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03.不思議な少年

 シルヴィオと名付けられた少年は、昼間は動物病院で、夜は院長宅で預かることになった。

 院長に連れられて出勤?したシルヴィオは、昨夜入浴をすませたようでこざっぱりした麗しの美少年に変わっていた。

 ライラはちょっとドキッとした。

 将来この子はイケメンに育つだろうな~。

 ってもう二足歩行している!!

 院長曰く『人間の真似をしている』らしい。シルヴィオなりに『群れ』に馴染もうとしているのかもしれない。

「ライラ!」

 落ち着かなげなシルヴィオだったが、ライラを見つけて駆け寄る。

 ライラはなんだか嬉しい気分だ。




 オズボーン動物病院は今日も大忙しだ。なので誰かがシルヴィオにずっとついていてやることはできなかったが、院長は人間同士の会話をたくさん聴くことが、この子のリハビリになると考えているようだった。

 ガラスで仕切られた診察室は3つ、そしてガラス張りの手術室が1つ。今日は手術が入ってないので、手術室も診察室として使われていた。

 シルヴィオはライラのいる診察室に入ってきた。

 ライラはちょうど最初の患畜である狐と飼い主の話を聞いているところだった。

「いつから、左後ろ足をかばうようにして歩き始めたのですか?」

「2日くらい前かしら……。後ろ足を触ろうとすると嫌がるんです」

「テグネールさん、ちょっとマロンちゃんを抑えててもらえますか?」

 左後ろ足は骨折はしてなさそうだけれど、もしかしたらヒビが入っている可能性もある。

 マロンちゃんを見つめていたシルヴィオが、ライラの袖を引っ張った。

「ん? なあに?」

「大丈夫。マロン、寂しいだけ」

「?」

 ライラはよくわからず聞き流して、精密検査をしたが、骨に異常はなく足の筋肉組織にも問題はなかった。ライラは首を傾げた。シルヴィオの言葉が引っかかったのだ。

『寂しいだけ』

 つまり、マロンちゃんは飼い主さんにあまりかまってもらえず、飼い主さんの注意を引くためにわざと痛いふりをしているということだろうか。これは動物の心の問題で、動物病院ではどうすることもできない。解決できるのは飼い主さんしかいない。

「あの……テグネールさん。ここのところお仕事か何かでこの子に寂しい思いをさせてませんでしたか?」

「え? ああ、そういえば、この1週間海外に出張だったので、ペットホテルに預けてましたが」

「そうですか~。検査の結果は全く異常は見られませんでしたので、安心してください」

「でも、痛がっているんですが」

「マロンちゃんをいっぱい可愛がってやってください。飼い主さんの気を引くための、いわば『仮病』です。怒らないでやってくださいね」

「は、はあ……わかりました」




 診察が終わって次の患畜と飼い主を呼ぶ前に、ライラはシルヴィオにきいた。

「どうしてわかったの?」

「マロン、そう言ってた。会話、した」

 シルヴィオはただマロンちゃんを見つめていただけだったが、人間にはわからない方法で会話をしていたというのだろうか。

 動物と会話できる不思議な力がシルヴィオにあるのかな?


 ライラは院長にシルヴィオの不思議な能力について聞いてみた。院長は興味深そうに耳を傾ける。

「それは俺も気になってた。うちの犬は人見知りが激しいんだが、シルヴィオのやつすぐに仲良しになったんだよな。──動物の気持ちがわかる……超能力ってやつか?」

「興味深い話だ。ぜひ詳しく聞かせてもらおう」

 突然会話に割って入ってきたのは、マデリーネ第2師団長だった。今日は軍服ではなく私服だったので気づかなかった。相変わらず感情をうかがわせない声音と態度で問うてきた。

「少年とは話せるか?」

「何を聞きたいのですかい?」

森獅子(バロン)のことだ」

「何故そこまでこだわる? この国の国獣(コクジュウ)水晶竜(クリスタルドラゴン)であって、森獅子(バロン)じゃないだろう?」

 国獣とは、その国の象徴であり紋章にも使われたりしている守り神のような存在である。

 マデリーネ第2師団長は一つため息をつくと、オフレコということで声をひそめた。

「我が国の国獣の手がかりを、森獅子(バロン)が知っているかもしれないのだ」

「で、森獅子(バロン)かもしれない動物に育てられた少年が何かを知っているかもしれないと?」

「そうだ。水晶竜(クリスタルドラゴン)は見つけ次第、我が国で保護する」

 オズボーン院長は皮肉めいた声で言葉を繰り返した。

「保護──ね」

「少年は?」

「まだリハビリ中だ」

「近々、少年に出頭命令があるだろう。リハビリが順調にいくよう祈っている」

「どうも」




 マデリーネ第2師団長が動物病院から去り、ライラはやっと、オズボーン院長とマデリーネ第2師団長の張り詰めた空気から解放され、一息ついた。

「保護ですよね?」

 ライラは首を傾げながら、なぜオズボーン院長が不機嫌になったかを考えあぐねていた。

「この場合の『保護』は、保護区に軟禁する意味だ」

「え? じゃぁ自由を奪うと? でも(ドラゴン)って強そうですし、そう簡単には捕まらないんじゃ……」

「強いから他の国に奪われまいと躍起になってるんだろうな。あわよくば森獅子(バロン)も捕えて一石二鳥だ。ペットを診ている俺が言えた義理じゃねぇが、精霊獣には自由でいてほしい」


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