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09.戦う理由

 ホウライ王国軍事政権トップのロラン・チェルヴィンスキーも左腕に赤い腕章をつけて、獣医師団の前に現れた。歳の頃は中年にさしかかっているだろうか。

 獣医師と医師が不足しているというのは方便で、どうやら、各国の情勢をライラたち一行から聞き出したいようだった。しかし一行は各国の要人と会ってきたわけではない。裕福とは言えない一般国民とその家畜たちを相手にしてきたのだが、ロランは納得しない。

「今は我々の行動を愚かと言う噂はあるだろうが、いまに我々が正しかったと言われる時代がくる」

 ロランの演説をしばらく渋々と聞いていた一行だったが、ウドルフォがたまりかねて言葉を挟んだ。

「私たちは獣医師です。国の情勢は二の次、患畜がいるところへ連れて行ってください」

 演説を中断されていささか機嫌を損ねた様子のロランは、大きな声で近侍の者に厩舎に案内するように命じた。

 厩舎には軍馬や象や軍用犬がいたが、どの子も怪我はしていなかったし病気にもかかっているようでもなかった。

 現政権は戦って政権を奪い取ったわけではなさそうだ。厩舎係にそれとなく聞いてみれば、国王とその一族を真っ先に幽閉したが、王太子には逃げられ国王側の貴族たちにも逃げられているお粗末なクーデターらしい。

「あのロランって将軍? 長くはないな」

「そもそも、何で国王に反旗を翻したのかしら?」

 厩舎係が、そっと一行に耳打ちした。

「国王様は精霊獣、霊亀(レイキ)の末裔なんですが、ロラン閣下は生粋の人間でして、それが気に入らないらしいんです」

「??」

 ライラにはその動機が謎だった。

「ロラン閣下っていう人は、人間至上主義?」

「はい」

「それだけ??」

「はい」

 至極くだらないとライラは思った。でも人間至上主義の人が他にも何人もいたから、お粗末とはいえクーデターが起きてしまった。動物の命も精霊獣の命も人間の命も尊い。どれが一番だなんて決めつけること自体がナンセンスだ。

 それに精霊獣の末裔ってことは混血の進んだ、ほとんど人間ではないのか? ライラはため息しか出なかった。




 一方、クカンゼの市街地に身を隠していた青年サーシャ・フィリシンは、理不尽な理由で幽閉されている父王を何とか助け出したいと考えていた。

 ロラン・チェルビンスキーが、このクーデターの首謀者だと知った時は驚いた。長年父王テオドール・フィリシンに尽くしていた忠臣が、実は虎視眈々とこの国を乗っ取ることを考えていたとは──サーシャは人間不信に陥りそうになったが、ロランの手から逃がしてくれた人々がいてくれたおかげで、今こうしてロランを討つ目標を持つことができた。

 従兄弟の医者ボリスが、ベランダにいるサーシャに声をかけてきた。

「サーシャ、勝手に包帯を取るなよ」

「こんな傷、大したことないさ」

 半国王派に包囲された王宮から逃げる際に右肩を怪我したが、その傷もだいぶ癒えてきた。

 ロランを討って、王座に父を戻す。その日が近いことをサーシャは切望していた。




 ホウライ王国の首都から南、島の中央部に位置する砂漠地帯をシルヴィオとハインツを含むキャラバンがラクダに乗って首都に向かっていた。

「なぁ、俺ら深入りしすぎたか?」

「……多分」

 シルヴィオは、ホウライ王国が本来の国王の治める国になってくれたら、もう戦わずに済むと思った。王太子は肩に傷を負いながらも、打倒軍事政権の旗を掲げ、自分たちはそれを見守りながらリンショウ王国にそっと帰るはずだった。

 王太子サーシャは表裏のない奴で、でもどこか危なっかしげで放っておけなかった。気づいたら、南の反ロラン勢力から武器と有志たちを預かって今、首都へと北上している。翌日の早朝には首都に着くだろう。

 自分たちが戦いを前にいなくなったとサーシャが知ったら、彼の心はまた傷つくだろう。軍事政権勢力と一戦を交える時、やはり自分たちも戦うことになるかもしれない。敵の敵は味方ということか。

 翌朝、サーシャ自らシルヴィオとハインツを出迎える。そして南方からの有志たちの姿に目を細め感極まった。

「道中何事もなかったか? ゆっくり休んでくれ! みんな、きてくれてありがとう! 私が不甲斐ないばかりにこんな事態になってしまったが、もうすぐそれも終わる。そのためにどうか力を貸してくれ!」 


 それにしても、とシルヴィオは疑問に思う。道中本当に何事もなかった。


「何ですんなり市街地に入れたんだろう」

「だよな」

 その疑問にハインツも同意する。するとボリスがその解答らしきことを言った。

「何でも北西の海で『国境なき獣医師団』を捕まえてきたとかで、ロランの奴、世界の情勢を知りたいらしい」

「!? じゃぁその一行は今──あいつらのところに?」

「まぁそういうことになる」

 シルヴィオは血相を変えた。

 この戦いからは一線を引こうと思っていた気持ちが一変した。ライラを助けなくては!

「獣医師団は王宮の何処にいるかまだわからないが……」

「おい、シルヴィオ、落ち着け。場所が特定できるまで、偵察隊の知らせを待てって」

 ハインツがシルヴィオの肩を叩いて落ち着かせる。

 しばらくして偵察隊の知らせが入ってきた。

 国王とその一族は王宮の離れの屋敷に、ロランは王宮の執務室を主に使っていて、獣医師団は貴賓室(きひんしつ)に軟禁されているらしいとのことだった。

 本隊と別働隊に分かれて作戦を確認する。本隊でロラン殺害と獣医師団の救出を、別働隊で国王とその一族の解放を担う。シルヴィオは本隊の指揮を取るサーシャに事情を話して、獣医師団の救出の本隊に編入してもらった。

 サーシャが引き締まった精悍な顔つきでいう。

「厳しい戦いになると思うが、未来は皆にかかっている。ともに生きて帰ってこよう! 作戦開始は明朝〇七〇〇!」


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