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08.爪

 少し予算オーバーにはなったが、ライラとシルヴィオは清潔なツインの宿に逗留することとなった。安宿に泊まって朝起きたら荷物一式がなかったという話を聞いたことがある。安全はお金を出して買うご時世なのだ。

 そして二人は早めの夕食をしに屋台が立ち並ぶ区画へ移動した。

 芳しい香りを放つその区画に、食欲をそそられる。一通り回るだけでも時間がかかりそうだ。シルヴィオは菜食だからライラはそれらしいエリアを探す。

 結局菜食エリアをぐるぐる巡って、野菜タンメンをいただくことにした。

 野菜から出るお出汁が効いていて美味しい。シルヴィオは『箸』と格闘しながら食事に集中した。

 帰りにランブータンという赤いトゲトゲの果物を購入して宿へ帰ることにした。トゲトゲの皮をむくと白いつるんとした実があって、甘酸っぱくて美味しいのだと店の人が言っていた。

 ふっとライラに少女がぶつかってきた。

「あ、ごめんなさい」

 そう言って少女は走ってゆく。ライラは反射的に財布のあったところに手をやると、財布がないことに気づく。スリだ!

 少女を追って駆け出そうとすると、数人の大人の男たちがライラの前に立ちはだかった。

「すみません、道を開けてください!」

「どうしたの? お嬢さん」

「あの女の子を……」

「女の子なんて見なかったよ」

 ライラはこの大人たちもグルだと直感した。

「それより、お嬢さん、俺たちと遊ばない?」

「楽しいよ」

 男の一人ががライラを誘い出そうとして、その手を引く。

「離してしてください!」

 するとシルヴィオが素早くライラの懐からナイフを抜き、男の手を切りつけた。

「イッテェ! なんだ!?」

 男の手に切り傷ができ、血が滴る。

「ライラに、触るな!!」

 シルヴィオがライラを後ろにかばい、ナイフを構える。

「小僧!」

「痛めつけろ! こいつナイフ持ってやがる!」

 男たちがシルヴィオに襲いかかる。シルヴィオはナイフを巧みに操って、男たちに切りかかった。

「すばしっこいぞ、気をつけろ!」

 シルヴィオは、どこで習ったのか鋭いナイフ捌きで、一人また一人と切り傷を追わせてゆく。

「ちっ、ずらかるぞ」

 男たちは切り傷を負って、その場から立ち去っていった。少額しか入っていない財布一つを奪うために、彼らが払った代償は割りに合わなかった。


「あ、ありがとう、シルヴィオ……」

 あっけにとられていたライラは、やっとのことで感謝の言葉を絞り出す。動物病院ではナイフ戦術なんて教えたことはなかった。それともオズボーン院長が教えたのだろうか。

「どこで、習ったの? ナイフの使い方なんて──」

「昔、教わった。爪の使い方」

「爪……」

 そうか、シルヴィオを育てたのは動物──精霊獣かもしれない──が教えたのか。

「シルヴィオ、怪我は?」

「大丈夫」

 シルヴィオが手を差し出す。ライラはその手を取り、尾行されていないか気をつけながら宿へと向かう。

 なんだか私、シルヴィオに守られてばかりかも……。

 ライラは先に立って歩く少年の背中を頼もしく思った。


 宿に戻ったライラは、シルヴィオにナイフを託した。

「この爪は君の、はいあげる」

「ライラ、の爪?」

「私がこれを持ってても使いこなせないから」

「ライラ、守る!」

「うん。さぁ、ランブータンを食べよう」

「うん」

 ランブータンを頬張っているシルヴィオの姿は10歳前後の可愛い少年そのものだった。

 さっき、ライラをかばって戦った少年と同一人物なのが意外だ。

 なんか、ギャップにやられちゃったな。さっきはカッコよかったかも。なんてね~。

 ライラは思わず顔がにやける。

 この少年がどう育っていくのかライラは、楽しみになった。

 明日は早く出勤するので、その日は早めに就寝した。




 翌朝、パルミエリ動物病院に着いたライラとシルヴィオは、勤務する獣看護師たちをアメデオ獣医師から紹介される。この動物病院はアメデオ獣医師一人と獣看護師5人から成り立っていた。

「しばらくの間、よろしくお願いします」

 ライラは挨拶をして、シルヴィオもぺこりと頭を下げた。

 アメデオ獣医師からはまず、ライラは診察のアシスタントを、シルヴィオは入院中の患畜の世話を頼まれた。

 開院時間位なるとポツリ、またポツリと患畜を連れた飼い主さんが見えた。

 目の回る忙しさではないが、それでもやることはたくさんあった。

「診察をやってみるかね?」

「え? あの私この国の獣医師免許持ってないのですが」

「セカンドオピニオンをわしがやるから」

「はい。それなら……」

 この時ライラは、獣医師の国際ライセンスをとったほうがいいかもしれないと思った。そう長引く旅ではないけれど、このヘイジュ王国でも診察できるようになれば、手間を取らせるようなことはないかもしれない。すると、一人の獣看護師が院長を呼んだ。

「あの、入院中のモモンちゃんの呼吸が荒いのですが、ちょっと来てください」

「ああ、わかった。ライラさんここを頼んだよ」

「は、はい!」

 うわ、結局任されちゃった。頑張ろう!

 ライラは、診察に集中した。


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