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精霊獣を抱く世界で獣医さんをしています  作者: 神守 咲祈
第3章

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05.利用されつつ利用する

 へイジュ王国は開かれた国だ。だがその一方で諸外国の軍属人物の入国には厳しい。女王のそばに仕えるのは女官のみ、事務方は宦官が、外側の護衛は男性の衛兵という3層構造の形をとる世界でも珍しい制度をとっている。その理由はまだよくわかっていない。

 シルヴィオが所属する隊は衛兵希望者として入国を許された。他の隊は行商人や旅行者として既に入国して情報収集をしている。

 入手した情報によると、女官と衛兵の接触はなく、その間を全て宦官が受け持っているという。勤めている宦官に接触するには、衛兵として潜り込むのが理想だ。宦官の全員が黒というわけではないので、衛兵として潜入できた者が、その調査にあたることになった。

 シルヴィオが所属する隊は全員衛兵として採用された。あとは怪しまれないように振る舞い、リンショウからヘイジュが輸入した鉱物─金・銀・銅などの金属─を誰がホウライに横流しをしているのかの特定に時間がかかった。

 その宦官の名は、アージェ ・ アプラ。まだ他にもいるかもしれないが、しっぽをつかんだのはこの小柄な猫背の者だった。几帳面すぎるのが災いしたというか、裏帳簿を床下に揃えて隠していたのだ。

 シルヴィオとハインツに見つかると、アージェ・アプラは懇願しだした。

「どうか他の宦官には言わないでほしいのです。わたしは決して私腹を肥やしているわけではないのですから。わたしは脅されているのです。わたしの家族が解放されるまであと少しなんです。どうか、お慈悲を……」

 人を信じさせるには嘘の中に真実を混ぜるとうまくいくというが、この宦官の言葉は全て嘘っぽかった。

「少ない分け前ではございますが、どうかこれをお受け取りください」

「おいおい、袖の下ってやつかよ」

 ハインツが呆れる。アージェ・アプラは金の入った巾着袋を二つ用意しシルヴィオとハインツに手渡す。

「もう少し詳しく話してくれない?」

 普通なら受け取れないがこれも任務だと割り切ってシルヴィオとハインツは受け取る振りをした。アージェ・アプラはニヤリとして、二人を見る。賄賂を受け取った衛兵はどうやらシルヴィオとハインツだけではないらしい。


「口止め料はお渡ししましたよ。今、ホウライ王国は鳴動しています。多くの鉱物が必要とされてますのでね、利益率を上げてもあちらは必要なので買うのです」

「そんで、いつまで荒稼ぎすんの?」

「そろそろ潮時でしょうかね。こちらもバレては元も子もないですし。わたしにも家族がありますので」

「家族がいるの?」

「えぇ、こんな身ですが、年老いた両親と目の不自由な弟がいましてね。手術をすれば目が見えるようになるらしいのですが、ちょいとお金が必要でして」

 実に口の達者な奴だと、シルヴィオは感心してしまった。自分が同じように追い詰められたらここまで次次と嘘を並べ立てられるかと問われたら、否だろう。ハインツがここで何かを思いついたようにアージェ・アプラに問う。


「その目の不自由な弟、どこにいんの? あんたは宮仕えで出られないだろうから、俺たちが手術に立ち会ってやんよ」

「めっそうもございません。そんなご足労はおかけできませんよ。弟はホウライにいるのでっ」

「じつは俺たち、ホウライに渡りをつけて欲しくてね」

「といいますと?」

 シルヴィオはハインツの思いつきの着地点がわからず、とりあえず黙っていた。

「なんでも現軍事政権に反抗するレジスタンスグループに興味があってさ」

「精霊獣、霊亀(レイキ)の末裔の人々ですね。それでしたら今度の船便に護衛としてお送りできるかもしれません」

 そこでシルヴィオはハインツに耳打ちした。

「おい、ハインツ。敵国に少人数で行くわけには──」

「レジスタンスが使えるかもしれねぇだろ?」

本気(マジ)で言ってるの?」

「あたぼうよ。敵は現軍事政権だろ」

「行って情報を集めてみないと」

「じゃ決まりだな」

 ハインツはアージェ・アプラに向き直ると今度の船便に乗せてもらえるか確認する。

「出航は1ヶ月後ですよ」

「んで、あんたの弟は……」

「弟の手術の時は、わたしがここを辞める時ですのでおかまいなく」




 結局アージェ・アプラに利用されるフリをして逆に彼を利用し、ホウライ王国へ今回衛兵として潜入した隊の三分の一を先行して送り込む手筈が整った。

 行商人や旅行者として潜入していた隊も現地で合流することとなった。

 この辺の手際の良さは、ハインツがすごいのか、アージェ・アプラがすごいのか、シルヴィオには判断がつかなかった。

「ま、いざとなったらおまえが竜化してがーっとあばれてくれりゃいいよ」

 ハインツが冗談めかしてシルヴィオの肩を叩いた。

「簡単に言うなよ。竜化した後の消耗、激しいんだから」

「そのために、心身鍛えただろ」

「あーはいはい」

 シルヴィオは今までの竜化した時を思い出し、その時の記憶が飛ぶのが嫌だった。正体は竜でも長いこと擬人化していると今の自分の方が正気な自分だと思える。あべこべで矛盾しているかもしれないが。



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