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09.紛れる群れ

 そんなわけで、この街にしばらく逗留していたライラとシルヴィオたが、このヘイジュ王国を治める女王が視察に来られるという噂が耳に入る。

 女王は国獣(こくじゅう)である一角獣(ユニコーン)に認められた巫女でもあった。

 まだ2週間も先の話なのに、町中がそわそわした雰囲気に包まれ、歓迎のムードが高まる。

 動物病院の入院病棟の患畜たちも、その雰囲気を感じてか落ち着かなげにケージの外が気になる様子だ。

 ライラは薬を調合している獣看護師フィオーレ ・ サバティーニに尋ねる。歳が近くフランクな感じの彼女は話しやすいのだ。

「女王様って、人気あるんですね」

「そりゃ、お優しいし、お美しいし、その人となりは精霊獣のお墨付きなのよ」

「この国の精霊獣は、よく人々に姿を表すんですか?」

「そうじゃないけど、女王が尋ねごとをすると姿を現してしてお告げをくださるの」

「そうなんだ。精霊獣、見られるかな? シルヴィオ、一角獣(ユニコーン)に会えると思う?」

「……わかんない」


 シルヴィオはがちょうの精霊獣鷲鳥(ハンサ)を抱っこしていて鷲鳥(ハンサ)としばし見つめ合う。

「ライラ、鷲鳥(ハンサ)もう歩けるって」

「そっか。思ったより回復が早くてよかった!」

「? 鷲鳥(ハンサ)ってこの子の名前?」

 フィオーレが大きな白いがちょうを指して言う。

「うん」

「精霊獣の名前をつけるなんて、洒落乙じゃない?」

 そうこの子は言葉を解する本当の精霊獣鵞鳥(ハンサ)なのだけれど、見た目が大きめのがちょうなので説明が難しい。

 しかし確かにあの川べりでは、ライラの頭の中に響く声で話をしたのだ。

「リハビリしなくちゃね。でもゆっくりゆっくりだよ」

 ライラは鷲鳥(ハンサ)に言う。間違いなく通じているだろう、鷲鳥(ハンサ)は頷いた。鷲鳥(ハンサ)は他の人間には話しかけないで普通のがちょうのふりをしている。室内で歩かせていたが、だいぶ状態は良さげだ。

「アメデオ先生に聞いて、リハビリもっとしていいか聞いてくる!」

 シルヴィオは鷲鳥(ハンサ)を抱っこして入院病棟を飛び出して行った。

「うん、そうだね。頼んだよ〜」

 ライラの声がシルヴィオの背中を追う。フィオーレが興味深げにライラに問う。

「ねぇライラ。前から思ってたんだけど、あんたたち姉弟(きょうだい)にしては似てなくない?」

「あ、あぁ、実を言うと遠縁なの」

 ライラは誤魔化した。姉弟(きょうだい)としてこの動物病院で働かせてもらっているので、違うとも言えない。

 するとフィオーレは意味深長な目つきでライラに小声で言う。

「なるほどねー。幼い頃から躾けて好みの男に育てて、いただいちゃう魂胆ね」

「ちっ、違いますっ!」

 ライラは真っ赤になってフィオーレの言葉を否定する。

 そりゃ、先が楽しみな男の子だけれど、こうして逃避行している期間がそう長くなるわけではないのだ。

 ほとぼりが冷めたら一旦琳聖国リンショウコクに帰ってそれから──それから?

 そう、ご両親を探したり、社会復帰のためのサポートをお願いしたり、だよね。

 でも動物と話せる子だから、動物病院勤務になったりしないかな。




 近くの公園に来たシルヴィオは鷲鳥(ハンサ)に聞いた。どうして普通のがちょうのふりをしているのかと。

『紛れる群れがある場合は、その群れの中に紛れている方がいいのです。もっとも私は養鶏場の群れに紛れてしまったのが間違えでしたが、今度は野生のがちょうの群れに紛れます』

「紛れる、群れ?」

『あなたにはその群れがないから、人間のふりをして人間の群れに紛れているのだと推察しましたが、違うのですか?』

「僕が……? ?」

『なぜ擬人化を?』

「僕、気付いた時、もう人間、だったし……え、僕、人間、違う?」

『いずれ分かる時が来るでしょう。立ち入ったことを聞いてしまって申し訳ございませんでした。ライラ様にもよろしくお伝えください。助けていただいたご恩は決して忘れません。では私は行きます。』

 鷲鳥(ハンサ)はそう言うと、翼を羽ばたかせて空を飛んで行ってしまった。

鷲鳥(ハンサ)ッ!?」

 シルヴィオの声は大空へを吸い込まれて行った。


「え? 飛び立って行っちゃったの? 鷲鳥ハンサまだリハビリ──」

 ライラは驚いてシルヴィオに聞き返す。だがそのシルヴィオは物憂げに何か考え込んでいた。

「シルヴィオ?」

「なんでもない。鷲鳥(ハンサ)はきっと、もう大丈夫。ねぇライラ、僕、人間、だよね」

「? どうしたの? 鷲鳥(ハンサ)と何を話してたの?」

「ううん、なんでもない」

 シルヴィオはそう行って動物病院の入院病棟に行ってしまった。

 その夜、シルヴィオは無口だった。鷲鳥(ハンサ)と何かあったのだろうかと、ライラは聞き出そうとするが徒労に終わった。



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