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精霊獣を抱く世界で獣医さんをしています  作者: 神守 咲祈
第5章

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09.浮かび上がる問題

 ライラとシルヴィオは新居で動物病院を開業した。といっても、ここは田舎。ペットを診るというより家畜の健康状態を見て回るため、民家を回っての営業をすることになった。

 2歳のリネーとジャッキー、ルルンは両親が預かってくれている。

 集落の民家を挨拶まわりし、家畜の健康診断をさせてもらう。中にはライラの同級生や幼馴染が家を継いでいるところもあり、昔話に花を咲かせた。

 ある同級生の奥さんがライラと同い年というのがわかると、その奥さんは興味津々に質問してきた。

「同い年とは思えないわ~。何か特別な美容法とか実践してるのかしら?」

「美容法ですか? 特にはしてないですよ」

 そこで同級生が自分の奥さんを茶化す。

「おまえと違って気持ちが若いんだろ。お若い旦那だとハリが出るのさ」

「あら、あんた。それじゃ、あんたのせいで私にハリがないみたいじゃないさ」

「俺のせいか?」

 口喧嘩になりそうなところで、シルヴィオが口を開く。

「ライラは単に童顔なんです。奥様は大人の素敵な女性ですよ」

「あら、若旦那さん、口がうまいのね」

 奥さんが機嫌を直す。ライラも同調して、同級生に口添えした。

「奥さんに、綺麗だよっていつも言ってあげてる? 女にはその一言が大事なのよ」

 ライラの同級生は照れながら頭をかいた。




 どこの家でも、ライラの年齢より若く見える外見が話題になった。ライラはそれよりも、獣医師としての腕を見てほしいのだが、最初の挨拶なんてこんなものかと考え直した。

 こないだ、姉も言っていたけれど、ライラは30代後半だが20代後半に見えるという。10歳はサバを読める。でも30代後半でも見た目が若い人はたくさんいる。ライラは気にしないよう努めようとした。

「歳、取らないかも」

 シルヴィオがポツンと言う。

「どうゆうこと?」

「僕は歳を取るのが遅い。でも年齢相応に外見を故意に変えていけるとは思う。ライラは化粧で誤魔化してゆくしかないのかも」

「……それって、竜の血に関係があるの? 私の姉も両親も自然に年齢相応になってるわ」

「でも、ライラは遺伝子にスイッチ入ったでしょ?」

 若い外見を保つことは女性の永遠の憧れだけれど、実際に若い外見を保ち続けていると言うことは、他の人々の目には奇異に映る。

「……」

 シルヴィオは言いにくそうに言葉を絞り出した。

「こういう事態になるなんて、予想できなかった。ごめん。でもここにいられるのもあと数年かな。いつまでも歳を取らないライラに、みんな疑問を抱くと思う」


 ライラの一族が竜の末裔であることは秘密にされている。だから父はあの祠について今まで口を閉ざしていたのだ。集落の人々はライラが普通の人間だと思っているし、シルヴィオのことも普通の人間だと思っているはずだ。

 集落の人々に『実は……』と話したところで一笑にふされる可能性が高い。

 それに、シルヴィオは人間として生きていきたいと言っていたのではなかったか。

 人間は奇異な存在を嫌う傾向がある。ライラは獣医師を続けたいし、シルヴィオも人として生きたい。だから真実は集落の人々には伏せる必要がある。バレないようにしている必要がある。

「ま、じゃあと数年はここに住んで、その後は──その時に考えよ?」

「ライラ……ごめん」

「シルヴィオが悪いんじゃないよ。さ、挨拶まわり続けよう?」




 帰宅する前に、リネーと2匹を迎えに実家に寄った二人は夕飯をご馳走になった。実家が近くってありがたい。

 猫のルルンはすっかり実家が気に入ったらしく伸び伸びとしているので、そのまま実家に預かってもらうことにした。ジャッキーとリネーはまるで兄弟のようだ。

 食後のお茶をいただきながら、ライラは両親に竜をお迎えした頃の昔の話を尋ねた。すると父は何やら古文書のようなものを持ってきて、老眼鏡をかけその古文書を読み解き出した。

「精霊獣は人より長生きだ。ただ、つがい相手を変えることはないから、つまり結婚相手を一人と定めるから人間の相手を長生きさせるよう『血受けの儀式』をしたと書いてある。それによって長生きできるようになったつがいは子孫を作り仙境(せんきょう)に住んだと──」

「仙境ってどこにもないんじゃなかったっけ?」

 ライラが質問する。父は目を細めて古文書を探すも仙境がどこかまでは見つけられなかったらしい。

「昔はあったんじゃないのか? 仙境に匹敵する場所が」

「今は失われた?仙境……探す価値はありますね、お義父さん」

「どうしたんだ? 二人してそんな話を?」


 ライラが、自分が歳を取るのが遅いかもしれないことと、以前シルヴィオから輸血を受けたことを、かいつまんで話した。もし自分がこのまま歳を取るのが人間より遅いとわかったら、集落の人々が訝しむかもしれないことも話す。

「それで仙境が気になるわけね」

 ライラの母が言い、父が大きく頷いてから二人に確認する。

「また、旅に出てしまうのか?」

「すべて集落の人々に知られてしまったら、お義父さんやお義母さん、お義姉さんにも迷惑がかかります。みんなここにいられなくなるかもしれないんです。僕が熟慮しないで自分の血をライラに輸血するように迫ったからです」

「お父さん、お母さん。私、後悔してないよ。シルヴィオと出逢えて後悔してない。でも帰る家がなくなると思うと悲しい。だからお父さんとお母さん、それにお姉ちゃんにはここにいてほしい」



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