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精霊獣を抱く世界で獣医さんをしています  作者: 神守 咲祈
第3章

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13.変化のスイッチ

 ライラとシルヴィオはベッドに隣り合うように座っていた。

 ライラは居住まいを正して、ここ半年ほど月のものが来ていないこと、月のものは赤ちゃんを産むためには必要なことをシルヴィオにわかりやすく説明する。

「婦人科の医師はなんて?」

「赤ちゃんを産むのは『難しいでしょう』って言ってたの」

「ライラは産みたいの?」

「え? そりゃ産みたいよ。女性には産むのにタイムリミットがあるんだから」

「僕は、ライラがそばに居てくれればそれでいいよ」

 ライラは唖然とした。男性は、子供が好きかどうかは別として、自分の遺伝子を残すために行動するのが生物としての本能だ。シルヴィオにはそういう本能はないのだろうか。浮気している風もないし。

「本当は同種族の女性がシルヴィオと結ばれるのが理想なんだけど……私が産んだら混血になるから……」

「昔、一緒に旅をした時、不死鳥(フェニックス)の山に行ったの覚えてる?」

「? もちろん」

「その時、不死鳥(フェニックス)は僕を『最後の竜』って呼んだんだ。その言葉を信じるなら僕が最後の個体。僕は生きてるけど、学術上はもう絶滅しているんだよ」

 絶滅……突きつけられた事実は重いものだ。ライラは神妙か面持ちになる。

「でもホウザン王国では代々の王族が、ホウライ王国では国民の多くが精霊獣との混血だった。きっとそうやってこの世界では精霊獣の血が受け継がれていくんだと思うよ。ライラの血が人間としては珍しい型なのも、精霊獣との混血だからじゃないかな。だから僕の血と親和性があった──とか? 純血種はいなくなってもそうやって世界が受け皿になっていると思う」

「私、自分が精霊獣との混血とか考えたことなかった……もっと詳しく調べてもらうべきなのかな」

「院長が僕の主治医だから、調べてもらおうよ。ライラは見た目は人間だし人間として生きて来たけど、細胞レベルで変化してっているのかもしれないし。もしそうなら、その……月のものが来なくなった理由もわかるかも」




 オズボーン院長は、ライラとシルヴィオの血液検査の結果を照合して、呟いた。

「おそらく輸血がスイッチになったんだな」

「スイッチ……ですか?」

 ライラが興味深げに言う。院長はここからは推測だが、と言いライラに伝える。

「この国でも竜と人間のハイブリッドは、すでに生まれていた。ライラ、お前はその血をわずかに受け継いでいる。だが人間の血の方が濃いから竜としても遺伝子のスイッチは眠ったままになっていたんだ。ところが思わぬタイミングで『純血種』の血を受けて、いくつかの遺伝子のスイッチが入った」

「ちょ、待ってください。私の遠いご先祖様が精霊獣とのハイブリッドだっていうんですか?」

「推測だ、推測。精霊獣の方が擬人化してれば、子孫は作れる」

「じゃぁ今まであった月のものが、止まったのは?」

「スイッチが入ったのかもしれんな。お前の体が変化し始めているのかもしれん」

 ライラはにわかには信じ難かった。

「他の精霊獣のデータがないから断言はできんが、数値の相似形からみておそらく竜とのハイブリッドだろうな」

 しかもスイッチが入って変化しているという。ライラには実感がいまいちないが、これから他に何が変化してゆくのだろうか。検査結果に基づいた院長の推測はシルヴィオが言っていたことと同じだった。

「婦人科に行ったのか。そこの医師も頭を抱えてただろう?」

「はい……赤ちゃんを産むのは難しいって……」

「当時の(いにしえ)の医師がいればよかったんだが、産めるかもしれないし、産めないかもしれないし。正直わからん」

 シルヴィオの赤ちゃんが産めるかもしれないというオズボーン院長の言葉に、ライラの心は明るくなった。自分はどうなっても、私がシルヴィオを愛したという証拠を生めるなら、この変化もそう悪いことではない気がして来た。


 検査結果から導き出された推測、ライラが竜のハイブリットだという事実が未だに信じられなかった。人間として今まで生きてきて、竜らしさなんてこれっぽっちもなかったライラは、、自分の中の竜の血がかなり薄い証拠なのだろう。

 でも一つだけ思い当たる節があった。

 まだシルヴィオと逃避行の旅をしていた頃、ヘイジュ王国の一角獣(ユニコーン)の術でみんなが時間が止まったように静止したのに、ライラは眼球だけは動かせた。あの術はおそらく一角獣(ユニコーン)から信頼されている人間の女王は別として、その場に居合わせた精霊獣のシルヴィオには効果がなかった。だからシルヴィオは動けたし、私もわずかながら精霊獣の血を引いていたから、眼球だけだけど動かせたんだ。

 

 ライラはシルヴィオが帰宅するや否や、オズボーン院長の言葉や検査結果を全て話した。シルヴィオは黙って真剣に聞いてくれた。

「じゃぁ、ライラは本当に僕の遠い親戚かもしれないんだね」

「うん。それでね、今度の連休の時私の実家に行って何かわかるか調べてみたいの。……一緒に来てくれる?」

 シルヴィオは大きく頷いて言った。

「もちろん。今度はライラのルーツ探しだね」

「ありがとう」


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