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10.女王の真意

 ヘイジュ王国の首都ナギリに到着したシルヴィオは、リンショウ王国の外交官の邸へ来たが、門前払いをくらう。身分証明書を持ってないことが、ここで仇となった。

 それでもシルヴィオは食い下がった。迷いの森の山が噴火した時、逃げるのに必死で身分証明書を落としてしまったことにする。どのくらい門番と押し問答をしていただろう。

 その時、執事らしき人物が、騒ぎを聞いて顔を顰めつつシルヴィオの前に出てきた。

 シルヴィオはその執事に、外交官に取り次いでもらえないか尋ねる。しかし外交官はいなかった。ちょうど任期が終わり、リンショウ王国へ戻ったという。

 シルヴィオは心の中で舌打ちした。次の外交官が渡航してくるのは数週間後だという。

 他の方法を考えるしかなかった。それまでに、また山が噴火したらと思うと焦るシルヴィオに、ムササビがまた懐から顔を出した。

『素直においらの提案を採用してくださいよ。この以上は時間の無駄なのです!』

「女装して、女の園に忍び込む──か。あぁもう、ライラにだけは見られたくない」




 女官の衣装を買い求め、シルヴィオは女装する。体のラインがあまり目立たないデザインの衣装を選んで着るとムササビが感嘆の声をあげる。

『ふおぉぉぉ! 女官に転職できますよ、竜の旦那』

「うるさい」

 そして王宮のひとけが減る深夜、シルヴィオは衛兵に強い酒をふるまい眠らせてから王宮に忍び込む。数人の宦官や女官たちとすれ違うが、シルヴィオは足早に進む。

 目だけを竜化させて、ムササビの彼女のムササビちゃんの気配のする方に進む。女王の居場所はわからないので、ムササビちゃんに教えてもらわねばならない。

『チッチ、どこだい?』

 ムササビがなくと、チッチという名のムササビが顔を出して返事をする。

『サミー! きてくれたの?』

 サミーは飛び出して、チッチとの再会を喜んだ。

「女王はどこに?」

 シルヴィオが尋ねると、チッチは怯えてサミーの陰に隠れた。

『この方、誰?』

『大丈夫、おいらの知り合い』

 そしてチッチから女王の寝所の場所を教えてもらう。シルヴィオは素早く闇に紛れつつ移動した。


 女王の寝所から声がした。 気づかれたようだ。いや、まるでシルヴィオが来るのを知っていたかのように、ヘイジュ王国の統治者は、蚊帳越しにシルヴィオに話しかけた。

「女性の寝所に来るなんて、ずいぶん大胆な竜ですわね」

 人を呼ぶでもなく、シルヴィオの正体を見抜いていた。シルヴィオは単刀直入に訊ねた。

一角獣(ユニコーン)に何を伝えたのですか?」

「何を、とは? そなたに言う必要がありますか?」

 五十歳近くになる女王だが、その美しさは損なわれていない。むしろ凄みが増した印象をシルヴィオは受けた。この女傑と対等に渡り合わなければ、答えが得られない。

「あります。迷いの森の拡張でこちらの領地が侵されています」

「迷いの森は山の噴火に遭ってしまい、大部分が失われました。一角獣(ユニコーン)も減ってしまいました」

「あなたはあらかじめ、この噴火のことを知っていたのではありませんか?」

「なぜ、そう思うのです?」

一角獣(ユニコーン)が被害に遭わないために、それを予め教えに行った?」

「わたくしは、噴火を予知することはできません」

「あなたは巫女(シャーマン)であり、精霊をご自身の体に憑依させることができる。そうですね?」

 女王は、シルヴィオの次の言を待つ。それは肯定の態度だった。

「なんの精霊を憑依させていたのですか? 山の精霊ではありませんか?」


 一角獣《ユニコーン》は国によって保護されているけれど、危険な精霊獣でもある。彼らは人間を間引きすると言っていた。最初の標的になるのはこの国の民ではないのか? 女王は自国の民を守るのが最優先だ。だから逆に一角獣(ユニコーン)を間引きするために、山の精霊をを自身の体に憑依させ、死火山を活火山に変えた。

 それを一角獣(ユニコーン)に悟られないよう、矛盾しているが忠告したのではないか?

 女王は遠くを見つめて言う。

「世界は全て、調和が必要です。どの種族が増えすぎても世界のバランスが崩れる──」

 あの一角獣(ユニコーン)と同じようなことを言う……シルヴィオはそんな感想を抱いた。女王は続けた。

「わたくしは、統治者であり巫女です。一角獣(ユニコーン)との関係はどちらが支配し支配されるではなく持ちつ持たれつなのです。彼らが絶滅でもしたらこの国は立ち行かない。彼らは国益のための助言をくれる。しかし、彼らが増えてわたくしたちを支配するようになってもいけないのです。今回は山の精霊が一角獣(ユニコーン)を戒めた。それだけです」

 一角獣(ユニコーン)はヘイジュ王国の味方であり、同時に敵でもあると言うことなのだろうか。シルヴィオはよくわからない。信用できないが有用な相手との共存が必要と唱える女王の真意が、シルヴィオにはわからなかった。

「そなたはまだ若いから、理解し難いでしょう。でもこれが調和でありバランスなのです」



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