01 来客は唐突に
「いらっしゃい、お嬢さん。何をお求めかな?」
入り口にかけられたベルがカランと乾いた音を響かせる。お仕事の時間か。ちょっぴり憂鬱になったりもする。だけど、やらなければならないことだから仕方ない。
本当は起きることすらもダルいのだけれど。
「ここに来たらどんな願いでも叶うって聞いたの。だからあたしのお願い、聞いてほしくて」
店に入ってきたのは、金色の髪の小さな淑女。頭のてっぺんの方には真っ赤なリボンが結んである。
焦ってここに駆け込んだのだろう。少々服が乱れているように見受けられる。だからといって態度を変えたりはしない。
叶えて欲しい願いというのは、かなり大きなもの、もしくは他の大人には言えないことなのだろう。
だから僕はこう言う。彼女の願いが叶わなかったときのための保険として。
「流石になんでもは叶えられないな」
「それでもいいの。あたしは少しでも希望がある方を選びたい」
希望、か。久しぶりに聞いた。これをそんなことに使う人が、こんな荒廃した世界にいたなんて。だからもう一度確認した。彼女が後悔しないために。
「はぁ、僕が何を売ってるのか知っていて言ってるのかい?」
ここに飛び込んで来た時点で、彼女がここで何が行われているかを知らないはずがない。それは僕にもわかっている。
「……魔眼、でしょ?」
「知っていて、なんでこれを求めるんだ? もしよかったら、教えてはくれないだろうか」
コツコツと僕は僕自身のまぶたを数回叩く。ここに収められた眼球も当然のように魔眼である。悪魔の眼と書いて魔眼。これを入れるということは、悪魔に魂を受け渡すのとほとんど変わりはしない。
知りたいのはその理由。いくら僕がヒトデナシで畜生以下の存在であっても、こんな純粋な子どもにアレを授けるのは躊躇ってしまうのだ。
だってそれは、彼女を間接的に『ヒトデナシ』にしてしまう行為なのだから。
「時間が無いの……今すぐ魔眼を」
「時間ならば無限にあるさ。この店は僕の世界なのだから。外とはちょっと異なる時間を辿っていてね、まぁ簡単に言うと急ぐ必要なんてどこにも無いんだ。だから、ゆっくりお話をしようか」
僕はそれを阻止したい。でも、彼女には退けない事情がある。どうにか妥協出来る線を見つけてしまいたいのだが。
「わかった。話すわ。でも、話が終わったら……」
「わかっているさ、そのときは考えよう。じゃあ教えてもらおうか、キミの事情を――――」