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09.行方不明なまま

 リンショウ王国側の国境でも、その噴煙は確認できた。国境警備隊の兵士が望遠鏡を向けた先に、老兵士のアルヴァーがいた。軍用犬のジャッキー号を引きながらこちらへ歩いてくる。

 兵士はアルヴァーに大きな声で確認をとる。

「一緒じゃないのかい? あの銀髪の若いのと」

「あいつは迷いの森だ!」

「あの噴火に巻き込まれたのか?」

「わからん!」

 ジャッキー号は何度も迷いの森方向の道を振り返る。山のあたりの空は火山灰の影響か暗雲が立ち込めていた。

 詰所に到着したアルヴァーに、別の兵士が問う。

「怪我は?」

「わしもこの犬も、見ての通り大丈夫だ。あの若いのは精霊獣に会いに行くっつって」

「なんで止めなかったんだ!」

「止めたさ! でも行くってきかなくてな」

「ただでさえ迷いの森に入った人間は帰ってこれないっていう噂なのに、この噴火じゃもう──」

「だから、わからん!」


 リンショウ側に逃げてきたヘイジュの羊飼いの老人と少年は、山の方向を見ては何か呟きながら拝んでいる。

「まにょやまのせいれぃのおぃかりじゃ〈迷い山の精霊のお怒りだ〉。おぃかりじゃ〈お怒りだ〉」

 近くの兵士が聞き取ろうとしたが、徒労に終わる。

 とりあえず、火山灰が降るのが落ち着くまでは、羊飼いの二人と羊たちの身柄は国境警備隊預かりとなった。

 火山灰はリンショウ王国とヘイジュ王国を分断しているようで、しばらくは国境に近づくことはできない。

 アルヴァーが本部へ現場の状況を文書にしたため、それを伝令兵に持たせる。そして所在なげにしているジャッキー号も預けて送り出した。

「本部への伝令、頼んだぞ」

「はい! 行ってまいります!」

 伝令兵はジャッキー号を連れて馬で本部へと出立した。




 一方、行方不明扱いのシルヴィオは、思案中だった。

 自国への陸路は火山灰で分断されている。陸路で戻ることはできなかったし、まだ戻るつもりもなかった。このままヘイジュ王国の首都ナギリへ向かうとしても、女王に謁見できる保証はない。シルヴィオがリンショウ王国の軍人だとバレたら強制送還だ。それじゃ何しにきたのかわからない。

 懐から、ムササビが顔だけ出してシルヴィオに質問する。

『おいら、女王様のペットのムササビちゃんと知り合いだよ』

 シルヴィオはムササビに疑いの目を向けた。

「女王のペットのムササビとなんでどこでどうやって知り合ったのさ?」

『こないだ女王様が迷いの森に来た時、かわいこちゃんを連れてきてたのです! おいら一目惚れして口説いたのです! そしたら彼女、脱走してきておいらと森でランデブー!』

「あぁ、そう。よかったね」

『竜の旦那が女官に変装して、おいらを彼女の元まで連れてってよ』

「なんで僕が──って忍び込むの? 王宮に?」

『正解です!』

「そんな変態じみたことできない。却下」

 正当な手順を踏むならば、ヘイジュ王国に滞在のリンショウ王国外交官ののところに行くべきだろう。


 ということで数日かけて首都ナギリに向かう。

 夜もとっぷりとくれた頃。ナギリへ向かう途中の街に見覚えがあった。昔、ライラとしばらく働いた街だ。怪我した鵞鳥(ハンサ)を治療した動物病院が今も在る。

 懐かしくてむずかゆい想いが、シルヴィオの心に走馬灯のように去来する。

 外から動物病院の戸締りをしている女性がいた。面影に見覚えのある女性だった。

「フィオーレさん、ですか?」

 その妙齢な女性は振り返り、不審げな表情がみるみるうちに親しみやすい笑顔に変わった。

「弟君じゃない! やだ、ひさしぶりね。すっかりイケメンになっちゃって! ライラは元気?」

「はい、元気です。覚えていてくださって嬉しいです」

「忘れないわよー。ちょっとお茶してかない? うふ、懐かしーっ!」




 お茶というよりはお酒になったけれども、フィオーレとシルヴィオは再会の乾杯をした。

 フィオーレは今でもあの動物病院に獣看護師として勤めていて、院長は代替わりしてアメデオ氏の息子が引き継いでいるという。

 シルヴィオもライラと自分の近況を話す。フィオーレは笑いながら相槌を打つ。陽気な女性だ。ライラと気が合うのもなんだかわかる気がした。

「今回は、ライラと一緒じゃないの?」

「──任務で迷いの森まで来たのですが、山が噴火して……」

「あぁ、号外新聞で読んだわ。信じられないわよね、あの山が活火山だったなんて。で、こっち側に避難してきたのね? ……任務って?」

 シルヴィオは小声で言う。

「実は僕、軍人なんです」

「密入国者ってわけね。でも仕方ないわよあの災害に巻き込まれたんだから」

 外交官もそう言っってくれるだろうか。

 シルヴィオはフィオーレに相談する。女王に直接会うにはどうしたらいいかと。

国賓(こくひん)なら直接謁見できるけど、う~ん、一般人の特に男性は難しいと思うわよ? なんせ、女王の周りは女の園だし」

 するとムササビがいつから会話を聞いていたのかシルヴィオの懐から顔を出し口を挟む。

『ね? だから、おいらの提案が一番成功率高いのです!』

 フィオーレが目を丸くしてムササビをもふもふする。

「やだ、なんでこんな可愛いの隠してるの~~~今度はムササビを治療してるの?」

「いえ、当面の相棒で──」

「そういえば、女王様のムササビちゃん、お見合い相手を探してるみたいよ」

「なんでそういうこと、知ってるんですか?」

「動物病院の情報ネットワークをナメめちゃ困るわ」


 そんなわけで、不本意にもムササビの助力をこうことになった。



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