人分の食料を持ちながら、あたしはおばちゃんに質問を投げる。答えが帰ってくることを期待して。


「うんうん、大切な人が宝石にねぇ。婆だったら一欠片だけ残して売っ払うかね。そうして日々の糧に変えるのさ。それが必ずしも正しいとは思わないけどなぁ」


「ありがと、おばちゃん。あと、変な話をしてしまってごめんなさい」


「いいのよ。アリスちゃんが元気なら。それと……アヤメちゃんはどこだい?」


 おばちゃんの声が遠くに聞こえる。彼女の名前が出た瞬間、あたしは走り出していた。早く朝ごはんを食べてしまわなければ。そしてこれからについて考えなければ。


 そんな考えに頭が支配されていた。そんな楽しい未来なんて、どこにもないのに。

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