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06.国境の集落にて〈後編〉

 小規模だったが、仮設テントの下ではこの集落で採れた様々な山野菜が売られている。

「これはどうやって食べるんですか?」

 見たことのない野菜や果物もあり、ライラは売り子に聞く。

「旅の人だね。これは茹でて味噌和えにするんだよ。あっちの食堂に卸したばかりだから行ってみるといい」

「ありがとうございます」

 朝食が一切れの干し芋とモミジイチゴだけでは、育ち盛りのシルヴィオには足りないよね。うん。

 ライラは、シルヴィオを連れて食堂に入った。

 店主が、気さくに聞いてくる。

姉弟(きょうだい)で旅をしているのかい?」

「はい。旅って言っても親戚のところに行くだけなんです」

 まさかあてのない逃避行とは言えない。

 ライラは朝市でのことを話し、とれたて野菜のセットを頼んだ。

 院長宅で食事の作法は習っていたようで、シルヴィオは行儀よく食べる。まだ二本の棒である『箸』の使い方には苦戦しているようだが、覚えは早いようだ。

 香ばしい焼き野菜に、味噌和え、新鮮野菜のサクサク天ぷらに、ライラも舌鼓を打つ。

 食事も旅の楽しみだよね。

 ライラは頭の中で世界地図を広げながら店主に尋ねる。

「街まで行くにはどの道が安全でしょうか?」

「街道沿いが治安いいよ。ちょっと遠回りになるけど──」


 ライラは店主にお礼を言い、代金を支払ってシルヴィオを連れて店を出た。

 そして街道沿いに歩いていく。道がだんだんと大きく広くなり、人や馬車の往来も増えてきた。

 木は森に隠せと言う(たと)えがある。私たちも人混みに紛れてしばらく過ごそうと、ライラは考えていた。


 大きめの街ならば、獣医のバイトもあるかもしれない。院長から預かった路銀がなくなる前に、使った分は稼いで補充しておきたいし……。

 泊まるところも日払いではなく週払いの方が安くつく。

 野宿は絶対なしで!

 お風呂にも入りたいし──。

 と色々考えていた。

 街道沿いの宿まで歩こうとライラは計画した。

「シルヴィオ、しばらく歩くけど大丈夫?」

「うん。歩く」

 二人は手を繋いで街道を歩いて行く。周りの景色は森──暗くなる前に宿屋にたどり着きたい。




 夜の帳が降りる前に宿場町に到着できた二人は、ここが温泉地であることに気づく。

「わぁ、温泉だよ。シルヴィオ、見て~」

「ホワホワ」

 シルヴィオは初めて見るのであろう湯の花の光景に目を丸くした。湯気をもくもくとあげる源泉と独特の香りにライラは嬉しくなった。今日は温泉に入れそうだ。

 なんだか旅が順調すぎて怖い。

 案内された部屋でライラは荷解きをし、温泉に入る作法をシルヴィオにレクチャーする。

「一緒、入る!」

「ダメだよ~」

 流石に、もう幼児ではないシルヴィオを女湯に連れて行くのは気がひけるし、それに……ライラの方が恥ずかしい。

「どうして?」

「あのね……男の子は男湯なの。これ、決まりなのね」

「インチョー、一緒に入った」

「それは男同士だから」

「ライラと一緒、ダメ……」

「そうダメなの。でもね、気持ちいいんだよ。のぼせないように気をつけて、ゆっくりお湯に浸かってごらん」

「……うん」

 しゅんとしたシルヴィオが、可愛かった。


 露天風呂に浸かりライラは星空を見上げた。

 首都まであと徒歩で2日の道のり。なんとか強盗とかに合わず行けるだろうか。

 すると、なんだか隣の男湯が騒がしい。

「こらボウズ! 走るなよー!」

「前、隠せ!」

 シルヴィオが男湯でマナー教育を受けているらしい。ライラは心配になって垣根越しに声をかけた。

「シルヴィオ~! 迷惑かけちゃダメだよ~!」

「ライラ!」

 男湯と女湯の間にある垣根を、シルヴィオがトントンと叩く。ライラは軽く垣根をトントンと叩き返した。


 湯から上がり暖簾(のれん)をくぐって廊下に出ると、女湯の入り口でシルヴィオが待っていた。

「こら、ちゃんと髪乾かさないと、風邪ひくよ!」

 ライラはタオルでシルヴィオの銀髪をわしゃわしゃと拭く。

「ライラ、寂しかった」

「うんうん、これからはずっと一緒にいようね」

 まだ少年とはいえ、頬を上気させながら見つめられると、どきっとするなぁ、もぅ……。

 ライラは内心ときめきながらも、自分を戒めた。

 いやいや、この子はまだ子供で、私が手を出したら犯罪よね。私は保護者なんだからっ!

 一緒に部屋まで帰る。布団がもう敷いてあった。

「なっ!?」

 ライラは動揺する。大きめの布団が一組しか敷いていないのだ!

「ライラ、一緒、寝る」

 なんで一組なの!? なんかの間違い!?

 いや、変に意識するのはやめよう。

 もう一組布団がしまってあるはず……と押入れをみるが入っていない。

 シルヴィオが嬉しそうに布団にダイブする。そして布団をぽんぽんして、ライラに言う。

「ライラ、ここ!」

 シルヴィオの他意のない紫の瞳を見て、ライラは自分の不純な考えを戒めた。

 私は保護者! 保護者なんだから!!

「ライラ? のぼせた?」

「う、うん、ちょっとね~」

 耳まで赤くなっているライラにシルヴィオが心配の眼差しを投げてくる。

 隣で寝るだけよね。この子に下心なんてない。うん。


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