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精霊獣を抱く世界で獣医さんをしています  作者: 神守 咲祈
第3章

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11.輸血

 野戦病院に運ばれたライラに、シルヴィオはずっと付き添っていた。ライラは仕切られているパーティションの向こうにいる。獣医師団の他のメンバーは軽症だったので、ライラが横たえられている場所の周辺に集まった。

 医師のヨハンとボリスが何やら話している。そしてみんながいるパーティションのこちら側へとボリスがやってきた。

「輸血が必要です。ちょっと珍しい型なのですが……」

 血液の型を聞いて、メンバーたちは首を傾げた。初めて聞く型で首を振った。

 シルヴィオが手を挙げる。

「僕から採って。適合するかどうかわからないけど、責任は僕が負う」

「シルヴィオ、助けたい気持ちはわかるけど──」

「頼む」

 パーティションの向こう側にボリスはシルヴィオを呼んだ。

「型は?」

「わからない」

「じゃぁちょっと調べるよ?」

 調べるといってもこの野戦病院の機器では簡単な検査しかできなかったが、その特異な血液の型にボリスとヨハンは息を飲んだ。ヨハンは信じられないと言った風だったが、ボリスはパターンの似た型の血液を知っていた。サーシャだ。彼は精霊獣、霊亀(レイキ)の末裔だ。でもこれほどまではっきりと反応が出るとは、末裔どころでなく──。

「シルヴィオ、お前って!?」

「この血でライラを助けられる?」

「こ、交差適合試験してみないとなんとも……」

 シルヴィオは祈るような気持ちで意識を失っているライラを見つめた。


「信じられないが、問題ない。副作用も今の所なさそうだ」

「じゃぁ早く輸血してライラを助けて」

 ボリスとヨハンは顔を見合わせた。この青年は一体何者なのか。ライラなら知っているのだろうかという不思議な思いでいた。


 トクン。トクン。トクン。

 意識と無意識の間で、ライラはまどろんでいた。空から海を眺めてた。こんな視界知らない。

 トクン。トクン。トクン。

 太古の空。竜がたくさん飛んでる。こんな光景知らない。これは夢? それとも太古の細胞記憶?

 ドクン。

 ライラはぱちっと意識が戻って目覚めた。

 あたりは夜。

 右手に温もりを感じた。シルヴィオが手を握ってくれている。これは夢? それとも願望?

 シルヴィオは眠っていた。

「──シルヴィ……」

 思うように声が出ない。体を起こそうと思ったがそれもできない。脇腹に痛みを感じた。今は包帯が巻かれている。

 ハッとシルヴィオが起きた。

「ライラ」

 ささやくような内緒話をするような声で、シルヴィオが名を呼ぶ。

 そうだ、私、脇腹を怪我して落馬して──それから?

「私」

「もう大丈夫。大丈夫だよ」

 昔、シルヴィオに言った言葉を今度はシルヴィオから聞くなんて不思議ね。

 それを聞いてライラはまたまどろんだ。




 ロラン・チェルビンスキーは、サーシャ・フィリシンに討たれ、幽閉されていたテオドール・フィリシン以下関係者は無事救出された。軍事政権関係者は裁判の後処罰され、テオドール・フィリシンはこの機に王位を息子のサーシャ・フィリシンに譲った。こうして、ホウライ王国に平和が戻り始めていた。

 獣医師団はかねてより予定していたヘイジュ王国へ渡航し、唯一重傷を負ったライラだけは、シルヴィオたちと一緒にリンショウ王国への帰途についた。


「君たちがリンショウ王国の軍人とはね、完全に騙されたよ。腕が立つとは思ってたけど」

 別れ際にサーシャ・フィリシンが屈託のない笑顔をシルヴィオとハインツに向けた。

「いやま、騙すつもりはなかったんだけどさ」

「結果オーライで」

「うん。君たちには本当に世話になった。ありがとう! また会おう。絶対!」


 ライラはだいぶ回復した状態でリンショウ王国の首都、シウホに着いたので、重症と知らせを受けていた両親と姉夫婦は胸をなでおろした。でもってシウホに来ていたそのタイミングで、シルヴィオを紹介する運びとなった。

「ライラは『おばちゃん』ですけど、シルヴィオ君よろしくお願いしますね」

「もちろんです」

 シルヴィオが誠意を持って受け答える。

 これで公認ってやつかしら?

 ライラはちょっと照れて、シルヴィオをちらりと見た。

 幼い頃の面影を残したまま精悍な青年に成長したシルヴィオ……一体私のどこがいいのか私には未だにわからない……。

 ちょっとそれが不安なんだけども。でもお互い成長すると八歳くらいの年の差は気にならないような気がしていた。

 シルヴィオは、ライラの方に向き直ると、ちょっと怒った風に言った。

「今度は事後報告受け付けない」

「あ、うん。すみません」

「しばらく大人しくしてること」

「はい」

 どっちが年上だかわからない会話だったが、いまのシルヴィオには有無を言わせないオーラが炸裂していた。逆らわないほうがいいとライラは本能的に察知する。



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